海外への支援活動-全国盲ろう者協会におけるアジアの支援活動

「新ノーマライゼーション」2021年6月号

社会福祉法人全国盲ろう者協会 事業担当課長
小林真悟(こばやししんご)

1.概要

当協会では、公益財団法人日本財団より助成いただき、「アジアにおける盲ろう者団体ネットワークの構築」事業を、2018年から2022年までの5か年計画で行っています。

世界の盲ろう者団体を統括する「世界盲ろう者連盟」(WFDB:World Federation of Deafblind)には、約60か国の団体が加盟していますが、アジア地域の加盟国は4か国程度です。また、アジア以外のアフリカ・ヨーロッパ・中南米等では、各国に盲ろう者団体が設立され、それぞれの地域の国々のネットワークとして、地域連合が組織化されています。しかし、アジア諸国の多くでは、盲ろう者団体・支援団体すらない状況です。アジアの多くの国々では、視覚障害団体・聴覚障害団体はそれぞれ設立されていますが、その両方の障害を併せもつ「盲ろう障害」についての認知度は低いと言わざるを得ません。

一方、日本においては、全国各地に「盲ろう者友の会」と呼ばれる支援組織があり、地元の盲ろう者や、盲ろう者向け通訳・介助員をはじめとする支援者らが所属し、地域における盲ろう者の生活を支えています。また、2013年に「盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業」及び「盲ろう者向け通訳・介助員養成研修事業」が、全国の都道府県・指定都市・中核市の必須事業となったほか、2020年には障害福祉サービスの一つである「同行援護」に、盲ろう者支援加算が追加され、盲ろう者も利用しやすい環境が整いました。このように、他のアジア諸国と比較すると、日本は盲ろう者支援の制度の整備が進んでいるといえます。

こうした背景を踏まえ、日本からアジア諸国に盲ろう者団体を立ち上げるための支援を行い、ひいては、アジア諸国の盲ろう者団体同士で情報交換を行いながら、国連や世界盲ろう者連盟などに対する発言力、各国政府への影響力を強化していくために、「アジア盲ろう者団体ネットワークの構築」事業を進めることとしました。以下より、本事業の具体的な内容について、これまでの実施内容も交えてご紹介します。

図1 アジア盲ろう者団体ネットワークの構築スケジュール

「アジア盲ろう者団体ネットワークの構築」事業 5か年計画(※)

2018年度 1.第1回アジア盲ろう者ネットワーク会議開催
2.盲ろう者支援プロジェクト実施(主に韓国、マレーシア、シンガポール等のフォローアップ)
3.人材育成1(世界盲ろう者連盟総会、ヘレン・ケラー世界会議派遣)
4.人材育成2(盲ろう当事者養成研修・報告会開催)
2019年度 1.盲ろう者支援プロジェクト実施(モンゴル、タイ等)
2.人材育成1(デフブラインド・インターナショナル会議派遣)
3.人材育成2(盲ろう当事者養成研修・報告会開催)
2020年度 1.第2回アジア盲ろう者ネットワーク会議開催
2.盲ろう者支援プロジェクト実施(主に韓国、マレーシア、シンガポール等のフォローアップ)
3.人材育成(盲ろう当事者養成研修・報告会開催)
2021年度 1.盲ろう者支援プロジェクト実施(モンゴル、タイ等)
2.人材育成(盲ろう当事者養成研修・報告会開催)
2022年度 1.第3回アジア盲ろう者ネットワーク会議開催
2.盲ろう者支援プロジェクト実施(主にモンゴル、タイ、韓国、マレーシア等のフォローアップ)
3.人材育成1(世界盲ろう者連盟総会、ヘレン・ケラー世界会議派遣)
4.人材育成2(盲ろう当事者養成研修・報告会開催)

