パンダナビ~点字ブロックを使って音声で案内する

「新ノーマライゼーション」2022年3月号

しんしゅうアソシエイツ 代表
芝田真(しばたしん)

1.6年前にGPSナビを開発

私はメーカー勤めのあと、現在は地方でセミリタイアの生活を送っています。1日は日の出前後のウオーキングで始まります。ところが、持病の網膜色素変性症が進行し、視力低下により単独歩行がままならなくなってきました。この病気は治療法がなく、かつ加齢とともに進行するので、年配の障害者は少なくありません。

そこで、目が見えなくなっても一人で歩けるようにと自分用のGPSを使った音声ナビ装置の開発を始めました。学生時代の仲間とのコラボで、2年ほどで完成。このナビと白杖を使って毎朝、4キロの道を歩いています。

ところが、このナビを他の方にすすめてもなかなか使ってもらえません。障害物が多い都会を歩くには性能や機能が足りないようです。この経験から、歩行支援装置が広く使われるための条件についてさまざまな知見を得ることができました。

2.GPSから点字ブロックへ

周知のように、GPSにはある程度の誤差がつきまとい、さらに屋内では使えません。一方、公共の場所等にはすでに点字ブロックが敷設されています。これなら、位置の誤差はありません。

しかし、点字ブロックだけではどこにいるか、どちらを向いているかまでは分からず、複雑な経路を誘導するのは困難です。そこで考えられたのがコード化点字ブロックといって、点字タイルに目印をつけて、それをスマホで読み出して、スマホ内のデータを参照しながら適切な案内文を合成して音声で案内するしくみです。

私は、先述の経験を踏まえ、よりシンプルなコード化点字ブロックを発案し、パンダナビと名付けました。

3.パンダナビの原理

点字ブロックには、線状タイルと重要なポイントに置かれる点状タイルの2種類があります。点状タイルは警告ブロックとも呼ばれ、通常は25の突起があります。

パンダナビでは、この25の突起のうちから8個を選んで黒いリングをはめ、その配置で各々のブロックを光学的に区別します。

リングのはめ方は、タイルの向きが分かるようにしながら、合計455の異なったパターンが作れるようにしています。このタイルをスマホのカメラで撮影して、そのタイルが455のパターンのうちのどれであるか、さらに、基準の向きから何度回転しているかをアプリ内の画像処理ロジックが判定します。

黒いリングはパンダの目のようにくっきりしていて、かつ、正確に格子点上に置かれるため、悪条件下でも確実に認識できます。

4.パンダナビの動作の説明

写真1左は、基準方向(たとえば北)に向いてタイルを撮影したものです。この状態で下記のタイル情報をデータベースに登録します。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

パターンID(自動付与) 146
緯度・経度(自動付与) 36.8750,139.3213
現在地の名称(音声入力) 西口改札への3分岐
前方向(音声入力) 2番、3番線方面
右方向(音声入力) 自動改札機
後方向(音声入力) 1番線方面
左方向(音声入力) -

一方、歩行者の持つスマホ端末に写真1右のような画像が写ったら、アプリは、「パターン146のタイルが約180度時計方向に回転している=スマホは南を向いている」と判断します。これを受けて、前方向は、「2番3番線」ではなく、「1番線」と案内します。これで、歩行者は自分の位置と向きが分かるわけです。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

なお、タイルが設置された場所の緯度経度と歩行者の端末の緯度経度とを比較することにより、離れた場所に同じパターンがあっても区別できます。

5.パンダナビの可能性

先述のGPSナビの開発で得た教訓に照らして、パンダナビの可能性について検証してみます。

(1)視覚障害者にとって十分に役に立つか?

2021年12月に東京で開かれたテクノエイド協会主催のシーズ・ニーズマッチング交流会に出展。訪れた障害当事者や支援者の方から強い関心と期待が寄せられました。また、同月、甲府市で20人ほどの当事者の参加を得て体験会を開催しました(山梨県視覚障がい者福祉協会主催)。そこでは、「現在位置と方向が分かるのはとてもありがたい」「ワンタッチで使える専用機はうれしい」と、ポジティブな評価をいただきました。

(2)操作方法

利用者にあわせて、以下の2つの使い方を提案します。

スマホに慣れている弱視や晴眼の人は、自分のスマホにアプリとタイルデータをダウンロードして使う。それ以外の人には、側面のボタンを押すだけで操作ができる小さな専用機を用意する。これなら、夜道でポケットから懐中電灯を取り出して歩く感覚で使えます(写真2)。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

(3)設置にかかるコスト

既設の点字ブロックのインフラが利用できるので、設置やメンテナンスのための費用が抑えられます。

(4)すべての人に役立つ

大きなターミナル駅などでは晴眼者でも迷います。もし床のタイルを読み取って現在位置と方向が分かればとても助かります。また、タイルデータの案内文言を複数言語で用意して、スマホのOSに合わせて発話するようにすれば、外国人を母国語で案内することも可能です。

将来的には、すべてのタイルのデータを一括してクラウドのサーバーで管理し、世界中で使えるようにすることも夢ではないでしょう。

6.「技術目線」から「ユーザ目線」へ

視覚情報の不足を補うために、さまざまな工夫が考案されています。近年は、車の自動運転を目指した各種センサー技術、AIを使った画像認識技術などが急速に進歩しています。しかし、「高度な技術を使えば移動問題は解決できる」というものではありません。

当事者としての経験から、ときに見落とされがちな点についてまとめました。

〇装置が目視できないと設定や起動が難しい

比較的普及している支援装置は押しボタン1つで動作する手のひらサイズの単能機となっています。

〇大半の視覚障害者はスマホを使っていない

中高齢で視力を失った場合、スマホを使用するのはハードルが非常に高いと思われます。

〇移動支援装置に特有の困難さがある

  • 右手に白杖を持つので両手での操作ができない。
  • 左手に装置をもって歩き続けるのは難しい。
  • 電池が切れるとその場で動けなくなる。

このように、車載用の装置と視覚障害者が持ち歩く装置との間には大きな相違があります。効果の割に面倒な装置だと「近くにいる人に助けてもらうので要りません」といわれることになります。支援装置を開発する場合、初めに当事者のニーズをよく聞き取ること、できれば一緒に開発するのが最良です。

7.パンダナビの社会実装に向けて

すでに特許出願はすませています。これからは、関係者で連携してパンダナビの普及と障害者のQOL向上に努めたいと考えています。


◆パンダナビのサイト
http://www.shinshu-a.com/pn/

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