パネル1「コロナ危機と障害者:その暮らし方がどうかわったか」

パネリスト 藤原 久美子(DPI女性障害者ネットワーク 代表)
後藤 強 (社会福祉法人ゆたか福祉会 理事・法人本部長)
久松 三二 (一般財団法人全日本ろうあ連盟 事務局長)
家平 悟 (障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会 事務局次長)
篠原 三恵子(NPO法人筋痛性脳脊髄炎の会 理事長)
コーディネーター 藤井 克徳 (NPO法人日本障害者協議会 代表)

藤井/まず最初に国連の伊東亜紀子さんの話はよかったですね。私も勉強になりました。今年は国際障害者年からちょうど40年目、また、メキシコ大統領が障害者権利条約を提唱してからちょうど20年目の節目にあたります。それらと重ねて聞くと、今日の話はとても意義深く、午後の部も含めた全体の基調になると思います。

さて、パネル1のテーマは「コロナ危機と障害者:暮らし方がどう変わったか」です。コロナ問題というのは、障害分野からするといくつかの捉え方があると思います。

元々障害者個人に関しましても、基礎疾患や障害のために、例えば手洗いがしにくいとか、いろいろなものに触らざるをえないなどの点で、とても影響を受けやすいという点があります。

一方で、コロナウイルスというのは、世界中で共通のウイルスなのですが、障害分野だけを見ても、各国で影響や課題の起こり方はまちまちです。この点を詳しく見ていくと、ある意味では、障害分野における平時の政策や、支援内容などについて、国際比較ができるということにもなりそうです。

また今年は、東日本大震災の発生から10年です。コロナが完全なる自然災害かどうかは議論があるかもしれませんが、あの大震災のときの教訓が、一体このコロナ危機で生かされているんだろうかということも、考えさせられます。

このように、このコロナ問題と障害分野というのは、いろんな面で深堀りができるテーマだと思います。

午後からのパネル2では、専門家の方々が登壇しますが、このパネル1では、それに先立って、障害当事者あるいは当事者に近い立場で活動しているメンバーで議論をしていきます。論点は3つあります。1つは、それぞれパネリストご自身の、あるいはご自身が関わっている団体で感じているコロナに関わる危機の内容や実態です。2つ目は、その実態から考えて看過できない問題点です。3つ目は、それらを踏まえた提言です。1時間半という短い時間なので、これらをすべて深掘りすることは難しいですが、そのエキスを語っていただき、また参加者の皆さんも、それを聞きとっていただければいいのではないかと思います。

パネルの進め方ですが、まず、今申し上げた論点のうち、実態と問題点の2つについて、前段の発言の中でお話しいただきます。3つ目の提言については、短い時間になりますが、後半の部分で、今日の各自の発言のまとめと合わせてお話しいただきます。おおよそこうした進め方を念頭に置きながら、あとは時間の範囲で自由に進めていければと思います。ではトップバッターには、藤原さん、お願いします。

藤原/DPI女性障害者ネットワーク、略して「女性ネット」といいますが、私はそちらで代表をしております。私たち女性ネットは、1986年に、優生保護法の撤廃と、障害女性の自立促進そしてエンパワメントを目指して発足しました。現在では、女性であり障害者であることによる複合差別の解消に向けて、国内外へ発信したり、政策提言等を行っています。

さて複合差別とは何でしょうか。人にはさまざまな背景があると思います。ただ障害者というだけではなくて、例えば外国人であるとか、性的マイノリティであるとか、さまざまな困難があるわけです。そうした複数の困難が、単に1+1ではなくて、複合的に幾重にも重なって、困難が増幅していく、そういうことを、複合差別と言います。

私たちは女性であり障害者であるということの困難に取り組んでいます。女性だから差別されたとか、障害者だから差別されたとか、なかなかはっきり分けづらいものがあります。また、データもすごく乏しいです。そのため、その困難さがなかなか可視化されないという課題がありまして、2011年にアンケート調査を行いました。その結果を、「障害のある女性の生活の困難-複合差別実態調査報告書」という冊子にまとめ、2012年に発行しました。

ここで明らかになったことは、障害女性の多くが、何らかの性的被害を受けているということです。その背景には、経済力が低いことであるとか、介助を受ける側であることなど、弱い立場に置かれていることもあります。また、女性としての扱いを受けず、それゆえに、例えば、子どもを産み育てることを否定されがちだということもあります。その一方で、家事や育児など、女性がよく負いがちな、家族のケア役割を期待されているという状況も分かりました。

