私らしさを「魅せる」~ユニバーサルファッションの現代的展開~

「新ノーマライゼーション」2021年10月号

東京家政大学 准教授
ユニバーサルファッション協会 理事
杉野公子(すぎのきみこ)

ユニバーサルファッションとは

「ユニバーサルファッション」という言葉をご存知でしょうか。ユニバーサルファッションとは、年齢・サイズ・性別・障がいの有無にかかわらず、ファッションを楽しむ社会を創造しようとする思想であり運動です。その社会は、高齢の人や障がいのある人が、着たい服や着やすい服などを不自由なく手にすることができ、「9号神話」と言われるような若いスレンダーな女性だけがファッションを楽しむ社会ではありません。

ユニバーサルファッション協会は、高齢の人や障がいのある人とファッション業界を結ぶ架け橋となることを目指し、1999年に非営利団体として活動をはじめ、2001年に特定非営利活動法人として認可され、現在に至ります1)

障がいのある人のファッション環境

私がユニバーサルファッションと出会ったのは、1998年のことです。当時の私は高齢女性の体型調査とその体型に合うパターンの研究を行っていました。それと同時に、障がいのある人のための服作りや障がいのある人を取り巻く環境に関する研究者との意見交換もしていました。このような活動の中で、車いす利用の方から直接お話を聞く機会を得ることができました。その中でとても印象に残っている言葉は「普通の服が着たい」でした。車いす利用者の個人の障がいに合わせて補正を行ったスカート等をハンガーにかけて見ると、自分が事故で歩けなくなってしまったことを改めて直視することになり、辛い思いをするとのことでした。それでも、一緒に自分の障がいと向き合い、着心地が良く、見た目にも良い服を考え製作してくれる人には、本当の気持ちを伝えられることができませんでした。また、親が購入する服は実年齢よりも小さい子どもが着るようなとてもかわいらしい服で自分の好みとは合いませんが、親に着せてもらわなければならないため、自分の着たい服の好みを伝えられない等の現状があることも知りました。障がいのある人は手助けが必要なために遠慮をし、ファッションを楽しめる環境ではなかったと言えます。

それから20数年が経ちました。障がいのある人は自分が着たい服が着られる環境になったのでしょうか。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の公式服装やスポーツウエアが公表されると、その服作りの裏側や選手の感想の声などがインターネット上に公開されました。その中で私が注目したことは、ウエア製作会社の聞き取りで、リオ大会(2016年)のパラリンピックの選手が「みんなと同じものが着たい」「カッコいいデザインのものがいい」という意見が多かったということです2)。障がいのある人にとってのファッションは20数年前とあまり変わらない状況だったということでしょうか。しかし、大きな変化として、障がいのある人が自分の着たい服を周りの人に言えるようになったこと、製作する側の企業が障がいのある人の要望を丁寧に聞き取る環境ができてきたことは、ユニバーサルファッションが目指す社会に近づきつつあるとも言えます。

ここに、障がいのある人が自ら発信したことで社会を変えた一例があります。コロナ禍ということもあり、SNSを利用したファッション紹介が多く見られます。アップされる写真のモデルは立ちポーズがほとんどでした。車いす利用者から「座った写真があればいいのに」という思いを「#すわりコーデ」としてメディアから発信すると、企業だけでなく、個人でも座ったポーズの写真がSNSにアップされるようになりました。なぜなら「#すわりコーデ」は、健常者も1日のほとんどが椅子に座る生活なのですから、障がいの有無にかかわらず多くの方々が必要としていた情報だったことが分かります。私が勤務する学科公式Instagram(インスタグラム)でも、学生の作品紹介の「#すわりコーデ」の写真をアップしています3)。デザインによっては、立った場合と座った場合では柄の見え方等が異なるため、その違いに学生が自ら気付く学習の機会にもなりました。

ファッションにおける技術革新

現在、ファッション業界では、高機能繊維(保温機能・ストレッチなど)や加工技術(防しわ加工など)の進歩が目覚ましく、これらの服を着ない日はないのではないでしょうか。特に、スポーツウエアに用いられてきたストレッチ素材は、人の動きに合わせて伸縮するので、大変動きやすい服です。そのストレッチ素材が、今ではスーツ・ブラウス・パンツ等にも利用されています。

生地そのものにストレッチ性がなくても、加工によって伸縮性を作り出すことができます。それがプリーツ加工です。一般的にプリーツというと、女子中高生の制服のスカートを思い出す人がいるかもしれません。そのため、プリーツは特定の方向にしか伸びないものと思われる方も多いと思います。しかし、加工技術は向上し、今では四方八方に自由に伸縮できるプリーツ(グラフィックプリーツ)があります。グラフィックプリーツ加工がされた服は着用者の個人体型に合わせて伸縮しフィットするため、ウエストが少し太い等のサイズを気にする心配がありません。そして何より、四方八方に伸縮するので、身体の動きを制限しません。この商品はもともとユニバーサルファッションを意識して企画された商品ではありませんでした。高齢者のためのファッションショーに商品を提供した際に、着用した高齢女性から、「軽い」「着心地が良い」「動きやすい」と評判が良かったことから、高齢の方にも喜んでいただける商品を製作していたことに驚かされたそうです。この商品は現在、女性向けブランドですが、色やデザインを変えることで男性用としても対応可能です4)。ファッションにおける技術革新により、年齢・サイズ・性別・障がいの有無にかかわらない、ユニバーサルな素敵な服がこれからも提案されていくことでしょう。

多くの人がファッションを楽しめるために

ユニバーサルファッション協会では、商品開発だけでなく、販売についてもユニバーサルな売り場が作られることを目指しています。改善しなければならないものの一つにフィッティングルームがあります。残念ながら車いすで中に入って試着ができるだけのスペースがあるフィッティングルームの数は、現在でもきわめて少ないです。もし、車いすで利用できるフィッティングルームが増えれば、赤ちゃんを乗せたベビーカーや小さなお子さんも入ることができるので、子育て世代のお母さんたちにとっても安心して試着ができる良いフィッティングルームになると思います。

障がいのある人の意見を聞く社会環境が整いつつある今、ぜひ、障がいのある皆さんには声を高らかに、ファッションが楽しめるようにご意見をお聞かせいただきたいと思います。それは、障がいのある方だけでなく、多くの人を幸せにする発信となるからです。


1)ユニバーサルファッション協会,ユニバーサルファッション宣言 若くて細いだけが、美しさではない,中央公論新社,2002

2)https://2020.yahoo.co.jp/minnano2020/parasapo/36

3)https://www.instagram.com/tokyo_kasei.fukubi_official

4)https://noko-ohno.com/

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