基調講演 国連と障害の観点から取り組む2030年アジェンダ -ポストコロナ世界と障害の視点からの社会改革へ-

伊東 亜紀子
(国連経済社会局 国連障害プログラム/障害者権利条約事務局チーフ)

おはようございます。このたび、総合リハビリテーション研究大会に参加する機会をいただきありがとうございます。

医療、教育、そして数多くの分野で障害のある方々の人権を擁護し、完全な社会参加を可能にするために、リハビリテーションの専門家の皆様は最前線でご努力をなさっていらっしゃいます。リハビリテーションが、障害のある人を含むすべての人たちの社会参加を目指す国連の目的に沿って、長いあいだ取り組まれてきたことに深い敬意を持ち、感謝の意を国連としても表したいと存じます。このような会議に参加させていただけることで、障害政策の枠組みに携わる私たちに、障害者のエンパワメント、インクルージョンに関して新たな学びが可能になると存じます。

国連でも、国際リハビリテーション医学会(International Society of Physical and Rehabilitation Medicine - ISPRM)というリハビリテーション医学の専門家のネットワークと協働する機会がありました。その研究大会でも、持続可能な開発目標(SDGs)や障害者権利条約など国連のグローバルな枠組みに関して、リハビリテーション医学における専門的な貢献、そして地域社会のメンバー、そしてリーダーとしての貢献を考え、地道に努力をなさっている専門家の方が増えているようです。これからぜひそのような専門家の方々が、私たちと一緒に国連の仕事に携わってくださることが、障害者のインクルージョンに具体的な成果をもたらすことは確かです。

新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから1年半以上たちましたが、国連は、SDGsの実施の取り組み、監視、評価などに関する研究プログラム、その他エビデンスと経験に基づいて、ポストコロナの中で、これからどのように、障害者の観点をさまざまなグローバルな政策に組み入れていくか、大変重要な時期にあります。

リハビリテーションの専門家の皆様、研究者の方々、それを支える方々は、ご自身の知識、経験、研究を通して、障害者のインクルージョンについてモニタリングと評価をできる立場におられ、そのうえで、新しい政策や、その実施のための提案をできる立場にもおられますので、そのような重要な立場をフルに使っていただいて、地域社会だけでなくグローバルなレベルでのリーダーシップも取っていただければと切に願っております。特に若いリハビリテーションの専門家の方々には、障害者のエンパワメントとインクルージョンのために不可欠な条件でありツールであるリハビリテーションについて、最先端のテクノロジーも活用しながら、さまざまな知見にとどまらず、実際のリーダーシップをとっていただき、日本の国際社会への貢献の一翼を担っていただけることをぜひお願いしたいと存じます。

障害者のインクルージョンのために、そして、ポストコロナにおける社会変革を障害の視点からもたらすために、皆様のリーダーシップを、地域社会、国際社会においてどのように結実させていただけるのか。その大きな課題のために、私たちの国連システムがどのようにお役に立てるのか。これからお話しする内容が、そうした議論に結び付くのであれば幸いです。

本日の講演では、そのような国連の今の状況について、いくつか皆様に情報を共有させていただきます。国連の障害と開発に関する初めての主要報告書(フラッグシップレポート)として、「障害と開発に関する報告書(UN Flagship Report on Disability and Development)」が、2018年12月に国連の事務総長名で総会に提出され、現在このアップデートの作業が行われていますが、これに関する情報をお伝えします。また2019年に、国連の事務総長が、国連組織内の政策や、さまざまな行動計画に、どうやって障害の観点を含めていくかを考えるために、「国連障害インクルーシブ戦略」という戦略を作ったのですけれども、そのことに関する現況を簡単に申し上げます。さらに、現在から年末にかけて予定されているイベントの話、最後にリハビリテーションの専門家の皆様方にぜひ考えていただきたいことを少し提示させていただきます。

