国立のぞみの園における矯正施設を退所した知的障害者の地域移行支援

「新ノーマライゼーション」2022年4月号

国立重度知的障害者総合施設のぞみの園
理事 小林隆裕(こばやしたかひろ)
生活支援部特別支援課長 皿山明美(さらやまあけみ)

1.取り組みの経過

国立のぞみの園は昭和46年に開設以来、全国から知的に障害をもつ人たちを受け入れ、終の棲家として役割を担ってきました。平成15年に組織は独立行政法人化すると、地域移行に向けた取り組みが進められるようになりました。平成20年に新たな役割として行動障害など支援が困難な者を有期限で受け入れる取り組みが始まり、ここで矯正施設を退所した知的障害者の地域での支援に向けた有期限での入所支援が開始されました。

矯正施設を退所した知的障害者の支援は、開始後14年間にわたり、刑務所・少年院などから55名の利用者を受け入れ、49名の方が地域移行等により退所しています。国立のぞみの園における入所支援は、利用期間を2年以内とする有期限の取り組みであり、地域生活に移行することを前提とした支援となっていますが、退所した方のうち、支援中に再犯に至った方は9名です。そのうち2名については国立のぞみの園で再支援が可能となったことから支援を行い、地域移行につなげることができています。対象者の移行先は、半数以上がグループホームであり、その他アパート、入所施設、自宅などとなっています。

地域移行が前提となっているこの取り組みでは、入所前から本人の支援チームがつくられ、それぞれの役割を担ってもらっています。具体的には、援護地の自治体(障害)、地域生活定着支援センター、相談支援、仮釈放や少年ケースの場合は保護観察所や保護司、および国立のぞみの園が対象者一人ひとりに定期的に本人状況を確認し、課題を整理しながら移行先の確保に向けて努力をしています。

2.支援を行う際に重要なこと

国立のぞみの園を利用している矯正施設を退所した知的障害者の多くは、虐待を受けた経験があります。ネグレクトや経済的虐待のほか、身体的虐待や性的虐待を経験した人も少なくありません。こうした経験は、対人関係の構築に影響を与えていると考えられます。

支援において、対象者の行動の理解が難しかったり、関わりがうまくいかなかったりすることがあります。そういった場合に、相手を非難したり、同じ指導・支援を繰り返したりするのではなく、私たちは、まずは「本人に何が起きているのだろう?」という視点で捉えることにしています。同時に、トラウマ(心的外傷)となるような傷つき体験の影響を見逃さず、安全な関係性を築くこと、具体的なアプローチとしては、「トラウマインフォームドケア(トラウマを理解した関わり)」を行っています。

これらの支援等を通し、「今」の行動に過去の体験がどう影響しているのかを整理し、肯定的な未来志向である「これから」の行動を選択していけるようになることを目指しつつ、最終的には、本人が過去のパターンを繰り返さずに責任ある行動をとり、よりよい人生が送れるようになることを願っています。

3.具体的な支援内容

国立のぞみの園における矯正施設を退所した知的障害者への支援は、大きく3段階あります。1段階目は集中的に支援を行い、2段階目に生活を安定させる支援、3段階目は介入を少なくする支援を行い、地域移行に繋げています。入所利用開始時は本人が不安定になりがちです。不安定になる理由のひとつに生活環境の変化があります。その不安を軽減するために、「国立のぞみの園はどんなところなのか」「どんな人(職員・利用者)がいるのか」「どのような生活になるのか」を、写真等を使って作った「自己紹介カード」と共に説明しています。困った時には相談するように助言していますが、変化の適応が特に難しいと予測された時には、支援の展開スピードを調整することもあります。生活に慣れた時期に段階的に新たな支援を取り入れ、地域移行に向けて準備を進めていきます。

提供している主な支援は、社会生活プログラム、心理教育プログラム、個別課題作業、ミーティング等です。

社会生活プログラムは入所時に行い、今までのライフスタイルや社会生活での認知、行動面の情報を、本人からの語りをベースに収集します。

心理教育プログラムは、グループワーク形式で他者の意見を聞いたり、新たな経験を通し、個人内変容や体験を伴う知識、思考の獲得を目的としています。利用者の個別のニーズからテーマを選択したり、生活の中で話題になったことをテーマにしたりしながら実施しています。

個別課題作業は、個人の能力に応じて課題を設定して集中力や課題達成能力のアセスメントを行っています。また、就労を意識した作業訓練も取り入れており、園内の就労継続支援B型事業の体験利用をして就労アセスメントを実施するなど、能力や特性に応じた対応をしています。

ミーティングは、毎日、夕食後に「一日の振り返り」と位置づけて、生活上の課題解決を行っています。

これらの支援は、個別性に配慮しながら丁寧に進めていく一方で、リスクに着目しすぎるあまり「コントロールや監視」になってしまわないよう注意しています。

入所施設という枠組みから、地域での生活という自由度の高い環境への変化に適応できるよう、「しないようにすると決めたこと」と「やることが望ましいこと」のバランスをうまく取りながら支援対象者の意思決定を支援するよう心がけています。

図 スーパービジョン(1 on 1 ミーティング:支援者のサポート体制)
図 スーパービジョン(1 on 1 ミーティング:支援者のサポート体制)拡大図・テキスト

4.相談および支援の現状と課題

近年の受け入れ相談は、発達障害やその他の精神疾患の併存、愛着障害などの影響が大きく、医療との連携が必須なケースが増えています。また、障害特性、生育歴として本人が経験してきたことが複合的に絡み合って支援を難しくしています。多様で複雑化したニーズのある矯正施設を退所した者への支援は困難性が高く、また、当事者の再犯に責任を感じたり、対象者が示すさまざまな言動や行動に対して、感情面での負担が大きくなっている支援者が多く見られます。そのため、支援者へのケアが喫緊の課題となっています。

このような状況を踏まえ国立のぞみの園では、従来から行ってきたピアカウンセリングや上司の相談に加えて、スキルサポート体制を強化し、支援者全員を対象とした定期的な面談を実施することとしました。支援者がチームの一員として業務に当たり、自分の感情や考えに向き合い、対等な関係性を築くことができればと考えています。

5.今後の展開

知的障害などのある犯罪行為者に対する全国の支援状況は、この10年間で大きく変化し、対象者の理解が進んできています。国立のぞみの園では今後、矯正施設を退所した知的障害者を引き続き受け入れ、支援の在り方を模索しつつ、支援に有効な情報の発信ならびに人材養成を積極的に行い、支援できる場所と、支援する仲間を増やしていければと思っております。

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