4.フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告

NPO法人 ぬくもり福祉会 たんぽぽ 会長 桑山 和子

スライド1
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド1(図の内容)

皆様、はじめまして。ご紹介いただきましたNPO法人 ぬくもり福祉会たんぽぽ会長の桑山和子と申します。よろしくお願い致します。実は、寺島先生がフィンランド視察にいらっしゃる予定だったのですが、先生は大事な公務を抱えていらっしゃって、どうしても都合がつかず、私が代役・・・代役にならないので申し訳ないのですが、炭谷先生、野村さんとご一緒に行かせていただきましたので、発表させていただきます。そんなわけで、身も細る思いで、寺島先生と対峙しておりますが、炭谷先生からフィンランドの特色などだいたいの概略はお話いただきましたので、フィンランドの情勢や制度設計などはお分かりいただけたと思います。フィンランドは日本と違って公的資金を組み込みながら、いろいろな団体と一緒に立ち上げていく事例が多かったと思います。その中で、炭谷先生が最後のまとめで、今後の課題は、日本型ソーシャルファームを育成していく、とおっしゃておりましので、私どもの団体、ぬくもり福祉会たんぽぽの例を簡単にお話させていただきます。

たんぽぽは、1986年、公民館の婦人講座から、(30年前は婦人だったのです)困った時はお互いさま、の理念で住民参加型の会を立ち上げました。市民活動のはしりでした。立ち上げ時から公的資金は全くありませんが創意工夫しながら、今では、高齢者福祉、障害者福祉、児童福祉などの分野で、職員数240名、事業規模が7億~8億までの法人に育って参りました。特に介護保険分野を強化させて、その収益の一部をソーシャルファームの財源に充てることで、平成21年に農業分野のソーシャルファームを立ち上げました。たんぽぽの事業そのものがソーシャルインクルージョンですので理事や、職員にも、自然体で受け入れられました。ただ経営的には残念ながら、農業はこの時代ですから、…ちょっと小さい声で言いますが、600万位の赤字を計上しております。その殆どが人件費ですが、ソーシャルファームで働いている高齢者や障害者、精神、知的障害者をはじめ、引きこもっていた若い男性たちが、しっかりと仕事をしている姿を見ると一方では、心が癒される面もあります。お給料は最低賃金をクリアし職員契約しておりますので、10月からは最低賃金も上がりましたので、その分ベースアップいたしました。また、「ソーシャルファームはまちづくりにある」と炭谷先生がまとめてくださいましたが、まさにその通りで、飯能市の障害者福祉計画には、「障害者の多様な働き方」の項目の中に、たんぽぽのソーシャルファームが位置づけられております。しかし文言だけではお金がついて来ないので、フィンランドで学んだことを、埼玉県や飯能市にどのようにしかけていくべきか、思案しているところです。また、ソーシャルインクルージョンの理念を通して飯能市や埼玉県から、生活困窮者や刑与者などの働く訓練の場としても契約しています。フィンランドのように公的資金が入ってくるとジョブコーチをつけて訓練できるのですが、残念ながらジョブコーチをたんぽぽで雇用するゆとりはなく、農業や介護現場の職員が指導しているので、力及ばずその辺がネックでなかなか定着しない事実もございます。

また、炭谷先生のご協力もあり、飯能市にある駿河台大学で平成26年から、大学の講座にソーシャルファーム理論が取り上げられ、たんぽぽの研修室を使って座学や農業実習、また雨の日には介護現場の実習等、学問的にもソーシャルファームが浸透してきていることは、まちづくりの要素にもなりうると期待しているところです。

さて、私は今回の視察の中からそれぞれタイプの異なった3箇所の事業所を取り上げて、何故印象に残ったのか、そこから日本型ソーシャルファームを導き出せるか等をパワーポイントと、報告書を使って皆様にお伝えし、皆様と一緒に考えたいと思います。

スライド2
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド2(図の内容)

スライド3
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド3(図の内容)

