快適生活・暮らしのヒント-高次脳機能障害~記憶障害に対応したわが家の工夫~

「新ノーマライゼーション」2021年8月号

脳損傷友の会コロポックル
髙野智子(たかのともこ)

私の夫には、心臓機能障害と高次脳機能障害があります。いずれも16年前、冠攣縮性狭心症から致死性不整脈を起こし心肺停止したことが原因です。心臓は不整脈防止のため植込み型除細動器を植込み、症状なく経過しています。日常工夫が必要なのは高次脳機能障害の症状(記憶障害・遂行機能障害・社会的行動障害等)の方です。今回は、記憶障害への対応をご紹介します。

夫は、発病前のことは覚えており、新しいことも興味があれば忘れません。反対に興味のないこと(例えば家事)や、注意が向いていない時や一度にいろいろなことを言われた時は記憶できなかったり、記憶が混同したりします。その結果、待ち合わせ時間を間違える、買い物で買うものが分からなくなる、規則を守れない等の問題がありました。医師からは記憶の代償・補助のためにメモを取るように指導されました。当初はA6サイズの手帳になんでも記入していましたが、手帳を閉じるとメモしたこと自体を忘れたり、どこにメモしたか分からなくなる状態でした。私が付箋にメモをして渡したこともありますが、紛失したり、渡されたことを忘れたりと、うまくいきません。十数年の試行錯誤の結果、メモがすぐに見えること、一目で内容が分かることが大切だと気付きました。

現在、日々の用事は、本人が縦長の紙(封筒や広告の裏が多い)に日付とやることを一行で書き、終わった項目はチェックします。メモ置場は、目につくところ=テーブルの自分の席と決めています(写真1)。仕事や病院の受診予約などの1か月分の予定は、時間とその内容をカレンダーに記入しています。マーカーを使うなど夫自身で工夫しています(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1・2はウェブには掲載しておりません。

もう一つ重要なのは、本人が覚えやすい環境を整えることです。話す時は注意が向くように静かな環境で「話を聞いてほしい」と伝えてから、簡潔な言葉で1項目ずつ話すなどの工夫をします。思い出せない時は、ヒントを出して助けます。夫の記憶は変化に弱く、例えば物の位置を変えると混乱するので、極力変えないようにしています。そのため、わが家ではカレンダーは毎年同じ場所に貼っています。「見えない=ない・分からない」となるので、洋服はクローゼットの扉を外して中が見える収納にしています。中味が見えない引出しにはラベルを貼り、入っている物が分かるようにしています。

これらは、脳損傷友の会コロポックル・ポロミナ(旧妻の会)での助言をわが家なりに工夫したものです。ポロミナでは困りごとに対して成功や失敗経験をもとに知恵を出し合い、皆が笑顔で暮らせるように助け合っています。ポロミナの活動が始まってから15年が経過し、多くの知恵が蓄積されました。自分たちだけで終わらせるのはもったいないと盛り上がり、『私の夫は高次脳機能障害です』(医歯薬出版株式会社)を上梓しました(写真3)。今回紹介した記憶障害に対する工夫以外にたくさんのヒントが書かれています。興味のある方、悩んでいる方は、ぜひお手に取ってご覧ください。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

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