行政の動き-令和3年度障害福祉サービス等報酬改定について

「新ノーマライゼーション」2021年8月号

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課

1.はじめに

障害福祉サービス等については、障害児者のニーズに対応したサービスの提供と制度の持続可能性を確保するため、3年に1度の報酬改定を実施しています。今般、令和3年度障害福祉サービス等報酬改定が行われ、令和3年4月から施行されています。本稿では、今回の報酬改定の概要について、ご紹介します。

2.経緯

障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)の施行後、障害福祉サービス等の利用者及び国の予算額はそれぞれ約3倍に増加し、障害児者への支援は年々拡充しています。こうした状況において、サービスの質の向上や制度の持続可能性の確保等の観点を踏まえ、エビデンスに基づくメリハリのある報酬体系への転換が求められました。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機として、感染症等が発生した場合でも、必要なサービスが安定的・継続的に提供されることが重要であることが再認識されました。

このような状況の中、令和3年度報酬改定については、厚生労働省「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」において、令和2年2月から、関係者のご意見を伺いながら議論を進め、令和3年2月に改定内容のとりまとめに至りました。

改定率は、全体として、前回を上回る+0.56%とし、障害者の重度化・高齢化を踏まえた地域移行・地域生活の支援、サービス利用の核となる相談支援の質の向上、効果的な就労支援、医療的ケア児への支援などの障害児支援の推進などに加え、感染症等が発生した場合でも必要なサービスを継続的に提供するための感染症等への対応力の強化等の課題に対応するため、事業所の経営状況や制度の持続可能性の確保という観点も考慮しつつ、メリハリのある報酬改定を実施しました。

図 令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容拡大図・テキスト

3.令和3年度報酬改定における主な対応

(1)障害者の重度化・高齢化を踏まえた地域移行・地域生活の支援、質の高い相談支援を提供するための報酬体系の見直し等

○障害者の重度化・高齢化を踏まえた地域移行・地域生活の支援のために、地域における生活の場である共同生活援助について、重度障害者支援加算の対象者の拡充や医療的ケアが必要な者に対する支援を評価するとともに、生活介護等における重度障害者への支援を評価。

○障害者が地域で安心して一人暮らしを継続できるよう、自立生活援助の整備促進のため、人員基準、支給決定の運用、報酬の見直しを実施。

○障害者の重度化・高齢化や親亡き後を見据え、地域生活を支えるために整備を進めている地域生活支援拠点等の短期入所の受入機能や訪問系サービスの緊急時対応機能の強化を評価。

○相談支援を担う人材の養成と地域の体制整備による質の高い相談支援を提供するため、基本報酬の充実及び相談支援業務の新たな評価。

(2)効果的な就労支援や障害児者のニーズを踏まえたきめ細かな対応

○障害者の希望や能力、適性に応じた効果的な就労支援に向けて、前回改定で導入した実績に応じた就労系サービスの報酬体系について、一般就労への移行や定着実績を踏まえた評価、及び就労継続支援A型でのスコア方式導入や就労継続支援B型の報酬体系の類型化など、支援効果を高める取組の評価や多様な就労支援ニーズへの対応等。

○在宅生活の継続や家族のレスパイト等のニーズに応じるため、短期入所において、基本報酬の充実や医療的ケア児への利用対象の拡大など医療的ケアを要する者の受入体制の強化を図るとともに、日中活動支援を充実。

○施設入所支援や訪問系サービスにおける利用者のニーズへのきめ細かな対応を評価。

(3)医療的ケア児への支援などの障害児支援の推進

○医療技術の進歩等を背景として、人工呼吸器等の使用、たんの吸引などの医療的ケアが必要な障害児(医療的ケア児)の支援について、前回改定で導入した医療的ケア児に係る判定基準を見直すとともに、児童発達支援及び放課後等デイサービスの基本報酬区分に医療的ケア児の区分を設定すること等を通じて、医療的ケア児が地域において必要な支援を受けやすくなるようサービス提供体制を強化。

○放課後等デイサービスの基本報酬について、区分1・区分2の体系を廃止し、より手厚い支援を評価する加算を創設。

○児童発達支援及び放課後等デイサービスについて、ケアニーズの高い障害児の支援や専門職による支援などを評価する報酬体系への見直し、及び支援の質を向上させるための従業者要件の見直し。

○障害児入所施設について、「障害児入所施設の在り方に関する検討会」による提言などを踏まえ、人員基準の見直し、小規模グループケアに対応した施設要件見直し及びソーシャルワーカーの配置等を評価。

(4)精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの推進

○精神障害者等が地域社会の一員として安心して自分らしい暮らしをすることができるよう、医療、障害福祉・介護、住まい、社会参加(就労)、地域の助け合い、教育が包括的に確保された「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を推進する観点から、当該ケアシステムの構築に資する取組を評価。

(5)感染症や災害への対応力の強化等

○日頃からの備えや業務継続に向けた取組を推進する観点から、感染症の発生及びまん延の防止等に関する取組や業務継続に向けた計画(BCP)等の策定や研修・訓練等の実施について、運営基準で義務づけるとともに、その取組を基本報酬で評価。

○感染症や災害の発生時も含めた支援の継続を見据えて、就労系サービスにおける在宅でのサービス利用や報酬上の加算の算定に必要な定期的な会議の開催等に係るICT等の活用等について、平時でも可能であることを明確化。

(6)障害福祉サービス等の持続可能性の確保と適切なサービス提供を行うための報酬等の見直し

○サービス提供を行う施設・事業所の経営の実態等を踏まえた上で、報酬・基準等の見直しを行うとともに、医療的ケア等の看護の濃度を考慮した医療連携体制加算の見直し。

○障害者虐待防止の更なる推進のため、虐待防止委員会の設置や研修の実施等を義務化するとともに、身体拘束等の適正化の更なる推進のため、委員会の設置や指針の整備等を義務化。

○障害福祉の現場の人材確保・離職防止・定着促進を図る観点から、人員基準における両立支援への配慮として、「常勤」要件及び「常勤換算」要件を一部緩和するとともに、福祉・介護職員等処遇改善加算の配分ルールを柔軟化する等の見直しを実施。

4.おわりに

今回の報酬改定にかかる検討の中での意見等を踏まえ、いくつかの事項については、次期報酬改定に向けて引き続き検討・検証を行うこととされました。報酬改定の効果検証や新たな課題への検討等も含め、3年後の報酬改定に向けて準備を進めていきます。


【参考】厚生労働省HP「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202214_00007.html

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