行政の動き-「令和の日本型学校教育」の構築を目指して「4 新時代の特別支援教育の在り方について」(中教審答申)の解説

「新ノーマライゼーション」2021年6月号

文部科学省初等中等教育局特別支援教育課

中央教育審議会は、平成31(2019)年4月、文部科学大臣から「新しい時代の初等中等教育の在り方について」諮問されたことを受け、初等中等教育分科会の下に設置した「新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会」において、横断的な審議を行い、令和3(2021)年1月26日に「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」として議論を取りまとめました。

本稿では、そのうち、「4 新時代の特別支援教育の在り方について」を解説します。答申では、文部科学省で開催した「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」の報告を受けて、特別支援教育の方向性として、インクルーシブ教育システムの理念の実現に向けて、引き続き、

  • 障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に教育を受けられる条件整備
  • 障害のある子供の自立と社会参加を見据え、一人一人の教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できるよう、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある多様な学びの場の一層の充実・整備

を着実に進めていくこととしています。

こうした基本的な考えに基づき、以下の3つの観点から、新しい時代の特別支援教育の在り方について報告されています。

1.障害のある子供の学びの場の整備・連携強化

障害のある子供の学びの場の整備・連携強化に向けては、以下の観点等から取り組むことが重要です。

1.就学前における早期からの相談・支援の充実

障害ある子供の就学前の学びや支援は、特別支援学校幼稚部、幼稚園・保育所・認定こども園のほか、児童発達支援センター・児童発達支援事業所・民間の療育センターなど多様な場で行われています。そのため、特別支援教育コーディネーターの指名等の園内体制の整備や関係機関との連携、特別支援教育支援員の配置促進、外部専門家等との連携による人的体制の充実が必要です。また、早期からの支援やきめ細かい就学相談を行うため、5歳時健診の活用など健康・福祉部局や幼稚園等と連携して障害のある子供の状況を把握することが重要です。

2.障害のある子供の就学相談や学びの場の検討等の支援について

障害のある子供の就学相談や学びの場の検討等の支援にあたっては、各市町村教育委員会において子供一人一人に応じたきめ細かい支援が行えるよう、国が障害のある子供の就学相談や学びの場の検討等の参考資料となる「教育支援資料」を作成しており、その内容の充実が必要です。

3.小中学校における障害のある児童生徒の学びの支援

特別支援教育に関する理解や認識の高まり等により、通常の学級に在籍しながら通級による指導を受ける児童生徒や、特別支援学級に在籍する児童生徒の数が増加していること等を踏まえ、管理職のリーダーシップのもと、特別支援学級と通常の学級の学級担任間や教科担任間等との連携による指導体制の整備や、交流及び共同学習の充実などに取り組むことが必要です。加えて、ICTや遠隔技術を活用した通級による指導等、在籍する学校で授業を受けられる取組や、学校施設のバリアフリー化なども求められます。

4.特別支援学校における教育環境の整備

特別支援学校の教育環境を改善するために、国は、全ての特別支援学校に概ね共通する内容と個別に応じて配慮が必要な内容を合わせた、特別支援学校を設置するうえで必要な最低基準となる、特別支援学校に備えるべき施設等を定めた特別支援学校設置基準の策定が求められます。また、幼児教育段階、高等教育段階における特別支援教育を推進するためのセンター的機能の充実や、特別支援学校に在籍する児童生徒が居住する地域の学校に副次的な籍を置く取組等も重要になります。

5.高等学校における学びの場の充実

平成30(2018)年度から制度化された通級による指導の充実や、その指導体制、指導方法の確立など、特別支援教育コーディネーターや通級による指導の担当教員を中心に、校長のリーダーシップのもと、学校全体で高等学校における特別支援教育の充実に取り組むことが重要です。併せて、特別支援学校が有する自立活動指導のノウハウや、障害のある生徒の就職先等に関わる知見が活用されるよう、特別支援学校との連携を強化することが必要です。

2.特別支援教育を担う教師の専門性の向上

特別支援教育を担う教師の専門性の向上については、以下の観点等から取り組むことが重要です。

1.全ての教師に求められる特別支援教育に関する専門性

全ての教師には、障害の特性等に関する理解と指導方法を工夫できる力や、個別の教育支援計画・個別の指導計画などの特別支援教育に関する基礎的な知識、合理的配慮等に関する理解等が必要です。加えて、目の前の子供の障害の状態により、障害による学習上又は生活上の困難さが異なることを理解し、個に応じた分かりやすい指導内容や指導方法の工夫を検討し、子供が意欲的に課題に取り組めるようにすることが重要です。

2.特別支援学級、通級による指導を担当する教師に求められる特別支援教育に関する専門性

特別支援学級や通級による指導の担当教師には、通常の教育課程に係る専門性を基盤として、実際に指導に当たる上で必要な、特別な教育課程の編成方法や、個別の教育支援計画と個別の指導計画の作成方法、障害の特性等に応じた指導方法、自立活動を実践する力、障害のある児童生徒の保護者支援の方法、関係者間との連携の方法等に関する専門性の習得が求められます。特に、児童生徒の実態に応じて教育課程が異なる場合のある特別支援学級では、各教科等での目標が異なる児童生徒を同時に指導する実践力が求められます。

3.特別支援学校の教師に求められる専門性

重複障害も含めた多様な実態の子供の指導を行うため、特別支援学校の教師には、障害の状態や特性及び心身の発達段階等を十分把握して、これを各教科等や自立活動の指導等に反映できる幅広い知識・技能の習得や、学校内外の専門家等とも連携しながら専門的な知見を活用して指導に当たる能力が必要です。さらに、特別支援学校教諭の教育課程の質を担保・向上させるため、小学校等の教職課程同様、共通的に習得すべき資質・能力を示したコアカリキュラムを策定することが必要です。また、専門性の保障の観点から、全ての特別支援学校の教員が特別支援学校教諭免許状を保有することを目指して取り組むことが必要です。

3.関係機関の連携強化による切れ目ない支援の充実

特別な支援が必要な子供に対して、幼児教育段階からの一貫した支援を充実する観点からも、保健・医療・福祉・教育部局と家庭との一層の連携や、保護者も含めた情報共有や保護者支援のための具体的な連携体制の整備を進めることが必要です。例えば、福祉施設が行う保育所等訪問支援事業等の取組や、障害のある子供に対する支援に係る情報や相談窓口の情報について、学校関係者や保護者に周知されるよう努めることが重要です。

また、特別支援教育を受けてきた子供の指導や合理的配慮の状況等を、個別の教育支援計画等を活用し、学校間で適切に引き継ぎ、各学校における障害に配慮した適切な指導につなげることも重要です。

医療的ケアが必要な子供への対応については、安心して学校で学ぶことができるよう、また、その保護者にも安全・安心への理解が得られるよう、学校長の管理下において、担任、養護教諭、関係する医師、看護師などがチームを編成し、一丸となって学校における医療的ケアの実施体制を構築していくことが重要です。

新型コロナウイルス感染症拡大等の社会全体の環境の変化もあり、制限の多い情勢ではありますが、障害のある児童生徒等への支援環境やその在り方が改めて問われている時期でもあります。文部科学省では、本答申や新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議の報告を踏まえ、引き続き障害のある子供の学びの場の整備に努めていきます。関係各位におかれても、引き続き目の前の子供たちの学びの保障や特別支援教育の一層の充実に努めていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

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