令和3年度報酬改定現場からの声-就労継続支援B型事業の基本報酬の見直し

「新ノーマライゼーション」2021年8月号

社会福祉法人八身福祉会 施設長
小島滋之(こじましげゆき)

事業所紹介

当法人は、滋賀県の琵琶湖の東側に位置する東近江市に所在します。昭和61年に障害のある方5名で開所した作業所は、法人化を経て現在では5事業で約100名が在籍する規模になりました(表1)。創設者の「障害があっても働ける、工夫次第で高い収入も得られる」という思いは、現在も引き継がれて地域において役割を果たしているものと感じております。近年は、農業に進出して農福連携にも取り組み、地域の公益的な取組として市民活動団体との協働事業などを推進しています。

表1 八身福祉会の事業内容

事業所名 事業体系 定員
八身共同印刷 多機能型 就労移行支援事業 6名
就労継続支援事業(B型) 30名
八身ワークショップ 多機能型 就労継続支援事業(B型) 30名
生活介護事業 10名
葉菜屋 単独型 就労継続支援事業(B型) 20名

報酬改定について

さて、テーマである就労継続支援B型事業の報酬改定ですが、表2のようなポイントにおいて改定が行われました。まだ改定から数か月しか経過していないので全国的な事業所への影響調査は行われておりませんが、県内の事業所からは、基本報酬(2)は全体的な単価増で大半の事業所で微増、数か所の事業所が新設の一律型の報酬体系や加算(1・3)の取得、施設外就労加算の廃止(5)で収入が激減という声が聞かれます。私どもでは、平均工賃の高い区分ほど基本報酬が評価されたことで、運営する3つのB型事業所ではすべて基本報酬の見直し(2)の恩恵を受けましたが、今回の報酬改定が一法人の経営的観点から増収となってよかったというだけでなく、近年の報酬改定に一石を投じる意味からも、私が感じていることをお伝えしたいと思います。

表2 就労継続支援B型の令和3年度報酬改定ポイント

1.平均工賃月額を評価する報酬体系に加え、多様な就労ニーズに対応するため、「利用者の就労や生産活動等への参加等」をもって一律に評価する報酬体系の新設
2.平均工賃月額に応じた報酬体系における基本報酬の見直し(7→8段階、高工賃を実現する事業所にさらなる評価)
3.「利用者の就労や生産活動等への参加等」をもって一律に評価する報酬体系において、「地域協働加算」と「ピアサポート加算」を新設
4.一般就労への移行の促進(「就労移行連携加算」の新設、「就労移行体制加算」の単価増額)
5.施設外就労加算の廃止

就労継続支援B型事業の成り立ちを振り返っておきたいと思います。平成18年に支援費制度から障害者自立支援法へと改正されたタイミングで、通所授産施設や無認可作業所といわれていた作業所は新事業類型へ移行することとなり、その中の選択肢として就労継続支援B型事業が新設されました。事業移行に際しては、利用者に最低賃金を支払う就労継続支援A型事業ではない、就職の支援に特化した就労移行支援事業でもない、重度支援に特化(利用要件が区分3以上)した生活介護事業でもないと判断した事業所がB型を選択し、結果として一般的な作業所が一番多く移行した事業となりました。見方によれば消去法的な選択であったともいえ、かなり幅の広い利用者像の方が在籍する事業となっています。こうした経緯から、決して高い工賃を目的としている事業所ばかりではなく、それぞれの障害像に合った働き方(日中活動)の追求の結果、工賃という評価に結びつかない事業所も多々あります。

そんな中で、平成30年度には突然、支給工賃額の評価による実績型の報酬が導入されました。当初の事業移行の経緯からすれば寝耳に水の事態であり、高い工賃を支給する事業所が高単価で評価された反面、全国のB型事業所数の35.9%にあたる平均工賃月額1万円以下の事業所は、改定によって大幅な減収を余儀なくされました。