国連の障害に関する取り組み

まず国連の障害に関する取り組みについて、背景をお話しさせていただきます。国連憲章に掲げられた、国際社会の平和と発展という目的は、経済、社会、開発、人権保障の促進によって担保されるということであります。その中で、この30年のあいだに、開発、人権、安全保障、平和のプロセスなど、すべてにおける障害者の参加や、障害という視点から国際社会の発展に寄与していくことについて、政策的な枠組みを確立してきました。

「障害者に関する世界行動計画」、「障害者の機会均等化に関する基準規則」、「障害者権利条約」などの国際規範は、国際社会において、特にSDGsを実施するにあたって大変大きな力であると考えられています。このことは、21世紀の国際社会に徐々に根付いていると思われます。この中で、障害者の権利実現というのは、普遍的な人権に依拠していますが、無差別、平等、障害者のエンパワメント、障害者のリーダーシップは、国連の元々の目的である「すべての人のため」に必要であるという認識ははっきりしています。この目的は、1990年代から2015年まで、社会開発、平等、女性のエンパワメント、人間の居住環境と都市開発、防災など、いろいろな分野における国際会議において、開発アジェンダとして議論され、ミレニアム開発目標(MDGs)など国際的な規範の枠組ができてきたわけです。そして、万人のための開発を目指して、国連総会で、2015年9月に、持続可能な開発のための2030アジェンダと、持続可能な開発目標(SDGs)が採択されました。

その目標を実現するために、国際社会、各国政府は、世界が直面するさまざまな課題に取り組んできましたし、現在のポストコロナの状況においても、これらの国際規範の中で、どのように障害者の権利や観点に結び付けていけるか、模索を続けています。2030年の開発アジェンダは、人々、地球、その繁栄のために、具体的な行動計画を提示しています。ここでは障害のある人もない人も誰一人取り残されないことが明確にされています。その中にある、169のターゲットと232の指標を含む、17の持続可能な開発目標が、SDGsです。皆さんご存じのように、貧困・飢餓の終焉、健康と教育のシステムの改善、都市の持続可能性の向上、気候変動への取り組み、海と森林保護を含む広範囲にわたる変革が求められています。現在開かれている国連総会の第三委員会で、障害に関する議論も始まるところですが、そこでは、SDGsを達成するためには、障害者の参加が中心的な課題であり、またそれにとどまらず、障害者のリーダーシップということも含まれています。このことは、開発アジェンダにただ文言として含まれるというだけではなく、その実施、モニタリング、また具体的なプログラムにおいても、障害の観点がすべて組み入れられていくように、総会での議論が進むと考えられます。

持続的可能な開発目標(SDGs)と障害者権利条約

皆さんもご存知のように、2006年12月に、日本障害フォーラム(JDF)や、日本障害者リハビリテーション協会を含む日本の関係団体の力強い取り組みもあって、障害者権利条約が採択されました。条約の中には、障害者の社会参加、障害のインクルージョンという視点から、すべての人のための社会や開発のために新たな枠組みが定められました。これは国際的法的枠組みです。これとSDGsとの関わりについては、2013年に閣僚レベルによる「持続可能な開発に関する障害と開発に関する総会会議」が開かれ、その中で具体的な枠組みの基礎ができ、総会でもさまざまな議論を重ねながら、宣言などにも盛り込まれ、現在は、障害者権利条約は182か国が批准していますし、締約国は条約における障害者の権利を法的に履行する義務を負っているので、締約国の増加によってSDGsの実施においても普遍的に障害者の権利の認識がしっかりと根付いてきています。SDGsの目標実施のプロセスに参加する中で、障害を分野横断的に位置づけていきながら、すべてのプログラムに具体的に組み入れていくことが、今現在も第三委員会で話し合われます。もし皆さまで興味のある方がいらしたら、国連のウェブサイトをご覧いただければ、国連総会第三委員会―人道、人権を扱う委員会ですけれども、その中で10月の全般にわたって、障害に関することが含まれてきています。国連総会では、10月の中旬ぐらいから決議に関する議論が始まると思いますが、その中では、今申し上げましたようにすでに十分堅固になってきたSDGsと権利条約の関係を踏まえ、権利条約に基づいたSDGsの実施について、新たなアプローチを求めていくことが、大変重要になってきています。そうした中で、リハビリテーションは、やはり、障害のあるすべての方の人権擁護の具体化のための必要不可欠なツールでありますので、専門家の方々が、ぜひ新しいアプローチに関して、具体的な提案をしていただければすばらしいと思います。