最初にヘルシンキ市内にあるポシヴィレ株式会社について、報告いたします。ヘルシンキは人口61万人。治安も良く、地域暖房も整備され、建物の高さ制限もあり、環境に優しい首都のように感じました。ポシヴィレは、トラムの停留所の近くの住宅地の中に、事務所というより半ば個人の住宅のような建物で、就労移行事業を行っておりました。責任者の女性から事業内容の説明を受けましたが、訓練現場を見たわけでなくこの写真しかお見せできないのですが、皆様にもイメージできるように、リハビリテーション協会からいただいた資料も引用しながら、説明をさせていただきます。

ここを選んだ理由は、ヘルシンキ市の関与が大きいこと、次に失業者や障害者などが口コミでここにやってくること、また企業としてもソーシャルファームに位置づけ、さらに2010年にISO 9001を取得していること、では実際に品質のマーネージメントや顧客満足度はどうか、などに焦点を当てて掘り下げてみました。

プログラムにも書かせていただきましたが、経営母体は、ヘルシンキ市とヘルシンキウーシマ病院地区、それに不動産会社です。そこではジョブコーチの指導の下で一般労働市場へ直接移行支援を行っていました。そして就労移行場所もヘルシンキ市が公営の病院や医療の現場などを提供し、介護や看護補助、清掃や食堂など様々な現場で、ポシヴィレと障害者や失業者などとで立てた訓練計画に従って、ジョブコーチと共に訓練をし、昨年は100名程度就労させたそうです。

不動産会社も経営に参加していますが、訪問先の他の団体でも、訓練場所や就労場所に、不動産管理業務の名が多数ありました。確かに環境整備や、管理、メンテナンス部門で働く場が多数あると思います。ここで学んだことは、プログラムの20ページに「一般労働市場へのアプローチ」という図式がありますが(本報告書ではP53)、最初の入り口のところで目標を持たせてしっかりとしたジョブコーチをつけて一般労働市場へ送り出すシステムが、顧客満足度にもつながっているのだと理解いたしました。

最終的に各従業員が十分な管理下で、ポシヴィレから一般労働市場あるいは教育機関に行った方も多いそうです。自分の適正をしっかりと見極めて、もう一度学校に行き直すきっかけに、また自分の人生の目標が得られたという人も多いそうです。コーチングの目的は、就労先を見つけるのが困難な人に、能力やスキルを開発し、提案し続けること。その方の適性を見て支援していくことに尽きると思いました。教えるというのは座学ではなくて、ここがフィンランドの特色なのですが、現場でジョブコーチも一緒に仕事をしながら教え込んで行く、と説明されました。日本はどちらかというと、座学で教え込むことが多いですが、そうではなくて、本人と色々なやりとりをしながら、適性に合ったところを見て、どの現場へ回すか。その現場がダメなら次の現場はどうか。きちんとケアプランを立てて、日常の生活も含めて指導しているようです。

本部は、スライド3にあるここですが、正規雇用への橋渡し的事業。これは派遣なのかなという気がしたのですが、職業訓練場への派遣手続き等、それにはソーシャルワーカーとして高い能力があるのだと思いました。

ポシヴィレの正規職員は、全部で8人。現場職員はここにはやって来ません。ここは口コミでいろんな方が相談に来て、特に年金や制度を説明して、すぐに現場のジョブコーチに受け渡すそうです。訓練場所として市がお金を出しているので、訓練指導士がしっかりとしたサポート体制をとり、従業員には課題を与えながらルーチンワークを徹底し、特に日常生活にまで目を向けながら、周囲との環境やコミュニケーションを徹底させていくとのことでした。訓練期間がどのくらいかを聞きましたら、1年半くらいで一般就労出来るか、新たな人生を見つけて再出発していかれれば一番良いのだが、中には、7年かけて就労した人もいるそうです。

資料の中に従業員の声が掲載されていましたので、参考までに載せておきました。「私はチャンスを与えられ、今や仕事を手に入れました。そして人生を手に入れました。」炭谷先生も述べておられる様に、ソーシャルファームがその人の生き甲斐になっているかが問われる、と盛んにおっしゃっていましたが、まさにその通りです。また、ポシヴィレの従業員は、病欠がわずか2%。これも少ないそうです。その結果、自尊心と生活管理能力が高まり、勉強する場などを探す勇気が生まれたという言葉も記されていました。

