オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ

公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 参与
日本DAISYコンソーシアム事務局長
野村 美佐子

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド1(図の内容)

野村/オランダのソーシャルファーム訪問調査報告ということで、報告します。私は研究者でもなんでもないので、どちらかというとコーディネーターの立場で参加させていただいていますので、報告の内容のほとんど炭谷さんがカバーされています。そのため、私の話は、どちらかというと、もうちょっと分かりやすく写真を多くしてお話させていただきます。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド2(図の内容)

ここが、レーリースタット社があるところで、そこで撮影した写真です。この方が通訳の後藤猛さん。たぶん去年も同じように日本財団の通訳をされたとうかがっています。そして私たち、炭谷さんを始めとしまして、寺島さん、そして残念ながらここに今日いらっしゃらない中崎さんという方も参加しています。最初の写真として、今回の調査に参加しました皆さんが写っているものをお見せしました。また、こちらが訪問先の方々です。こういうふうに毎回最後に証拠写真みたいに出しています。9月23日から27日と本当に短かったのですが、中見の濃い訪問となりました。

先ほどのプレゼンでもおっしゃっていましたが、2015年1月施行の社会参加法は、障害者雇用にすごく影響を与えていると思いました。そのような状況の中、いくつかソーシャルファームなどを訪問しましたので、その概要と、特徴についてお話できればいいかなと思います。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド3(図の内容)

こちらが最初に行ったアムステルダム農福ケアホームオンス・フェルラングです。12年前にデイケアをサービスとして始めたそうです。重度の方が農家に滞在して、農家で過ごすことが可能ではないかと思ったそうです。最初、牛舎のところを改造して7名が住んだのが始まりだそうです。こちらは社会福祉財団となり、他の4つの部署が株式会社になっているそうです。

どういう株式会社かというと、農業やチーズの販売、レストラン経営、その関係の農具や工具を扱う株式会社として存在しているそうです。現在は18歳から68歳までの60名が住んでいます。障害者が全部で60名いらっしゃるのですが、32名が住んでいるそうです。その人たちの障害は、住んでいる方のほとんどが知的障害者で、そのほか、精神障害者、高齢で認知症の人もおります。7%が重度だそうです。

農福連携の中で、セラピーを提供できるのではないかという発想だと思います。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド4

こちらは、すごくゆったりとした感じの写真ですが、左が牧場で、馬がゆったりと遊んでいたので、撮影しました。右側が、メインのホームになっています。農業という、外での活動が好きな人には効果がありますし、動物と触れ合うのが好きな人にも効果があると思います。このようなことが好きでない人には効果がないそうです。たとえば、ここに住んでいる知的障害者の彼女は、こちらで一緒に住みたくないとおっしゃったそうです。このような環境の好き嫌いはあるのではないかと思います。

宿泊できるバンガローもあります。親が知的障害者を連れてきて、この農家で過ごします。子どものお世話は、このケアファームに任せて、親は介護から解放されます。それがビジネスになる、とおっしゃっていました。レストランやカフェなども経営していますが、あまり利益にならないとおっしゃっていました。チーズの販売もあまり利益になっていないと。

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こちらは寮です。左側が、誰が今どこにいるかという情報を、それぞれの方のお名前と写真を使って表示します。右側がリビングで、知的障害者の方が洗濯物をたたむという作業をしているところです。障害者以外は50名のスタッフがフルタイムで働いています。障害者とスタッフの人数は、60対50となっており、かなりのスタッフが働いています。

ケアが仕事となり、ソーシャルワーカーもいますし、自閉症の専門家もいらっしゃいます。しかし、認知症の専門家はいないとおしゃっていました。

国からの補助を受け、そのお金でスタッフに給料を払っているが障害者には払っていませんでした。障害者の活動は、トレーニングの一環であるという位置付けだそうです。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド6

左がウサギ小屋です。実は自閉症の方がパニックを起こしたときに、真ん中の写真の部屋に入ってしまうそうです。こういうところでいいのかなと思いましたが、そこにウサギも一緒に入ることで、落ちつく場所になるということです。右側は高齢者がいらっしゃったので、撮らせていただいたんですが、たまたま高齢者というだけで、高齢者をターゲットにしているわけではないと言っていました。ただ、だんだん皆さん、高齢になってくるわけですから、こういう方が増えてくるのではないかと思いました。

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右はチーズを販売しているところで、左は、空のボトルを洗う作業を行う場所となっております。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド8(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド9

次にレストランマルチセンターのカラーキッチンを訪問させていただきました。ここは料理学校だそうです。ここは一応、株式会社です。商業ベースで行なっていて、イベントホールやカフェ、そして劇場もありました。

