トピックス-東京2020パラリンピック競技大会の報告

「新ノーマライゼーション」2021年11月号

日本パラリンピック委員会委員長 東京2020パラリンピック競技大会日本代表選手団団長
河合純一(かわいじゅんいち)

1.大会概要

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い1年の大会延期となった東京2020パラリンピック競技大会は世界中の162か国・地域(難民選手団、ロシアパラリンピック委員会含む)の参加により、4403名のパラリンピアンが集い2021年8月24日~9月5日までの13日間にわたって東京都、千葉県、静岡県の各種会場にて熱戦が繰り広げられました。バドミントン、テコンドーが初めて採用され実施競技は22競技となり、メダルイベントは539種目でした。女子種目の割合が増加し、男女混合種目が増えたことも大きな流れです。

今回の東京でのパラリンピックは、史上初めて同一都市で開催される2度目の夏季大会であり、開催決定後から海外からも注目されてきました。特に「多様性と調和」と「アクセシビリティ」は注目されたテーマでした。

2.選手団構成

2019年6月に日本パラリンピック委員会(以下「JPC」という)が公表した日本代表選手団(以下、「選手団」という)編成方針、選考基準に基づき、競技団体(以下「NF」という)からの推薦を受け、医学委員会のメディカルチェック、強化委員会の競技力審査を経て、JPC運営委員会にて決定しました。

選手254名、ガイド23名、コーチ・スタッフ164名、本部スタッフ22名の463名の史上最大の選手団となりました。平均年齢は32歳となり、前回大会よりも若返りが図られました。女性選手の割合も4割を超えました。実施された22競技すべてにエントリーを行い、運動機能障がい、視覚障がい、知的障がいの選手が参加しました。その中でも初めて採用された競技、開催国枠で初めて出場できた競技もあったことから、初出場選手が6割を超えました。

3.選手団成績

22競技中12競技でメダルを獲得することができました。金13、銀15、銅23、合計51個は前回の金メダル0、金メダルランキング56位から11位に上昇することとなりました。また、入賞も107となりました。

車いすバスケットボールの男子チームが銀メダルを獲得し、日本としては初めて夏季男子の団体競技でのメダル獲得となりました。また、車いすラグビーも2大会連続のメダル獲得で、これも史上初となりました。この他には水泳の山田美幸選手が日本史上最年少のメダリスト(14歳)となり、自転車の杉浦佳子選手が最年長金メダリストとなりました。複数メダルを獲得した選手(マルチメダリスト)も前回大会よりも増加し、水泳の鈴木孝幸選手は5つのメダルを獲得し、本大会における選手団最多メダル獲得となりました。

4. 1年延期の影響

2020年4月からの1回目の緊急事態宣言期間中はすべての活動がストップしたため、選手たちは自宅でできるトレーニング方法を模索し、コーチやトレーナーとオンラインでつなぎながらの試行錯誤が続きました。宣言の解除後はスポーツ活動再開ガイドラインを独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「JSC」という)等と連携しながら作成し、それに基づいて感染症対策に取り組んできました。そして、ハイパフォーマンススポーツセンター(以下「HPSC」という)において、検査などの実施、健康管理の徹底により、強化合宿などを行えるようになりました。結果として、基礎体力の向上、けがの完治、基本的スキルの獲得、基本戦術の徹底などが図られ、競技力向上に大きく寄与することになりました。特に若手が力を伸ばすことができたと考えています。

一方、国際大会がほぼ開催されなかったことで、クラス分け機会を喪失し、大会直前に8競技でクラス分けが実施されることとなりました。

5.国際交流

JPCとして、2021年8月上旬、各国パラリンピック委員会(以下「NPC」という)へ歓迎と感謝の気持ちを伝えるメッセージを送付し、面会予定を調整することができました。その結果として、およそ50か国のNPC役員、選手団長等と面会することができました。JPCとして、恒常的に連携を取り続けていく必要性が高いNPCを選定し、戦略的に連携を模索していく必要があると感じました。とりわけ、今後のパラリンピック開催国(夏、冬)、連携協定を締結している国及び友好国との関係は大切にしていきたいと考えています。