参考までに皆さんにお話ししたいのが、アールライト大学の報告書の中に、すべての従業員が一般労働市場に移行して、平均5年とどまっていたら、投資した額の115%以上帰ってくる。同様に障害者を含めて5年とどまってくれたら内部利益が57%になる、障害者も道筋さえつけば貴重な労働力である。フィンランドもこれから高齢社会がやってくるので、就労人口を増やしていかないといけない状況のようです。次の訪問先に移ります。ここが一番良かったかなと思います。

スライド4
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド4(図の内容)

ティトリュ協会です。ここをなぜ選んだのかというと、1つには、ボランティアや地域の人や特に障害者の団体が関って出来た歴史に注目しました。2番目に生産性の高い高品質なものを企業感覚でつくっている。3番目が70%以上の障害者を雇用している。この3点に目を向けて私はティトリュを選びました。玄関を入ると、100mも奥に伸びた作業所、約900坪くらいの建物の中に、パッキング部門、縫製部門、機械部門があります。大きく仕切られていて、それぞれ作業していました。

スライド5
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド5(図の内容)

これが最初のパッキング工場のところです。工場といっても独立しているのではなく、広い場所の中が部門ごとに区切られています。真ん中に通路があって右左に区切られていました。このスライドに書いてあるように、数人の女性、少し知的障害のような方でしたが、製品を梱包して各地に発送するパッキング作業を一生懸命やっていました。いただいた会社案内の資料には、「機械のような集団と自負しています」と書いてございました。スピードはゆっくりですが正確さと持続性が彼女たちの特性に合っているのだなと思いました。こういったものを作っています。

スライド6
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド6(図の内容)

スライド7
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド7(図の内容)

洋服やレストランの作業着もつくっています。これが、縫製工場です。ここも広くて感覚的にはプロの作業工場の雰囲気です。ワークマンの作業着や、レストランのユニフォームが意外とカラフルな色使いでつくられていました。生地もたくさんあって、工場と言う名にふさわしいものでした。デザイナーもいて、障害者であっても適正な指導の下に技量を磨いていくと、きちんと出来るということです。機械化できるところは機械化しながら自分たちができるものを提供していくことに尽きるのでしょう。

スライド8
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド8(図の内容)

スライド9
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド9(図の内容)

スライド10
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド10(図の内容)

スライド11
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド11(図の内容)

次は、機械作業工場です。スライド11に写っているニコニコ笑っている方は、本人に許可をもらって撮ったのですが、この機械工場の従業員です。案内していただいた統括責任者に誰がどうやって動かすのですかと尋ねたところ、プログラマーがきちんとプログラミングすれば、数人で処理できるのだとおっしゃっていました。素晴らしいと思いました。ここにはもちろん障害者の方が70%以上雇用されていて、職業訓練の人たちも来て、エストリア辺りから移民の方もいらっしゃるという話でした。まだ商標登録はしていませんが、ソーシャルファームなのです。

各部門のキャッチフレーズは、金属部品のところは「精密かつ正確に製作します」縫製作業では、「フィットする作業服をオーダーメイドでいたします」。パッキン工場は、「出荷、仕上げ、梱包、環境にやさしい資材で納品いたします。」実に適材適所で障害の適性、個性を見つけて技能の向上を目指した製品作りは評価が高く、スライド13の写真に見る認定証も、スウェーデンの一流メーカーから金属部品の製品に関していただいたものです。アメリカやスウェーデンなどにも輸出もしているとありました。信頼性の高い製品として認証を受けているのも納得いたしました。小さな縫製や出荷・梱包などここにあった製品作りをしていることも注目に値します。

スライド12
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド12(図の内容)

スライド13
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド13(図の内容)

作業服などはファッション性の高いオーダーメイドとして、現場のデザイナーが、注文主のところに行って、例えばポケットの位置はどうするかなど、採寸して作っているとのことでした。この辺が、顧客満足度が高いのだと思います。それから機械工場なども、自分たちの手で持ち上げられるサイズ、あまり大きなものは作らないで、自分たちで搬入・搬出ができる製品作りをしている、従業員の特質に合わせて工夫がなされていることがわかりました。統括的な人が、きちんと市場調査をしながら、適性に合ったものを作っていることは素晴らしいと思いました。