創始者はレストランやケータリングの事業を行っているうちに、雇用支援を必要とする人を助けたいと思い、社会的貢献の一環として始めたそうです。4つのレストランを経営し、2つのケータリング会社があり、実際に働く45人のスタッフのうち15人が障害者だそうです。こちらの写真は、セールスマネージャーの人が私たちにお話をしているところです。

料理学校では、週一日、理論やレストランは何かを学ぶそうです。接待に必要な英語やフランス語も学び、4日間は料理やサービスについてプロの指導を受けるそうです。料理学校から実習先がここのレストランになりますが、レストランでは、障害者は、ジョブコーチがついていて、実習を行うことができます。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド10(図の内容)

次はユトレヒト市が100%株主である重度障害者の就労訓練所、UW(ユトレフトワーク)、こちらは去年、中崎さんが行かれたそうです。去年は写真を撮ってはいけないと言われたそうですが写真をとることができました。

1968年に設立され、1000人が働いていて、そのうち100人が支援員、スタッフだそうです。株式会社で100%の株主がユトレヒト市になります。市から独立していて、280の仕事場があると言っておられました。例えば障害者は、清掃、緑化運動、道路や公園の管理、花のサービス、郵便配達などを行っているそうですが、どちらかというと派遣という位置づけです。清掃の場合は、その場所に行って働いています。

いろいろな職種の訓練もあります。例えば、警察署、消防署、販売などで現場訓練をします。オンザジョブトレーニングで、教育は重要だと言っていました。訓練とコミュニケ-ションの機会を提供している場所でもあります。また、オランダは、150ヶ国から、難民、移民がくるので、オランダ語を教えて、コミュニケーションがとれるようにしていくというのも、1つの事業になっているともうかがいました。そういった人たちの雇用の場所でもあるそうです。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド11

それから、作業しているところを見せていただき、写真も撮らせてもらいました。右側はパッキング作業で袋につめていきます。クリスマスのときなどパッキング作業として、いろいろなギフトをラッピングする作業をします。ここはどちらかというと、デイケアセンターのような感じがしました。2015年の社会参加法により彼らの給料は最低賃金プラスアルファ15%と言われているそうです。この額についていろいろと問題になったそうで、25名以上の会社は労働組合が決めるのではないかというお話もうかがいました。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド12

こちらは、食堂です。カラフルだなと思いました。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド13(図の内容)

こちらは、オランダ社会雇用事業所全国協会のCedris(セドリス)ですが、10年前にも訪問したところです。社会福祉事業者でこちらについて上級製作担当スタッフであるヘレンさんにお話を聞きました。彼女の名刺です。こういう名刺もあると思って、写真を撮りました。なんと書いてあるかわかりますか? オランダ語で「人と仕事に強いセドリス」という意味だと思います。標語付きの名刺になっていました。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド14(図の内容)

こちらの団体については、スライド(53頁参照)にこの特徴について箇条書きにしました。保護雇用、社会雇用事業者の全国協会で100社の代表をしているといいます。さまざまな活動をしておとり、その中にはロビー活動もあるし、情報共有もあるということで、2014年まではセドリスが障害者雇用を独占していたそうですが、2015年の社会参加法以降、誰でも会社が立ち上げられ、その意味で先ほど説明いたしましたカラーキッチンもその一つではと言われていました。

それから国からの補助金が事業所へ直接ではなくなったのです。自治体を通してくることで、いろいろ不都合なことが出てくると言っていました。その間に立つのがセドリスで、市場の要求に応じることで意義がある、社会的利益になると言っております。参加法による対象者はかなり広がったとのことで、その意味では良かったと思います。障害がある人や、社会的な問題がある人など、難民にも対応しているということでした。

障害者も労働市場で正社員として働くようにすることは、世界的に目指していることですが、実際にはできないのでいろいろなことを考えているそうです。雇用者、被雇用者、労働組合などが障害者雇用の割り当てにも同意したが、まだ実施されていません。

ただ、労働市場に行けない人が必ずいるわけで、そういう場合はセドリスに来るが、これは第2の選択だと思っていると話してくれました。

会員を支援するだけではなく、企業に呼びかけて助言を行っています。企業の人にこういう人がいるという理解をしてもらい、障害者を雇ってほしいからです

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド15(図の内容)

次にソーシャルファームであるヨーストラ・ストゥール・ヘルゾルハー社の紹介です。ヨーストラは、中古椅子修理リサイクル販売の社長であるヘンリー・ヨーストラさんの名前から付けたと思われます。彼に話を聞きました。

