韓国現地調査報告

野村美佐子

はじめに

2018年9月27日と28日にかけて行ったソーシャルファーム現地調査において、訪問をした5か所についてそれぞれ報告をしていく。なお、ここでは社会的企業という言葉をソーシャルファームと同じ概念で使用する。また取材から得た情報を基本的にまとめている。

韓国社会的企業振興院(KoSEA)

今回の韓国でのソーシャルファームの実態調査について、全面的に協力をしていただいたのが韓国政府雇用労働部の外郭団体となる韓国社会的企業振興院(以下振興院)である。

訪問の際に振興院の部長であるソン氏(Namchul Song)が対応してくれた。

写真01
振興院の受付

写真02
中央がソン氏

振興院は、社会企業育成法が2007年に施行され、2010年に改正された時、第20条をもとに社会的企業を育成し、促進するために設立された。さらに2012年の改正において条文が整理され、第21条のもとで、振興院は、雇用労働部長官から社会的企業の活動に関する実態調査、社会的企業認証に関する業務、定款などの変更に関する報告書の受理、教育訓練の実施などが委託されている。

また、振興院は、2012年に制定された協同組合基本法116条により協同組合のセルフサポートの基礎を形成するための貢献も担うことになった。

現在、4つの部門(企画・管理部門、スタートアップ・起業支援部門、持続可能な育成支援部門、協同組合部門)と13のチームで構成され、100人のスタッフがいる。以下のサービスを行っている。

1.社会的企業と協同組合の研究と育成を行う。
2.社会的企業と協同組合のセルフサポート力を強化する。
3.社会的企業と協同組合の持続可能なエコシステムを構築する。
4.調査に基づいた政府による政策作成を支援する。

ソン氏に韓国の社会的企業の実態について聞いてみると次のようにまとめられる。

最初に社会的経済の定義から始まった。民間による活動で2つ目的がある。社会的価値とビジネス活動である。社会的価値は、①仕事を作り出す。②社会サービスを提供する、③地域社会を活性化するという3つがある。その一方で、ビジネス活動で利益を作り出すとしている。この社会経済の考え方が社会的企業に大きく影響しているようである。

社会的企業は、脆弱階層に社会サービス又は仕事場(就労)を提供し地域住民の生活の質を高めるという社会的目的を追究しながらビジネス活動を行う雇用労働部の認証を受けたものとなる。2018年の5月の統計によると、社会的企業として認定されたのが1,937社、予備的な社会的企業は1,291社で合計3,228社となっている。

それに対して、協同組合は、法人格があり、以前は、農業などの大規模の場合、特別な法律があったが、2012年の協同組合基本法が制定されて以降、5人以上の小規模の組合は、一般協同組合と呼ばれている。2018年7月現在、登録された協同組合は、13,626か所だ。登録制であることから、認定制の社会的企業より多い。協同組合の92%が一般協同組合で、社会的協同組合、一般的協同組合連合会、社会的共同組合連合会がある。

上記2つの社会的経済のための制度的な枠組が構築され、経済と財政状況が引き上げられたと考えられている。

社会的企業として認証を受けるためには、7つの要件を満たさなければならない(下記参照)。そのうち2つか3つ要件を満たされなければ予備的社会的企業となる。認証を担当しているのは、労働省であるが実際の業務は振興院が行う。予備的社会的企業は、政府や地方公共団体が行っていて、その場合認定ではなく指定という。また認定を受けるために必ずしも最初に予備的社会企業になる必要はない。社会的企業の目的は、5つあり、①雇用提供、②社会サービス提供、③地域社会貢献、④混合型、⑤その他となる。認定されると人件費、運営費、敷地購入費・施設費の支援、法人税・所属税の減免などがある。

社会的企業の認定については以下の7つの要件を満たさなければならない。

1.法律的に独立した組織形態を備えている。(法人格がなくてもよい)

申請を出した企業の代表者は2つの社会的企業になれない。

2.有給の雇用者

最低賃企業の金額をクリアする必要がある。しかし重度障害者の場合は除かれる。

3.社会的目的の実現

先ほども説明したが、職場提供型の場合、全体の雇用者の50%が社会的弱者でなければならない。実際は30%のところが多い。対象者は、55歳になると雇用されないので高齢者、低所得者、結婚した外国人、脱北者、職のない人、ホームレス、療養者などが対象となる。一般的な人に関しては、専門家とか使命感のある人が多いのではないかと思うが、若者にとって誰でも働ける場所である。またスタートアップのサポートがあるので、現在、約1,000か所で、今後、2,000か所以上を目指している。社会的企業で働いているのは、高齢者、障害者、そして低所得者で収入が全体の60%以下というように対象者は広いと考えられる。