※事業計画時点の内容となり、実際の実施状況とは異なる箇所があります。

2.アジア盲ろう者ネットワーク会議の開催

アジア各国の取り組みや、アジアネットワーク構築に向けた情報・意見交換を行うための会議を実施しています。第1回目は、2018年8月末から9月初めの4日間、千葉県で開催しました。アジア7か国から、盲ろう者11名(インド1名、韓国5名、マレーシア1名、ネパール1名、シンガポール2名、ウズベキスタン1名、タイは支援者のみ)を含む33名が参加しました。参加者には、事前に自身の生い立ちを紹介した「マイ・ストーリー」を執筆していただき、日本の盲ろう関係資料と共にお配りしました。会議は4日間それぞれに設けたテーマに沿って進行し、各国の「盲ろう」障害定義の有無、盲ろう者の通訳・介助をする支援者の養成方法、盲ろう者自身のコミュニケーション学習方法、団体として活動していくための資金獲得方法など、議題は多岐にわたりました。

今後の展開としては、ネットワークづくりを進めていくために、メールマガジンやホームページを作成予定です。

3.盲ろう者支援プロジェクトの実施

アジアの数か国をターゲットに、視覚障害者・聴覚障害者、その他障害者団体等と連携して、盲ろう障害についての啓発を図るとともに、盲ろう者への支援提供のノウハウ等を伝え、盲ろう者団体の設立を支援する目的で実施しています。

2018年に韓国、2019年にタイで実施しました。タイでは、国内で唯一、盲ろう児・者の支援に関わっている盲学校を拠点にして、教育省、特別支援教育センター、県関係者、特別支援教育職員の全面的な協力のもとに、盲ろうについての啓発セミナー、盲ろう児・者と家族の会の発足を目指し、盲ろう児の家族と教員の対話の機会を設けました。また、盲ろう児が学ぶ盲学校、ろう学校、卒後就労先を訪問し、同国での取り組みを見学しました。

韓国では2つの盲ろう者団体が設立されましたが、残念ながらタイではまだ設立されていません。

4.人材育成事業の実施

国際協力に携わることのできる、日本国内の盲ろう者の人材育成を図ることを目的に、2本柱で実施しています。

1つ目の柱は、国際会議に盲ろう者を派遣し、情報収集・人的交流を図ることです。2018年は、スペインで開かれた「世界盲ろう者連盟総会」及び「ヘレン・ケラー世界会議」に、2019年はオーストラリアで開かれた「デフブラインド・インターナショナル世界会議」に、それぞれ日本の盲ろう者を派遣しました。オーストラリアで行われた会議では、派遣した盲ろう者がパネリストとして全体会に参加し、自身の生い立ちを紹介するとともに、日本の盲ろう者支援について述べました。また、各国の盲ろう研究者・支援団体の取り組みを学んだり、アジア地域での盲ろう者支援関係者と直接、話し合うことができました。

2つ目の柱は、「盲ろう者国際協力人材育成研修会」の開催です。これまで、障害と開発に関するさまざまなセミナーなどが開かれてはいるものの、盲ろう者への合理的配慮を伴ったセミナー、資料等はほとんどなく、参加できる盲ろう者はごく少数に限られている現状があり、盲ろう者が国際協力に関わるための情報提供の場を作る必要がありました。

世界における盲ろう者の現状、他国支援の報告を行う中で、各国の状況によって、必ずしも日本と同じような方法での盲ろう支援者の養成が可能とは限らないこと、可能性のある基盤となる、すでにある人的資源の背景も異なることなど、「盲ろう」という機能障害をもつ者が共通して抱える困難さ(コミュニケーション、情報入手、移動)に加えて、文化的な困難さも国によってあることを理解していただくとともに、各国の状況にあった盲ろう者を支援する人材のあり方、養成の仕方を開発していく重要性を説く構成になるよう努めています。

2019年に東京都内で第1回目を開催し、7名の盲ろう者が参加しました。今後は、オンラインでの開催を検討しています。

本事業を契機として、アジアの国々において社会から排除されている盲ろう者の存在と声を国際社会に届け、インクルーシブな国際社会づくりに向けた大きな一歩となることが期待されます。新型コロナウイルスの蔓延により、音声通訳・触手話・指点字など、接近・接触を伴うコミュニケーション方法を用いる盲ろう者にとっては、支援者を確保することが一層困難になっています。健常者であれば、メールで簡単に連絡を取り合えますが、点字を習得していない方や、メールを利用するための情報機器や通信環境が整っていない方も少なくありません。こうした難しい状況下ではありますが、一歩ずつ歩みを進めていけるよう、努力していきたいと思います。

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