障害に関わる国際的なリーダーシップ

国連加盟国と障害分野のリーダーシップに関しては、「国連・障害者の十年(1983~1992)」について覚えていらっしゃる方もおられると思います。国連の障害と開発に関する政策のリーダーシップをとってきたフィリピンが、この十年の後ろ盾でもありましたが、日本のリハビリテーション専門家の方々も大変活躍なさいました。私自身は、まだ80年代には障害に関する国連の仕事はしていませんでしたが、日本の貢献が障害をグローバル・アジェンダに組み入れるために重要な役割を果たしたことは記録を見れば明らかです。障害者世界行動計画、障害者機会均等基準規則、そして障害者権利条約の採択を経て、障害と開発の連繋を、2013年以来、さらに具体化し、持続可能な開発目標、モニタリングの実施、メインストリーミング、主流化の方向づけをしていくために、総会の決議を通して、フィリピンなど途上国がリーダーシップを発揮してきました。

障害者権利条約において中心的役割を話してきたのは、メキシコ(メキシコは、ご存知のように障害者権利条約を提唱した国です)、ニュージーランド、スウェーデン、ヨルダン、エクアドル、コスタリカ、ハンガリーなどですが、障害者権利条約に関する推進国(Group of Friends of the CPRD)として、これに、プラスNGOグループという非公式な活動も通じて、フィリピンや、G77という開発途上国のグループ、中国とともに、グローバル・アジェンダによる障害者インクルージョンとメインストリーム化に、随分活発な動きをもたらしています。もともとあった国連・障害者の十年の流れ、そして障害を開発に位置づけるという流れから、1990年代後半に、人権の観点をさらに組み込んでいきます。その後、2006年に採択された障害者権利条約、ミレニアム開発目標(MDGs)、SDGsという流れにつながるのですが、障害者権利条約によって、障害を社会開発の中に組み込むだけではなく、障害者のインクルージョン自体が目的であり、インクルージョン自体がSDGs全体にインパクトを与えるということが共通認識となり、締約国会議などの場に多くのリーダーが一堂に会し、国際的な枠組みを作っているわけです。

その中で、私が所属している国連経済社会局と言いますのは、国連システムの障害問題に対するフォーカルポイントで、多国間交渉の事務局としてグローバルな課題に携わり、専門的知識を世界的なネットワークの中でマネージメントし、貢献をしていくために、多くの専門家の方々とともに、拠点を作っています。もちろんリハビリテーションの専門家の方々とも以前からネットワークを作っていますが、今は、リハビリテーションの重要性を、国内的政策だけではなくて、リハビリテーションから見た世界的な権利条約の実施、そしてSDGsの実施に関して、もう少し踏み込んで、具体的に考える時期が来ているのではないかと思っています。

障害者権利条約を推進する国連の取り組み

障害者権利条約の、国別の実施やモニタリングに関しては、「障害者権利委員会」と「締約国会議」という2つのメカニズムがあります。障害者権利委員会は、国連の人権保障システムの中にあり、ジュネーブにあります国連高等弁務官事務局が担当しております。締約国会議は、ニューヨークにあります、私たちの国連経済社会局が事務局を担当しており、毎年ニューヨークの本部で開催されています。

今年の締約国会議は対面とオンラインのハイブリッドで開催されました。締約国会議の中で、障害者権利委員会の委員を選ぶ選挙も行われ、この選挙は対面の会議で行いましたが、そのほかのほとんどのプログラムは、今日の研究大会のようにZoomを使ってやりました。国連には、女性差別撤廃条約や、子どもの権利条約など、ほかにも人権条約があり、それぞれ条約体と呼ばれる委員会がありますが、その中でも、障害者権利委員会は、権利条約の実施に関する経験と、新たなアイデアを共有したり、各国政府、国連システム、専門家のネットワーク、そして障害者のコミュニティーの代表の方のより踏み込んだ議論のためのフォーラムとなっています。

