都市型養蜂「しんじゅQualityみつばちプロジェクト」~共同生産から生まれる製品と地域交流~

「新ノーマライゼーション」2021年12月号

しんじゅQuality 会長 / 社会福祉法人東京ムツミ会 理事長
徳堂泰作(とくどうたいさく)

はじまり

新宿区では2017年より「新宿区障害者福祉事業所等ネットワーク事業」を立ち上げました。区内30か所の福祉事業所などで働く障害者たちの就労機会の創出、勤労意欲の向上、工賃向上、社会参加等の創出を目的とし、行政主導ではなく私たち自身が主体的に活動を行います。新宿区勤労者・仕事支援センターを通して行政や企業からの作業の共同受注などを行ってきましたが、ネットワークを設立することで、さらに積極的に事業展開を目指しました。

愛称は、登録事業所の利用者から公募し「しんじゅQuality」と決定。プロのデザイナーに依頼し、シンボルマーク・ロゴマークも作成しました。この愛称に込められた質の高い仕事を目指し、成功事例を学習し、商品レベルの向上、共同商品の開発など、今まで単独ではできなかったことを実現できるようにしました。

ネットワークをつくる上で一番意識したのは「主体性」で、それまでもさまざまな集まりがありましたが、どこか「やらされている感」があり、何かあれば誰かが責任を取ってくれるだろうといった雰囲気が感じられることもありました。それでは本当に良いものができるはずもなく、いつまでたっても「福祉だから」で片付けられていたように思います。それを「任せて良かった」「本当に買って良かった」と思われるようにするには、自分たちの意識を変えることが何より必要で、まずはそれぞれの事業所の職員が同じ思いになること、すべての事業所が良くなることで、結果、自分たちの事業所も良くなるという考えにならなければネットワークの成功はないということを理解することでした。

2018年3月、初の販売イベント「しんじゅQualityハンドメイドマーケット」を新宿マルイ本館にて開催。自分たちがやってきたことが実際に社会に受け入れられ、評価されることを通して、目指す方向が間違っていなかったことが確認できる場となりました。

そんな中、新たな試みとして「しんじゅQualityみつばちプロジェクト」を発案、2019年から養蜂事業をスタートさせました。養蜂事業から生まれる「飼育」「ビン洗浄」「ビン詰め」「ラベル貼り」等さまざまな作業を、障害の違う複数の事業所がそれぞれの特性を活かし分担して行うこと。そして、それらを新宿区勤労者・仕事支援センターから受託するという形で、安定した収益をより多くの事業所に分配できる仕組みをつくることができました。

養蜂事業を発案した理由は、「日本で最初に実施された西洋ミツバチ飼育場があったのは、内藤新宿試験場(現在の新宿御苑)である」ということを地元の方から聞き、銀座の蜂蜜など、ちょうど都市型養蜂が話題になっていたこともあり、新宿御苑のすぐ近くに拠点を構える私たちにも可能ではないか?と考えたのが始まりでした。それと、蜂蜜は栄養価が高い食品というだけではなく、保存期間が長いこと、使用用途が広く、食用以外にも化粧品などさまざまなものに流用できるという利点があり、大量生産などが難しい福祉事業所に適した商品ではないかと思っていました。

しかし、一事業所単独ではなかなか実現に至らなかったこの企画も「しんじゅQuality」の共同開発事業とすることで実現することができたのです。最初の飼育場所(四谷区民センター9階/通路北側植栽エリア)やボランティア指導員も、仕事支援センターの働きかけと新宿区の協力で見つかり、蜜蜂購入費や飼育箱等の初期投資もプロジェクト負担とすることでクリアできました。

初年度は約60kgの収穫ができ、50g入り800円の蜂蜜は百貨店等でのイベント販売や区内の福祉ショップで大人気となり、2020年からは収穫を増やすために養蜂場を新宿区立障害者福祉センター屋上にも設置。200g入り2,800円の大瓶や、巣みつ(重さで価格を設定、約5,000円)などの商品アイテムも揃えることができました。

新宿マルイ本館のイベント販売で話題になったこともあり、区内にある複数の老舗和菓子店とのコラボも実現。「新宿しQハニー」を使ったどら焼きやパウンドケーキが、今度は伊勢丹新宿店において期間限定販売されました。障害者たちが育てて作った地元の蜂蜜を使ったオリジナル商品は大きな注目を浴び、どの商品もあっという間に売り切れるという嬉しい事態になりました。

新たな展開~地元企業との本格的連携

2021年度四谷区民センターが改修工事のため養蜂ができないで困っていたところ、和菓子の販売の際に紹介いただいた伊勢丹新宿店から、社屋屋上の使用と採取した蜂蜜購入の話を提案いただき、養蜂を通じて地元企業との連携事業「しんじゅQuality×伊勢丹新宿」が成立しました。

伊勢丹新宿店食品部門では初となるオリジナルブランド「MIEL ISETAN SHINJUKU」を立ち上げ、「しんじゅQuality」(=障害者の福祉事業所)とのコラボを社会へ強く印象付けされました。私たち障害者福祉分野にとっては、社会に障害のある人が持つ可能性を知ってもらうまたとない機会であり、企業側にとっても実益とイメージアップを図ることのできる連携になったのではないかと思います。

企業と連携したことでまず感じたことは、発信力の凄さで、伊勢丹専門の機関誌での取材やYouTubeでの商品開発までの動画配信など、今まで障害者福祉に興味のなかった人たちにも情報を伝える力、共感を呼び起こす力を持っていることに感心させられました。

そして、今年9月15日~28日まで伊勢丹新宿店に出店している有名和洋菓子店18店がこの蜂蜜を使用したお菓子等を製作・販売をしてくれました。普段は、なかなか伊勢丹で買い物ができない利用者のために、開店前のお店に入れていただき、見学会をするとともに、開店時に来場するお客様に正規の販売員さんと一緒にごあいさつもさせていただき、とても良い思い出になりました。

その他にも、新宿プリンスホテルにおいて「SHINJUKU Honey Stay」という宿泊プランを販売していただき、「新宿観光振興協会」所属の企業様等からいくつかお声掛けをいただいております。

これから

いま私たちの行う「しんじゅQualityみつばちプロジェクト」は、おそらくSDGsも手伝い、上手く流れに乗れていると思います。しかし、企業と連携していくには互いのメリットを生み出し続けることが必要になります。お客様の反応が悪く、利益にならないと判断されるとすぐになくなってしまうのも企業の潔さでもあります。

これからは、社会の仕組みが大きく変わり、福祉事業所が安易に収益を伸ばすことが難しい時代になっていくと思います。私たちのプロジェクトは、新宿という都会では珍しい蜂蜜と障害のある人が作っているという付加価値が、企業や社会から受け入れられた事例だと思います。私たちは、関わるすべての事業所が社会的価値のあるものを生み出すといった発想と柔軟な取り組みを継続することで、新しいスタンダードな社会を築くきっかけになれるよう、今後も立ち止まらずに進んでいきたいと思っています。

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