5.オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ

前浦和大学総合福祉学部 学部長教授
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 参与
寺島 彰

今回、オランダの調査に行かせていただきました。炭谷先生にほとんどカバーしていただきましたので、私の話すことがありませんので、とりあえず文献を中心に、オランダの障害者の雇用と支援制度を調べておりますので、それをご報告させていただき、この後の野村さんには、写真などをたくさん使って、ビジュアル的に、実際に訪問した感じで報告していただきます。資料を新たにお配りしました。袋の下にあります2枚綴りの大きなものがあります。色がついていませんが、2枚のものです。実は昨日までリハビリテーションインターナショナルの総会があり、モスクワにいました。事前資料が十分でなく、途中で追加しました。そういうことで申し訳ありません。報告書ではきちんとまとめていきます。

今日は2枚綴りの白黒の資料を見ていただければと思います。前回のテキストに、最初の部分を追加しています。

先ほどの炭谷先生のお話しの中にありましたように、オランダの社会保障改革について、新たに調べたことについて追加しました。

最初のところの、オランダの社会保障制度改革は、炭谷先生の話にもあった「オランダ型福祉国家」は、よく大陸型福祉国家といわれますが、それを維持するのが難しくなり、社会保障制度改革が行なわれつつあります。大きくは2007年と2015年に行ったそうです。

まず、2015年の改革です。見学先で「2015年から」というコメントが多かったので、2015年の改革の影響力の大きさを感じ、調べてみました。

この図は引用文献からもってきました。もともと医療保険、介護保険のような制度、社会福祉法、障害者法というのがあって、2007年に社会福祉法と障害者法がWMO法となり、さらに2015年に、介護保険のような制度のリハビリテーションのような部分が医療保険に移り、施設介護だけが残りました。介護保険のようなと言う意味は、介護保険という保険制度があるわけではなく、他の制度に含まれているためです。

また、介護保険のような制度の生活支援の部分などはWMOに移った。さらにWMOの中に、これまで行政機関が中心にサービスを提供していたものを、民間の人たちに支援を求めるという制度改革が行われた。例えば、ソーシャルヴァイクチームという、民間の地域ケアで支援する。民間の専門家が支援するといった制度に変えました。

2015年の改革にあたり、アレキサンダー国王が2013年9月に20世紀型の福祉国家は終わった、国全体として今までのオランダ型福祉国家を辞める、地域福祉、地域を中心としたシステムに変えていくと宣言しました。

このような2015年の社会保障制度改革が進んでいる中、私たちが訪問をしました。

次に、健康保険制度の改革、長期医療ケア制度改革、社会支援法の制度改革について説明します。長期医療ケア制度(WIz)は日本で言う介護保険に相当するものです。社会支援法の改革も2015年に実施されています。

次にオランダの障害者関連制度についてです。社会保険制度には、障害者に関わるものが大きく2つあります。

国民健康保険制度については、すべてのオランダ居住者に加入が義務づけられていて、社会保険銀行が掌握しています。また、被用者保険制度は、オランダで働く人に義務づけられており、労働者保険事業団が管理しています。それぞれのカバー範囲を次に示します。

訳語が正しいかどうか分からないですが、国民保険制度は、老齢年金、児童手当、遺族手当、長期医療ケアをカバーしています。長期医療ケアは、先ほど述べた介護保険に相当するものです。国民保険制度がカバーするのがこの4領域です。

被用者保険制度は3つの領域をカバーしています。失業給付、傷病手当、障害手当があります。各制度について説明します。

長期医療的ケアは、先ほど申しましたとおり、特別医療費という介護保険に相当するものがこれで、名前も変わっていて、WLMZです。対象者は高齢者、障害者などです。

長期および短期入所を残し、それに伴う治療や措置は残っています。2015年に改革がありました。やはりこの年が大きな改革の節目だったと言えます。現地の論文を読むと、2014年改革と言ってるようですが、日本の論文では2015年になっており、2014年に制度が変わり、実際に施行されたのが2015年ということらしいです。入所決定がかなり厳しくされて、以前はそれほど厳しくなかったのですが、ケアーニーズ評価センターというのが、長期医療的ケアが必要な人を決定するとなりました。こうした厳しい部分が2015年に出ています。