締約国会議は、毎年、45か国以上の大臣級の参加をいただいています。参加者は、対面で行われていたときにはだいたい1,400人以上で、ソーシャルメディアを通じてのヒットが4,100万あり、800以上の市民団体の参加をいただいております。この数が毎年増えておりまして、障害者とグローバル・アジェンダをめぐる国連加盟国、研究機関、企業など、実務的ネットワークと政治的ネットワーク、そして研究家のネットワークが交差する、大変おもしろい場となっています。その中で、障害者権利条約の実施に関する、立法事項についてのハイレベルパネルもありますが、これらの議論の中でも、いつも障害と開発に関することが、1つの大きなインパクトをもった分野になっています。いかにして障害者権利条約から開発問題をとらえて、そこに新たな視点を提供しうるか、そして具体的にそれをモニタリングシステムなどにどのように反映していけるかなど、緊急かつ具体的なテーマがどんどん生まれています。サイドイベントも毎回100以上開かれ、その中でも、本当にいろいろな研究者の方々が、貴重な研究を共有していたりします。ここで、ぜひ日本の知見、経験を共有していただき、例えば日本のリハビリテーション専門家の方々が有益なネットワークを協働するような可能性を模索いただければ、それも素晴らしいと思います。

昨年2020年は、通常6月に開催される締約国会議が12月に開催され、今年は6月に開催しましたので、半年ごとに開いた形でした。この中で苦労したことは、対面とバーチャルなプラットフォームを駆使して、新しいレベルのインクルージョンとアクセシビリティを作ることでした。私もテクノロジーについて新たに勉強しましたが、なかなかまだ自分の中でも使えていないところがあります。そのようなインクルージョンとアクセシビリティの達成のために、私たちはハードルを高くしながら、全体会での一般討議を必ず対面でやり、残りの2日間にわたるラウンドテーブル・ディスカッション(円卓討議)や、国連システムのインタラクティブ・ディスカッション(双方向討議)はバーチャルでやるというふうに、プログラムをしっかり作りました。いろいろなバーチャルツールについては、多分、日本の方がレベルが高いかもしれませんが、私たちも、普段は参加が難しい途上国の専門家も含めて、全てのプログラムをそういうツールを駆使して行うことに成功しました。国連の場合、6か国語の公用語があり、また国連の中でのいろいろな制約や、技術面でも難しいところがあり、はじめは不安があったんですが、そのような中で何とか、ある一定の会議を全ての人にアクセスできるようにして、しかもそれに関してトレーニングなども適宜行えるようにしました。もちろん不備なところは多かったのですが、これからもそのようなインクルージョンを、政策としてだけではなく、自分たちのやる1つ1つの小さな研究会でも、イベントでも、ミーティングでも大切にして、なるべくコストもかけずに、なるべく全ての人がアクセスするためのツールを―今後も改良されていくとは思いますが、なるべく早く駆使していこうという考えを共有することにしました。それが今の国連加盟国における障害分野のリーダーシップを支えるうえで大切だと思っていますし、私たちも私たちなりに、専門家の方々に助けていただくというアプローチが大事だと思っています。

地域とグローバルの関わり

国連総会や、今お話した締約国会議や、国連人間居住会議など、いろいろな大きな会議のフォローアップが、2030年アジェンダの一部として進んでいます。ひとつ大事だと思うのは、そのように分野別にSDGsが実施されて行く中で、それらの実施面での成功例や問題点の認識と共有を、もっと地域社会レベルでもやっていくことだと思います。国連レベルではSDGsの自発的国家レビューが2019年から行われています。これを通じて、各国がSDGsの実施のために取り組みを発表し、共有し、議論が行われます。ここでは国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の、アジア太平洋障害者の十年における、「アジア太平洋障害者の『権利を実現する』インチョン戦略」で発表された10の目標のように、地域とグローバルの関わり、これからの地域社会との関わりなどを、有機的につなげていくことが必要ではないかと思います。

