行政の動き-著作権法の一部を改正する法律(令和3年法律第52号)について

「新ノーマライゼーション」2022年1月号

文化庁著作権課

1.はじめに

「著作権法の一部を改正する法律」が、第204回通常国会において、令和3年5月26日に成立し、同年6月2日に令和3年法律第52号として公布されました。

2.改正の趣旨

本法律は、(1)図書館関係の権利制限規定の見直し及び(2)放送番組のインターネット同時配信等の権利処理の円滑化の2点を内容とするものです。

このうち、(1)については、令和3年2月に文化審議会著作権分科会において取りまとめられた「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する報告書」等を踏まえ、国民の情報アクセス向上、持続的な研究活動の促進等を図るため、1.国立国会図書館が、絶版等により一般に入手困難な資料を、各家庭等からも閲覧することができるよう、権利者の許諾なくインターネット送信できるようにするとともに、2.各図書館等が、一定の条件の下、補償金を支払うことにより、図書館資料の一部分を権利者の許諾なく公衆送信できるようにするものです。

(2)については、令和3年2月に文化審議会著作権分科会において取りまとめられた「放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関する報告書」等を踏まえ、視聴者の利便性向上やコンテンツ産業の振興等の観点から、放送と同様の円滑な権利処理を実現するため、1.権利制限規定の拡充、2.許諾推定規定の創設、3.レコード・レコード実演の利用円滑化、4.映像実演の利用円滑化、5.協議不調の場合の裁定制度の拡充といった総合的な対策を講ずるものです。

3.改正の概要

以下では、障害のある方々に特に関係しそうな(1)について詳説し、(2)については改正の内容について概説します。

(1)図書館関係の権利制限規定の見直し

1.国立国会図書館による絶版等資料の個人向けのインターネット送信【新法第31条第8項等関係】

法第31条第3項では、国立国会図書館は、デジタル化した絶版等資料(絶版その他これに準ずる理由により入手困難な資料)のデータを、権利者の許諾なく、他の図書館等にインターネット送信し、当該図書館等においてその一部分を複製して利用者に提供することが可能となっています。

この点、同項では、絶版等資料のデータは他の図書館等にしか送信できないこととなっており、国民はその図書館等に足を運ばないとそのデータにアクセスすることができないところ、感染症対策等のために図書館等が休館している場合や、病気や障害等により図書館等まで足を運ぶことが困難な場合、そもそも近隣に図書館等が存在しない場合など、図書館等への物理的なアクセスができない場合には、絶版等資料へのアクセス自体が困難となるなどの課題がありました。

そこで、従来は国立国会図書館から他の図書館等に送信され、物理的に当該図書館等に来館した利用者のみが閲覧し、コピーを得ることが可能とされていた絶版等資料を、国立国会図書館が、一定の要件の下で直接利用者に対しても権利者の許諾なくインターネット送信することを可能とすることとしています。この際、利用者においては、(ⅰ)インターネット送信される当該資料を自ら利用するために必要と認められる限度において複製(プリントアウト)することと、(ⅱ)インターネット送信される当該資料を非営利・無料等の要件の下でディスプレイ等を用いて公衆に伝達することを可能としています。

2.図書館等による図書館資料の公衆送信【新法第31条第2項等関係】

法第31条第1項(第1号)では、国立国会図書館又は公共図書館・大学図書館等の図書館等は、営利を目的としない事業として、調査研究を行う利用者の求めに応じ、公表された著作物の一部分を一人につき一部提供する場合に限り、権利者の許諾なく図書館資料を複製して提供することが可能となっています。

この点、同項では、複製及び複製物の提供(譲渡)しか許されておらず、図書館等から利用者に対して、FAXやメール等による送信(公衆送信)を行うことはできないため、複製物の入手までに時間がかかるなど、デジタル・ネットワーク技術の発展を踏まえた国民の情報アクセスの確保等が十分に図られていないという課題がありました。

そこで、従来は紙媒体での提供が可能とされていた図書館資料のコピーを、国立国会図書館又は公共図書館・大学図書館等の図書館等において、権利者の許諾なく公衆送信することを可能としています。もっとも、図書館等以外の場所で国民が簡易かつ迅速に利便性の高い形で資料のコピーを入手・閲覧することができるようになることで、権利者に与える影響が大きくなるため、権利者保護を図る観点から、以下の(ⅰ)~(ⅳ)の措置を講ずることとしています。

