快適生活・暮らしのヒント-3Dプリンタのある暮らし

「新ノーマライゼーション」2022年1月号

北海道医療センター 神経筋/成育センター
筋ジストロフィー患者
村上英樹(むらかみひでき)

私はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下、筋ジス)で、これまで身の回りのことができなくなる経験を幾度となく重ねてきました。だんだんと手の力が弱くなっていく中で、普通なら「しょうがない」と諦めてしまうことも、ちょっとでも便利にならないだろうかと考えるのが好きな方でした。手が届きにくくても、手が伸びたらどうだろうかと考えて、爺さんが使っている「孫の手」で、テーブルの上にある物をずらしたり、いたずらにも使ったことがあったような(笑)。なぜそのような思考の癖(?)なのかは正直わかりませんが、考えてみると2つほどの理由があったように思います。一つは、小さい頃から、ものづくりが好きだったのと、もう一つは、同じ障害をもつ3人兄弟の長男だったからだと思います。次男は、これまで、できていたことができなくなると、怒った口調で「なぜできないんだよ!」と度々口にしていました。「こんな工夫があるんじゃないの?」とアドバイスをしても、聞く耳を持たずに、できないできないを繰り返します。いろんな思いがあったかとは思いますが、不満を口にする前に、知恵を絞って試してみればよいのにと思ったものです。そんなことがあったからでしょうか?私の場合は、新しい物を見かけるたびに、あの工夫に使えそうだとワクワクしていたのを思い出します。最近のお気に入りは、今回ご紹介する3Dプリンタです。

3Dプリンタで、ゲームコントローラを使いやすいように

筋ジス患者の多くがゲーム好きです。私も例外ではなく、ロールプレイングゲーム(RPG)やレースゲームなど、特に動きのあるアクション性の高いゲームを好んでいたと思います。しかし、病気の進行は足音もなく訪れます。ゲームコントローラのボタンが固くて押せない、指が届かないなどのしづらさを感じるようになってきました。

まず最初に取り組んだ工夫が、小型のゲームコントローラに変えることです。これだけでも多くが改善しましたが、どうも、ぴたーっと解決するには、ちょっと足りないんです。そこで、3Dプリンタの出番となります。3Dプリンタは、簡単にいうと、パソコンでつくったデータを、立体的に出力してくれるもの。今回は、ジョイスティックの形状が長くなったら、親指が届きやすくならないだろうか?とキャップを考えてみました。

ものづくりは、実験に似ています。何回でも結果がでるまで仮説と検証を繰り返せます。私のように、身の回りの多くのことを介護者に頼る生活になっていくと、この実験も他人の手が必要となるわけですが、3Dプリンタでつくるものづくりは、介護者の手を煩わすことなく、自分が納得いくまで形にできるのが、お気に入りのポイントです。最近は、自助具だけでなく、小物づくりにも励んでいます。暮らしを楽しむ3Dプリンタの活用。みなさんもいかがでしょうか?

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