ひと~マイライフ-小さなチャレンジで より良く生きる未来を紡ぐ

「新ノーマライゼーション」2022年4月号

原千鶴子(はらちづこ)

大阪府在住。交通事故により左足を膝上から失い、大腿義足を使用して、日々生活している。現在、公務員として働くかたわら、NPO法人ハイヒール・フラミンゴの理事として、同会で行う女性義足ユーザーの交流等の活動に参加している。好きなことは、旅行に行くこと、本を読むこと、美味しいものを食べることなど。

大学1年生の18歳の時、交通事故に遭い、左足を失いました。膝上での切断でした。事故の際の記憶はなく、意識が戻るとICUに。医師から命を守るためだったとその事実を告げられました。あまりのことに自分が崩れてしまいそうで、うまく泣けなかったことを覚えています。右足も骨折していたので、立てるようになるまで3か月かかり、さて立とうとしても立ち上がり方さえ忘れていて…。歩く時の身体の動きやバランスの取り方をはじめとして、日常生活に必要なことを一つ一つ取り戻していきながら、大腿義足を着けて歩く練習などをして退院したのは6か月後でした。その後大学に戻り、同級生より1年長くかかって無事に卒業。社会に出て働けるのか不安がありましたが、事務職として就職し、今や勤続20年を超えました。

義足ユーザーとなって、30年近くなり、義足とともにある人生の方がはるかに長くなりました。思い返すと、初めの数年間は義足を毎日着けると足に傷ができて痛み、なかなか思うように動けずもどかしい日々でした。そのうち体が義足に慣れてくると、家族や親しい友人と温泉など国内旅行に、海外旅行にと出かけられるようになり、スポーツにチャレンジしてみたりとできることが増えてきました。特にハマったのがヨガで、10年ほど毎週のようにヨガ教室でのレッスンに通いました。何か体を動かすことをしたいとヨガの体験レッスンに行った時、先生の教え方が上手く「結構できるやん!」とうれしくなったのがハマったきっかけでした。ヨガのレッスンは義足を着けたままで受けますが、私の義足は膝を曲げた状態をキープすることができないので、立ちポーズは健足の右足を軸に行うなど、工夫して楽しんでいます。

数年前、義足女性ユーザーと義肢装具士など義足に関わる人で構成される「ハイヒール・フラミンゴ」というコミュニティと出会いました。長く義足ユーザーとして過ごしてきましたが、他の義足ユーザーの方との接点が少なかった私にとって、「そうそう、困りますよね。どうしていますか?」「しんどいですよね…」と義足の悩みを共有できることは新鮮で、不思議なほど安心感がありました。

最近の変化といえば、昨年の11月に、これまでの義足とはソケット(残っている足を収納し体重を支える部分)の装着方法が違う義足を使い始めたことです。私にとっては、小さいながらもチャレンジでした。より手軽に義足を装着したいと思い、変更することにしたのですが、ソケットは体との結合点となる重要な部分。初めは少し歩くと疲れ、1日装着すると足が痛んで、慣れない義足に四苦八苦しましたが、「初めて義足を着けた時と同じ」と思い、新しい義足を日々使い続けていると、徐々に体も慣れてきました。ハイヒール・フラミンゴではこんな義足に伴う困りごとや、義足との付き合い方を共有したり、今までやってみたかったことに取り組むヒントをもらったり。そんな場がありがたく、お誘いを受け微力ながら、現在、理事として活動に参画しています。私が片足を失った時に感じた不安や失望感もこのような場があれば変わっていたのでは。そんな思いもあり、義足とともに暮らす方が安心できる場づくりのお役に立てたらと思っています。

「行けるところではなく、行きたいところに行こう!」これはハイヒール・フラミンゴのモットーです。「行きたいところに行く」って当然のように感じるかもしれませんが、義足ユーザーにとっては簡単なことばかりではありません。でも、初めから諦めるのではなく、工夫や手助けで可能性の幅は広がります。ひとりでできること、仲間とともにできること。義足を使いこなして、小さいことでもチャレンジすることがいつまでも「行きたいところに行く!」に繋がると思っています。少しずつでいいのです。まずは、新しい義足でヨガを楽しみます。

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