公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 参与
寺島彰(てらしまあきら)
米国の社会保障法(Social Security Act)に基づく障害給付には、補足的保障所得(Supplemental Security Income:SSI)と社会保障障害保険(Social Security Disability Insurance:SSDI)などがあります。これらの給付については、障害から回復しても給付が続くという事態を防ぐために、一定期間ごとに障害状態が続いているかどうかを調査すること(continuing disability reviews:CDR)が同法により求められています。
2019年11月18日、社会保障局(Social Security Administration)は、この調査の頻度と調査内容を変更することについてパブリックコメントを求めました。募集期間はすでに終了しており、現状では同法は改正されていませんが、今後、これらの改正を行う可能性もありますのでその内容を紹介します。
SSIは、保険料を支払う必要のない無拠出制の障害手当で、SSDIは拠出制となっています。わが国で言えば、特別障害者手当や障害年金に相当します。ただし、わが国の障害手当制度とは異なり、メディケアやメディケイドなどの医療制度の受給要件の一つになっているなど、受給しているかどうかで障害者の生活状況が大きく変わります。
障害のある人が障害を理由としてSSIまたはSSDIを社会保障局に申請し、それが認められれば、毎月一定金額の手当を受給することができます。手当の額は、家族構成や保険料の支払い実績などにより異なります。
手当の受給が決定した場合、受給額とともにCDRを受ける頻度が決まります。その頻度には次の3つの種類があります。
1.医学的改善が予想される場合
(Medical Improvement Expected:MIE)
2.医学的改善も可能な場合
(Medical Improvement Possible :MIP)
3.医学的改善が期待できない場合
(Medical Improvement Not Expected :MINE)
MIEカテゴリは障害が近々治癒すると予想される場合で、CDRを最も短く設定するカテゴリです。一般的には、6か月以上18か月未満にCDRを実施します。大人の場合は、障害の改善が期待され、近々、仕事や社会活動など有益な活動に復帰することが期待されています。また、SSIの障害児の場合には、障害が改善され機能制限が少なくなります。
MIEの障害の例としては、骨折、骨髄または幹細胞移植を行ったがん、腎臓移植を行った慢性腎臓病、低出生体重などがあります。低出生体重に基づいて認定される乳児の場合、法律により1歳に達した時に症例を見直すことが義務付けられているため、ほとんどの場合MIEの対象になります。
MIPカテゴリは、CDRを定期的に実施する必要がありますが、MIEカテゴリよりも実施頻度は低くなります。少なくとも3年に1回はCDRを実施します。医学的改善が可能である場合、すなわち、永続的な障害でない場合にこのカテゴリを使用します。具体的には、これまでの経験とケースの事例に基づいて障害の改善を予測することができない場合には、成人と児童の両方に対して、このカテゴリを使用します。MIPカテゴリが適用される障害の例として多いのは、クローン病(局所腸炎)、鎌状赤血球病、慢性潰瘍性大腸炎、てんかん、統合失調症などです。
MINEカテゴリは、前の2つのカテゴリよりもCDRを実施する頻度が低く、少なくとも7年に1回CDRを実施していますが、5年に1回以上にはならないようにしています。このカテゴリは、医学的所見とこれまでの管理経験に基づいて、「障害がほぼ安定しているが、その障害単独または合併障害によって徐々に障害が悪化する可能性が高く、仕事や社会活動など有益な活動に従事できるほど障害が改善される可能性が低い」と判断される障害の場合に使用されます。
重大な機能制限がなくなるほど障害が改善される可能性が低いSSIの障害児の場合、また、CDRを実施する上限となっている55歳以上の障害者にもこのカテゴリを使用します。現状の規則で、永続する障害とされている例は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、55歳以上のびまん性肺線維症、股関節での大腿切断などがあります。
もともと社会保障法で給付を厳正に管理するように定められており、毎年議会にCDRの実施状況について報告するというような不必要な給付を抑制する取り組みがいろいろな形で行われてきました。近年は、社会保障費削減政策の影響がみられます。
