第1回「リハ協カフェ」が開催されました

東京農業大学 教授 杉原たまえ

2020年8月21日13時半より、リモート(ZOOM)を利用した第1回「リハ協カフェ」が開催されました。冒頭、君島淳二氏より本年6月に日本障害リハビリテーション協会常務理事に就任した挨拶を兼ねて、カフェ開催のご挨拶をいただきました。今年度は、新型コロナ禍により国際リハビリテーション協会の活動も限定されている中、昨年度開催したRIアジア太平洋地域会議(マカオ)の報告会やバングラデシュからの来訪・報告会のような活動を継続するために、オンラインを駆使した「リハ協カフェ」が立ち上がったことが紹介されました。1時間半の開催時間内に、以下2本のご報告がありましたのでその要旨と質疑応答の概要をご紹介いたします。

報告1 「証言:RI の盛衰―転換期となった 1980 年総会・第 14 回世界会議―」

松井 亮輔氏:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 副会長・法政大学 名誉教授・RI 日本ナショナルセクレタリー

松井先生の写真

ご経験をもとに「証言」という形で、1922年にシカゴで設立された国際リハビリテーション協会(以下RI)の「盛衰」についてご報告いただきました。

【要旨】1969年のRI総会および第11回世界会議(於:ダブリン)では「リハビリテーションの10年」宣言および国際シンボルマークが採択されるとともに、とくに途上国の障害者を支援するため「地域に根差したリハビリテーション(CBR)」の実践が紹介された。同宣言は、1968年にRI事務局が各国加盟団体の協力を得て実施した調査結果から人口10人に一人が「障害者」であることが明らかになったことを踏まえたものである。この調査結果は、ユニセフなどがその後障害問題について国際的啓発キャンペーンを展開するきっかけとなった。また、CBRでは、障害者の4分の3がリハビリテーションサービスへのアクセスが困難な途上国の農村部で生活していることが強調された。こうしたRIの取り組みも参考に、WHOは1978年にヘルスケアと介入にCBRアプローチを優先する「アルマ・マタ宣言」を採択した。さらに、1976年の国連総会では「障害者権利宣言」(1975年採択)を国際的に周知するため、1981年を「国際障害者年」(そのテーマは「完全参加と平等」)とすることが採択された。そして「完全参加と平等」の実現を目指す行動計画の策定作業でもRIは、国連事務局からの要請を受け協力した。

1980年にカナダのウィニペグで開かれたRI総会では、「規約改正」と(同世界会議で公表される、国連障害者の十年・世界行動計画のたたき台ともいうべき)「80年代憲章修正」が一部加盟団体から提案された。前者の提案は、RIの意思決定にかかわる役員の過半数を障害者当事者から選ぶというものであり、後者は、同憲章に掲げられている「平等な参加」から「機会均等化」への修正提案であったが、いずれも否決された。こうした総会での提案否決が、同総会および世界会議にあわせて同じホテルで開催された、国連主催の国際障害者年準備会合に参加した250人以上の各国の障害者リーダーによる「障害者インターナショナル(DPI)」設立(1981年シンガポール)の契機となった。その後、障害者権利条約の制定を求める「第三千年紀宣言」が採択された1999年総会(ロンドン)を経て、2000年には「障害者の権利に関する世界障害NGOサミット」がRIのイニシアティブにより北京で開催された。これらの一連のRIの取組が、2006年国連総会での障害者権利条約採択につながったともいえる、その意味では障害分野でRIの果たして来た役割は高く評価できる。

しかし、障害者権利条約の制定過程以降、障害者の完全参加と平等実現に向けて障害当事者および当事者団体のエンパワメントへの支援が重視される新しい国際環境のなかで、RIがどのような役割をになっていくのかについて、組織内で十分なコンセンサスができていない。そのため、国際舞台でその立ち位置を明確化できず、障害者権利条約の履行と支援に積極的な役割を果たしている国際障害同盟(IDA)や国連といった主要組織と連携が十分とれないことにつながっている。さらに、RI組織内部の問題として、①障害当事者団体の中には、専門家主導のアプローチへの拒否反応が強くあるなど、RIに加盟している支援団体と当事者団体の混在が組織としての方向性を曖昧にしていること、②本部事務局が深刻な財政難に陥り、会員へのサービスが低下したこと、③加盟団体自体が弱体化したこと、④国連本部近くに本部事務局を置きながら事務局体制が弱体化したため、その地理的メリットを、国連との密接な連携に活かせていないこと、などがあげられる。

1970年代から80年代の黄金時代を経て、2000年代に入って存続が危惧されるようになったRI。こうしたRIの課題を直視し、その現状打開に向けて日本のRI加盟団体として、国際レベル、アジア太平洋地域レベル、国内レベルでの積極的な貢献が望まれる。

【質疑応答】

*弱体化の一要因となった団体の体力について;会費徴収は団体運営上の共通課題。EUが財政サポートしている「国際障害同盟(IDA)」は、スタッフ数も多く、途上国に出向く活動などを活発に行っている。それに対してRIは運営が弱体化していて、かつてあった途上国会員への連帯基金的サポートも維持できなくなっている。RIの会費は、国の国連拠出金に比例した額となってきたが、会費を払えない会員が増えた結果、それが運営上の大きな課題となっている。

