トピックス-CBID国際シンポジウムを終えて

「新ノーマライゼーション」2022年1月号

公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会
宮前(みやまえ)ユミ

本誌昨年9月号の「リハ協アップデート」でお知らせした「CBID国際シンポジウム『何から始める?変化を起こすつながりづくり~アジア発、地域共生社会実現へのヒント~』」は、11月6日(土)にCBIDアジア太平洋ネットワークとアジア太平洋障害センター(APCD)の協力のもと、オンラインで実施し、日本を含めた約30の国と地域から120名の参加者を得て盛況のうちに終了しました。

シンポジウムでは、CBIDの実践例を3つ取り上げ講演していただきました。

1つ目は滋賀県東近江市の事例です。医療・介護資源の少ないへき地診療に携わる花戸貴司さんが、20年以上前から主宰している「チーム永源寺」についてご報告くださいました。「チーム永源寺」では、医療・介護などの専門職だけではなく、地域のさまざまな人が集まり、住民の困りごとについて話し合います。健康状態や生活環境が変わっても、誰もが安心して生活できる地域を目指し、住民一人ひとりが自分にできることを考え行動してきた経験や成果について具体例を交えながらお話しいただきました。

2つ目はタイ東北部で貧困状態にある子どもの支援を行ってきた希望の家財団代表のラオンさんと理事のソムチャイさんの報告です。設立当初は家庭環境の良くない子どもたちを引き取って養育する施設だった希望の家が、子どもをもつ家庭のサポートを包括的に行うようになった経緯や、徐々に支援の対象を障害児とその家族にも広げ、現在はコミュニティの理解、協力を得ていく活動も行っている様子についてお話しいただきました。

最後はベトナム・ハノイの障害当事者団体「DPハノイ」副代表フーイェンさんの報告です。DPハノイが活動するベトナムでは、スポーツ施設のアクセスの問題や人々の偏見差別、そして障害者自身の自己肯定感の低さなどから障害者がスポーツに参加することが非常に難しい状況にありました。DPハノイは障害者専用のスポーツクラブを開設することでその障壁を壊しただけでなく、クラブを一般の人々にも利用可能にすることで、コミュニティの人々の障害に対する理解が高まり、交流が始まるようになった様子をお話しくださいました。

事例報告の後は各パネリストとのディスカッションの時間を設け、ファシリテーターが参加者からの質問やコメントを反映させながら話を深堀りしていきました。参加者の関心が特に高かったテーマは「活動の持続可能性のために必要な資金をどう集めるか」や「資金以外の重要なファクターについて」などで、どの実践事例にも試行錯誤があったことが伝わってきました。

終了後の参加者アンケート等ではおおむね前向きな評価を得ましたが(グラフ参照)、同時に「今回のシンポジウムの経験をどのように発展させていくか」など、当協会にとって今後の課題となるコメントもいただきました。

シンポジウムは全般的にいかがでしたか?
円グラフ シンポジウムは全般的にいかがでしたか?拡大図・テキスト

当協会はこれまでも、世界保健機関(WHO)が提唱しているCBID(地域に根ざしたインクルーシブ開発)の推進を行ってきました。CBIDは脆弱な立場に置かれた人を含め、すべての人々が安心して生活できる地域づくりを持続可能な形で実現する考え方で、当然SDGsにも繋がるものです。昨今地域でのつながりが希薄になってきた日本にも参考となるアプローチであると改めてその理念の重要性を認識しています。当協会は今後もシンポジウムの参加者を含む国内の関係者とのつながりを大事にし、アジア諸国を中心としたネットワークの輪も広げていきたいと考えています。

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