地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-長野県北信圏域での取り組み~これまでの取り組みと今後の展開について~

「新ノーマライゼーション」2022年3月号

北信圏域障害者総合相談支援センター(北信地域障がい福祉自立支援協議会事務局)
相談支援専門員
徳竹かず美(とくたけかずみ)

圏域の概要

北信圏域は、長野県最北端に位置し、中野市・飯山市・山ノ内町・木島平村・野沢温泉村・栄村の6市町村で構成されており、人口は約82,000人(うち、障害者手帳取得者約5,500人、計画相談(児を含む)利用者約850人)の小さな圏域です。

その北信圏域において、6市町村共同により「北信地域障がい福祉自立支援協議会」(以下、自立支援協議会)が設置されたのは平成18年度でした。以降、自立支援協議会の活動を通し、関係する機関同士の「お互いに顔が見える関係」が形成され、今では日常的に情報共有や連携がとれる体制が整っています。

地域生活支援拠点等事業に係る検討・整備の経緯

北信圏域には、社会福祉法人高水福祉会が運営する入所施設が2か所あります。平成22年、法人内で「入所の在り方検討会」がもたれるようになり、今後の入所施設の在り方、入所利用者の地域移行に向けた検討が行われるようになりました。平成23年には、在宅生活の支援として必要な「24時間365日、職員が交代で1つの拠点に待機し、緊急SOSに駆け付ける」支援が試行的に行われることとなりました。

この取り組みを圏域全体で実施していくため、第3期圏域障害福祉計画(平成24~26年度)に、「地域での一人暮らしを支えるために、また途切れない支援をするために、必要なサービスや相談支援体制の充実を図る」「夜間を含めた緊急支援体制を構築し、地域生活を定着、継続するための体制を強化する」計画が盛り込まれました。

そして国の指針を受け、第4期圏域障害福祉計画(平成27~29年度)では、「地域生活への定着・継続を支援し、夜間を含めた緊急支援を行うための地域生活支援拠点等(グループホーム+短期入所)を1か所整備し、そこを核にした面的な体制を構築する」ことを明記しました。また、平成27年7月には、自立支援協議会の中に「地域生活支援拠点等事業コア会議」を設置し、事業の整備に向けた具体的な検討を行うようになりました。平成28年度には「夜間を含めた緊急支援を行うための地域生活支援拠点(グループホーム+短期入所)」として、高水福祉会が運営する「総合安心センターはるかぜ」(以下、はるかぜ)の運用を試行的に実施し、その実施状況を見ながら、今後の取り組みについて協議を継続していきました。また、これを受けて平成29年4月には、6市町村が共同で予算化を図り、「はるかぜ」に緊急時の受け入れのための空床2床の確保、基幹相談支援センターに相談支援体制強化のための「地域あんしんコーディネーター」(以下、あんしんCo.)2名が配置されました。

こうして北信圏域では、「はるかぜ」を地域生活支援拠点等の核として位置付けつつ、あんしんCo.が地域の相談支援体制の強化を行い、圏域内の既存事業所等の連携や協力を仰ぐ面的整備を行っていく「併用型整備」が本格始動となりました。

また、平成29年度には、これまでの「地域生活支援拠点等事業コア会議」を6市町村すべての担当係長が参加する「地域生活支援拠点等事業検討会」にリニューアルし、現在も毎月開催しています。機能を充実させていくための協議検討を行い、課題によっては自立支援協議会の各専門部会に協力を仰ぐなどの連携を図っています。自立支援協議会という協議の場の活用があってこそ、地域生活支援拠点等事業の整備が進められてきたと感じています。

現在の整備状況・特徴など

平成29年4月に本格始動し、現在の整備状況について、5つの機能に沿って紹介します。

1.相談

あんしんCo.が中心となり、緊急事態の予防のための相談支援を展開しています。予防支援が必要な対象者を抽出する圏域独自の「潜在的要支援者ガイドライン」 を作成し、市町村とともに潜在的要支援者に対する介入方法やタイミング等を相談しています。つながりが持てた方とは、緊急時を予測し、その時どう対応するか等を一緒に考え「安心プラン」を作成しています。

潜在的要支援者ガイドライン
図 潜在的要支援者ガイドライン拡大図・テキスト

すでに相談支援につながっている方に対しても、地域の相談支援専門員と連携し、予防の視点を大切に相談支援を展開しています。また、地域移行推進のための取り組みとして、精神科病院との連携会議や入所施設の実態調査等を行っています。

2.緊急時の受け入れ・対応

平成29年4月から、「はるかぜ」に空床2床を配置してきましたが、圏域の南端に位置しているため、圏域全体での利便性を考え、圏域の北側にも配置できないか検討してきました。その結果、令和3年7月に圏域の北側にある事業所「常岩の里ながみね」に1床を移し、圏域の北と南に1床ずつの配置が実現しました。

空床利用は原則48時間以内というルールを設けており、空床利用の必要性が見込まれる方については、事前に登録書を作成し、どんな場合に利用が必要か、何をもって支援を終結とするのか等を明記しています。また、緊急事態発生時には関係者が集まり、今後の方向性について検討し、再発を防ぐ支援体制の構築に向けて取り組んでいます。

空床の利用は年々減少傾向にあり、予防に重点をおいた支援の効果を感じています。

3.体験の機会・場

令和2年度は一人暮らしの体験ができる場の確保について、特に力を入れて整備を進め、令和3年4月より6市町村が共同で予算化を図り、一人暮らし体験事業を開始しました。アパートの1室を体験用の部屋として確保し、希望者それぞれの利用計画を立て、体験を実施し、振り返りを行うことにより自立への支援を行っています。

4.専門性

医療的ケアや行動障がい等、障がい特性に対応できる人材を養成していくため、専門研修会を実施しています。また、自立支援協議会サービス向上部会でも支援力向上を目的にした研修会を毎年開催しており、調整及び連携を図りながら、ともに人材育成に取り組んでいます。

5.地域の体制づくり

地域生活支援拠点の機能を担う事業所を、地域に増やすための取り組みを行っています。令和3年度には、圏域内の全事業所に対しあらためて協力の依頼を行い、機能を担う事業所として多くの事業所が認定となりました。これを認定だけに止めず、地域における連携協力体制をより強化していくため、認定事業所の連絡会を開催し、役割の確認や加算等について学習会を実施しました。今後も課題等を共有する場として継続していく予定です。

また、民生児童委員や高齢者支援等、他分野との連携強化を図るため、各団体が集まる場に出向き、こちらの取り組みを紹介させていただく等の活動も行っています。

今後の展開

予防に力を入れて取り組む中で、災害時の個別避難計画の作成や連動についても必要性を認識しています。防災・減災の視点に立つと、障がい福祉分野だけでは解決できないことがたくさんあり、インフォーマルを含めたさまざまな資源や協働が必要です。そこを手掛かりに面的整備を進め、地域づくりを展開していきたいと考えています。

北信圏域の理念は、「その人の意思に基づき、暮らしたい場所で暮らしたい人と、その人らしく、生き生きと、安心して暮らせる地域づくり」です。自立支援協議会を足場に、地域診断を絶えず行い、関係するすべての機関と課題を共有し、話し合い、協力し合って、地域全体で理念の実現に向けて取り組み続けていきたいと思います。

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