ひと~マイライフ-必要な人へ必要な分の福祉制度の支給を

「新ノーマライゼーション」2022年3月号

中村秀之(なかむらひでゆき)

1969年埼玉県生まれ。大学卒業後、素材メーカーにて技術者として15年間勤務。その後、医療理化学機器メーカーで、生産管理部門や購買部門の責任者として勤務するも、2012年、43歳の時にALSを発症し、翌年退職。現在、四肢麻痺状態で胃ろう造設と気管切開手術を受け、重度訪問介護制度を活用し、ヘルパーさんの介助を受けながら生活。日本ALS協会埼玉県支部長。

私は、2013年の1月に筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断を受けました。ALSという病気は、当時はまだ今ほど知られてはおらず、私自身も知りませんでしたので医師から説明を受けても、どこか他人事のようでした。と言うよりも、他人事であってほしいという願望だったのかもしれません。

ALSという病気を知れば知るほど恐ろしい病気だということが分かってきました。まず、手足が動かなくなるので、自分で食事をすることもトイレで用を足すこともお風呂で身体を洗うこともできなくなり、また 歩けなくなることで自力では家から出ることすらできなくなるのです。さらには、多くの書籍に「呼吸筋が動かなくなり、発症から3~5年で死に至る」と書かれていました。

確定診断を受けたにもかかわらず、“まさか、自分がそんなことにはならないだろう” と、病気と真剣に向き合っていませんでしたが、月日とともに状態は悪化し続け、握力の低下とともにペンを持って字を書くこともできなくなりました。また、次第に足腰も弱まり、診断を受けてから1年半後には車椅子を使うようになりましたが、手を動かせないので自分では車椅子の操作をすることができず、「自力では、外の空気を吸うことすらできない状態」となりました。

そんな状態になってしまった私の介護は、妻が一人で背負っていました。手も足も動かないことに加えて、嚥下障害で一回の食事に1時間以上かかるようになりその間少しずつ食べ物を口に運んでもらったり、構音障害によりろれつが回らずに何を言っているのか聞き取ることができない発話、そんな状態がしばらく続いた結果、妻はストレスマックスとなりました。

ちょうどそのころに「重度訪問介護」という制度を知りました。私のように所得の無い人や低所得の人は、自己負担なくヘルパーさんに来てもらえる制度で、しかも最大で24時間365日ヘルパーさんに来てもらえるのです。ただし、この制度は介護保険制度などとは違い役所では積極的には教えてくれず、また障がい者のための制度であることから、高齢者福祉を中心に仕事をしている多くのケアマネさんも知らない方がほとんどで、広く知られてはいません。私もこの制度を知るまでに、診断から4年以上が経過していました。

重度訪問介護制度を使い始めてからは、生活が一変しました。基本的には一度に8時間程度の長時間介護で外出も可能なので、花見や映画、ショッピングモールなどに出かけられるようになったばかりでなく、妻も時間を気にすることなく買い物をしたり、友人と会って食事などができるようになりました。

しかし、この「重度訪問介護」という制度は、必要とする障がい者側が各自治体(市町村)の役所に申請をして、ひと月に何時間ヘルパーさんに来てもらえるかという“時間数”の支給を受けますが、自治体によってその受け止め方はバラバラです。対応できる事業所がなくて支給してもらえないこともありますが、圧倒的な要因は、「介護は家族がするもの」という風潮がいまだに根強く残っていて、同居する家族がいて、さらに同居家族が仕事をしていなかったりすると、支給をしてもらえなかったり、少ない時間数しか支給されず介護で家族が疲弊してしまい困っている方が大勢います。私のように、四肢麻痺状態で気管切開を受けているような最重度の障がい者の場合、いつ痰吸引が必要になるか分かりませんし、見守りを含め、多くのケースでひと月に744時間(24時間×31日)必要になりますが、744時間の支給をしている自治体は、全国1,800市町村のうち、わずか1割程度というのが現実です。今後、自治体の理解が進み、サービスを必要としている人に必要な分の制度支給が進むことを願っています。

menu