見えない・見えにくい人の移動を支援する最新機器とスマホアプリ

「新ノーマライゼーション」2021年8月号

堺市立健康福祉プラザ 視覚・聴覚障害者センター
原田敦史(はらだあつし)

1.見えない・見えにくい人の移動の現状

見えない・見えにくい状態になると、移動することに支障をきたすことが多くなってきます。ただ最近では、移動のための支援機器や歩行を支援するスマートフォンのアプリケーション(以下、アプリ)を中心に新しいものが開発され、発表・提供されるようになってきています。支援機器では、以前から白杖に取りつけられたセンサーで前方の障害物を検知し、振動により伝えるものがありましたが、最新のものだと白杖という形ではなくウェアラブルデバイスとして開発されたものもでてきています。また、ここ数年はスマートフォンの歩行支援アプリが増えてきています。これらのアプリは見えにくい方だけでなく、全盲の人でも上手く活用しているケースがあります。

今回は、新しい支援機器やアプリにどのようなものがあるのかご紹介いたします。

2.ウェアラブルデバイスから情報を入手する

(1)暗所視支援眼鏡 MW10(写真1)
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

見えにくい人の中には、夜盲があり暗いところで十分な明るさが得られずに移動が困難な方がいます。この機器はそういう方に向けて、映画館やレストランなどの暗い場所や夜間の暗くて見えにくい場所で、本人の見え方より明るい視界を提供することを目的として開発された眼鏡型のデバイスです。眼鏡に取り付けられた小型の高感度カメラで捉えた画像が、眼鏡に設置されたディスプレイに投影されます。普段夜間は一人で歩けないという人も歩けたという声が紹介されています。現在発売中で、市町村によっては日常生活用具に指定されているところもあります。

(2)あしらせ(写真2)
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

靴の中に取り付ける立体型のモーションセンサー付き振動デバイスで、専用アプリを入れたスマートフォンと組み合わせて使用することで、単独歩行を支援するものです。靴の中に入れたモーションセンサーと電子コンパスで位置情報などを計測し、その情報をスマートフォンのナビアプリに送り、情報をもとにアプリ上で移動ルートを設定します。曲がり角などにさしかかると、靴に取り付けたデバイスが振動して、曲がる方向(左側に曲がる時は足の左面で振動等)をユーザーに伝えるという仕組みとなっています。歩いている時はスマホを手に持つ必要もなく歩くことに集中できるという声が紹介されています。現在開発中で、2022年に製品化を目指しているとのことです。

3.スマートフォンのアプリケーションを利用して情報を入手する

iPhoneは画面読み上げに対応しているアプリが多く、見えない人でも活用することができます。見えない・見えにくい人のために作られた専用アプリもありますが、読み上げ対応していれば一般のアプリであっても利用可能です。移動の場面で活用されているものは、大きく分けて3つのグループに分類できそうです。ここでは実際に利用されているものをいくつか紹介します。いずれもAppStoreからインストール可能です。

(1)ルート案内支援

「Googleマップ」はナビゲーションを音声で流すだけでなく、曲がり角や横断場面が近づくと振動で知らせてくれます。また「詳細な案内」という設定を選ぶことで方角や距離を説明し、「次に曲がるところまであと○メートルです」という案内が流れるようになります。

(2)方角等支援

「振動コンパス」「音声コンパス」「駅どっち」などがあります。地図の案内では方角で指示されることも多く、振動や音声で方角が分かることで適切なルートを進むことができます。また「駅どっち」は現在地周辺の鉄道駅の方向と距離を知らせるものです。

(3)現在地の情報支援

「レーダー地図」「iMove around」「BlindSquare」などがあります。アプリを起動するとGPSで現在地の住所を教えてくれます。また周辺のお店や施設までの距離・方角も確認することができます。地図アプリと連動することでそのまま目的地に設定をすることもできます。周辺の案内は設定した半径で情報が提供されるので、知らない店や施設を知ることができ便利という声が多いです。

4.タグを読み取り情報を入手する

(1)Navilens(写真3)
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

Navilensはタグ(QRコードのような形でカラーのタグ)があり、それを専用のスマホのアプリで読み取り情報を入手します。スペインの企業が開発したもので、スペインでは建物入り口や、地下街の入り口等に貼られています。タグには現在位置の名称や周辺情報など、あらかじめ登録をしておき、必要に応じて変更が可能です。

このタグの利点は、読み取りが速いことです。アプリを起動してスマホを左右に動かすとタグがあれば瞬時に読み取って、音声で情報を案内してくれます。遠くからでも認識可能で、タグが大きければ15メートル先にあっても読み取ることが可能です。情報は自身が利用しているスマホの言語で説明されるため海外の旅行客等も利用できます。日本では一部地域での導入ですが、今後の広がりが期待されます。

(2)コード化点字ブロック(写真4)
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真4はウェブには掲載しておりません。

Navilensと似たシステムですが、こちらは点字ブロックに黒丸や三角といったマークをつけておき、それをスマートフォンで読み取ることで、情報を入手できます。自分の位置に対して目的地方向の説明が聞け、GPSレベル以上に細かな精度の案内情報が入手できます。日本で開発されたもので、現在、金沢市の一部地域に設置されていて体験することができます。こちらも今後の広がり期待できます。

5.まとめ

新しい機器等が次々に出てきていますが、まだ一つだけで自由に移動ができるというレベルには到達していません。また、安全確保のため白杖の併用が必要です。しかし今後さらに精度の高いものがでてくれば、目的地までの移動はかなりスムーズになると思われます。将来的には見えない・見えにくい人がまわりの様子を確認しつつ、新しい場所を探索し、楽しみながら歩行できるようになるのではないかと、今後の技術の進歩に大いに期待をしています。


※文中で紹介したアプリの制作会社

.振動コンパス Amedia Corporation

.音声コンパス Yoshiyuki Koyanagi

.駅どっち ASS Ltd.

.レーダー地図 Yoshiyuki Koyanagi

.iMove around Retina Italia Onlus

.BlindSquare MIPsoft

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