令和3年度報酬改定現場からの声-放課後等デイサービスの報酬体系等の見直し~基本報酬区分の見直し、より手厚い支援を評価する加算の創設~

「新ノーマライゼーション」2021年11月号

一般社団法人わ・Wa・わ 理事長
岸良至(きしよしゆき)

はじめに

放課後等デイサービスは、施行からまだ10年を経過していない児童福祉法に定める障害児通所支援体系の一つです。子ども人口の減少傾向に反して、特別支援教育の該当児童が急増する中、何らかのサポートを要する子どもたちも急増しています。しかし、事業所数の増加と受け入れる児童数、それに伴う財政負担の増加が何かと話題になることの多い事業です。

ここでは放課後等デイサービスにかかわる報酬改定について、現場からの声を報告させていただきます。

事業所紹介

当法人は、2014年9月より児童発達支援と放課後等デイサービスの多機能型障害児通所支援(定員10名)で、「そいる小郡」をスタートさせました。利用希望児童の増加に伴い2021年4月より定員を20名(10名×2単位)に増やし、現在、スタッフ11名(児童発達支援管理責任者2名と保育士4名、作業療法士2名、児童指導員2名、指導員1名:常勤換算6.7人)の体制で運営しています。

私どもは、支援を必要とする子どもへの支援はもちろん、保護者やご家族、関係者に対しても専門性を担保しつつ、身近で気軽で、敷居の低い場所(イメージとしては、昔ながらの町の駄菓子屋さん)として、子どもの育ちと子育てを応援したいと考えています。

主な報酬改定

(1)基本報酬区分の見直し(図1)

図1 放課後等デイサービスの基本報酬体系の見直し
図1 放課後等デイサービスの基本報酬体系の見直し拡大図・テキスト

令和3年度の報酬改定では基本報酬区分が廃止されました。

平成30年度の報酬改定により、子どもの領域にも「基本報酬区分」が導入されました。これは子どもの介護度や行動評定により2つの基本報酬区分に分けるもので、取得できる加算も異なりました。多くの事業所が基本報酬額の低い「区分2」に判定され、それが一年間継続されるという事態になりました。現場からは支援実態に合っていないと不評でしたので、妥当な見直しであったと思います。

基本報酬については、経営実態調査で放課後等デイサービスの収益率が高かったことから、改定後の基本報酬の額そのものを下げられてしまいました。根拠となる経営実態調査の数字に疑問をいだきつつ、放課後等デイサービスの事業所数の増加と経営のばらつきをもたらす現状に憤りを感じた方々も多いと思います。

(2)専門職による支援などを評価する報酬体系への見直し

令和3年度の報酬改定では、「専門的支援加算」が新設され、子どもの状態に関係なく作業療法士等の療法士、心理指導担当職員を常勤換算で1以上加配できるようになりました。従前より専門職員を配置し質の高い支援をしていた事業所が評価されたことは喜ばしく、また今後より専門的な多職種でのチーム支援が促進されることが期待できます。

ただし、放課後等デイサービスは医療機関ではないので、児童福祉法に定める本質的な役割を踏まえて、個別の支援提供ではなく、個別的視点を持って子どもたちにかかわるスタンス(専門職による支援の在り方、方法)を明確に打ち出す必要があります。

(3)個別サポート加算の創設

令和3年度の報酬改定では、基本報酬区分はなくなったものの、支援の程度が高い子どもへの支援を評価するために、新たに「個別サポート加算(1)」が創設されました。これまでの基本報酬区分の調査項目がそのまま使用されていますが、留意事項が新たに付加され、市区町村の調査担当者による判断のばらつきを少なくする取り組みがされている点で評価できます。しかし、基礎自治体の判断の現状はあまり変わっていないように感じます。

該当児童に対して、各々に個別サポート加算(1)が算定されるようになり、事業所としては人的な支援が必要な子どものために、必要に迫られて配置していた職員の積み増し分等を運営面から支える仕組みになってきたと捉えています。

さらに、要保護、要支援児童のサポートに関する個別サポート加算(2)ができました。セーフティネットとしての評価ですが、自動的にこの加算の対象になるわけではありません。基礎自治体に個々に関して確認する必要があります。当事業所を利用している児童のうち、要保護、要支援と思われる対象児童6名について照会したところ該当は2名でした。これは、市が現にかかわりを継続している児童のみの数であり、また、保護者にも加算の了解を得る必要があるなどハードルは高く、予防的なかかわりへの評価ではないことが明らかになりました。

(4)支援の質を向上させるための従業者要件の見直し

今回の改定に伴い人員配置基準から、保育士や児童指導員と同等の扱いとされていた障害福祉サービス経験者が外れました(経過措置あり)。当事業所では、運営上の影響はありませんでしたが、保育士などの人材不足の現状もあり、今後障害児支援分野において保育や児童福祉の専門職を確保、育成していくことは業界全体として急務であると感じております。

職員には日常的な身の回りの介助や養育に加えて、子どもの成長・発達に伴う子どもの著しい変化への対応、障害に関する本人と保護者の理解促進や育児支援、学校等の関係機関の理解を促進する総合的な力が不可欠です。全国児童発達支援協議会(CDS-Japan)は、平成20年以降、現場で実践の研究から一貫して適切な職種の配置及び人材育成について提言しており、徐々にビジョンに近づいてきていると感じていますが、発達支援の現場において、さらなる人材育成体系の構築と研修の機会を準備する必要があります。

(5)家族支援の評価の変更

訪問支援特別加算と家庭連携加算が統合され、家庭連携加算に一本化され、月4回の算定が認められるようになりました。育児へのサポートが必要なご家庭が増える中、定期的な家庭訪問と支援を継続的もしくは集中的に行う必要がある場合に有効です。あわせて、家族支援の一つである事業所内相談支援加算に関しても変更が加えられ、グループ支援の場合でも算定ができるようになりました。ピアの集まりは、保護者が安心して話をしたり、先輩保護者の経験談などを聞いたりすることはとても参考になります。学校の懇談では聞けないことも気軽に聞くことができます。スタッフが介入し、グループダイナミックスを活用しながら、保護者の相談内容を解決したり、気づきの場を提供したりすることが今後活発化することを期待します。

今後の課題

(1)人材確保、育成に関する課題

職員には、子どもへの知識と子どもにかかわることへの熱意、そして障害に関する知識とノーマライゼーションへの高い意識が必要とされます。障害がある児童に特化した職員の養成課程が必要と感じています。ましてや、児童発達支援管理責任者ともなると職員への指導助言が必要な立場です。養成体制の見直しと充実が必要と思われます。

(2)障害がある・支援が必要な子どもの放課後対策の検討

放課後等デイサービスの創設は、子どもの放課後対策が放置されてきたことを明らかにする入り口になりました。学齢期の子どもたちの育ちにおける放課後の役割について、財政的負担の視点ではなく子どもを中心に据えた議論をしてもらいたいものです。だからこそ、一般の放課後施策以上に年齢幅を拡げて検討する必要があり、また、該当児童も含め、家族への支援、きょうだい児の成長発達、保護者の就労や余暇も念頭に検討されるべきだと考えています。

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