失業給付については、部分的または完全に仕事を失うと支給されます。

雇用履歴により額と期間が決まり、このあたりは日本の失業保険と似ています。働けるかどうか、最小限の就労をしていたかという条件もあります。最短でも3ヵ月受給できる。就労期間で受給期間が決まる。期間は長い。以前、失業者がここに全部入っていました。それが、オランダ病などの問題につながっていました。このような、寛大な制度がオランダの特徴でした。

最初の2ヵ月は、過去12ヶ月の75%、それ以降が70%で、これも寛大な印象ですよね。

インターネット上の申請がほとんどです。窓口とかではなく、ネット利用ができないと生きていけない社会になっています。傷病手当金も日本と似ていて、給与の70%を最低2年間、雇用主が支払います。この雇用主というところが日本と違います。これもかなり寛大で、2年間のうちに契約期間が終了したら、雇用主ではなく政府が支払うとか。2年過ぎると障害手当を申請できます。障害手当は大きく2種類あり、成人の手当とWajong障害手当という、若者の手当に分かれています。

成人向けの手当は、Wajong手当以外ということですが、Wajong手当は18歳ですでに慢性の病気があったり障害があったりする人へ支払う手当です。若者の最低賃金の75%を受けとります。

成人の障害手当は、今回の改正の対象ではなく、若者の手当の改正が行われている。失業手当に引き続き障害手当がもらえることがあって、以前1980年代には、失業手当に引き継いで障害手当を受給する失業者がはいってきてしまい、そのおかげで55歳以上の高齢者の3分の1が障害手当をもらっている状況になったことがあります。オランダ病と言われて、社会保障費の増大をなんとかしなければならないという状態がありました。

今回の改正では、このWajong障害手当という18歳以前に発生した障害による障害者手当について、切り込んでいます。

2015年の福祉制度改革として、地方分権化が行われました。社会福祉関係の仕事を地方自治体に移しました。

その結果、それまで国が中心に行っていたことを自治体の独自性に任せたため、国全体としての姿がなかなか見えにくい気がします。

長期医療的ケア、これは介護保険に相当するものですが、利用が厳しくなりました。社会支援法という介護保険の生活支援の部分を受け入れたものや、社会参加法は、障害者関係の制度が2015年1月から施行され、それに伴って、Wajong障害手当の改革が行われています。この障害手当の受給基準を厳格化しました。20%以下の労働能力の人に、手当を限定しました。

それまではもっと広い範囲の障害者も、手当を受けられていたものを、2015年から20%の労働能力を、厳しく判定するのだそうです。その判定の結果、20%を超える場合は、この対象にならない。20%以下が、Wajong障害手当を給付する。それ例外の方は働けということらしいです。社会参加法は新しい法律で、2015年1月1日に施行されたそうです。

また2014年に保護雇用を廃止し、シェルタードワークショップに相当する社会適用事業所は新しい利用者を受け入れてはいけない、となりました。それによって障害者を一般就労へと誘導するとしています。

またWajong障害手当を受給していた人などのために障害者の働くポストを用意しています。政府、全国の雇用主協会、労働組合、地方自治体協会が協定し、12万5000人分のポストを用意するとしています。民間が10万で公的ポストが2500です。

重い障害のある方には手当を出します。それ以外の方のためには、こういうポストを用意しますので、そこへ就労してください、という形の制度改革です。

かといって、Wajong障害手当受給者がこのポストには就いてはいけないかというと、そうではなく、仕事に就いてもいいそうです。

手当を受けられない方が職業ポストに就けるように、民間・公的団体も用意しなさいと決めたのが、社会参加法だそうです。賃金は通常賃金が支払われます。労働能力の不足分は賃金補助として自治体から支払われます。

責任は自治体であり、国ではないのです。自治体がそういう若者の就労に責任を持っている。対象者は、UWV管理局という、年金管理局により管理されます。ここは、手当の管理をしている所で、ポストの割り振りとか、名簿をもっていて、就労しているかを、厳しく管理しているそうです。雇用主が目標を達成できないと、雇用割り当てが課せられます。2026年が最終期限です。

見学先では、雇用率があるのかどうか尋ねましたが、あるという回答であったのですが、何パーセントですかと聞くと、制度を整備途中で○%とはいえないという答えでした。それは一体どういうことなのか、いくら聞いてもわからなかったのですが、こういうことらしいです。つまり、ポストをきちんと埋めることができなければ雇用率を課しますと言っているらしいです。

また、既存の保護雇用対象者は地位を継続するとのことで、シェルタードワークショップで新しい人は受け入れませんが、これまで働いている人はそのまま継続します。そのため、ワークショップで働く人の数はどんどん減っていくことになります。