この会社は、こちらのステーンヴェーク市とハードヴェーグ市にあるそうです。2012年に1人で椅子の改修の会社を立ち上げたそうです。近くに社会福祉の団体があったので、彼らと一緒にやりたいといって始まったそうです。18歳~30歳までの視覚障害者、精神障害者、自閉症スペクトラム障害の人たちを受け入れ、従業員は全部で45人、そのうち15人は障害を持たない正社員で、30人は2015年から障害者の登録のあるUVW(社会保険庁)からくる派遣の人たちです。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド16

こちらが実際の現場です。広いですね。正社員の15人中、8人は仕事をしながらトレーニングをしています。2015年からの社会参加法により割当雇用というのがでてきたので8人を正社員にしないといけないが、できていないと言っていました。意外に法律はあまりきつくないのかなと思っています。

一番右の下の写真は、オランダの国王がきたということで、誇らしげに説明をしてくれました。

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こちらがソーシャルエンタープライズのロゴになります。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド18(図の内容)

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド19

こちらがレーリースタット市の職業実践企業です。社長であるオノ・フェルモーテンさんにお話していただきました。ここは、敷地が広くて教育、訓練、会社経営の3つの組織で構成されていますが、目的は、通常であれば働けない人を支援して一緒に働くというゴールは同じです。3つの自治体が関わり、1000名の人が働いており、600名が重傷の障害者で、ここで継続して働きます。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド20

右側の写真は、レーリースタット市にある国立海洋史センターのバタビア号の完全な復元船です。左側は、帆船のレプリカを作っている現場で、大工になるというプロジェクトがあるという話も聞きました。右は私が撮影したもので、実際に行って見ました。行ってみると良いと思います。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド21

左側の写真にあるボードを見ながら、説明をしてくれた社長さんは、やたら「カイゼン」という言葉を使っておりました。問題は、みんなで話し合って解決策を出し合うことが重要だと言っておりました。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド22

左側は、清掃の訓練場で、右側の写真がオランダ国王が来訪した時の写真です。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド23

ここは、いろいろな事業も行っていて、その意味ではUWとあまり変わらない事業を行っているなと思いました。やはり自治体との共同で行う事業は似通っていると思いました。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド24(図の内容)

こちらが最後に訪問したウエストランド市のパティネンブルグ社です。やたら写真がたくさんありました。写真をうまく使っているのだなと思いました。1953年に個人のイニシアティブで始まり、保護雇用法(WSW)のもとで運営され、財団であったが2017年から株式会社になりました。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド25

ウエストランド市副市長さんと昼食会です。リハビリテーション協会について、またソーシャルファームジャパンの話などを炭谷さんがしているところです。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド26

こちらは、パティネンブルグ社の職場になります。左側は、航空会社が発注したゴミ箱を作っているところです。オランダのいろいろな企業が関わっていると感じました。

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次の写真は、障害者を雇用しているライクスワーン会社を訪問した時の写真です。右側の写真は自分たちが作ったという有機野菜です。おいしそうなので撮りました。

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次の写真は、世界園芸センターで、右側の写真は、センターで働いている障害のある人との面談を行いました。何の問題をなく働いていると話しておりました。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド29

最後はグローバルな植物栽培成長と、そのための土の発根培地のトップメーカーである会社を訪問しました。ファン・デル・クナープ社です。ここでも障害者を雇っておりました。

オランダのソーシャルファーム訪問調査報告Ⅱ:スライド30(図の内容)

さいごに、オランダの素敵な場所をご紹介します。水の都で干拓地という印象がすごく残りました。そういった風土を生かす雇用の仕方もあるかなと思いました。また今のところ、自治体との連携の中で障害者雇用が行なわれていると、すごく感じました。また、ヨーロッパの国々では、国連障害者権利条約がもとになって、障害者の参加に注目し、参加を促進する法律も作られてきています。オランダにおいても、社会参加法の下で障害者の雇用がさらに促進することを期待したいと思います。

5.セドリス(オランダ社会雇用事業所全国協会)

  • 保護雇用と支援付き雇用を提供する社会雇用事業者の全国協会で100社の代表
  • 90%は、自治体が株主で、10%が個人の企業である。
  • 障害者雇用のコストと補助金の差額を縮めるためのロビー活動と情報共有
  • 2014年までは、セドリスが障害者雇用を独占していたが、2015年の社会参加法以降、誰でも会社を立ち上げることができるようになった。
  • 国からの補助金は、自治体にいき、市場の要求や需要に合わせるところにおいてセドリスの意義があり社会的利益となる。
  • 参加法により、対象者は、少年院で問題がある人、難民、刑余者などに広がる。
  • 障害者を労働市場で正社員として働くようにすることが重要
  • どうしてもできない場合はセドリスに来ることになるが、これが第2の選択
  • 会員を支援するだけでなく、企業への助言を行う。
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