「生きにくさ」を抱えた人たちに寄り添う相談機関~千葉県中核地域生活支援センターの活動と再犯防止への取り組み~

「新ノーマライゼーション」2022年4月号

千葉県中核地域生活支援センター連絡協議会 会長
渋沢茂(しぶさわしげる)

1.中核地域生活支援センターについて

中核地域生活支援センター(以下、中核センター)は、千葉県が独自に設置している福祉の総合相談機関です。子ども、障害者、高齢者等を含めたすべての地域住民を対象として、24時間365日体制で、相談対応をしています。

中核センターは、平成16年に定められた第1次千葉県地域福祉支援計画の作成の過程で構想されました。当時は低成長経済と高齢化社会の入口で、持続できる社会保障制度の確保が求められ始めた時代でした。成年後見制度が始まり、児童虐待防止法が施行、介護保険制度や障害者支援費制度は施行されたばかりの時期であり、現在ある福祉制度がその歩みを始めて間もないころです。そんな時期に、従来の縦割りの福祉を脱却して、いつでも誰でも相談できる福祉の相談所として平成16年10月から全県14圏域(保健所の所管区域)で中核センターは一斉に活動を始めました。

業務内容は、制度の狭間や複合的な課題を抱えた方など、地域で生きづらさを抱えた方に対して、24時間365日体制で、分野横断的に、包括的な相談支援を行うこと。地域の関係機関との連携を図り、地域課題を共有する地域づくり。権利侵害への対応。市町村や相談支援機関等のバックアップを行うことです。毎年公募され、圏域ごとに選考された社会福祉法人やNPO法人が千葉県と委託契約を結んで業務を行います。

令和2年度の13センターの総相談件数は80,000件ほどです。1センターあたりにすると、毎月500件程度の相談をいただいていることになります。毎日何回も電話をくださる統合失調症のお婆さん、児童養護施設を卒園した若者、車上生活を続けるおばさん、障害のあるご夫婦の子育てのお手伝い等々、相談の内容は多岐にわたります。夜間に救急車で病院に搬送される方にお付き合いすることもあります。ひきこもりの方のご自宅への訪問を数年間続けている方もいらっしゃいます。

活動をする上で心がけているのは次のようなことです。「断らない、まずは動くこと」「地域の関係者との関係性を重視すること」「迷った時は弱い人の立場に立つこと」「結論を急がないこと」「正解を求めないこと」「地域をつくることを考えること」です。

図 中核地域生活支援センター設置状況(担当エリア)拡大図・テキスト

2.これまでの刑余者等との関わりについて

中核センターの相談の中で、刑余者の方等とお付き合いすることもありました。どこから相談が来るかといえば、警察で逮捕や保護された方の引き取り先を照会される場合。弁護士から、裁判の情状証人や出所後の支援についての相談。検察庁で起訴猶予になった方の支援について。その他、知り合いやその家族が事件を起こした相談。医療観察法対象者への支援を依頼されることもあります。

そこで私たちが行うのは、居所を探すこと、生活保護や福祉のサービスにつなげること。面会交流や刑務所との文通や差し入れも行います。執行猶予になった方と保護司の方の定期的な面会に同行させていただくこともあります。逮捕された後の貸家の整理、家族との関係調整等も行います。目の前の方のお困りごとにお付き合いすること、それを社会化していくことを目指すのは通常の業務で行うことと基本的に違いはありません。一方で刑余者の方への支援には固有の困難性があるようにも思います。アセスメントをする時間や場所が限られること。起訴や判決の如何によって支援が必要な時期が大きく変わってくること。情報の制限があること。社会的に排除されることがままあること。などです。

3.千葉県再犯防止モデル事業

千葉県は、平成30年から3年間、法務省の「地域再犯防止推進モデル事業」を受託しました。これまでの中核センターの相談実績の中から、地域生活定着支援センターの特別調整等の対象にならない方でも社会に出る際に相当の支援が必要な方がいらっしゃることが見えていたからです。これらの方が地域に出る前、矯正施設に在所、在院している間に福祉専門官などが支援ニーズの有無を把握し、中核センター等の機関が刑務所等を訪問面会して本人のニーズを出所後の生活支援につなげていく「社会復帰に向けた包括的支援体制」の検討、実施、効果検証を行うことが内容です。

初年度の平成30年は、中核センターと地域生活定着支援センターが行ってきた実績から実態を調査し、翌年以降の体制を整理しました。2年目の令和元年には、千葉県内にある機関を対象に具体的な支援を実施しました。保護観察所と2つの刑務所から11件の支援依頼がありました。そのうち半数は労役場留置の方です。当初、千葉県内の刑務所は長期刑の方が多く、この事業に馴染まないのではないかと懸念していたのですが、労役で留置された方の支援ニーズを本事業にマッチングさせたのは福祉専門官のセンスがあったと感じています。

モデル事業最終年の令和2年には、東京矯正管区内の刑務所等にその対象を広げました。それに先だって、当初の予定にはなかったのですが、入所者の方に千葉県の取り組みを説明するリーフレットを作成しました。これをもって、福祉専門官等から入所者の方に千葉県の取り組みをご説明いただき、希望される方を千葉県が取りまとめて、情報のやり取りの後に県の担当者と相談機関が刑務所に訪問して聴き取りをする仕組みをつくりました。その結果、前橋、栃木、黒羽、府中、横浜、長野、水戸、川越少年の8刑務所から17件の支援要請をいただきました。17件のうち、帰住先が見込まれている方は2名だけでした(うち1名は仮釈放)から、出所後の支援を調整するために複数回訪問して本人の意向を伺いながら環境調整を行っています。

4.モデル事業の後の取り組み

対象になる方の犯歴、生活歴等の情報をどのように、どの程度共有できるかは、モデル事業の中でデリケートな課題でした。このことについての議論も何度もしました。結果、千葉県が提案した情報シートに刑務所とご本人が相談して記入の上で返送いただく流れができています。シートの一つに、生活歴を記載いただくものがあります。皆さんの生活歴を見て感じるのは、どの方にも落ち着いて暮らしていた時期があること。その時期には、家族とか、理解のある雇用主とか、友達とか仲間とか、その人にとってかけがえのない誰かがそばにいたこと。それが疎遠になった時期に罪を犯してしまっていることを感じています。

千葉県は、モデル事業の後も「犯罪をした者等に対する切れ目のない生活支援等の推進」として、県単の事業として刑務所等への訪問を行う仕組みをつくりました。モデル事業で行っていたことを千葉県の事業として位置づけたものです。令和4年1月に策定された「千葉県再犯防止推進計画」の中でも主要な施策として位置づけられています。令和3年度には12か所の刑務所等から25件のご相談をいただきました。中核センターの他、生活困窮の相談事業所や障害者基幹相談支援センターに同行いただくこともあります。

犯罪を重ねる方のほとんどが、社会の中での居場所を無くしている方であることを感じています。居場所をつくるために、まずは私たちが、その方にとってかけがえのない人になれればと願っています。

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