(ⅰ)送信主体を「特定図書館等」に限定【新法第31条第3項関係】

送信主体となる図書館等については、法第31条第1項で定める「図書館等」のうちデータの目的外利用を防止するために適切な人的・物的管理体制等が整えられているもの(特定図書館等)に限定することとしています。

(ⅱ)不正拡散を防止・抑止するための措置【新法第31条第2項第2号関係】

公衆送信を受信した利用者が不正にデータを拡散させることがないよう、図書館等からの送信時に不正な拡散を防止・抑止するための措置を講ずることを要件としています。

(ⅲ)「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」の制限【新法第31条第2項ただし書関係】

今回の公衆送信によって、正規の電子配信サービスの市場等を阻害し、権利者の利益を不当に害することのないよう担保するため、「著作物の種類…及び用途並びに当該特定図書館等が行う公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には、公衆送信を行うことができない旨のただし書を設けています。

(ⅳ)補償金の支払い義務【新法第31条第5項等関係】

今回の送信サービスの実施に伴って権利者が受ける不利益を補償するという観点から、図書館等の設置者が権利者に対して一定の補償金を支払わなければならないこととしています(なお、実際の補償金負担は、基本的に当該サービスの受益者である図書館等の利用者に負担していただくことが想定されています。)。

(2)放送番組のインターネット同時配信等(放送同時配信等)の権利処理の円滑化

1.権利制限規定の拡充【新法第34条第1項等関係】

放送同時配信等については、放送と同視し得る利用形態であるため、放送に関する権利制限規定(新法第34条第1項、第38条第3項、第39条第1項、第40条第2項、第44条、第93条)について、全て放送同時配信等にも適用できることとしています。

2.許諾推定規定の創設【新法第63条第5項関係】

放送と放送同時配信等の権利処理のワンストップ化を図る観点から、著作物の放送又は有線放送及び放送同時配信等を許諾することができる者が、放送同時配信等を業として行っている放送事業者のうち、その事実を周知するための措置として、文化庁長官が定める方法によって、放送同時配信等の実施状況に関する情報として文化庁長官が定める情報を公表しているもの等に対し、放送番組での著作物の利用の許諾を行った場合には、当該許諾に際して別段の意思表示をした場合を除き、当該許諾には放送同時配信等の許諾を含むものと推定する旨の規定を設けています。

3.レコード・レコード実演の利用円滑化【新法第94条の3、第96条の3関係】

放送におけるレコード・レコード実演の利用に関する措置(法第95条、第97条)と同様、放送事業者は、商業用レコードに録音されている実演又は商業用レコードについて、著作権等管理事業者による管理が行われているものや文化庁長官が定める方法による権利者に関する情報を公表している場合を除き、通常の使用料の額に相当する補償金を支払って、放送同時配信等を行うことができる旨の規定を設けています。

4.映像実演の利用円滑化【新法第93条の3、第94条関係】

放送における映像実演の利用に関する措置(法第94条(新法第93条の2))と同様、実演家が映像実演の初回の放送同時配信等の許諾をした際に、契約に別段の定めがない場合には、著作権等管理事業者による管理が行われている実演や、文化庁長官が定める方法により実演の権利者に関する情報を公表している場合を除き、通常の使用料の額に相当する報酬を支払って、事前の許諾なく利用することを可能としています(新法第93条の3)。また、初回の放送同時配信等の許諾を得ていない場合にも、契約に別段の定めがない限り、実演家と連絡するための一定の措置を講じても連絡がつかない場合には、あらかじめ文化庁長官の指定する著作権等管理事業者に通常の使用料額に相当する補償金を支払うことで、事前の許諾なく放送同時配信等することができることとしています(新法第94条)。

5.協議不調の場合の裁定制度の拡充【新法第68条関係】

著作物を放送するに当たっての協議が不調に終わった場合に係る裁定制度について、著作物を放送同時配信等するに当たっての協議が不調に終わった場合にも利用することができるよう、対象範囲を拡大することとしています。


(※)本法律の条文等の詳細については、https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r03_hokaisei/ を参照ください。

(※)本稿では、現行の著作権法については単に法第〇条と記載し、本法律による改正後の著作権法の条項を示す時には、完全に施行される日における条項を新法第〇条と記載しています。

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