4.利害関係者が参加する意思決定の構造がなければならない。

民主的に運営するためにこのようにした。

5.ビジネス活動を通して一定以上の収入があること。

政府省庁、民間からの補助金は認められない。

6.法律で定められた定款、規約を備えること

7.利益の社会的目的への再投資が必要である。

社会的目的に利益の3分の2以上を再投資しなければならないが、現実的には社会的企業の維持のために広い意味での再投資も可能となる。

社会的企業に認証されても途中でやめる事もあるが、そのための歯止めの策はない。今後、認定制度を維持しながらも登録制度に移行することも考えているそうだが、いろいろな問題が出てくるので、社会的価値を評価する方向になるのではないかと述べている。認定制度の取り消しについては、毎年事業報告書をもらって4月と12月にモニタリングをしているが、年間100カ所が取り消されている。なお、新規が400か所である。社会企業の生存率については、2007年から2017年をみると80%~90%になる。人件費支援について、最低賃金の補助が5年間補助されること、政府支援が多いこと、社会的企業から購入を優先すること、メンバーの認識が高いことが反映していると振興院では考えている。また、やっている人がどのくらい社会的思想を持っているのかにかかってくるのでその心と責任感があれば生存していくのではないかと考えていることだ。なお、認定の取り消しは、雇用労働部が行う。

社会福祉法人カナン勤労福祉会館

同施設の所長であるPaik Sueng-Wan氏に対応いただいた。

写真03
説明と館内を案内してくれた所長

カナン勤労福祉会館は、知的障害者に仕事をする機会を与えて、リハビリテーションを行いながら積極的に自立や社会統合を実現するために1995に設立され、1999年に障害者リハビリテーション施設としてオープンした。2008年に知的障害者に職場提供を行うための社会的企業として認定されている。2011年には、京畿道代表社会的企業に選定された。カナン勤労福祉館は、現在、43人の障害者がいる。その内訳は、知的障害(39名)、精神障害(1名)、肢体障害(2名)、発達障害(1名)である。そして彼らに対応する18人のスタッフがおり、その70%が専門家として働いている。障害者全員に最低賃金として600,00~700,000ウオンを支払っている。やめる人がいないので高齢化している。社会的企業になって3年間の人件費の補助があったが、現在はないとのことだ。

主な仕事として、2003年よりトーナーカートリッジリサイクル事業を行っている。使用済みカートッジを分解して、残りの廃トナーを除去し、再利用に不適切な部品とドラム・ワイパーブレードを交換して、新しいトナーを詰め再利用できるようにしている。売り上げは、1億8,000ウオンである。成功している事例である。その理由の一つに公共機関(保健福祉部、ソウル市庁など50か所)の協力納入や重度障害者施設として製品の優先購入があることだと説明していた。

また、他の事業として相談事業、社会リハビリテーション、地域リハビリテーション、広報事業があり、その他雇用支援、作業能力向上のための作業などがある。

館内を案内してもらったが、地下には講堂、一階は事務室や作業場、製品の保管室があり、2階には食堂、3階は屋外運動所がある。作業場では障害者等が楽しく働いていたことが印象的であった。

写真04
様々な印刷機が置かれていた。

写真05
作業を行う障害のある青年

希望の職場(A Work Place of Hope)

ここでは、キリスト教の神父で聖公会に所属するYoo Chan-Ho氏が所長で日本からの視察に対応していただいた。

ソウル市は、20万人ぐらいの精神障害者おり、ソウル市の就労支援として設立された。インチョン市にある県外施設だが、農業の場所として適切なところで、おいしいお米が生産されるとのことだったのでこの場所が選ばれた。2016年からこの事業が始まったばかりだ。母体は、社団法人障害検疫問題研究会である。ソウル市からは、年間約2億ウオンをスタッフの人件費と運営費として提供される

この施設の定員は、30人であるが20人の精神障害者が働いている。40代中心で彼らのほとんどが雇用された経験がない。作業は、近隣で生産されたお米を買い、精米をして販売をする予定であったが、利用者にとって難しい作業であり、そのための予算も必要なのであきらめて精米のみ仕事をすることになった。機械を使って行うので作業が自動化しているので障害のない人がする場合3人ぐらいでできる仕事を20人でする。

また、作業自体がシンプルなので負担がない。しかし、意欲もなく集中力もない利用者である。そう意味で、通勤することも必要な活動と考え、次のような日程で、一日6時間の労働を行う。

1日の日課表

09:40-10:30 金浦空港4番出口出発 →雲水里(地名)経由
11:00-12:00 朝の集会 一日の日課計画
12:00-13:00 昼食
13:00-16:00 勤労活動(精米)プログラム
16:00-16:50 勤労活動及び終わりの集会
16:50-18:00 出退勤訓練

写真06
作業場

1人、賃金として4万7000円が支払われる。(最低賃金13万円)。ここの希望者については、精神障害者保健センターを通して募る。

社会的企業の認定を受けるつもりはないとのことだ。その理由としてソウル市と協同で始まり、すでに述べたようにこの職場のスタッフの人件費と運営費があるからだそうだ。

ソウル革新パーク(Social Innovation Park)

