特定非営利活動法人ソルウェイズ 医療的ケア児の未来を創る重症児者デイサービスでの取り組み

「新ノーマライゼーション」2022年2月号

特定非営利活動法人ソルウェイズ 代表理事
運上佳江(うんじょうよしえ)

特定非営利活動法人ソルウェイズは札幌市に住む医療的ケア児の母親たちが、重い障がいや医療的ケアがあっても利用できる児童発達支援や放課後等デイサービスがないということから2017年1月にNPO法人を設立し、同年4月に重心型の児童発達支援と放課後等デイサービスの多機能型の事業所を札幌市内に開所しました。定員は1日5名で、事業所を運営できる最低の人員配置基準のスタッフでスタートしました。利用児のほとんどは札幌市内で小児在宅医療を行っている病院の患者さんが中心で、居住地域も札幌市内全域にわたり、開所して1年経ったころにはすでに定員は満員となりました。

翌年6月には事業所を市の中心部のより広い場所へと移転をしましたが、札幌市のどの地域に住む医療的ケア児も居住場所から近くの事業所へ通うことができるようにと特別支援学校の周辺地域に事業所を展開することを決め、2019年8月には札幌市の北区に多機能型重症児者デイサービス モアナ、2020年3月には南区に重症児デイサービス リノキッズ、2021年10月に重症児デイサービス ラナキッズを開所しています。また2020年4月には札幌市の隣の市の石狩市で運営していた重症児デイサービスあいキッズも当法人に合併しました。多機能型重症児者デイサービス モアナだけは「者」が入っており、法人内で唯一の放課後等デイサービスと生活介護の多機能型の事業所となっています。他はすべて児童発達支援と放課後等デイサービスの多機能型で法人内すべての事業所の定員は5名です。

主として重症心身障害児を対象とする障害児通所支援事業は人員配置が看護師、保育士または児童指導員、機能訓練士の配置義務があり人員確保が非常に難しく開所へのハードルも高くなりますが、専門職の手厚い支援体制であるということもいえます。それゆえ、個別性が高い重症心身障害児で医療的ケア児を安心安全に受け入れることもできるといえます。

0歳から就学までの児童が利用できる児童発達支援、また就学児で小学校から高校卒業まで利用できる放課後等デイサービスは、共に児童福祉法に規定される障害児通所事業の中のサービスです。当法人の各事業所の児童発達支援事業所には0歳のNICUから在宅移行し体調安定して間もない利用児の受け入れもあり、地域の大学病院や小児センターから在宅移行する際にMSWからの紹介や、地域の小児在宅医療を担っている病院や相談室から紹介を受けて退院してくる場合も最近は多くなっています。そのため、利用児の重症度も年々高まってきています。

また放課後等デイサービス利用児について、今まで医療的ケアがなかった子でも障がいや病気の進行により胃ろうや気管切開なども必要になってくる場合がほとんどで、1日の利用児の全員が気管切開か人工呼吸器を使用しているという現状もあります。

医療的ケアへの依存度が高く身体障害が最重度の利用児がほとんどであり、看護師の責任は特に重く医師が不在の中でどんな体調変化も見逃さないようにケアしていくことは高いスキルと経験も必要とされると感じています。ですが、2017年の開所当時から医療的ケアはこの子たちの生活の一部であり決して中心になってしまわないようにという思いを大切に、デイサービスでの活動を行ってきました。そのために保育士や児童指導員が中心となり療育活動を計画しています。四季や文化を感じ、創作活動や模擬活動をして圧倒的に経験が少ない子どもたちに体験を通じて成長発達の支援をしています。子どもたちのわずかな動きを強みにし、成功体験からの発達支援を促すためにスイッチや視線入力も行っています。

機能訓練士は、子どもたちが自身の力を発揮しやすい姿勢、ポジショニング、装具や車椅子、座位保持椅子の評価、呼吸や嚥下のしやすさ、そして体のどの部位を動かしやすいかなどそれだけではなく、保育士や児童指導員と一緒になって活動にリハビリの要素を組み込めるように療育活動の計画をしています。

当法人の児童発達支援を利用していた子が就学し放課後等デイサービスに移行する、放課後等デイサービスを利用していた子が高校卒業後に生活介護を利用する、「どんな重い障がいがあっても地域で生きる」を目指しライフステージが変わっても支援が途切れることのないように今後は生活介護の事業を広げ、また利用児のご家族からのニーズが特に多い泊まりができる施設も開設したいと考えています。

2021年の障害福祉サービスの報酬改定では、新判定スコアを用いた基本報酬の創設や看護職員加配加算の算定の要件の緩和がされ医療的ケア児に対する支援の拡充が図られました。それにより人員配置以上に看護師を配置することができるようになり、医療的ケア児を受け入れることに積極的になった事業所も増えています。医療的ケア児もいつかは者に成長します。親御さんがお子さんに障がいがあると分かった時に抱いた「この子はいつまで生きることができるだろう」といった悩みはあっという間に「この子たちの介護はいつまでできるのだろう」といった悩みに変わります。子どもの体は年々大きく成長しますが、逆に介護者は年々老いていき体力もなくなってきます。首も座らない子を自宅のお風呂に入れることは介護者の体を痛めます。特に気管切開や人工呼吸器を使用している、吸引が頻回であるような子の場合は安全に入浴することが在宅介護の悩みとして比較的早い段階で直面する問題であります。そのため、家庭の支援、体を清潔に保つという療育の目的で当法人のすべての事業所に入浴設備があります。ですが入浴に関しては必要な支援でありながら現在の制度の中では無報酬です。

児でなくなった後にも継続した支援に接続し日常生活及び社会生活を営むことができるようにすることも明記された医療的ケア児支援法が、2021年9月に施行されました。しかし、現在の障害福祉サービスの報酬では、生活介護事業所で人工呼吸器や気管切開などの特に重い医療的ケアのある方々を積極的に受け入れる体制をとることが難しいと生活介護事業所を運営して実感しています。児童発達支援や放課後等デイサービスなどと同じく医療的ケア児の受け入れについての評価の加算がつくか、自治体独自の助成金や加算の仕組みがなければ今後は医療的ケア児の成長した後の卒後の問題が残っていくと思います。

必要な支援や制度にはどのようなものがあるか、その仕組みや申請について複雑であるために当事者自身が情報を収集しなければならないことも多いです。医療的ケア児に関わる医療者や支援者側も当事者と同様に感じています。必要としている情報がここに聞けば取得できるという機関=医療的ケア児支援センターとそこを中心とした組織が地域にできれば、一人の医療的ケア児のためにみんなが繋がりそしてより多くの社会の手により支援ができるようになるのではと期待しています。

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