地域の資源を活用した付加価値の高い商品づくり利用者工賃7万円を目指して

「新ノーマライゼーション」2021年12月号

社会福祉法人はらから福祉会 理事長
武田元(たけだはじめ)

はじめに

はらから福祉会は現在就労継続支援B型事業所7か所、自立訓練・就労移行事業所1か所とグループホーム11か所を運営しています。

就労継続支援B型事業所の概要は下記のとおりです。数字は令和2年度の実績です。

No. 事業所名 定員 実員 主な仕事の内容 月額工賃
1 蔵王すずしろ 40 44 豆腐製造、特別養護老人ホーム給食 45,245
2 びいんず夢楽多 40 41 油揚げ製造 45,521
3 登米大地 30 31 プロテイン製造、油麩製造 53,403
4 えいむ亘理 40 38 牛タン加工 76,159
5 みずきの里丸森 40 33 菓子製造(かりんとう) 35,421
6 くりえいと柴田 40 36 パン製造、レトルト加工 58,873
7 みお七ヶ浜 20 24 プロテイン製造、豚肉加工 45,126
250 247   51,662

はらから福祉会は平成8年社会福祉法人の認可を受け、翌年認可施設第1号の蔵王すずしろを開所しましたが、その前身として無認可の作業所を昭和58年から運営しております。

就労支援に関する基本的な考え方は、「働くことを生活の柱に」です。たとえどんなに障害が重くとも働くことが人間にとって不可欠な活動であると考えるからです。働くことができるかできないかではなく、どうすれば働くことができるようになるかを支援の基本に置いています。

目指すは月額工賃7万円です。障害基礎年金と合わせて14万円前後あれば、地域でなんとか暮らせるのではないかという考えです。

はらから豆腐は全国豆腐品評会金賞豆腐

蔵王すずしろが製造するはらから豆腐の原料は宮城県産大豆「ミヤギシロメ」です。

最初はアメリカ産大豆を使いましたが、はらから関係者やお客さんの要望で国産に切り替えました。国産大豆第1号は、豆腐製造の機械や原材料、包材等を扱っている会社のアドバイスで豆腐に適していると言われている九州福岡県産のフクユタカでした。おいしい豆腐ができました。ところがある年、九州地方が天候不順でフクユタカの出来が悪く手に入らなくなりました。このことが原因で地元の大豆ミヤギシロメを使うことになりました。

はらから豆腐の特徴は大豆の風味が豊かなことです。そのために豆乳の濃度を濃くしました。濃い豆乳を使うと製造機械にも無理をさせてしまいます。機械の使用期間も短くなってしまいます。さらに凝固剤としてにがり(塩化マグネシウム)を使いましたので、いわゆる職人技も必要です。豆腐作りは原料の大豆を水で洗ってから製品になるまでさまざまな作業工程があります。その中で特に重要なのは豆乳ににがりを入れて凝固させる工程です。ここで豆腐の品質が決まります。その日の気温、豆の状態、作り手の精神状態等が微妙に影響します。ところがこれらはすべてが数値化できません。機械では測定できないのです。経験と勘から割り出したものが最後の決め手になります。

豆腐作りに簡便法はありません。ひたすら試行錯誤を繰り返しました。おいしい豆腐を安定した品質で量産する。至極困難なことでした。現在も悪戦苦闘しております。大豆の品質も毎年変わります。そんな中、2018年9月の全国豆腐品評会充填豆腐部門で「はらから秘伝の絹」が金賞を受賞しました。また同じ年の3月、8時台のテレビ番組で木綿豆腐が全国に紹介されました。

なぜ、豆腐を作り始めたか、売れるものをつくる

昭和58年、最初の作業所を無認可で立ち上げた時の仕事は陶器づくりでした。陶器づくりを選んだ理由は3つあります。一つには、陶器の原料の粘土は焼かない限り失敗しても何度でもやり直しがきくということ。二つには、消費期限がないこと。三つには、障害が重くともそれなりにできる仕事があること。

やってみてこの3つはそのとおりでした。しかし販売面で行き詰まりました。同じものを同じ人は買いません。消費期限がないので売れようが売れまいが関係なく製造しました。在庫の山です。目標とする工賃が払えなくなりました。資金繰りが苦しくなりました。

そこで思いついたのが仕入販売です。早速、作業所の前で土曜市を始めました。地域の農家から野菜、果物を、一般の事業所から加工品その他を、売れそうなものは何でも売りました。人間以外何でも売ろう、そんな呼びかけもしました。そんな中、ひときわ目立って売り上げが伸びている商品がありました。それが豆腐でした。豆腐を作ろう。これが豆腐を作るきっかけです。

平成5年10月4番目の無認可作業所で豆腐作りを始めようとした時、いろんな方から忠告をいただきました。豆腐作りは難しいからやめた方がいい、と。確かに陶器づくりとは対極にあります。消費期限は短いし、どの作業工程でも失敗したらすべてがゼロになります。それでも豆腐作りに取り組んだのは土曜市での豆腐の売上です。障害者の所得保障には売れる商品の製造が必須だと考えました。作りやすいものをつくるか、難しいけれど売れるものをつくるか。結論は明らかです。こうして陶器の「き」は豆腐の「ふ」に代わりました。

当初、販売はボランティア頼みでした。ボランティアさんは注文をとり配達し集金までしてくれました。職員や利用者家族もボランティアの一員でした。その後地域のスーパー等にお願いして販売していただきました。県外の障害者の団体や施設への卸販売も始めました。

それから20数年、現在は地域の大手スーパー等の25店舗へ納品しています。ボランティア頼みから脱却することができました。ある店舗でははらからコーナーをつくるまでになっています。

国産小麦と県産大豆おからでパン作り

おからパンははらから福祉会と民間の事業所との共同開発商品です。

豆腐の製造過程から大量に出るおからは産業廃棄物として処理していました。そのおからを有効活用したくて取引があった民間のパンのメーカーに製造を依頼したのがきっかけです。

通常、パン生地におからを混ぜるとふっくらせず、餅のようなパンになってしまいます。そこで、生地に混ぜるおからの割合、発酵方法、オーブンの微妙な火加減の調整を工夫することで、型崩れなく食感のよい、それでいてローカロリーで繊維質たっぷりのパンが完成しました。完成品を急速冷凍保存することで、長期保存(冷凍で6か月)が可能になりました。解凍時はできあがった時と同じ食感に戻ります。賞味期限は解凍後2週間です。プレーン、粒あん、チョコレート、クリーム、うぐいすの5種類があります。脱酸素剤入りです。

消費期限4日間の給食用に作ったおからパンは4町23の小中学校で食べられています。子どもたちにも人気があり、それが親に伝わり、とうとう地元のスーパーでも取り扱うようになりました。今では地元大手4つの大型小売店の10店舗で店頭に並んでいます。生産が間に合わず週1回の提供になっています。売り場の担当者の方から聞いたところによれば1人で10個、20個と買っていく人もいるそうです。賞味期限の長いおからパンを含めると県内35店舗で販売していただいています。

おわりに

宮城県産大豆で作るはらから豆腐、はらから豆腐の製造過程から出るおからで作ったおからパンには根強い人気があります。はらからのおからは他にもかりんとうやクッキーにも使われています。捨てれば産業廃棄物として豆腐の原価を上げ、有効活用されればおからは豆腐の原価を下げパンの付加価値を上げます。はらからの「おから」は、一字加えてまさに「おたから」になりました。

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