令和3年度報酬改定現場からの声-精神障害にも対応した地域包括ケアシステムが目指すモノ~誰もが安心して自分らしく暮らすことができる『わが街』を実現するために~

「新ノーマライゼーション」2021年10月号

社会福祉法人はらからの家福祉会 地域生活支援センタープラッツ 東京都地域移行コーディネーター
毛塚和英(けづかかずひで)

1.はじめに

「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム(以下、にも包括)」とは、精神障害のある方と接する方には、馴染みのものになっているかと思います。第6期障害福祉計画等に係る基本指針の見直しについてや今年度の報酬改定においても、「にも包括」の文言が出ています。「にも包括」の構築自体に報酬が付与されるものではありませんが、「にも包括」のさらなる推進に向けての内容が盛り込まれています。

今回は「にも包括とは何か」を簡単に説明し、第6期障害福祉計画等や報酬改定のその部分のポイントを話したいと思います。

2.「にも包括」の背景と概要

初めに伝えたいのは、「にも包括」は精神障害『者に』対応した、『精神障害のある方だけ』の地域包括ケアシステムではない、という点です。そのため、「精神障害『者に』対応した…」という名称ではありません。障害の有無や程度にかかわらず、誰もが地域の一員として自分らしい暮らしができることを目指すように、「精神障害『にも』対応した…」という名称となっています。

次に「それでもなぜ『精神障害』が入っているのか」の説明をしたいと思います。

日本の地域精神保健医療福祉は入院治療を中心とした制度政策がなされ、病気や障害のために長く入院を強いられている方がいまだ多くいます。そんな状況を変える動きとして、平成16年9月に策定した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」において『入院医療中心から地域生活中心』という理念を明確にしました。

そして、平成29年2月の「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書において、精神障害の有無や程度にかかわらず、「誰もが地域の一員として安心して自分らしい暮らしをすることができる」よう、医療、障害福祉・介護、住まい、社会参加(就労)、地域の助け合い、教育(現在は「普及啓発」となっている)が包括的に確保された「にも包括」を構築することが必要であり、その体制づくりは、各地域の独自性を重視し、進め方・つくり方はそれぞれの地域で取り組みを決めていくこと、と話されました。

また、厚生労働省では、「にも包括」の推進のため、毎年検討会が行われており、令和2年度報告書では、第6期障害福祉計画等や報酬改定に盛り込まれる内容についても触れられています。

精神障害の分野では歴史的に生まれてしまった不要な長期入院者の解消を各地域で目指すために、「わが街ではどのような体制やシステムがつくれるか」をあらためて議論することとなるこの動きは、うれしい流れであるとともに、時が経つにつれ、その会議体が形骸化しないための仕組みも同時に必要だと考えています。

3.第6期障害福祉計画等や報酬改定に出てくる、「にも包括」の内容

では、長期入院者の解消と地域生活中心の支援体制を強化していくための話題として、第6期障害福祉計画等の基本指針の話に移ります。

成果目標(計画期間が終了するまで令和5年度末の目標)の項目の一つに「退院後1年以内の地域における生活日数の平均を316日以上とする」という目標があります。これは全国の退院後1年以上の平均生活日数を基に設定されました。

この数値は「明確な地域生活の期間」を示す形となり、それを達成できるよう、各地域では「どのようにわが街では、地域生活への定着が図れるか」と考えるきっかけとなるので評価できる一方、逆に「この期間がクリアできればよい」という考えを生む温床となる懸念があり、もう少し高い数値でもよかったのではないか、と感じています。

そして、令和3年度の報酬改定の内容ですが、冒頭に書いたとおり、これを行うことで、「にも包括」に補助金等がつく、というものではありませんが、記述されている福祉サービスと付随する形として、強い関連性があることを示しています(図)。


図 令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容拡大図・テキスト

ここで注目すべきは「居住支援法人・居住支援協議会と福祉の連携の促進」と「ピアサポートの専門性の評価」です。

「にも包括」を検討するにあたり、厚生労働省が示す「にも包括」のイメージ図のとおり、その中心は「住まい」です。住まいとは、住む場所を定め生活する、という意味の「居住」であり、住まいの確保及び居住支援は、住み慣れた地域で暮らす上では根幹となるものです。また、居住とは、居場所や役割となる社会活動・経済活動を行い、生活していくことも含むので、住まいの確保及び居住支援のさらなる推進を図るために改定内容に盛り込まれたこの部分は、すべての方に「居場所や役割の提供」も目指すことを意識する機会につながると考えます。

次いで、ピアサポートには当事者同士の交流会や普及啓発等に関する事業における役割、長期入院者への訪問支援等、多様な活動実態や役割があります。それを評価するということは、積極的にピアサポートの力を使う機会を提供していくことになり、その機会を提供する場がより多く作られていくことが期待されます。また、精神保健医療福祉に関わる多職種との協働により、専門職等への当事者理解の促進及び意識の変化や支援の質の向上、普及啓発や教育、精神保健相談、意思決定支援等に寄与することも期待されます。このような環境を整備していくために、市町村等は精神障害のある方等の協議の場への参画を推進するとともに、都道府県等と連携しながらピアサポート活動の現状と課題を整理した上で、ピアサポーターの活動機会や養成研修の創設に取り組むことが必要となります。

4.おわりに

「精神障害にも」と本来はわざわざ分けることはなく、「精神障害も当たり前に含んだ」、つまりは『誰にとっても住みやすい』地域包括ケアシステムの構築が必要と考えます。それには「一人の課題=街の課題」と捉え、一人の住民の悩みから、地域包括ケアシステムを考えていくことが大切です。また、忘れてはいけないのは「入院している方も『住民の一人』」であることです。

最後に尊敬する先輩方の言葉を加工して使わせていただき、締めの言葉にしたいと思います。

障害があろうとなかろうと、人、一人ひとりが、この世でたった一人のオリジナルな存在なのです。望まず病気になったり障害をもったりした瞬間から「精神疾患者」や「精神障害者」と一括りにされて扱われることは、自分だったら堪えられないですし、そう思っている方が多いと思います。

みなさんの街はどんな街ですか?障害をもった方々は笑顔で街を歩けていますか?そういった街にしていけるように、この「にも包括の構築」という『自分たちの街づくり』をしてみるのはいかがでしょうか。


【参考文献】

1)厚生労働省 精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築支援情報ポータル
https://www.mhlw-houkatsucare-ikou.jp/index.html

2)令和2年度第2回アドバイザー・都道府県等担当者合同会議参考資料1 「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」報告書―誰もが安心して自分らしく暮らすことができる地域共生社会の実現を目指して―
https://www.mhlw-houkatsucare-ikou.jp/data/sysm030319ref1.pdf

3)令和2年度第一回精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会参考資料 精神保健医療福祉の現状
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000607971.pdf

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