*RIの今後について:IDAなどは国連とタッグを組み、権利条約の履行を推進するという明確な目的のもとに活動している。一方、RIは今後、リハビリテーションを主軸に据えていくべきなのかという問いに対し、「日本では、リハビリは医学的なものとして捉えられがちであるが、本来は社会を含めた総合的な概念を有している。当事者の意思を尊重した必要なサービスを地域の中で総体的・総合的に提供できる仕組みをまずは各国内で確立していくことが大事であり、RIとしてやるべき課題はまだ多い。」との応答がなされた。

*リハビリテーションをめぐって:「専門家によるリハビリテーションを高めていかなければ、リハビリテーションサービスは提供できない。しかし、リハビリテーションの中での当事者運動が展開されたことが、狭い意味でのリハビリテーションが伸びていく余地がなくなってしまった」のであり、「RIの弱体化は、本来、障害者運動とリハビリテーションの視点は異なるにもかかわらず、リハビリテーションの中で障害者運動を取り組んだことにある」とする意見があった。 一方、「中途失聴者にとっては人工内耳で話せるようになるリハビリも大事ではあるが、障害者団体としては、運動を進めていくこと自体が大事である。障害者権利条約では、『このままでいい』ということや、『手話自体が言語である』とされているように、運動を進めていくことは人権のリハビリであり、手話は一言語の復活だと思っていただきたい。」という意見や、「個別の障害を軸に形成される障害者団体が大きな役割を果たしていることは誰も疑いません。他方、地域のさまざまな障害のある人々が集まって作る地域を基盤とした障害者団体が成功を収める例もあります。どちらも成功の基本は、障害のある方々自身が持てる力を結集していることだと思います。医療や支援技術あるいはユニバーサルデザインの専門家も、さらに法律家や教育者、政治家も一緒に力を合わせて働けば、その成果は一層のものになります。問題は、障害の違いに注目するのではなく、一人一人が持つ能力と可能性を十分に発展させるための活動をどう進めるのかではないでしょうか。個別の障害のある人もない人も参加して、障害のある人も含めて機会の均等化に貢献できるグローバルなネットワークとして機能すればRIは存在する理由があると思います。」という活発な意見交換が行われた。

報告2 「各国のソーシャルファーム」

寺島 彰氏:公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 参与

寺島先生

東京都は昨年、「都民の就労の支援に係る施策の推進とソーシャルファームの創設の促進に関する条例」を制定しました。このソーシャルファームについて、一般社会ではまだ十分に理解されていない状況にあるため、各国で先行している取り組みについての情報をご提供いただきました。

【要旨】定義はSocial Firm Europe によれば、「障害者など労働市場において不利があるそのほかの人々を雇用するために作られたビジネス」であり、福祉事業ではないことがまずもって大事な点である。具体的には、「商取引の5割以上が企業活動によるもの」「従業員の3割以上が労働市場で雇用されない人々を雇用する事業」などの取り決めがある。

ソーシャルファームは、1970年代にイタリアで始まる。イタリアでは、「社会的協同組合B型」がソーシャルファームに相当し、特徴として企業主の社会保険料が免除される。ドイツでは「社会統合企業」が相当し、政府主導で始まったため、投資費用の補助や給与補填が手厚い。「社会的法典」に依り、雇用対象者である重度障害者の割合は30~50%(上限アリ)である。一方イギリスでは、ソーシャルファームを支援する法律や直接的政府支援はなく、社会的企業の一形態として位置づけられ、民間チャリティー団体の活動が中心である。具体的な形態としては、保証有限会社、株式会社、産業・共済組合、コミュニティ利益会社がある。イギリスやイタリアをモデルとした独自の社会的企業を成立した韓国では、1998年のIMF危機への対応として着手されて以降、各種法律や認証制度など各種制度を整えてきた。韓国では、政府による社会的企業育成支援が手厚く、広範囲の「脆弱性を有する人々」が雇用されている。オランダでは、保護工場が主体であったが、2015年以降、制度改革による保護工場撤廃以後、ソーシャルファームの育成に着手しているがまだ保護工場から抜け出せていない。

【質疑応答】

*職業リハについて:専門職養成の歴史は100年、ジョブコーチ10年程度の歴史があるアメリカでは、障害者の雇用が最終目的であり、障害者の就業には職業リハの専門家が関わっている。職業リハビリカウンセラーが制度化され、現在1万8千人の有資格者がいる。ソーシャルファームにかかるリハ専門職の養成はされているのかとの質問に対し、大学での講座をもつところもあるとの回答があった。

3.最後に

今回の参加者は、25名(登壇者2名、一般17名、主催者・事務局6名)でした。はじめてのリモートでの報告会でしたが、ネット環境に縛られない限りどこからでも参加できるこのような報告会を、これからも開催し続けていただけたらと思います。次回は10月下旬開催予定とのことです。

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