また、これまでのCDRのケース分析をしたところ、MIEの最初のCDRの後、次のCDRで給付が停止される例が多かったことから、MIEの実施間隔が短すぎるのではないかということが分かったことの影響もあります。
そこで、MIEとMIPの間にカテゴリを追加して、障害が治癒した場合に早期に手当支給を終了し、職業復帰していただく、また、予算削減をしたいという目的があります。
今回、社会保障局により提案されたCDRの改正内容は、以下のとおりです。
1.頻度のパターンとしてMIEとMIPの間に新たに「医学的改善が期待される場合(Medical Improvement Likely:MIL)」を追加する。
2.1に伴いこれまでのカテゴリへの割り当て方法を変更する。
3.1に伴いこれまでの各カテゴリの頻度を変更する。
4.その他。これには、障害のある未亡人の障害認定基準の変更や法律の表現を分かりやすくするといった内容を含みますが、本稿では取り上げません。
下表は、改正前後の見直し間隔を比較したものです。
カテゴリ | 現状 | 提案 |
---|---|---|
MIE | 6-18か月 | 6-18か月(変更なし) |
MIL | なし | 2年 |
MIP | 3年 | 3年(変更なし) |
MINE | 5-7年 | 6年 |
MIEとMIPは変更せず、MIEを変更しMILを追加しています。なお、期間に幅があるのは、障害の種類などによって変化するためです。
新設されるMILは、2年に1回以上の実施で、18か月から3年の間に治癒しそうなケースを特定するために設定されました。
また、MINEは、5年以上7年以下に1回以下の頻度から、6年に1回に変更することが提案されています。これまでは、実際は、7年ごとにCDRの見直しが行われてきたので、できるだけ早期に障害の改善を特定するために、永続的な障害についても期間を6年に設定したとのことです。
新しいカテゴリのMILは、MIEまたはMIPの間に位置するもので、障害が改善する可能性が高い障害のカテゴリの1つです。永続的あるいは不可逆的な構造的障害をおこさない、治療により改善される障害が対象です。現在は、MIEまたはMIPのカテゴリの一部に分類されています。成人と児童の両方の障害に適用されます。
このカテゴリに含まれると予想される例としては、一定の短期の障害(例えば、白血病、リンパ腫)、不安障害、発話障害、小児の悪性固形腫瘍などがあります。
また、これから就学する6歳の児童、青年期へ移行する12歳の児童など、主要な発達段階に近づいている児童もこのカテゴリに含まれます。
具体的な障害名などは、改正が実施された場合には運営マニュアルで示されることになっています。
この改定により、下表のように各カテゴリのCDR実施数が変化すると予想されています。
(単位千)
カテゴリ | 現在のカテゴリによるCDR数 | 提案するカテゴリによるCDR数 | 差 | 現在のカテゴリ合計に対する変化の割合(%) |
---|---|---|---|---|
MIE | 986 | 1,205 | 219 | 22.2 |
MIL | 1,764 | 1,764 | ||
MIP | 4,605 | 3,738 | -867 | -18.8 |
MINE | 559 | 559 | ||
合計 | 6,150 | 7,267 | 1,116 | 18.1 |
利用可能なデータに基づきこの提案による方式でCDRが実施されると仮定すると、2020年度から2029年の10年間に約260万件のCDRが追加で増えると考えられます(18.4%の増加)。しかし、SSDIの支払いが20億ドル純減し、同じ期間にSSIの支払いが6億ドル純減すると推定されています。
現状では、法律改正は行われておらず、また、政権交代もあったことから、この改正案が成立するかは未定です。しかし、米国は、以前からSSDIやSSIの予算削減には継続して強い関心をもっていますので、いずれは法律改正が行われるのではないでしょうか。
【引用文献】
Social Security Administration; Rules Regarding the Frequency and Notice of Continuing Disability Reviews. https://www.federalregister.gov/documents/2019/11/18/2019-24700/rules-regarding-the-frequency-and-notice-of-continuing-disability-reviews, (参照2021-04-01)