障害と開発に関する報告書2018

次に、国連の障害に関する主要報告書であり、障害と開発に関する初めての包括的な報告書である、「障害と開発に関する報告書 2018」についてお話ししようと思います。私たちの国連経済社会局には、障害と開発に関わるいろんな問題について分析を行って、皆さんのような、ステークホルダーネットワークとのパートナーシップを促進して、グローバル・アジェンダに障害を取り入れ、国際規範とその実施の枠組を支えて、新しい地域プラットフォームを構築するという目的があります。そのために、この報告書は、障害と開発に関する国際的な枠組みを強化して、国内施策に展開するためのエビデンス、データの全般の基盤を構築するために、3年間かけて作りました。これは世界で初めて、事務総長自ら発表したのですが、持続可能な開発目標(SDGs)を初めて障害の観点から調査した研究成果です。

国連では、この報告書を、いろんな研究者と国連との協働関係の基盤として、新しい知識、ネットワークというように位置づけて、エビデンスをしっかり固めていくことに力を注いでいく、というはじめての試みに成功しました。この報告書には、障害者の方の大半は、SDGsの目標において大変不利な立場にあるということ。参加が困難な立場にあり、コロナ禍の状況では特にそうですが、意思決定過程や政治参加を通じて貢献しているのに、過小評価されていること。貧困に陥る率が高く、教育、保健、サービス、雇用へのアクセスの欠如が、さらに社会的な排除につながっていること。障害のある子どもや女性をはじめ、障害者の中でも最も取り残されがちな人々のために緊急に対策を講じることが必要であること。学校教育、ヘルスケア、職場、余暇、レクリエーション、スポーツを含む、すべての領域への障害者のアクセスを確保するために、さらなる変革を求めることが述べられています。また報告書には、都市、農村地域も障害の視点を含め、輸送、インフラ、情報、通信技術についても、アクセシビリティの改善、実施に基づいて、障害者の権利と平等な機会を確保するために、具体的な行動が求められることが述べられています。好事例についても述べられていて、例えば88%の国が子どもの権利について含めることを保障する政策、法律を有しています。66%の国が障害のある生徒を含むカリキュラムを持っていまして、53%は障害のある子どもたちの教育のデータ収集のシステムを何らかの形で持っています。その一方で、全ての専門家のネットワークと国連が提携して、具体的なレベルで、グローバル・アジェンダに障害に関することを含めることが、最重要の課題として求められています。例えば具体的な提案としては、グローバルなアクセシビリティの文化(culture of accessibility)の担い手として、私たちが、世界の中で、国連としても、専門家のネットワークとしても、それぞれ自分たちの持ち場の中で、意識改革に努めていくという考え方を、前面に出しています。

この障害と開発に関する報告書は、去年の第75回国連総会決議の75/154ですが、今から2年後の第78回に、アップデートされたバージョンが出されることになっています。現在その準備をしていますが、皆様のご協力をぜひお願いします。

国連障害インクルージョン戦略(UNDIS)

次に、国連障害インクルージョン戦略(UN Disability Inclusion Strategy - UNDIS)についてお話しします。2019年6月の障害者権利条約締約国会議で、グテーレス事務総長が、国連システムにおけるインクルージョン戦略の立ち上げを発表しました。これは、国連の政策的なコミットメントというだけではなくて、障害の観点を、国連のプログラムや現場でのパフォーマンス(実行・実践)の中に包摂することを主眼としています。この戦略は、「ジェンダー平等と女性のエンパワメントのための国連全システムにおける行動プラン(United Nations System-Wide Action Plan on Gender Equality and the Empowerment of Women - Gender SWAP)」という、女性の平等の観点から国連のパフォーマンスをモニタリング・評価する枠組みと同じレベルで扱われています。

このインクルージョン戦略の実施に関しては、国連事務局だけでなく、すべての国連機関が参加して、しかも事務総長室に障害インクルージョン戦略担当の部署があり、そこが中心になって、世界中の国連の事務所、そしてフィールドオフィスからの報告を基に、毎年、事務総長報告書として国連総会に提出することになっています。

