介護リフトでベッド周りをActive空間に!歩けるスリング「ぶらん歩」

「新ノーマライゼーション」2022年3月号

株式会社モリトー 代表取締役会長
森島勝美(もりしまかつみ)

1.はじめに

子どものころに乗ったブランコを思い出してください。

「ぶらん歩」は、ご存じのブランコとほとんど同じようなものです。ただし、使用するのは公園ではなくベッドサイドです。介護リフトで吊り上げ、アームの届く範囲でゆらゆら揺らしたり、「ぶらん歩」に乗って移動することができるのです。安定して座ることができるように三角の補強版の頂点を3本のベルトで吊り上げ、前、横、後ろへの転落を防ぐように工夫されています。

介護リフトと「ぶらん歩」のコラボレーションで、中重度の要介護者にとって、新たなベッド空間を作り出し、Active Lifeを増幅する大きな可能性をもたらすことができます。前後に揺れるだけではなく、回転ができ、上下、左右、リフトの支柱を中心に1.5mの範囲のものに手が届き動き回ることができるのです。

2.自立化の第一歩は離床から!

最近「寝たきり老人」という言葉は死語になりましたが、ベッドや車いすの上で一日中、天井を見ている方が少なくなっているとは思えません。しっかり寄り添い、端座位姿勢や立位姿勢をサポートし、少しでも廃用を無くし生活意欲を高めていけるような介護が求められています。当然のこととして、ご本人、ご家族、関係者の誰もが望んでいることです。

しかし、現場では、望んでもできない現実があるのです。人的、物的、技術的な環境の改善の方向性が示されていないため、過酷(Severe)で危険(Dangerous)で諦め(Give-up)と放置(Neglect)のあってはならないWorst care(以下、SDGNの介護という)が蔓延しているのです。SDGNの介護から脱却するために、介護者の労力を軽減し、安全で、かつご本人が元気になれる介護の方向性が求められているのです。

我々の最初の提案は、ハーネス(腰ベルトと股ベルトを一体にした吊り具)の利用です。寝ている状態から容易に端座位姿勢を維持する方法です。

ハーネスを利用して端座位姿勢を安定的にかつ安全に確保することで、10年ほど前から藤田医科大学と研究開発している安全懸架装置のノウハウによるものです。これによって背面開放座位や立位姿勢を容易にとることができます。装着時に支援が必要な場合がありますが、最初から最後まで介護者が支え続ける必要はありません。ご自身でスイッチ操作ができれば、転倒しないぎりぎりの調整をしながらテーブルに向かって作業をしたり、本を読んだり、安定した端座位姿勢を保つことができるようになります。ハーネスは介護保険で吊り具として認められ1割負担で購入できることになりました。そして次の提案として考え出されたのが「ぶらん歩」です。

3.「ぶらん歩」を使ってFine介護を!

「ぶらん歩」の開発目的は、ご利用者の自立化です。自立支援とは、眠れる自立意欲を引き出しご自身が主体的に判断し自分らしい生活活動を開始することから始まるのです。活動する意欲を失くし、人生をベッド上で過ごしている方が、わずかでも残された力を利用し自分の意志で、手足を使い、自らを動かすことができれば、きっと新しい日常生活への取り組みのきっかけになるのではないか。自立化の道を歩み始め人生の喜びや楽しみを再び味わうことが可能になるのではないか。「ぶらん歩」はこんな思いで考えられました。

「ぶらん歩」は、さまざまな使い方が考えられます。リフトで「ぶらん歩」を少し吊り上げると宙に浮いてゆらゆら揺れる、指先でちょっと押せば、全身がスーッと動く、ベッドの上にいては届かなかった本棚に手が届く。下げれば足底が床に着く、わずかに足に力を入れればゆらゆら揺れる、膝が曲がる、足関節が背屈し底屈する。自分の意志と力で体が揺れることを体感する。神経細胞がこのことを理解し始める。体中のセンサーが動き出し全身のバランスがよみがえる。決して筋トレだけでは得られない本物の日常生活動作(ADL)なのです。歩行器が使えない中重度者にとって移動手段は車いすがほとんどです。わずかなベッド周りの空間ですがレイアウトよっては、毎朝の洗面やお化粧もお一人で、これまでに体験したことのない新しい移動手段として活用することができます。わずかな力でベッドから他の椅子やテーブルへ移動、畳に座って家族とこたつに入ることも考えられます。これが自立化の第一歩でありFine介護の始まりなのです。

4.「ぶらん歩」体験事例

セラピストとご本人Aさんの了解のもと試していただきました。Aさんは、やや肥満体型、両下肢不全麻痺、認知症なし、ADL全介助。ある程度座位姿勢が可能で上肢が使え(MMT5でNormal)意欲的で生活範囲を拡大したいという方でした。入院後、これまで立位の訓練がなく、移乗動作も看護師による全介助でした。

立ち会ったセラピストの感想です。「一番の収穫は、ご本人が『こんなにも動くことができるんだ』という気づきを得られたこと。手を使い、そしてわずかにしか動かない脚を使い、自分の力で移動しているということに、我々以上に、ご本人が一番驚いて、思わず大きな声で『アッ、足が動いた』と。その時の表情は今でもはっきり覚えています。それはご本人の中で“希望の光”が見えたかのような表情でした」。ご自身が思っていた以上に、自分の力で楽に動くことができたことで、リハビリテーションへの意欲がより一段と高くなったことがうかがわれます。

5.今後の課題と可能性

「ぶらん歩」はどんな方に使えるのか。さまざまな使い方が予想されます。現状では、手すりやわずかな人的支援で座位姿勢が3分程度取れる方を想定しています。

退院後、在宅での健康状態の維持、改善をどのように進めていくかが問われています。何もしなければ、またたく間に、最悪のSDGNの介護状態になりかねません。在宅では、病院のリハビリテーションと同じ指導は受けられません。主体的に自立した日常生活を拡大しActiveな社会参加をめざしていく中で自然な動きを増やしていくことが大切です。

在宅での療養生活の中でベッド周りの生活空間の拡大、自立意欲の喚起だけではなく、筋肉関節可動域の拡張、バランストレーニング、複数課題の同時練習など。また、障害のあるお子さんにも遊具としての活用も考えられ、感覚を刺激し、促通反復療法にも使用することができるのではと考えています。

6.まとめ

「ぶらん歩」は、乗るだけの極めてシンプルな吊り具です。しかし、使い方を工夫することで大きな効果が期待できます。座位姿勢での移動、座位歩行、中腰座位からの立ち上がり練習、さらに改善されれば、ハーネスを使って歩行へと進み排泄の自立化も可能になります。

介護リフトは、介護者の腰痛対策として使用され安全な移乗機器として認知されてきました。そして今、介護リフトは、ご利用者の自立した移動動作を支援する機器として、また廃用を無くし健康状態を維持改善する自立支援機器として新たな役目が課せられたと思います。

「ぶらん歩」は新しい発想の新しい製品です。試してみたい方はお問い合わせください。介護リフトがあればお貸し出しも可能ですのでご連絡ください。皆さまのご意見をいただければ幸いです。


◆問い合わせ先
Eメール:sodan@moritoh.co.jp

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