肢体不自由者の移動支援機器

「新ノーマライゼーション」2021年8月号

特定非営利活動法人日本アビリティーズ協会
中村靖彦(なかむらやすひこ)

はじめに

令和3年4月20日より、6席分の車いす用フリースペースが設置された新幹線の新車両(N700S)の運行が開始されました。令和2年10月に、バリアフリー法に基づく移動等円滑化基準が改正され、1編成あたりの座席数に応じた車いすスペースの設置が義務付けられました。また、平成30年4月からは、シニアカーやセニアカーと呼ばれているハンドル型電動車いすの乗車に関する規制が大幅に緩和され、肢体不自由者にとって安全で快適にどこにでも行ける機会の拡大が期待されています。本稿では、肢体不自由者の移動を支援する最新の機器を紹介します。

1.“手動車いす”を“電動車いす”に

ハンドル型電動車いすは、街でもよく見かけます。運転免許証を持っていた方にとっては、レバー操作で簡単に操作でき、高齢者を中心に利用されています。しかし、市場で利用されているハンドル型電動車いすは、身体状況に合わせることができません。シートや背もたれなどは、決まった形で装着されており、肢体不自由者にとって必ずしも快適なものとはいえません。身体に合っていないシートでの移動は苦痛となり、姿勢の崩れや褥瘡の発生にもつながります。そこで、普段乗り慣れた車いすを少ない力で移動することができる支援機器を紹介します。

(1)ハンドル型電動車いすへの変更

海外では、ハンドルと一体となった電動車輪(以下、ハンドバイク)を常用の手動車いすに装着し、ハンドル型の電動車いすに変更できる機器が数多く使用されています。屋内や市街地、起伏の激しい道路など、使用する環境に合わせて簡単に着脱することができます。これにより、身体状況に合った車いすで行動範囲を広げることできます。

Sunrise MEDICAL社(International)の「Empluse F55(写真1)」は、手動の車いすにワンタッチで装着でき、ハンドル型の電動車いすとして使用できます。フットサポートが固定されているものや、スイングアウトするものでも装着することができます。1回の充電で約25kmの走行ができ、利用者の想定最大体重は110kgでとてもパワフルです。バッテリーを含めた本体の重量は約13kgで、例えば車両に積み込む際も車いすから取り外し、別々に積み込むことができます。速度の上限設定も可能で、日本の基準に合致する最高時速6kmに設定することができます。最大の課題であった車いすの全長についても、8.5インチ(約21.6cm)の車輪を使い、全長を抑えることができます。現時点では海外のみの取り扱いですが、日本での販売に向けてサンライズメディカルジャパン株式会社にて検討が進められています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

(2)ジョイスティック型電動車いすへの変更

ジョイスティック型の電動車いすに変更することができる機器に、ノース・メディコ株式会社の「Rin(写真2)」があります。使用している手動車いすの車輪ごと交換します。車輪に駆動モーターとバッテリーが内蔵(特許申請中)されており、付属のジョイスティック型コントローラーを後付けすると電動車いすになります。特殊なスプリングホイール(特許申請中)が装備されており、利用者が受ける路面からの振動を軽減します。また、Bluetoothを使ってスマートフォンと接続ができ、介助者が操作することもできます。1回の充電で15kmほど走行することができます。最大登坂角度は10度です。ユニット本体、バッテリーやコントロールユニット、転倒防止バーを含めると重量は24kgほどあり、装着する車いすにもよりますが、総重量が30kgくらいになります。ノース・メディコ株式会社にて、量産販売の準備が進められています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

2.手動車いすをもっとアクティブに

手動車いすを漕ぐのには、想像以上の腕力を必要とします。平地であれば少ない力で漕ぐことができますが、歩道と車道の間や出入りの段差を乗り越えるスロープなど、外出すると至るところに傾斜があります。起伏の激しい地域では、手動車いすの利用者にとっては大きな障害となります。しかし、だからといって電動車いすに乗り換えると、室内での取り回しが難しくなることや、車両で移動する際の積み込みができなくなることもあります。

デンマークのLanghoej(ランホイ)社の「ニュードライブ(写真3)」は、手動車いすのホイールにワンタッチで装着でき、レバー操作により少ない力で車いすを漕ぐことができます。レバーを握って円弧状に押し込むと、ハンドリムを握って漕ぐのに比べ、約50%の力で漕ぐことができます。ラチェット構造になっており、前方向に漕ぐ時だけタイヤに駆動が伝わり、レバーを内側に絞り込むことでブレーキが掛かります。一度レバーを外側に開くとニュートラル状態になりますので、後退する場合などに使用します。レバーと固定金具はワンタッチで着脱できるため、分解して車両に積み込むことができます。22インチ用と24インチ用があります。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

3.行きたい場所へ移動ができるように

公共交通機関のバリアフリー化が進んでおり、肢体不自由者もどこにでも行ける機会が増えてきています。日本でも介護タクシーや福祉有償運送制度が定着し、タクシーもユニバーサル車両の導入が進んでいます。しかし、いまだ多くのスロープ車両では、耐荷重の問題で大型の電動車いすが乗れないこともあります。

イタリアの車両架装会社Focaccia Group(フォカッチャ・グループ)の「キャディー・マキシ(写真4)」は、低床式で最大荷重300kgの丈夫なスロープが架装されています。これにより大型の電動車いすでも安心して乗り込むことができます。車内空間もとても広く、ISO規格を取得した安全性の高い車いすの固定装置が装着され、さまざまな形状の車いすを固定することができます。車両はフォルクスワーゲンの“CADDY”を架装しています(並行輸入のみ。正規ディーラーの取り扱いはありません)。海外ではこのような車両がタクシー・ホテルの送迎車・個人所有でも当たり前のように利用され、移動の自由が確保されています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真4はウェブには掲載しておりません。

まとめ

世界中で、このような移動支援機器は多く開発されています。しかし、日本でなかなか普及しないのには、法律や基準が影響しています。支援機器を取り付けることで寸法や速度制限を超えてしまうことが多く、歩道を走行できなくなってしまいます。これらの支援機器の普及には、安全性の検証と同時に法律や基準の見直しも必要です。

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