先日このインクルージョン戦略の国連事務総長付きの実施担当官と話をしておりましたが、現在国連総会に提出されている報告書によると、具体的にいろんな指標がすでに設定されていて、その指標に基づいて、世界中のフィールドオフィスからも情報が集まっております。皆様ももしご興味があれば、インクルージョン戦略の報告書が国連のホームページに公表されていますのでご覧ください。

リハビリテーション専門職への期待

このように、世界中の国連のオフィスが権利条約の実施に中心的な役割を果たさなければなりません。SDGsを実施しながら、障害者権利条約を実施していくわけですが、そこでリハビリテーションとの関係について考えてみますと、リハビリテーションは障害者権利条約の中に含まれていますので、リハビリテーションの専門的な技術、知識、経験が、どのように障害者の方々の社会参加やいろんな施策立案に貢献できるか、そこに大きな意味があります。国際リハビリテーション医学会(ISPRM)のイベントで障害者権利条約の実施に関して議論をしましたが、リハビリテーションに関わっている専門家、実務家、その他サポートする側にある方々は、障害者の権利を守るための最前線にいらっしゃいます。そのような方々が積極的に声を出して、社会施策などに提言をしていくことは大きなインパクトがあるのではないでしょうか。このようなインクルージョン政策を進めるにあたって、国連のすべてのオフィスは、もちろん知識もないし経験もありません。リハビリテーションの政策や実務についても、国によってさまざまなレベルがあると思います。そのような中で、日本のリハビリテーション専門家のネットワークや、一人一人の方が、国連にお力をお貸しいただければ、大変ありがといと考えております。

繰り返しになりますが、皆様の専門的知識や経験が、障害者の方々のインクルージョンのための力になります。カントリーチームだけではなく、国連の地域委員会、民間部門などと新しいパートナーシップを作っていただき、そして障害者のエンパワメントのために、もっと包括的な制度を提唱していただければと思います。リハビリテーションだけの施策ではなく、リハビリテーションをサポートして盛り上げていける政策的な環境やネットワーク的なリソースなど、いろいろなものをどうやって組み合わせて、日本を含むいろいろな国々のリハビリテーションを通じて、障害者の権利の擁護や、SDGsに結び付けていただけるかが、やはり大きな課題になるのではないかと思っております。

いろいろな知的・人的そしてさまざまなリソースを活用しながら、リハビリテーション専門家がリーダーシップをとって、地域社会やグローバルレベルで活躍していただき、アクセシビリティに関する地域的努力、アクセシビリティを促進するカルチャーの担い手として、新しい社会的運動のようなものを皆様のお力で牽引していただく。そしてデータ、統計、モニタリングに関しても、障害者のインクルージョンに関するSDGsのデータの収集、分析、支援をお考えいただくことはできますでしょうか。最近は平和維持と政治的ミッションに、障害者のインクルージョンをメインストリーム化(主流化)する機会が出てきています。それに関してもやはりリハビリテーションの専門家の方々が、困難な平和維持や政治的ミッションに関して、具体的にどのようにしていけば、インクルージョンが可能になるか、国連からも、具体的なレベルで、また皆様にご相談させていただくかもしれません。

そのためにもファンド(基金)を作る必要があったのですが、今のところは「国連障害者の権利パートナーシップ(United Nations Partnership on the Rights of Persons with Disabilities - UNPRPD)」というところで、カントリーレベルでの権利条約、SDGsの実施支援のために、2011年から、国連開発計画(UNDP)のマルチパートナー信託基金が作られています。今まではオーストラリア、フィンランド、メキシコ、ノルウェー、スウェーデン、スペイン、オーストラリア、キプロスなど39カ国、それと3つの地域、8つのグローバルイニシアチブがとられていて、国連のシステムが協働でプログラムを実施しています。このファンドで行えるいろいろな社会的プログラムがありますので、カントリーチームが、リハビリテーションのプログラムのための資金を要請した場合、皆様のサポートや、皆様との連携が得られれば幸いです。