以前は地元で織られた生地を使っていましたが、今では輸入ものの生地だそうです。すばらしいものを作っていまして、いくつかお見せします。テーブルクロス、真ん中に敷くといいですね。縫製もよくできていますね。ティトリュのマークもついています。こんな袋、トートバックもありますね。それから、まだあります。小さく三角形にたためるトートバックも。いろいろなアイデアを出しながらやっていて、素晴らしいと思いました。

スライド14 経営規模
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド14(図の内容)

では、どのくらいの規模でやっているのか。ご説明いたします。従業員の数、賃金等ですが、作業工程は、ベルトコンベア方式ではなく例えば機械作業工場では、1人が機械を扱えるように訓練して、部品などの作業は自動化されていて、コンピューター制御で指導者がプログラミングすれば、あとは少人数でも出来るようにと、適材適所の働き方が徹底されているようです。そのため職員は正職員が10名でした。企業統括の方、先ほど写真に出ていた方1名と、会計が1名、秘書1名、梱包が1名、縫製が2名、金属が2名、セールスマンが1名、食堂1名の10名。作業員として契約社員の70%以上が障害者、あるいは訓練生で、40名。実習生が年間40名。今後の事業展開として、もっと増やしたい、100名の規模にしてやりたいとおっしゃっていました。年間の予算が約2億4000万円。収入の70%が製品の売上(梱包1%、縫製が2%、金属加工が0%)で、残り0%はタンペレ市から援助を受けているということでした。契約に伴う賃金体制は、ほぼ健常者と同じですが、能力に合った契約の仕方もしているとおっしゃっていました。もう1つ、ここを選んだ理由は、日本で言う運営協議会があり、市が関わってできたので、今でも運営委員の中にタンペレ市の職員さんか議員かわかりませんが、運営委員のメンバーになって、助言をいただいたり方向性を検討しているとのことでした。内容的にはソーシャルファームだと思います。ただ、フィンランドのソーシャルファームは特に特化されたものがないので、今のままの形態でいいということでした。けれど、タンペレ市の援助がないとやっていけないということはおっしゃっていました。見習うところはあったと思いました。

スライド15
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド15(図の内容)

次が3つ目のところです。ラフティという市にあるテュオホンヴァルメンヌス・バルマ・リミテッド(以下、バルマ)。ここが気に入った理由は3つあります。一番気にいったのが、1つは、意識改革をしたということです。何の意識改革をしたかと言えば、企業マインドをもっていこうということで、市の財政に陰りが出てくると、当然補助率が下がる。では、その前にそこから抜け出して、自分たちが企業感覚を持ってやっていく。そのためには、株式会社になって商品開発などもしていく。その意識改革が4年ぐらいかかったと言っていました。結果的には成功して売り上げを伸ばしている、そこに魅力を感じて取り上げました。そこから生まれたのが、ブランド商品化。モルックです。これはミニチュアなのですが、実は、実物のモルックをどうぞお持ち帰りくださいと言われたのですが、さすがに大きすぎて持ち帰れませんでした。意識改革から商品開発へ、それも地場産業の木を使っているところが気に入ってこのバルマの会社を発表したいと思ったのです。