ただ、再評価は行うそうです。

その後、就労者数が増えたのかについては、報告書が出ていて、それを見ていると、2016年までの評価では、今回ターケットになっている18歳未満の発症による障害者、一般就労は増加しているものの、まだ、2008年レベルにとどまっていて、増えているけれども以前のところまで到達していないとのことです。

また、一般就労の問題点としては、非常勤が多いこと、55%が賃金補助型支援を受けているなどがあるとのことです。また、民間は目標ポスト数を提供したにもかかわらず、政府機関はしなかったために2018年1月に雇用率が導入されたとのことです。毎年、目標が設定されていて、この年の雇用率は25人以上を雇用する政府機関の場合1.93%で、それを満たしていない場合、1ポスト当たり5,000ユーロを払わなければならないそうです。この納付金は1年間の延期ができ、1年間のうち、割り当てが実現されれば、この雇用率は中止となります。

先ほど申し上げました雇用社会適用事業所もソーシャルファームといえばソーシャルファームですが、私たちがとりあげているもう少し狭い定義で言えば、どういう状況になっているかというと、オランダには大きなソーシャル・エンタープライズの団体組織があり、そのうち障害のある方とか、雇用が難しい方を雇うことを目的としている社会的企業もかなりあります。それをいわゆるソーシャルファームと、私たちは呼んでいるのですが、そのソーシャルエンタープライズの状況に関する報告書がありましたので、報告させていただきます。

ソーシャルエンタープライズNLと言うオランダのソーシャル・エンタープライズの団体組織はかなり大きく、ヨーロッパ域内でも有名だそうです。ソーシャルエンタープライズ定義は、欧州委員会の定義を使っているそうです。オランダには特別な法的な地位はないそうです。多くは民間企業ですが、独自の民間としての活動を行っています。

ソーシャルエンタープライズとなるためには、欧州委員会の基準に達していれば、ソーシャルエンタープライズNLが認定します。認定されれば社会的企業として登録、名乗ることができ、ソーシャル・エンタープライズのマークも使用できる。

ソーシャルエンタープライズの活動は、研修会の開催、コンサルテーションなどが中心ですが、それ以外にも、ウェブサイトでソーシャルエンタープライズのリストをアップしているそうです。そこに団体を登録すると、それを見て民間企業や公的な団体が発注してくれる、そういうメリットがあるということです。

ソーシャルエンタープライズNLのソーシャルエンタープライズの数は2018年1月で345です。そのメンバーに調査をしています。2018年の1月~3月のメンバーに対する調査の数によれば、41%が障害者や刑を終えた方、一般就労が難しい方の就労支援を目的にしている。また44%が黒字であるとなっています。

ウェブページに表が記載されていましたのでコピーしました。この部分です。ディレクトエンプロイメントなど、右上の部分がソーシャルエンタープライズのうちのソーシャルファームに相当する部分だと思われます。環境だとか、福祉、国際開発などを目的としているソーシャルエンタープライズもありますが、一番多いのが就労支援だということです。法的地位は、民間の会社が46%で最多で、次にファンデーションです。そうした団体がソーシャルエンタープライズの地位を獲得しています。

設立時期は、1999年より前が7%です。2010~2014年が一番多くて43%です。

まとめです。オランダは雇用主団体、労働組合、地方自治体が協力して、重度障害者の就労先を確保し、保護雇用から脱却するという公的制度改革が進みつつあるが、まだ、実現には遠い状況である。

一方、一般就労が難しい人々を支援する、ソーシャルエンタープライズ(ソーシャルファームと考えられる)は、多く存在するが、公的な支援制度はなく、ソーシャルエンタープライズNLという民間団体が中心となりその普及に努めている。だだし、ソーシャルエンタープライズの資格認定をし、マークの使用を認めるなど活動は積極的であるということです。

調べているうちに、ソーシャルファームの制度化は、ベルギーが進んでいるそうです。オランダはイギリスによく似ています。オランダはイギリスと情報交換をよくしているとのことです。時間ですので終わります。

発表資料

■報告2

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド1(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド2(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド3(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド4(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド5(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド6(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド7(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド8(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド9(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド10(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド11(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド12(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド13(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド14(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド15(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド16(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド17(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド18(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド19(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド20(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド21(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド22(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅰ:スライド23(図の内容)

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