その後も、今回の改定前の報酬区分で平均工賃月額が5千円未満から2万円未満(下から3つの単価区分内)のB型事業所が全体の77%を占めており、逆に、一番高い報酬区分(平均工賃月額が4万5千円以上)に該当する事業所はわずか1.7%しかありません(表3)。全国の平均工賃実績は月額で1万6千円台という実態であり、どれだけ高単価の報酬をぶら下げられても工賃を追い求めることが難しい事業所が大半を占め、現実と乖離した報酬体系であると言わざるを得ません。

表3 旧報酬体系(令和2年3月実績)

平均工賃月額の区分 割合
4万5千円以上 1.7%
3万円以上4万5千円未満 5.8%
2万5千円以上3万円未満 5.7%
2万円以上2万5千円未満 9.8%
1万円以上2万円未満 42.3%
5千円以上1万円未満 29.9%
5千円未満 4.8%

今回の改定では施設外就労加算が廃止となった結果、事業所が得られる給付費収入(基本報酬+各種加算の収入)が減少する事業所も見られました。施設外就労とは、企業内での就労訓練という目的で支援を行う職員を配置するなど、一定の要件を満たしたうえで利用者が事業所外の企業等で作業を行うもので、実施する事業所には利用日数・利用者数に応じて加算がついていました。私どもの事業所でも、一部の利用者が施設外就労に出向いていますが、加算はなくなっても利用者が取り組んでいる事業を簡単に撤退するわけにはいきません。そもそも目的があって成立していたはずの加算であり、猶予なき廃止は現場にとってはしごを外されたかのようで、まさに“振り回されている”という印象が拭えません。基本報酬の単価が増えたことはありがたいですが、国の予算はこうしてどこに付け替えるかという議論であり、何かが増えれば何かが減っているという構造です。また、高い工賃支給を促す実績型報酬に変わったかと思えば、今回は一律型の基本報酬が併設されたことも、もはやB型の事業目的は迷走の極みに達しているような気がします。

『B型って、なにもの?』そんな思いがますます強くなります。幅広い利用者像、それを後追いするかのような一貫性のない報酬改定など、いよいよ本来のB型の目的が不鮮明になっていると感じます。それならば事業分類そのものを見直して機能を明確にし、地に足を付けて支援に取り組めるような仕組みにしていただくことが、何よりも障害がある方々への安定した支援につながるのではないかと考えます。報酬の改定という小手先の処置で一喜一憂するだけではなく、事業類型そのものを見直す時期に来ているのではないかと感じているところです。

コロナの影響と対応

コロナの影響で、私どもの法人でも生産活動による収入は対前年度比約20%の減収となりました。収入の大半が企業からの下請け作業であるため、自力では打開が難しい依存度の高さです。「打つ手がない」と嘆きたくなるところですが、こんな時こそ経営者だけではなく職員一同で何ができるのかをよく考えることが、非常事態が終息した後の明暗を分けるのではないかと考えています。いまだに受注量の減少で作業時間の短縮が続いていますが、この空き時間をプラスと考える発想転換で、若手から中堅の職員数名でプロジェクトチームを立ち上げて就労支援事業の再検討を進めています。新しい自主事業を考案するもよし、地域課題の解決を考えるもよし、既成概念にとらわれない自由な発想を出し合って形にしていくことが、結果が成功でも失敗でも若手職員の成長の糧になると思って見守っています。

また昨年には、子どもから高齢者まで多世代交流の活動をする市民活動団体から打診を受け、法人が事業所として所有する古民家を活用して、地域共生拠点を創造する異業種(異団体)交流がスタートしています。この事業も中堅職員に任せて推進しておりますが、法人理念である『共生社会づくり』に向けた人の輪やさまざまな可能性が広がりつつあります。

最後に

過去のリーマンショックの時も作業の受注量が落ち込みましたが、当時もこれを好機と考え、普段は作業から手を離せない職員全員を1週間ずつ他法人の事業所へ研修に派遣しました。「ピンチはチャンス!」という言葉がよく聞かれます。立ち止まることは非常に勇気がいることですが、社会や経済といった経営の背景をかんがみ、「変えなくてはならないこと、変えてはいけないこと」を見極めて指針とし、次の飛躍へ向けてじっくりと足元を固め直すことも必要ではないでしょうか。

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