バルマの組織は大きく、ラフティ市を中心に広域にわたって、8カ所も拠点があり、食品加工、木工製品、金属加工、リサイクルなどの部門と、7つの事務所があるということでした。その部門ごとに各種の職業訓練が行われています。当然どこの事業所にも訓練生が来ています。バルマも最初は学習や訓練機関として市の色が濃かったのですが、バルマになってから意識改革をしてパテントもとっていくという企業努力が成長させているのだと思います。なんだかその過程が、私どものたんぽぽに似ているように感じました。理念が「生涯、人として成長し続けるために」 いいじゃないですかね。人として成長し続ける。そのために色んな訓練をしながら自分の人生を自分で切り開いていく。そういう意識がないと、ただ公的資金の中だけで人生設計をというのはどうかと思い、取り上げてみました。バルマの案内書の中に、「専門家の助けを借りて、熱意を持って訓練を受け成功を手に入れたい」、そのような思いが書かれていました。経営規模は、常勤従業員が53名。毎日220名が働いています。2012年には580名が職業訓練サービスを利用しました。全員が就労に結びつかないことも現実です。訓練を受けた人が全部どこかに当てはまって自分の人生を手に入れたかというと、そうではなくてもう一度ハローワークに行ったり自分探しを始めたりしながら、自分の人生を歩んでいくというのも見えました。プログラムには、パーセンテージで表しておきました(本報告書ではP44)。ただ、売上高はすごいです。日本円で約8億9千万円。自社製品および販売が60%で約5億3千万円もある。訓練生たちが大きな力になっているのも事実です。就労し、働く喜びを手に入れるサクセスストーリーを築くための意識改革が大変であったと繰り返し言っておられました。ですので、バロマは障害者よりではなく、失業者や訓練生が多かったのかなと思います。ティトリュ協会は70%以上が障害者と言っていましたが、ここの企業感覚でやっていくということの意味は納得できます。けれども、最初の出発点がラフティ市からの委託訓練や、職業訓練学校などを立ち上げたという経緯もあって、当時から社会貢献してきているが、今でもその気持ちでやっているとのことでした。

スライド16
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド16(図の内容)

これが、バルマのリサイクルセンターです。炭谷先生がお話ししてくださったヘルシンキ市のリサイクルセンターとはグレードが違うというか、集まってくる製品も程度も良く、修理したり磨いたりしながら商品化していくということでした。ここで面白かったのは、大きな家具は場所をとるからでしょうか、値段は売れなくなるとだんだん安くなっていくというシステムだそうです。これもいいのかな、と思いました。場所はそれほど大きくないのですが、きれいなバルマのリサイクルセンターでした。CDも本も、百科事典もあれば、それこそ何でもありました。従業員数は現場の職員が13名。失業者の研修生などが50名。ここは研修期間が最高で6ヶ月。研修生の一部は職業学校等へ進学。学校は無料ですので安心して訓練を受けられます。どうも日本の感覚で分からなかったので質問させていただいたのですが、例えば日本では4月入学、9月入学というのがありますが、フィンランドではいつでも入学できると話していました。そこが日本とは違う訓練の仕方であって自分を磨ける場所がいくらでもあるのかなと思いました。

訓練期間中にまたもとの失業状態になっても学校と連携しながらどうしてここが向かなかったのか、もっと高度な職業訓練を受けてこようとか、ジョブコーチとかいろんな方たちと話し合いながら一歩一歩進んでいくのだと思います。経営状態は収益が約6,000万円。バルマの中では規模も小さいです。

スライド17
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド17(図の内容)

スライド18
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド18(図の内容)

その次が、さっきお話したモルックです。これが商品登録したブランド商品です。良ければミニチュアをお回ししますが。日本のボウリングみたいなもので、ただ玉をころころと転がすのではなく、投げるのだそうです。競うのですが、その方法が難しい。何本当てて何点以上取ればいいということではないのです。

インターネットでモルックを引くと出ています。びっくりしたのは、日本でも大会があって、フィンランドの団体が日本に来て、競技に参加したとおっしゃっていました。それまでモルックいうことばも知りませんでした。皆さん、知ってらっしゃる人、おりますか? インターネットには出ています。フィンランドでは人気があるのだそうです。

フランス人などは特に木の香りが好きで、フランスには多く輸出しているそうです。日本でも愛好団体があって各地で開催されているようです。ブランド商品として、モルック。今日、覚えていただけたらと思います。環境に優しくフィンランドの白樺の木で作られていて、地域の中で育てられた、これからのソーシャルファームの行き方なのかなと思います。特にご案内いただいた方が開発して、プロジェクトリーダーとしてやったということでした。木製のゲーム機器として、専門家が開発したそうです。インダストリアルデザイナーも含めて開発し、国際的なパテントも取得しているモルック。フランス、ドイツ、スペイン、オランダなどの各地で販売され、年間約2億7,000万円、売れ行きも良く、今後の経営方針もこのようなやり方を目標に行っていくとのことでした。

