伝統産業の継承とシルク製品作り

「新ノーマライゼーション」2021年12月号

パーソルサンクス株式会社 代表取締役社長
中村淳(なかむらじゅん)

パーソルサンクス株式会社は総合人材サービスのパーソルグループで障害者雇用を事業目的にする特例子会社です。現在、パーソルグループには132社(※)のグループ会社があり、1991年設立当時から、グループの事業拡大とともに障害者雇用の拡大を継続し、「はたらいて、笑おう。」のグループビジョンのもと、はたらく喜びや生きがいを創出する取り組みを行っています。
(※2021年11月1日時点)

“養蚕で障害者雇用”~多様な障害のある方の“得意”に合った仕事を見つける~

パーソルサンクスは2017年、群馬県富岡市に、養蚕やシルク製品作りなどを行う“とみおか繭工房”を設立しました。地元の特別支援学校や地域の福祉事業所、養蚕関係者や行政機関からご協力をいただき、今では48名(※)の障害者手帳を持つ社員(以下、メンバー)と、17名(※)のスタッフが養蚕や生産した繭と関連する仕事に従事しています。
(※2021年11月1日時点)

2020年度、“とみおか繭工房”の繭の生産量は 約1t、富岡市全体の生産量が6.4tですから約15%が弊社の繭になります。養蚕の仕事は、桑園管理から蚕の飼育、衛生状態を保つための清掃や器具の手入れなど、多岐にわたるため、多様な障害のある方々の“得意”に当てはまる職域を用意できます。体を動かすのが好きな方には、桑枝の剪定や桑園の管理など屋外での仕事だったり、黙々と仕事を進めていくのが好きな方や手先の器用な方には絹製品の製作など、養蚕と養蚕に関連するさまざまな仕事で“得意”を活かし、活躍しています。

“なぜ養蚕事業を始めたか?”~障害のある方が「はたらいて、笑おう。」を実感できる事業を~

設立当時、パーソルグループがM&Aで事業拡大を続ける中、法定雇用率(※)の引き上げも段階的に起こり、障害者雇用を拡大していく必要性がありました。一方、東京などの大都市圏では法定雇用率対応への影響もあり、大手企業を中心に障害者採用は職種や人によっては売り手市場ともいえる状況でした。そこで、都心に限らず、各地域でより多様な障害のある方々を受け入れていくことができないかと考えたのがきっかけです。
(※従業員数の一定割合は障害者を雇用するよう、障害者雇用促進法で義務づけられている。2021年3月から民間企業は2.3%)

ただ、初めから富岡市で養蚕事業という構想で進めた訳ではありませんでした。さまざまな検討を重ねる中で、パーソルサンクスならではの障害者雇用への“こだわり”が、“とみおか繭工房”設立につながります。その“こだわり”とは「メンバーが活き活きと活躍できる仕事を創出すること」です。

パーソル(PERSOL)の名前の由来は、人を意味するパーソン(PERSON)と社会課題解決を意味するソリューション(SOLUSION)の造語で、“人は仕事を通して成長し、社会の課題を解決する”という想いが込められています。パーソルグループの一員として、単純に雇用を生み出すだけでなく、障害のある方々や地域の皆さまと一緒に「はたらいて、笑おう。」を実感でき、そして社会の課題解決に繋がるような事業を考えよう、と思いました。

そんな時、世界遺産「富岡製糸場」のある富岡市で、養蚕という伝統が継承の危機に瀕していることを知りました。富岡市では1968年に3,010戸の養蚕農家がありましたが、当時はわずか12戸の農家を残すのみで、すべての方が70歳を超えている状況でした。日本の伝統的な養蚕を、障害者雇用で後世へ繋いでいくという想いが芽生え、ゼロからのスタートでしたがチャレンジすることにしました。

パーソルサンクスのミッションステートメントは“「ありがとう」をかたちに。”です。その地域で困っていることを解決できれば、地元の方々から「ありがとう」と感謝され、応援されて上手くいくのではないかと考えました。また、それを障害者雇用の仕事にできれば、それが障害のある方々にとってはたらく喜びや生きがいに繋がると考えました。人は“期待”されることや、「ありがとう」と喜ばれる中で生きがいやはたらきがいを感じながら成長していきます。“活き活きとはたらける”状況や環境をつくることにこだわり続けました。

“シルクノベルティ”の開発~「ありがとう」のかたちを変えて届ける~

“とみおか繭工房”は、少子化で閉園になってしまった旧妙義幼稚園を富岡市からお借りしています。富岡市は遊休施設の再活用、弊社としては初めて都心から離れた地域での事業所展開となりました。富岡市をはじめ、地域の多くの方々に支えていただき、設立時は7名で始めた障害者雇用も順調に拡大していきました。始めてから分かった養蚕の大変さもたくさんありましたが、地域の関係者の皆さまにご協力いただき一つ一つ課題に向き合って事業を進めています。

2020年には弊社で生産した繭のタンパク成分を抽出して配合している“入浴料”と“除菌液”を地元企業とのコラボレーションによって、OEM製造で商品化することができました。用途はパーソルグループで就業されている派遣社員の方々やお取引先企業のお客さまへ“感謝の気持ち”としてお渡しする“ノベルティ”です。シルク成分入りの除菌液や入浴料は肌に優しいとされ、女性の割合が多い派遣社員の方々からも好評です。「いつもパーソルではたらいていただきありがとうございます!」と、就業中にパーソルの担当者が派遣先に出向いて面会する際の“プレゼント”として活用されています。また、これらのノベルティがお客さまや派遣社員の方々へ渡される時にはグループ会社の社長名で感謝のメッセージカードが添えられます。このカードの印刷や封入・梱包もメンバーの仕事として拡大し、好循環が生まれています。そして、シルクマスクも検品や梱包などの工程に携わりパーソルグループのノベルティの一つとして活用されています。コロナ禍で思わぬ需要が発生した形になりましたが、富岡製糸場のギフトショップでも販売ができたことは“とみおか繭工房”の社員の誇りにも繋がっています。

“Win-Win-Win”の関係が笑顔を生む

これらすべての取り組みでは、富岡市や養蚕関係者からは探していた養蚕の担い手が見つかったこと、仕事を探していた人や地域の就労支援や特別支援学校の皆さまからは就職機会ができたこと、弊社としては地域から期待される障害者雇用が実現できたこと、と関係する皆さまのWin-Win-Winを大切にしてきました。Win-Win-Winは、“とみおか繭工房”の社員と地域の皆さまとに笑顔を生むことに繋がると思います。障害者雇用だけが目的では数合わせの雇用になってしまったり、本業の事業に貢献できていないことで継続が難しくなってしまいます。企業の社会的責任を考える時、この取り組みをお客さまにどう感じていただけるかも非常に大切な価値観になります。パーソルグループの「はたらいて、笑おう。」というグループビジョンのもと、これからも障害者雇用の新しい形を生み出し、一人でも多くのはたらく人の笑顔を生み出していきたいと考えています。

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