ここで対応していただいたのは、ウェブサイトの構築を行っている団体の委託を受けて革新パークについて説明をするスタッフであった。

巨大な敷地を使用してソウルイノベーションパークとして再開発中であるという。資料によれば、そこは、入居団体は、文化・芸術、環境・生態・エネルギー、製造・生産・流通、ネットワーク・支援、建築・空間、福祉・人権、IT、メディアなどの入居団体と革新家で構成される。また、活動と空間があるという構成になっている。観光スポットにもなっているようである。

写真07
パークの全体図

社会的革新というのは、市民中心で、日常的な問題の解決法を捜すことだとの説明があった。たとえば、環境問題であったり、自転車の問題であったり、身近な市民の問題の解決である。現在ある建物は、もともと1960年ごろから国立保健院、食品医薬安全省、疾病管理本部として使用していたが、2010年に本部を移転した。その際にどのように使用するのかについて話し合われた。2011年、ソウル市長に就任したパク・ウオンスン(朴元淳)氏の決定により、社会問題解決のため革新的解決法案が提出された。

2013年から2014年にかけソウル革新パークとしての活用が具体化していった。また、中間組織であるソウル市マウル(町)共同体総合支援センター、ソウル社会的経済支援センター、ソウル市青年ハブ、ソウルシニアセンター、ソウルクリエティブラボなどが入居した。2015年には、ソウル革新パークを活性化し、革新家と市民をかけはしとなるためにオープンし、第一次入居を募集した。そこは、革新家にとっては多くの社会問題をみんなの力を集め解決する社会革新プラットフォームであり、市民にとっては、特別な学びと遊びを365日体験できるクリエティブな公園になるとしている。

2016年には、第2次募集を行った。中小規模建物改修工事が完了し、女性家族複合施設が入居した。同年、上記のソウル市長が新年の挨拶の際に「今までの4年間ソウル市政に大小を問わず多くの変化と革新がありました。市民を市長として敬う協力が市政の基盤となりました。革新は誰も抗えない市民の原則になりました。協力と革新は今ではソウル市政を象徴する単語となりました。」と述べている。この革新パークの理念を表している。

2020年までの3段階の再開発計画であり、一段階が終わったところだそうだ。現在(2018年9月)、ここには、全部で136か所の団体が入居し、未来館には228の団体が入り、青年ハブ館には、青年だけが入れ、39の団体が入る。文化・芸術は65の団体が入る。具体的にどのような組織が入っているかというと、中間組織として、ここを管理するソウルイノベーションセンター、ソウル市社会的経済支援センター、ソウル市協同組合支援センターなどである。またその他入っている組織として50+西部キャンバスの団体は、50歳をすぎると仕事がなくなるのでその後のキャリアの教育の場となる。世界とも関わり、「美しいコーヒー」が2002年に韓国で初めてフェアトレードビジネスを始めたが、2014年に財団となり、ここに事務所を構えている。

写真08
未来館の入口

写真09
一階

美しい店財団(Beautiful Store)

今回の美しい財団の事務所の訪問では、戦略部長であるYeun Ghab Jung氏に対応していただいた。2002年に美しい店が設立されたが、そのときの創設者の一人がソウルの市長だそうだ。但し、市長になる前のことだそうだ。社会的企業の育成法の認定第2号である。雇用の創出と社会サービスの提供をしているの混合型の社会的企業となる。

美しい店の使命は、「すべての人の参加を通して「分かち合い」と「循環」の美しい世界を構築すること」である。こうして韓国にリサイクルの文化を定着させた。市民からいらなくなったものを寄付してもらい、それを販売することで得たお金で慈善事業を行う。たとえば、売り上げからお店の賃貸料や人件費を引いて、約18%を地域に配分する。あるいは、お年寄りに対して生活用品を渡している。また学校などで教育の一環として環境やリサイクルの重要性を話している。さらに開発途上国にたいして支援を行うという活動を行っている。

仕事の流れについて次のようなスライドを用いて説明をしてくれた。

写真10

また、リサイクルの事業以外に以下のような事業を行っている。

  • 公的なリサイクルのキャンペーン
  • 慈善活動
  • ボランティア活動の場所の提供
  • フリーマーケットの開催
  • フェアトレードの事業
    外国の製品を適切な価格で輸入することで、発展途上国の中小企業の支援を行う。
  • 「エコパーティ・メアリー」というブランドとして、アクセサリー革製品を再利用した鞄やエコバッグの制作をおこなう。
  • 国際的な開発プログラムや小規模の社会的企業の支援のために寄付活動を行う。

現在、韓国には、110か所に店舗がある。今までに2215人が寄付をしてくれ、250万人が買ってくれた。40人のスタッフに対して、ボランティアとして週一回4時間以上働く人は3500人がいるという。買ってくれた人は、購買天使、ボランティアはボランティア天使、寄付をしてくれた人は寄付の天使と呼ばれるという。売り上げは、2017年は40億ウオンであった。

おわりに

韓国においては、社会的企業と社会的協同組合という形態でソーシャルファームが発展している。そして上記2つのサポートを行うのが韓国社会的企業振興院である。日本においてもソーシャルファームを普及させるためには、法律での位置づけと振興院のように国と民間の事業者をつなぐ役割を担う組織が必要であると考える。

menu