海外情報-フィンランドの障害者支援の最近の動向

「新ノーマライゼーション」2021年12月号

法政大学 名誉教授
松井亮輔(まついりょうすけ)

はじめに

フィンランドは、2016年6月に障害者権利条約(CRPD)を批准し、2019年8月に同条約の国内履行状況にかかる初回の締約国報告を国連障害者権利委員会に提出している。以下では、同報告書等を参考に、同国における障害者支援の最近の動向についてレポートすることとする。

1.支援サービスの対象となる障害者

障害者の定義として最も広く用いられているのは、1987年に施行された「障害者へのサービスおよび援助に係る法律」(以下、障害者サービス援助法)による定義で、「障害者は、障害(disability)または不調(disorder)により通常の生活に長期にわたり特有の困難さがある者」(1)である。

それに対し、公共雇用サービス援助法(2003年制定)に基づく雇用支援プログラムの対象となる障害者は、「雇用事務所で紹介される労働者のうち、適切に診断された傷害(injury)、疾病またはその他の障害(disability)故に職(job)を得たり、職を維持したり、キャリア向上の可能性が著しく低減した者」(2)と規定されている。ただし、この定義に該当する障害者であるかどうかの認定基準などについては明らかではない。

2.障害者の就労状況

フィンランド保健・福祉研究所(THL)によれば、労働年齢の機能障害者の約3分の1が就労しているのに対し、他の者のそれは75%で、労働年齢の機能障害者の失業率は、他の者の約2倍とされる。

また、フィンランド社会保険庁(KELA)によれば、障害年金または障害給付を受給し、障害者と定義される16歳以上の就労者のうち、フルタイムは38.4%、パートタイムは31.2%である(ただし、これらの就労者には、コミュニティ就労や作業活動、つまり、福祉的就労に従事している者も含まれる)(3)

知的障害者については、一般労働市場で雇用されている者は400~500人程度で、その大半はパートタイム。労働時間は週平均20時間程度とされる。作業活動センター利用者は約6千人、作業活動センターから派遣されて一般企業で就労する者は約2千人である。これらの福祉的就労に従事する知的障害者の賃金は、日額0~12ユーロで、賃金が1日あたり12ユーロを超える場合には、課税対象となる。福祉的就労に従事する障害者の主な収入は、疾病または労働不能という判定に基づいて支給される手当である(4)

3.障害者雇用等へのコロナ禍の影響

2020年11月現在の一般失業者数は、約18万7千人で、これは1年前より約2万7千人増えている。一般失業率は6.9%で、1年前より1.0%上昇している。

障害者と慢性疾患者の失業は、7.0%増に対し、その他の者は21.1%増えている。両者の差の主な要因としては、一般失業者の登録者が劇的に増えたため、労働部局が過度に緊迫した状況になり、限られた時間内で障害者や慢性疾患者を失業者として登録できなかったことが考えられる。また、労働不能手当受給者は、失業統計に含まれないことにもよるとされる(5)

4.社会サービス・保健ケア(SOTE)改革

(1)同制度改革の背景

現在の制度は、意思決定と実施は主として市(311市)に委ねられている。しかし、市によって解釈や利用できる予算や資源が異なることから、サービス利用者間で格差が生じており、その格差是正のための対応として、同制度改革が検討されることになったものである。

(2)同制度改革の主な内容

〇保健・福祉サービス提供を担う行政単位を現在の311市から、新たにつくられる広域行政組織である21の県に移管すること。

県への統合後の最初の議会選挙は、2022年はじめに予定されていたが、コロナ禍の影響で同年6月に延期されることになった。

〇障害者サービス援助法と知的障害者特別ケア法(1977年施行)を統合して「障害者特別サービス法」とするための法改正。その目的は、次のとおりである。

1.サービス利用者に選択の自由とパーソナル・バジェット(個人予算)を導入すること。それにより、障害種別を越えた個別の支援ニーズに基づき、障害者サービスを提供することである。

2.管理運営および障害者サービスを含む、予算の削減。それは、コロナ危機による緊縮財政への対応である。

3.2016年に改正された公共調達法により営利サービス事業者が増え、調達競争が激化した。その結果、市場原理が公共セクターによるサービス調達の意思決定により強く影響するようになった。2018年には、「わたしたちは、売り物ではない」というスローガンを掲げてのデモやキャンペーンが障害者団体などにより展開された。その主な批判は、もっとも質の高いものよりも、もっとも安価なサービスを選択するという、公共セクターによる障害者サービスの決定に関することである。このキャンペーンの主催団体は、7万2,059筆の署名を集め、議会に提出している。その後まもなく実施された総選挙で政権が交代し、改革案は関係者間の内部対立で今のところ実施には至っていない(6)

5.障害者権利条約実施にかかる第2次行動計画(2020年~2023年)

フィンランド政府は、2016年6月に批准したCRPDの国内実施を促進するため、2017年には第1次国家行動計画(2018年~2019年)(7)を、そして2020年には第2次国家行動計画を策定している。

第2次行動計画(草案)策定にあたっては、CRPD指標が取り入れられている。CRPD指標は、欧州連合(EU)からの財政支援を受け、国連人権高等弁務官事務所と障害者権利委員会が2019年に同条約の条文ごとに作成したもので、構造指標、プロセス指標および成果指標から構成される(8)

同計画(草案)によれば、構造指標では、法的な構造および一般労働市場と失業との中間労働市場について詳細に説明している。「中間労働市場」とは、さまざまな利用で雇用または訓練の場を得ることが困難な人々のための、失業と一般雇用(賃金補助のない雇用)の間にある就労機会のことである。

プロセス指標では、雇用を促進するために関係省庁や障害者団体などから構成されるワーキンググループが設置され、障害者が直面する雇用へのバリアに関する研究を行うことが言及されている。成果目標では、たとえば障害者や慢性疾患者は、失業者として登録されていないため、失業統計に含まれないなどで実態が見えてこない等といった課題が指摘されている(9)

おわりに

以上、フィンランドにおける障害者支援をめぐる最近の動向について取り上げたが、SOTEやCRPD実施に係る第2次行動計画とも開始後日が浅く、それらが意図した成果をあげ得ているかどうかを評価できる段階にはない。その意味では、これらについて引き続いてフォローアップする必要があろう。


(1)Committee on the Rights of Persons with Disabilities, Initial report submitted by Finland under the article 35 of the Convention, 2019, p.3
https://tbinternet.ochchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/Download.aspx?synbolno=CRPD%2fc%2fFIN%2fi4Lang=en

(2)Ministry of Social Affairs and Health Finland, The OECD Thematic Review on Reforming Sickness and Disability Policies to Improve Work Incentives: Country-Note-Finland 2008, pp.8-32

(3)Katsui, Hisayo, The Rights to Work and Employment of Persons with Disabilities in Finland, 2020, pp.6-7

(4)同上、p.15

(5)同上、pp.11-12

(6)同上、pp.7-8

(7)Committee on the Rights of Persons with Disabilities、前掲書、p.3

(8)Human Rights Indicators on the Convention on the Rights of Persons with Disabilities in support of the disability inclusive 2030 Agenda for Sustainable Development
https://www.ohchr.org/EN/Issues/Disability/Pages/SDG-CRPDindicators.aspx

(9)Katsui、前掲書、pp.10-13

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