行政の動き-災害対策基本法の改正による個別避難計画の作成促進について

「新ノーマライゼーション」2021年10月号

内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(避難生活担当)

1.災害対策基本法改正の背景について

甚大な災害をもたらした令和元年東日本台風(台風19号)等においては、避難勧告、避難指示の区別等、行政による避難情報がわかりにくいという課題が顕在化したことに加え、避難が遅れたことによる被災、高齢者や障害者等の被災等も多数発生したため、防災対策実行会議の下に新たに「令和元年台風第19号等による災害からの避難に関するワーキンググループ」が設置され、当該ワーキンググループの報告書において、令和2年度も引き続き検討を行うべき事項として、「災害対策基本法」(昭和36年法律第223号)に規定される避難勧告及び避難指示の取扱い、高齢者や障害者等の避難の実効性確保、広域避難(災害発生の恐れがある段階における市町村又は都道府県の区域を超えた居住者等の避難)等が挙げられました。

これらの検討事項については、令和2年6月から「令和元年台風第19号等を踏まえた避難情報及び広域避難等に関するサブワーキンググループ」及び「令和元年台風第19号等を踏まえた高齢者等の避難に関するサブワーキンググループ」(以下「高齢者等サブワーキンググループ」という。)において検討が進められ、同年12月に各報告書において対応方針が取りまとめられたことを踏まえ、令和3年3月に「災害対策基本法等の一部を改正する法律案」が第204回国会に提出され、衆参両院での審議を経て令和3年4月に成立しました(令和3年法律第30号。同年5月10日公布、同年5月20日施行)。改正の概要については、図1のとおりです。

図1 災害対策基本法等の一部を改正する法律の概要
図1 災害対策基本法等の一部を改正する法律の概要拡大図・テキスト

2.個別避難計画の必要性と作成の努力義務

災害時の避難支援等を実効性のあるものとするためには、避難行動要支援者名簿の作成に合わせて、個別避難計画の作成を進めることが適切であるとの考えを、平成25年8月に「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(以下「取組指針」という。)において示していますが、令和2年10月1日現在、避難行動要支援者名簿に掲載されている者全員について個別避難計画の作成を完了している市町村は約10%、掲載者の一部について作成が完了している市町村は約57%となっています。

また、過去の災害では、多くの高齢者や障害者等が被害を受けており、令和元年台風19号では障害のある人の避難が適切になされなかった事例もありました。

こうした状況等を踏まえ、高齢者等サブワーキンググループにおいて、専門家、防災実務者等から個別避難計画の作成を一層推進することにより、高齢者や障害者等の円滑かつ迅速な避難を図る必要があるとの意見が出されました。

このため、改正された災害対策基本法では、地域防災計画の定めるところにより、避難行動要支援者名簿に記載し、又は記録された情報に係る避難行動要支援者ごとに、当該避難行動要支援者について避難支援等を実施するための計画(以下「個別避難計画」という。)の作成を市町村の努力義務としました。

3.個別避難計画作成の取組の方向性

(1)個別避難計画の作成に係る方針及び体制

個別避難計画の作成は、市町村が主体となり、実効性のある計画とするため、地域防災の担い手だけでなく、本人の心身の状況や生活実態を把握している福祉専門職や地域の医療・保健・福祉などの職種団体、企業等、様々な団体と連携して取り組むことが必要です。また、当該市町村における関係者間での役割分担に応じて作成事務の一部を外部に委託することも考えられます。

(2)優先度を踏まえた個別避難計画の作成

市町村の限られた体制の中で、できるだけ早期に避難行動要支援者に対し、計画が作成されるよう、優先度が高い人から個別避難計画を作成することが適当です。市町村が必要に応じて作成の優先度を判断する際には、次のようなことが挙げられます。

  • 地域におけるハザードの状況(浸水想定区域(水防法(昭和24年法律第193号))、土砂災害警戒区域(土砂災害防止法(平成12年法律第57号)等)
  • 当事者本人の心身の状況、情報取得や判断への支援が必要な程度
  • 独居等の居住実態、社会的孤立の状況

優先度が高い人から個別避難計画の作成に取り組む一方で、各市町村の限られた体制の中でできるだけ早期に避難行動要支援者全体に計画が作成されるようにするためには、市町村が作成する個別避難計画として、1.市町村が優先的に支援する計画づくりと、2.本人や、本人の状況によっては、家族や地域において防災活動を行う自主防災組織等が記入する計画(以下「本人・地域記入の個別避難計画」という。)づくりを進めることが適当です。

本人・地域記入の個別避難計画は、自分たちの命を自分たちで守るというエンパワーメントの視点も踏まえられたものです。

4.国の支援等

災害対策基本法の改正を踏まえ、令和3年5月には災害対策基本法の施行規則を改正し、福祉避難所に受け入れる対象者を特定する公示制度が創設されました。また、同月には、制度の運用が円滑に進むよう、取組指針や「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」(平成28年4月)が改定されました。

個別避難計画の作成は、福祉専門職など個別避難計画作成等関係者の参画などのために一定の経費が必要となることが想定されるため、令和3年度において市町村における個別避難計画の作成経費について、新たな地方交付税措置を講じることとなりました。さらに、予算事業として、効果的・効率的な個別避難計画の作成モデルの創出を図り、全国展開をするためのモデル事業を実施しています。

モデル事業は、災害の態様やハザードの状況、気候に加え、人口規模、年齢構成、避難所の確保状況など、地域の状況が異なり、個別避難計画の作成にあたって課題となる事柄が様々である中、効果的・効率的なモデルの創出を行っており本事業で得られた知見を全国の自治体に展開しています。

個別避難計画は、市町村だけでなく、相談支援専門員や地域で活動する障害者団体など地域の医療・保健・福祉などの関係者と連携して取り組むことが必要です。障害のある人など避難行動要支援者ご本人にも参加いただき、個別避難計画づくりを契機に地域住民と避難行動要支援者が顔の見える関係になり、いざという時に助け合える地域づくりに繋がります。

内閣府においても、関係省庁、市町村や都道府県等とも連携しつつ、要配慮者の避難の実効性を高めるため支援に努めていきます。

今後、各地で個別避難計画作成の取組が進み、市町村から相談支援専門員などの福祉専門職、地域で活動する障害者団体などの皆様にお声がけがあった場合には、ご参加いただけるようお願いします。また、個別避難計画は本年5月に災害対策基本法に位置付けられた仕組みですので、周りの方に、この仕組みのことを伝えていただけるようお願いいたします。

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