バロマには、7カ所の事業所があり、訓練生も来ています。内容的にはソーシャルファームです。多分、失業者の中には発達障害者といった障害者などもいらっしゃるかもしれない。でもそこの中で、みんな自然体で訓練を受けにいくというのが1つの特色なのだと思いました。

スライド19
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド19(図の内容)

これは、バロマの本の装丁・グラフィックという事業部門のスライドです。大学や大学院の修士論文、博士論文の表紙の装丁として注文がくるそうです。手作りで重厚な素晴らしい表紙。その一部のこういったメモ帳をいただいてまいりました。本当に手作りでした。皆さんにお見せします。研修最終日の金曜日の午後に伺ったのですが、従業員は帰ってしまったという話でした。自分の生活リズムをつかみながら仕事をしている感じもしました。

スライド20
フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告:スライド20(図の内容)

いろんなことを見てきた中で、今後のソーシャルファームの新しい生き方として、フィンランドでは教育費が無料なので、文化、芸術などの面でも何か開拓できないのか、例えば音楽が好き、美術が好きな人には、職業訓練の中に芸術分野の訓練メニューがあってもいいのかもしれないと思いました。それには多職種が連携していく必要があると思います。また、北欧の家具やフィンランドの有名な服飾デザイナーのマリメッコなどの作品には、北欧の独特な素晴らしい感覚を持っています。何が言いたいかというと、個性のあるもの作りは、それこそとソーシャルファームの得意分野かもしれないと思いました。

私は村上春樹が好きで、先生もおっしゃっていましたが、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読みました。ハメリーナという町が最後の舞台になっています。車窓からの風景を見て、なるほど、フィンランドには、精神の穏やかさを取り戻す自然の癒しがあるのかなと思いました。

長くなって申し訳ありません。以上でございます。

訪問先の概要

①PosiVire(ポシヴィレ)株式会社 (ヘルシンキ市)

  • 組織:ヘルシンキ市、ヘルシンキウーシマ病院地区及び不動産会社(Kaapelitalo)が経営するソーシャルファーム
  • 事業目的:ジョブコーチにより一般労働市場への直接移行支援する事業

    ヘルシンキ住宅街にある事務所を訪問。市電の停留所に近い交通の便の良い場所にあり、室内はオレンジカラーに統一されていて戸建て風の建物(ヘルシンキ市の所有)
     
  • 設立:2008年末に営業開始。2010年ソーシャルファームとしてヨーロッパで最初にISO 9001を取得した。
  • 目標:目標は、最終的に各従業員が十分な管理下の下で、PosiVireから一般労働市場或いは教育機関などに移行すること。
    • コーチングの目的は、就労先を見つけるのが困難な人の支援。能力やスキルに合わせて、仕事の変更や新たなメニューを提案し実行する。
    • 各従業員は自己啓発に責任を持ち、通常の労働環境の下で勤務。いかなる不正行為も最初から[ゼロトレランス]方式で一切容認せず、[一般従業員]より更に厳しい。
  • 本部(訪問先事務所)の役割:就労が困難な人への就労移行から自由市場での正規雇用への橋渡し的事業。職業訓練場への派遣手続き等、ソーシャルワーカー。また、訓練中自分の適正を見つけて、その方面の学校に行くきっかけにもなっている。PosiVire職員数は正規職員8名。この事務所に勤務している人はソーシャルワーカーや指導員(学習指導員もいる)など専門職で、全体を総括できる事務職のみ。現場職員はここにはいない。
  • 事業の流れ:就労困難者(障害者、移住者、失業者、疾病を持っている方、若者、等)が口コミやハローワーク、障害者団体や国の組織など様々な経路で来る。
    • 本人の手当てや年金などの状況を聞き、フィンランドの労働環境税金などの仕組みを説明。その後すぐに本人の条件に合う訓練場所の現場に送り出すシステム。キャリアを積んでいない人たちが現場でキャリアを積み就労への道筋を考える。
  • 訓練場所:ヘルシンキ市やヘルシンキ・ウーシマ病院地区、ヘルシンキ市サービスセンター、ヘルシンキ市の公的な社会サービス、保健サービスおよび、高齢者、障害者などのグループホーム (知的障害者のデイケアー、病院などの清掃、調理、看護補助、補助器具の管理、運営の補助、パソコンなどの業務)
  • 訓練指導員:現場コーチ、ジョブコーチが従業員(訓練生)をチーム内でサポート

