地域発~人をつなぐ地域をつなぐ-墨田区発・地域連携型の福祉プロジェクト~「すみのわ」の活動

「新ノーマライゼーション」2022年3月号

墨田区福祉保健部障害者福祉課

1.はじめに

墨田区は東京都の東部に位置し、隅田川などの豊かな水辺に恵まれ、歴史や文化、伝統が薫る下町情緒豊かなまちです。また、近代産業発祥の地でもあり、優れた技術力を持つ中小企業が集積した「ものづくりのまち」です。その環境下で本区が推進する「すみのわ」は、区内の自主生産品を作っている障害者施設に対して、地域のクリエイターがものづくり(商品開発や販路開拓など)の支援を行うプロジェクトで、地域の工場から提供された紙や革、布などの良質な端材を使い、元々は廃棄されていた物から魅力的な自主生産品を作っています。そして、その墨田区内の連携を「すみだの輪(わ)」を意味する「すみのわ」と名付けました。

2.「すみのわ」に至る経緯

区内には約20か所の障害者施設があり、それぞれが受託加工とともに自主生産品の生産販売を行っていましたが、販路確保による利用者の工賃向上と勤労意欲向上を目指し、平成22年に墨田区福祉作業所等ネットワーク≪Kai≫をつくり、可動式ワゴンによる共同販売「スカイワゴン」を始めました。しかし、それだけでは工賃向上にはなかなか結びつかず、新商品開発が課題となっていました。他方で、当時、区内在住・在勤のクリエイターが「すみだクリエイターズクラブ」という市民ネットワークをつくり、自らの職能をもって地域に貢献しようとする取組が始まっており、その協力を得て、平成26年度から課題解決へのプロジェクトが始まりました。

3.「すみのわ」の取組

新商品開発等支援事業として始まった取組は、クリエイターの方が支援を希望する施設に時間をかけてヒアリングを行い、各施設と利用者の特性や、既存商品の現状や可能性を分析するところから事業を組み立てていきました。その過程で、原材料費を抑えるための地元工場の端材を取り入れるアイデアや利用者が使いやすい道具などが創出され、施設でのワークショップを重ねながら、牛革にスタンプを押して切り抜いたケーブルホルダーや、使い捨てレンゲの底にさまざまなウレタンチップを貼ったスタンプで押したポチ袋などの新商品【写真1】が開発されるとともに、プロジェクトネームの「すみのわ」も生まれました。また、既存商品についても、プロの手によるデザイン等のブラッシュアップで売上が向上していきました。その後、平成30年度からはノベルティ商品の開発・販売を受注生産方式で始め、イベント配布用に好評でしたが、コロナ禍でのイベント減少に伴い注文も激減しました。逆にその中で生まれたのが、地元ホールで活動する新日本フィルハーモニー交響楽団の50周年記念グッズ「BRAVO手ぬぐい」【写真2】です。声を出せない状況でも手ぬぐいを掲げて演奏を讃えることができると大好評で、製作に携わった絵を描くことが大好きな利用者からも「夢がかなった」と大変喜ばれました。また、利用者が描いた絵は、地元カフェの紅茶の箱や、芸術活動を通じて障害者福祉を行う墨田区観光協会の「みんな北斎」プロジェクトとも連携し、喫煙所の壁画や観光協会の贈答用の箱にも活用されています。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1、写真2はウェブには掲載しておりません。

4.これからの「すみのわ」

「すみのわ」は、魅力的な商品を生産するだけでなく、生み出されたアートを活用することで、地元と連携し、売上に貢献できるようになり始めています。工賃向上は重要な課題ですが、それだけを目標にするのではなく、障害者・各施設・地域ならではの魅力を発掘し、結び付け、障害者の生き甲斐や喜び、地域の活力につながる活動として、さらに大きな輪を拡げていきたいと考えています。

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