6.IPCアスリート委員選挙

2019年のJPCアスリート委員会総会にて、自国開催のアスリート委員選挙に候補者を選考していく方向性を確認していましたが、2021年3月にNFのアスリート委員からの推薦、JPCアスリート委員長からの推薦を受けて、候補者として水泳の鈴木孝幸選手が立候補することとなりました。立候補の決意等を動画にして、JPCアスリート委員を通じて、選手たちへの浸透を図りました。IOCアスリート委員選挙で当選した実績からJOCからも情報提供をいただき、準備を行いました。また、居住棟にポスターを掲示したり、SNSを活用したりして、大会期間中のダイニングホールでの投票を呼び掛けました。結果として、日本人として初めて当選させることができました。

7.成果と課題

(1)東京2020特別強化委員会

競技面では東京2020特別強化委員会(以下「特別強化委員会」という)を2017年に設置し、NFだけでなくJPCが選手個々に支援を直接行う仕組みを導入してきました。その成果は発揮されたと感じています。特別強化委員会としての総括を踏まえ、今後の取り組みに生かしていくことが重要となります。

(2)HPSCとの連携強化による自国開催効果の最大化

HPSCと2か所の村外サポート拠点をそれぞれの立地や機能特性を十分に理解し、十分に活用を進めることができました。暑熱対策を含めた医科学サポートもこれまでの蓄積を生かすことができました。ただ、NFスタッフも含めて、移動が多くなり、全体のマネジメントが煩雑となる部分も見られました。また、検査の検体輸送等の対応も含めて人員配置で苦労することもありました。

(3)協働コンサルテーション

NFにはリオ大会後に8年後を見据えた強化戦略プランを作成いただき、毎年JSCとの協働チームで進捗確認を行い、修正をかけながら進めてきました。そのことにより、計画、実行、確認、改善といったPDCAサイクルを回しながら強化を進めていくという意識は十分に根付いたものと考えています。このような取り組みを通じて、目標と実際の結果との乖離は前回大会までと比べて小さくなってきており、妥当な目標設定ができるようになってきました。今大会の結果と取り組みを評価検証することが重要となります。その総括を受け、強化だけでなく、発掘や育成といった段階からの一貫したアスリート育成パスウェイの構築が重要になってきます。そして、2032年を見据えた長期の強化戦略プランの策定に基づく強化活動の実施、それに向けた責任体制(ガバナンスコードの順守、コンプライアンスの徹底)の整備が求められます。

強化予算が年々増加してきたことにより、合宿、海外遠征などを充実させることができました。また、専任コーチ制度に基づき、専従で強化を担うスタッフが配置できたことは競技力向上に大いに貢献しました。これらも強化戦略プランに基づき実行されました。

(4)広報活動の充実

今回は自国開催ということもあり、多くのメディアが報道に協力してくれました。日本人選手の活躍はもちろんですが、海外選手の活躍や生い立ち等からもパラリンピックの価値に迫る記事も多くありました。さらに多くの方々がSNSを活用していることから、JPCとしても積極的に情報発信を試みました。2020年2月に公表したチーム・パラリンピック・ジャパンのスローガンである「超えろ、みんなで。」は♯(ハッシュタグ)としても活用され、一定の成果がありました。

8.今後の取り組み

今後は協働チームのコンサルテーションを通じて、NFの5年間の振り返りを踏まえ、3年間しかないパリパラリンピックへの準備を加速させる必要があります。

2021年3月に公表した「JPSA2030年ビジョン」の中に位置付けられた「JPC戦略計画」を羅針盤として、あらためてアスリートの発掘、育成、強化というアスリート育成パスウェイの構築が求められます。そして、日本代表選手になるための基準、それまでの段階をNF役員、スタッフ、監督、コーチ、アスリート等関係者のすべてが理解できるよう開示していくことも必要になります。