    従業員に仕事と課題、一連のルーチンワークを指導し、慣れさせる。コーチも従業員と一緒に働き職場環境に適応できるように支援。職業生活におけるルールを、周知徹底させる。
     
    • 特に従業員のための開発計画を立て、定期的に助言や指導を行う最低月1回、必要ならば、毎日でも行う。
       
  • 訓練期間:人によって様々。7年かけて就労した人もいる。一年半位が良い。
  • 訓練期間中の給料:従業員として国から出る賃金助成など雇用主が本人に支払う
  • 成果:年間短期就労も含めて100名位が従業員として就労。2015年は65名

    経験を積み上げていくことでスキルが上がり、就労しやすい。
     
    • 訓練従業員の声:「私はチャンスを与えられ、今や、仕事を手に入れました。そして人生を手に入れました」
    • PasiVireの従業員は病欠がわずか2%。国の平均よりはるかに低い。
    • 自尊心と生活管理能力を高め勉強する場などを探す勇気が生まれた。
       
  • アールライト大学ビジネススクールによる研究から、以下が推定される。
     
    • すべての従業員が一般労働市場に移行し、平均5年そこにとどまっていた場合、彼らに対する投資は、115%の内部利益をもたらす。同様に従業員の半数が5年間同じ職場にとどまっていたとしたら、内部利益は57%となる。(きわめて高い)
    • 障害のある人が労働市場において常勤の職を見つけられるように支援することは、適切に実施すれば、高い利益をもたらす投資である。
    • また人は、就労の機会を与えれば成長することも忘れてはならない。適切な支援を受けて一度「梯子にたどり着けば」非常に高い所得水準を達成できる人がいるという指摘がある。

②Titry(ティトリュ)協会 (タンペレ市)

  • 組織:12の障害者団体とタンペレ市が、障害者の働く場所の提供を主な目的とし、立ち上げた。
  • 設立・目的:1979年設立。タンペレ市からの助成金がある。知的障害者、精神障害者、身体障害者等、従業員の70~80%は何らかの障害を持っている。ただし軽度の人が多い。訓練や教育を主とするより、働く場所、社会的責任の下、市場と競争できる高品質な製品作りを目指している。
  • 事業内容:床面積2,700㎡ 奥行き100メートルの建物に3部署がある。
    • 機械作業工場:金属精密部品 精密かつ正確に製作
    • 縫製工場:作業服 均質でフィットする作業服をオーダーメイドで縫製。
    • パッキング工場:パッキング、出荷、仕上げ 梱包 環境に優しい資材で納品。

以上3部門とも、適材適所で障害の個性を見出し、技能の向上を目指した製品作りは評価されている。スウェーデンの一流企業からも金属部品の注文もあり、信頼性の高い商品として認定証もいただいている。自動車の部品なども輸入業者から請け負って製品のパッケージなども行う。梱包作業の製品はアメリカやスェーデンなどへ出荷され、ごく小さいタイトな部分であるが外国にも輸出できる技術力がある。

作業服を作っている現場では、専門のデザイナーが機能的でファッション性の高い、オーダーメイドの作業着を選定し、現場に行って採寸するので、高品質の作業着としてブランド化している。

