第24回RI世界大会発表報告 地域で働く実践家から見た、国際学会参加を通した国際貢献と臨床に持ち帰るもの

医療法人丹沢病院 精神保健福祉士 湯沢 由美

2021年9月7日から9日にかけて、デンマークで開催された第24回RI世界会議に、日本よりオンラインにて参加させていただきました。私が国際会議に参加するのは、今回で4回目になりますが、いつも周囲の方々から助けていただきながら、なんとか無事に発表を終えております。

今回の私の発表は、”The Influence of Telecommuting on Self-Awareness of Being Mentally Ill” と題して、Covid-19の感染拡大によって増加した在宅勤務が、メンタルヘルス不調であることの気づきと医療機関を受診するまでの経緯にどのように影響するかを検討した内容をポスターにまとめたものでした。Covid-19の感染拡大以前に行った、メンタルヘルス不調による休職を経験した労働者へのインタビューでは、最初に医療機関を受診するまでのプロセスにおいて、家族の影響よりも職場の上司や同僚からの影響が大きかったことが語られていました。職場での日常的な会話の中で不調者の異変に気付き、受診を促す声掛けをする同僚や、産業保健スタッフにつなぐ上司の役割は、メンタルヘルス不調に陥った労働者が治療に繋がるプロセスにおいて重要です。しかしながら、在宅勤務では職場での日常的なコミュニケーションが減少し、メンタルヘルス不調に気付く機会が損なわれ、医療機関受診の適切な時期を逃す可能性があります。また、対面での勤務と比較して、在宅勤務ではコミュニケーションへの積極性が求められるとされています。そのため、もともと同僚とのコミュニケーションを避ける傾向にある労働者は、在宅勤務によって一層孤立し、不調を見逃される可能性があります。今回の発表では、産業保健において、こうしたコミュニケーションの変化を注意深く観察する必要があることを提示させていただきました。

今回のポスター発表は、事前に録画した3分のビデオをオンライン上で流して発表し、その間にQ&Aにお答えするという形式でした。発表自体は短い時間でしたが、他の多くの参加者の皆様の発表から学ぶことが出来ました。RI世界大会の場に居られたことは、国際会議への参加の意義を大いに感じるものでした。私のような実践家が国際会議に参加する意義については、次のように、≪実践への貢献≫≪キャリア開発≫≪支援者の当事者性≫という側面があると思います。

≪実践への貢献≫

国際会議において、「これは新しい」と思うような支援方法を見つけることは、それほど多くはなく、現在行っている支援方法の今までと違った切り口や考え方などを知り、支援のマイナーチェンジに役立つということが多いように思います。また、障がいを持つ方の社会参加を促進する実践においては100%上手くいくという支援方法はないと考えられ、高いエビデンスのある支援方法を用いても、うまくいかない場合や、違う方法を希望するご利用者様がいらっしゃいます。そうした支援では、エビデンスを踏まえながらも、支援プログラムにご利用者様を当てはめるのではなく、ご本人を中心とした、ご本人に合う支援方法を提供していくことが重要です。支援者は、障がいを持つ方のキャリアの意思決定プロセスに併走しながら、困難を乗り越えるためのあらゆる選択肢、切り口、視点、アイディアを提示して、ご本人の選択をサポートすることが求められています。そうした多種多様なアイディアや選択肢を世界中でシェアすることが出来るのが国際会議であると思います。

≪キャリア開発≫

Sunny S. Hansen先生は、キャリアの重要課題として、「グローバルな視点からなすべきことを考えること」を挙げています。また、近藤克則先生は、健康の社会的決定因子の階層を示しています。現在引き起こされている悩みや課題を、グローバルな視野で眺めてみることによって、気付きを得て、自分自身の行動が変わることがあります。例えば、私の場合では、私が関わる精神科病院デイケアの臨床の在り方について、他の国の精神科リハビリテーションの取り組みを知って、外側から比較検討することによって、やるべきことをゼロベースで見直してみようという意欲が沸いています。支援者が国際会議へ参加し、国際的な知識を得ることは、ローカルな実践においてなすべきことを明確化させ、支援者自身のキャリアの方向性を見出すことに役立つのではないでしょうか。

≪支援者の当事者性≫

言語的な障壁のある国際会議への参加は、支援者が、自らも弱さをかかえる当事者であることに気付く機会にもなります。例えば、精神疾患を伴う当事者の方の多くは、病気の悪化や過去の辛い経験への怖さをお持ちで、就労する時には、そうした怖さを乗り越えようとする転機の時間を過ごしています。支援者が、こうした怖さや、それにチャレンジする意味を理解することは大切です。それには、支援者が自分自身の転機に向き合ってみることが必要なのではないかと思います。国際学会チャレンジ(私自身の転機)で、私は、出来ない事を「出来ない」と伝えたり、「ゆっくり話して」とお願いすることが、思いのほか難しく、勇気が必要なことなのだという実感を持ちました。また、字幕は、話し言葉を理解することに障壁のある私自身の助けになります。こうした困難がある一方で、思いがけず他の参加者と通じ合える事がとても嬉しいものです。支援者には、障がいをかかえる人が主体的に課題解決するために必要な様々な道具を出す専門性と同時に、怖さと、それを乗り越える喜びをもつ人間同士が協働をしているという当事者性が必要なのではないかと思います。そうした意識を持つためにも、支援者は、自分自身が困難にチャレンジし、転機を経験する機会を積極的に持てると良いのではないかと感じております。国際会議での発表への挑戦は、その1つとなり得ます。

国際会議への参加は、臨床現場で働く実践家にとっても、とても意義深いものです。また、国際会議に実践家が参加することによって、より直接的に、国際会議で得られる情報を支援に反映できる可能性があると思います。今後、より多くの実践家がRI世界会議のような国際会議に参加できることを期待いたします。

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