地域発~人をつなぐ地域をつなぐ-移動困難者への支援~被災を契機に生まれた新しい取り組み~

「新ノーマライゼーション」2021年5月号

社会福祉法人陸前高田市社会福祉協議会 常務理事
菅野利尚(かんのとしなお)

1.陸前高田市の紹介

陸前高田市は、岩手県の最南端で宮城県気仙沼市に隣接する太平洋に面したまちです。五葉山に源を発する気仙川が太平洋に面する南に向かって開けた広田湾に注ぎ込むことにより7万本の松が広がる白砂青松の高田松原があり、その背後には、扇状の小規模な沖積地が広がっています。沿岸での養殖漁業と、果樹と稲作を複合的に栽培する農業を基幹産業とするまちで、震災時の人口は、2万4,000人ほどでした。

2.東日本大震災の影響

東日本大震災の大地震・津波により本市の中心市街地は、一面が「ガレキ」に覆われ、まさに壊滅的状況となりました。私たちは、何の覚悟もないままに「ガレキ」野原の風景の中に放り込まれてしまいました。

被災状況は、1,557名の死亡、200人を超える行方不明、多くが津波被害による全壊、津波と地震を合わせると市内全家屋数の80%を超える被害で、一瞬にして奪われた日常。

3.JDFとの関わり

(1)被災と障がい者

被災直後に、JDF(日本障害フォーラム)から「障害のある方に何かできることはないか」という支援の申し出があり、どこでどのように避難生活を送っているのかもわからないので、障がいのある方の安否確認を含めた状況調査ができないかと申し出をしました。実態調査により確認できたこととともに障がいのある方を調査の過程で個々に訪問して声をかけていただいたことは、大きな意義と効果のあることでした。

(2)移動困難者移送支援の実態と課題

陸前高田市は、少子高齢化と人口減少が同時に進む過疎地域で、山間部での高齢者の独り暮らしなどの移動困難者が点在しており、市街地の病院やスーパー、飲食店などの利用にも不便が多く、JDFから障がいのある方等への支援の申し出があった際に、移動困難者へ移動支援を即答しました。

住民の移動のために重要な手段であった鉄道やバス等の基幹交通は、事業所が被災し路線網も寸断され運営ができない状態でしたので、こうした中でのJDFの移動支援は、貴重な支援となりました。しかし、車両が2台ということで利用する人が限られるという弱点もありました。JDFの移送支援は、その後地元NPOの運営を経て現在は、社協が車両移送型移動支援事業として引き継いでいます。

また、移動困難者へのJDFの支援は、新たに福祉輸送事業者や既存のタクシー会社がこうした移動困難者への事業に取り組むきっかけにもなり、全体的に福祉輸送関係の車両の増加にもつながったほか、周辺地区で地域主体の移送支援事業導入へ展開しています。市が策定した「陸前高田市地域公共交通網形成計画」は、移動に困難を抱える多くの市民がいる現状から多様な手段を総合的に運用する移動困難者への支援を提唱しており、復興支援が発展的に継承されたものと理解をしています。

4.支援の教訓と復興の未来

復興支援の中でのさまざまな取り組みは、善意を基盤とする創意工夫にあふれたものでした。こうした実践は、多くの教訓、いわゆる震災復興のレガシーを残しています。移動支援は、その典型といえます。

移動支援者の無償の支援、小さい自治組織が主体となった地域型の移送支援、街中での電気自動車を使った移動支援等々実験的なものも含め取り組まれています。これらは決して基幹の交通を否定しているものではなく、鉄路は失われましたがその代替のBRTやデマンドバス、既存のバス事業者による路線バスとの共存を目指すものです。

この根底にあるのは、誰もが行きたいと思うところに行けるまち、行きたいと思う気持ちが、移動手段がないことによって閉ざされてはならないという本市が復興のまちづくりのテーゼとして掲げている「ノーマライゼーションという言葉のいらないまち」があると思っています。

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