国際障害者デーのイベントなど

最後に情報提供をさせていただきますが、12月3日の国際障害者デーに、今年も国際的イベントや、国内における障害者権利条約に沿ってのSDGs実施、モニタリングに障害を組み入れるための技術的知識・情報など好事例を促進するために、私たちも国連のチャンネルを通じていろいろな情報の共有や、イベントを協働でやっていきます。できましたら皆様も専門家のネットワークとして、ぜひスピーカーなどとして参加いただいたり、日本であるイベントを紹介したり、サイドイベントをしていただければ、ポストコロナにおける障害と開発の主流化に大きなインパクトを与えることが出来ると思います。

障害者とSDGsのチェックリストを後ほど文書として共有したいと思います。

最後に

最後に、まとめです。障害者が平等と完全参加の下に、私たち国連が目指す経済、社会、文化的権利を完全に行使していくのは、社会正義や人権擁護などの観点からだけではなく、私たちの共通する未来への投資だということです。障害をもつ個人と社会の両方について、知識や経験、そして新たな実務的ネットワークを取り込みながら、エンパワメントを促進し、2030年持続可能なアジェンダの枠組みの中で、平和と発展を促進する方策を模索する、その大きな一端を担っているという認識を共有したいと思います。2021年10月時点で世界中で新型コロナウイルスの感染拡大による破壊的な影響がまだ続いていますが、このような危機に際して、障害者の平等と完全社会参加の理念の下で、障害をもった方々のエンパワメントを進めつつ、同時に、高齢者、障害者、そして社会的弱者といわれる方の身体的・精神的な損失、経済・社会・文化活動からの孤立による悪影響を緩和することも、両輪で進めていかなければいけない状況だと思います。そのためには、国のレベルや、グローバルレベルだけでは難しいことが多くあり、地域社会のネットワークの機能性と機動性を保ちながら、それらを最大限に活用していく必要があると思います。地域レベルでの好事例をいただきながら、私たちがグローバルレベルで皆様の知見、経験を基に、新たな政策の枠組みを提言していくことも考えています。今日の研究大会でも皆様と対面でお話することができませんが、障害のある方も、いろんな側面での社会参加や、ご自身のネットワーク作りや、リーダーシップを発揮しながら社会変革に携わっていくことができにくくなっています。前例のない状況です。

コロナ危機のために、生活に必要なことすらも欠いている状況が社会で実際に起こっている中で、どのようなことができるのか。まだ緊急事態にいらっしゃる方と、ある程度社会参加への準備ができている方も含めて、すべての方が次の回復レベルに進んでいくために、それぞれ地域社会で実践していらっしゃる取り組みがあるかと思いますので、そうした好事例についても、ぜひ教えていただければと思います。

このような現在のプロセスですが、やはり新しい基準や規範を設定しながら、必要なパートナーシップやネットワークをどんどん作っていって、将来の危機的な状況に対する防波堤を構築する必要があります。そのために制度を強化したり、国際社会がSDGsに向けてよりよい取り組みを構築したりしながら、それらがすべて障害者権利条約の実施に結びついた形でできるように考えていかなければいけないと思います。障害者の方の権利、視点、ウェルビーイングというものが、主流化されなければいけないと思います。障害のあるすべての方々が、今の状況の中でも意思決定プロセスにおいて、十分な発言権をもって、経済的、社会的、政治的、文化的な生活に参加することができること、これからの進歩による恩恵を平等に受けることができることが、世界的レベルで求められていくと思います。

これからのSDGsの推進は、社会的弱者のインクルージョンと、障害者の完全な社会参加を基本としながら、コロナウイルス危機以後のガバナンスや、経済社会的な体制について、新たなパラダイムを目指す世界構築に挑むことになっていくと思いますので、その中でぜひ日本のリハビリテーション専門家のネットワークの皆様方の経験、知見をぜひ、十二分に発揮いただければと存じます。皆さまどうぞよろしくお願いします。今日の私の共有したい情報とお話はここで終わらせていただきます。

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