指伝話が選択の自由を広げる~iPadで使うコミュニケーションアプリ&コンテンツ~

「新ノーマライゼーション」2022年3月号

有限会社オフィス結アジア 代表
高橋宜盟(たかはしよしあき)

指伝話とは?

自分の声で話すことが難しい方、iPadの画面を指で操作するのが難しい方などに使っていただいているアプリとコンテンツを指伝話が提供しています。流暢な合成音声と使い方の自由度が高いことが特長です。

コンテンツとは、アプリで作った中身のことです。例えばワードやエクセルはアプリで、それで作成した文書やシートがコンテンツです。コンテンツはアプリを使う人の目的や使い方によって変わってきます。

画面をタップして流暢な合成音声で話しをするという機能が指伝話アプリの基本です。指伝話のコンテンツは、画面表示がタップしやすいように使う人に合わせて変えることや、画面上に表示されるカードを選択して話すだけでなく、メッセージを送ったり音楽をかけたり、他社製品と連携してエアコンやテレビを操作することができるようになる仕組みです。

コミュニケーションはすべての人にとって大切な課題

もともとは、電車の中や美術館など声を出せない場所で声を出さずに電話することができないだろうか?と考えたことがきっかけで生まれたビジネス用途のアプリが指伝話でした。

喉頭癌で声を失った方が日常生活の中で自分の声の代わりに使い始め、脳梗塞の後遺症で失語症になった方が話したいことばを絵で選べるようにアプリが進化し、病気や障害で体を動かすことが難しくわずかに動く指先で操作したい方のために使いやすい画面となるように改良が続き、会話だけでなく教育教材やリハビリテーション課題作成に用いられるようになりました。

その結果、喉頭癌・舌癌、SMA(脊髄性筋萎縮症)・ALS(筋萎縮性側索硬化症)・筋ジストロフィー・多系統萎縮症・先天性ミオパチー、脳性麻痺、失語症、緘黙、自閉症など、さまざまな方にお使いいただくようになりました。特別支援学校では、子どもたちが興味を持つ内容でカードを作ることで、キラキラした目でiPadの画面を見つめながらわずかに動く指でスイッチを操作している子どもたちが増えています。

特定の病気や障害に特化した製品ではありませんが、そもそもコミュニケーションとは病気や障害に関係なく誰にとっても大切なことでありますし、同じ病気であっても人それぞれに体の状態は違いますし、やりたいことや考えていることも違います。指伝話は「用事だけではなく気持ちをともに伝える」ことができる「余白のある」アプリとなるよう心がけてきました。

ALS・失語症・脳性麻痺の人、大人から子どもまで、みんなが同じコミュニケーション機器を使っている例は少ないと思います。それは障害や病気ではなく、コミュニケーションにフォーカスして製品を組み立ててきたからできていることだと自負しています。私たちの知らない病気や障害の方に出会い、使い方が私たちの想像外だったことも多くありましたが、コミュニケーションを楽しく取りたいという思いは全員に共通のことでした。一緒に製品を育ててくださったユーザの皆さん、セラピストの方々に感謝しています。

エネルギー保存の法則

指伝話は、毎回すべてを五十音表から選ぶのではなく、あらかじめ作っておいた定型文を選びやすく準備しておくことで、使いやすくテンポを保った会話ができると考えました。

毎回操作に時間をかけていたことを削ることで、その分に余裕ができます。その余った時間とエネルギーを別なことに使えるようになります。指伝話で楽をすることを「エネルギー保存の法則」と話していたSMAの方がいました。その方は、自分の声で話をすることができますが、長い時間だと疲れてしまいます。そこでヘルパーさんに依頼する内容や頼みたい作業の手順の説明を指伝話に登録しておき、必要な時に音声で伝えています。何度同じ説明をしても疲れませんし、間違えたり言い忘れたりすることもありません。

できることが増える喜び

流暢な合成音声で話せることが指伝話の特長の一つですが、最近の人気は家電の操作をすることです。近年はスマート家電と呼ばれiPadからアプリで操作する家電製品が発売されるようになってきましたが、昔ながらの赤外線リモコンを使った家電をiPadから操作するためのNature Remoのような製品が発売されています。アプリを使って電気やテレビを操作するのですが、画面上の小さなボタンを押すのは、指で操作するのも大変ですしスイッチ操作ではなおのことです。

指伝話を使うと、スイッチでも指でも操作しやすい画面が表示できますし、カード1枚を選ぶ操作ができれば、さまざまなことができるようになります。

パラマウントベッド社の楽匠プラスは、iPadで操作ができるベッドです。指伝話からアプリを呼び出したりアプリから指伝話に戻ったりすることができます。スイッチでiPadを操作し、ベッドの角度を自分で変えることができます。

ALSの60代の女性が「できないことが増えていく日々だったけど、指伝話を使うようになって、日々できることが増えて楽しい」と喜んでいました。

アクセシビリティを考慮した製品

画面を指でタップする操作が難しい場合は、マウスやトラックパッド、わずかな体の動きや大きな体の動きで使うスイッチ、声、視線といった使い方ができます。目が見えづらいのであればVoiceOverでの利用、さらに指で画面が触れられないならばスイッチコントロールの音声読み上げを使うといったように、さまざまな操作方法が考えられますが、どの方法であっても、使いやすくなる仕掛けが指伝話には仕込まれています。

指伝話は、カードを1枚選択するというシンプルな操作ができればOKです。カードを選べば、話す、メッセージやメールを送る、音楽をかける、家電を操作するといったことができるようになりますが、利用者が覚えることはカードを1枚選ぶということだけです。

指伝話は特定機能の専用機ではありません。自分の体の状態や目的に応じて使い方を選ぶことができます。選べる自由、それがアクセシビリティの基本です。

現状と課題・今後の展開

指伝話を活用しているSMAの20代の女性が、SNSで知り合ったALSの女性がコミュニケーションに困っているのを知り、「指伝話のカードを私が作ってあげたい」と伝えたそうです。

これはサポートの仕事です。このSMAの女性は、フルタイムで仕事をするのは難しいかもしれませんが、月に数時間でも1日1時間でも働ける時に働けるのであれば、とても良いことと思います。ましてや、自分が普段使っている指伝話やiPadに関することで誰かの役に立ててそれが仕事となるなら一石二鳥です。アクセシビリティ機器を知らないリハビリテーションスタッフは大勢いますが、日々それを当たり前のように使っている人は教える側にだってなれます。

とはいえ、これを軌道に乗せ持続可能なビジネスとすることは、そう単純なことではありません。社会を巻き込み指伝話の枠を超えた仕組みづくりが必要です。そのために、コミュニケーションは人生にとって大切なことであること、命を守ることと同じようにコミュニケーションが大切であるという理解を多くの人と共有する必要があります。指伝話はそのきっかけになれると考えています。指伝話は機械ではなく機会であることを大切にしています。


◆指伝話のホームページ:https://www.yubidenwa.jp/

menu