材料は以前、フィンレーソンという繊維メーカーのものを使っていたが、現在は殆ど外国製。

  • 従業員数・賃金等:作業過程はベルトコンベア方式ではなく、1人の人が機械を扱えるように訓練する。部品などの作業は、自動化されていて、コンピューター制御で指導員がプログラミングすれば、後は小人数でもできる。そのために設備投資を行っている。裁断、縫製なども適材適所訓練された人が配置されている。
    • 職員10名 (事業統括責任者1名 会計1名 秘書1名 梱包1名 縫製2名 金属2名 セールスマン1名 食堂1名)
    • 作業員40名(契約社員) 実習生年間40名(最近は長期失業者、海外からの移住者なども対象)
  • 年間予算:180万ユーロ(約2億4千万円) 売上高 収入の70%(梱包1%、縫製2%、金属加工60%) 残り30%はタンペレ市から。一定の障害者雇用が条件、現在は7%雇用
    • 賃金は同じような職場と比べると低く、障害の程度や技能によって契約が異なる。基本的には年金制度を受給していると、働いた額が月700~800ユーロ(100,000円)までとされている。時給は健常者とタンほぼ同じ。
  • ペレ市との運営関係:障害者支援の意味で市が関って出来たので、現在でも資金補助など運営の一部を担っている。協会の運営委員には市の関係者もメンバーになっている。当協会としては、将来的には、契約社員40から50~60名にして研修生、職員を合わせて100名ぐらいの規模にしたい。内容的には、ソーシャルカンパニー、ソーシャルファームだが、形態的には今のままで不都合がない。
  • 経営的にはタンペレ市の援助がないとやっていかれない。現在は約30%の補助がある。

③Työhönvalmennus Valma Ltd(テュオホンヴァルメンヌス・バルマ・リミテッド)(ラフティ市)

  • 組織:ラフティを中心に広域にわたって8箇所拠点があり、食品加工、木工製品、木工製品のゲーム、金属加工、リサイクルなど6部門と7事務所がある。その部門ごとに、各種の職業訓練が行われている。最初は市町村連合が学習や訓練機関として立ち上げた。その後バロマが一部引継ぎ、30年以上社会的責任を果たす事業を展開している。今では株式会社に転換した。(市場原理で収益を上げ、就労させていく)
  • 理念:「生涯、人として成長し続けるために!」

    専門家の助けを借りて、熱意を持って訓練を受け、成功を手に入れる。
     
  • 経営規模:常勤従業員53名、毎日220名が働いている。2012年には、580名が職業訓練サービスを利用した。その内15%が就労、22%が教育を受ける道を選択、32%がその他に将来設計の道が開けた。30%が失業中
  • 売上高:2012年6,608,741ユーロ(約8億9千万円)(自社製品及びサービスの販売が60%、(約5億3千万円))訓練生たちが大きな力になっている。就労し働く喜びを手に入れるサクセスストーリーを築くための意識改革が大変であった。

◎バルマのリサイクルセンター

  • 運営形態:市民が不用品を持参する。持ち込みは基本的に無料。使用可能で売れるかどうか、また修理可能かテストし、値段をつける。磨いてきれいにして商品化する。家具など売れ残り商品は、値段が下がる。電気器具や家庭用品など1週間ごとに25%、50%、75%と下がっていく。
  • 従業員数:現場職員が13名、失業者などの研修生が50名、研修期間は最高で6ヶ月、研修生の一部は職業学校等へ進学、一部は就労、一部は失業である。失業者は学校との連携が必要。失業者は研修を受けなければハローワークからの手当てが減らされる。
  • 収益:450,000ユーロ(約6千万円)

◎ブランド商品 「モルック誕生」

  • ご案内いただいたベッカ氏が開発プロジェクトリーダーとなり、インダストリアルデザイナーも含めて開発した木製のゲーム用品。フィンランドの地場産業でもある木材、モルックの場合は白樺の木を加工して、木製のゲーム機器モルックを世に送り出した。勿論ゲームの競い方も含めて商品登録され、国際的にパテントもついている。
  • フランス、ドイツ、スペイン、オランダなど世界各地で販売。
  • 売り上げ 年2,000,000ユーロ(約2億7千万円)

【総括】

ソーシャルエンタープライズ法が施行されて11年経つ。一般就労への道は遠いが、約300ユニットものワークショップ、16,000ものの職場及び職業訓練の場ができている。政府は若年層などの失業対策を重点課題にし、理念に掲げた障害者の雇用は進んでいない。しかし、障害者の福祉制度は充実しているので、別メニューで(デイケアー、就労移行など)で訓練しているように感じた。

さすが福祉国家、日本との差を感じた。

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