パラリンピック開催国が、自国開催後の大会でメダル数を伸ばす傾向が2008年北京大会以降続いています。自国開催という機会に国内の発掘、育成、強化体制が整備され、それらの活用効果がその後に表れてきていると考えられます。日本がパリ大会後も好成績を残し続けていくためにも、今回の成果をNF間で共有していく横展開が重要になります。

自国開催ということでメダル獲得へのプレッシャーを強く感じた選手、コーチ、スタッフなどもいつも以上に多くいました。支援を厚くすればするほど、その傾向は強くなります。メンタルサポートを充実させていく必要があります。

9.レガシー創出

東京パラリンピック開催決定後、バリアフリー、アクセシビリティに関する各種法律や制度が大きく変わりました。また、IPCが大会直前にスタートさせた2030年までの「WE THE 15」キャンペーンは大会のコンセプトの1つである「多様性と調和」との親和性も高く、多くの方々に認知いただく契機ともなりました。何よりも多くの方々がパラリンピックという言葉のみ知っていた状況から、競技中継などを通して観戦いただけたことはそれぞれの方々の心に何らかの気づきを提供できたものと考えています。そのことが人々の心に残るハートのレガシーとなるのではないかと考えています。

終わりに

大会直前に国内の新型コロナウイルス感染症の新規陽性者数が増加傾向にあったことから、世論調査において大会の延期、中止を望む声が6割ほどになっていました。しかし、多くの選手の活躍とNHKが540時間もの放送を行ったことを背景にパラリンピック後には、開催してよかったという声がおよそ7割に達しました。私が面会した国々の代表者たちは、口々に日本が開催してくれてよかった、大会組織委員会、ボランティアの対応がすばらしかった、食事がおいしく、どこも清潔であったことを喜んでいました。そして日本に対して、大いに感謝していることを伝えてくれました。これがわが国に対する諸外国からの評価です。大変厳しい状況下ではありましたが、無事に開催できたことは本当に意義あることでした。無観客となってしまったこと、学校連携観戦プログラムも一部での実施にとどまってしまったことは非常に残念な結果でしたが、多くの方々がテレビやインターネットを通じてパラリンピックを視聴いただき、人間の可能性を再認識することとなりました。その結果として、ダイバーシティ(多様性)や共生社会という言葉がこれまで以上に理解されました。誰もが自分らしく生きられる活力ある共生社会の実現に向けて、大きな一歩を踏み出すことができました。この足跡が社会をよりよく変えていく契機となるのだと確信しています。今後も歩みを止めることなく前進していく覚悟です。

表1 メダルランキング

順位 国(NPC) 金メダル 銀メダル 銅メダル 総メダル
1 中華人民共和国 96 60 51 207
2 英国 41 38 45 124
3 アメリカ合衆国 37 36 31 104
4 RPC 36 33 49 118
5 オランダ 25 17 17 59
6 ウクライナ 24 47 27 98
7 ブラジル 22 20 30 72
8 オーストラリア 21 29 30 80
9 イタリア 14 29 26 69
10 アゼルバイジャン 14 1 4 19
11 日本 13 15 23 51

※順位は金メダルランキング。日本は前回リオ大会での0個56位から大きく順位を上げ、夏季大会では96年アトランタ、04年アテネでの金メダルランキング10位に次ぐ成績をおさめた。

表2 開催後NPC成績

国(NPC) 2004アテネ 2008北京 2012ロンドン 2016リオ 2020東京
中華人民共和国 141 211 231 239 207
英国 94 102 120 147 124
ブラジル 33 47 43 72 72
日本 52 27 16 24 51

※数字は総メダル数。自国開催で飛躍的に数字が増えて、以降数字が保たれている傾向が見える。ただし、リオ大会においてはロシアがドーピング違反で不参加となっていたが、東京大会ではRPCとして参加が認められて総メダル118個を獲得しているため、相対的に中国、英国の総数が減少している。

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