昨年、第1回目の非常事態宣言が出されたときに、障害女性たちの状況がさらに悪化するだろうことを懸念しまして、4月30日に要望書を提出しました。今日の資料にもありますとおり、総理大臣宛などに出したのですが、要望事項としては、まずDVなどへの対応に障害のある人も盛り込んでほしいということや、次に福祉サービスに関すること、そして医療、また性と生殖に関わるサービスはコロナ禍であっても差別なく受けられるようにすること、さらに、そのためにも情報はアクセシブルであること、最後に、政策討議の場に複合差別の視点を持った障害女性を参加させることを求めました。

実際に私たちに寄せられた声には、パートナーが感染予防に協力的でないために、自分や介助者に感染するんじゃないかという不安を感じている、というものがありました。これもDVなわけですよね。多分、もっと深刻なDVというのは、恐らく、こんなふうに声にも上がってこないで、密室化しているということが想像されます。

そのほか、介助サービスが制限されて、お米を買いに行くこともできなかったという視覚障害者の声もありました。このように、介助者派遣の一部停止など、サービス利用を制限される深刻な事態は、障害種別を超えてありました。この要望書の後半には、当事者からの声を実際に載せています。

長引くコロナ禍で、困難のあり方もいろいろ変化していると思われますので、現在も、女性ネットのホームページで、こうした声を募集しています。ぜひ課題提言につなげていきたいと思っていますので、ご協力よろしくお願いします。

それから、私自身の体験ですけれども、私のような視覚障害者の場合、周囲の音だけでなく、風やいろんなものを感じ、空間認知しながら歩いているわけですが、マスクをしていることで、道に迷いやすくなったりします。レジも自動化が進んだり、アクリル板があったりと、いろんな障壁があり、特に女性の場合は日常的な買い物が多いですから、本当に困ってしまうことがあります。

トリアージの問題についても要望書を出しましたので、今回の資料に入れさせていただいています。もともとALSの方などは、女性の人工呼吸器装着率が低いのです。女性はケア役割があることで、自分は世話をされる側じゃなくて「する側」という意識があり、しかも自分の命の価値を低く見てしまう傾向もあるので、こういったときに、自分は優先的に医療や支援を受けるという、そういう思いになれないところがあります。トリアージの問題については、障害者は皆、危機感を覚えていますが、さらに女性であり障害者である人にとっては、すごく切羽詰まった状況だということです。簡単ですが以上です。

藤井/今、とても大事なことを、言われました。複合差別という点が、今度のコロナでも如実に出ていたということですね。藤原さん、コロナとの関係での複合的差別というのは国際的なデータはあるのですか?

藤原/データというのが本当に乏しいんですよね。障害者のデータは、障害種別ごとのものがほとんどです。そこまではあるのですが、さらにそれを男女別にしたクロス集計が、特に日本にはありません。世界的には、例えば障害者権利条約では第6条に「障害のある女性」という複合差別を認識したものがありますので、今後、そうしたデータも出てくるかと思いますが、今のところはほとんどない状況です。

藤井/まず国内で、統計上きちんと実態を把握すべきというご提案です。今、権利条約第6条という話がありました。複合差別、最近では交差的差別という観点があって、とても大事なものです。「併せ持つ差別」であり、かけ算的に差別の度合いが増していくという、そういうイメージでとらえられたらいいですね。次に、後藤強さん、お願いします。

後藤/障害福祉現場からの報告として発言をさせていただきます。私が勤める法人は、愛知県名古屋市を中心に、障害者の作業所、グループホーム、生活施設等を運営しています。利用されている方々は全体で約700名、職員が600名という規模です。昨年2月から現在まで、事業所内でクラスターが合計7回発生し、利用者・職員あわせて80名あまりが感染をしました。今日はその経験をもとに、障害福祉現場における感染対策の現状と課題について、4点ぐらいにわたり発言したいと思います。

まず1点目は、障害のある人はやはり感染症に対して高いリスクにさらされていることです。感染症予防には手洗いの励行、マスクの着用、人と人との密な接触を避けるなどの行動変容が求められます。私たちの事業所の利用者には、意識的にそうした予防策を講じることが難しい方が少なくありません。また、食事やトイレ、移動などで常に他者による密着した介助が必要な方も多いです。生活施設、グループホームなどは、家庭と違って集団での生活の場となっていること、そして高齢の方に比べると、外出や社会参加の機会が多いことも、感染リスクを高める原因となっていると思います。基礎疾患を持っている人が多く、感染した際に重症化しやすいのも重要かなと思います。

次に2点目は、感染症に関する脆弱な検査体制で、現場の不安と混乱が増幅している点です。感染が発生して一番困惑したことは、保健所の機能不全と行政検査体制の弱さです。同じ名古屋市といっても、その時々の感染状況、保健所によって、対応はまちまちです。すぐに全員を対象に検査が行われたケースでは、感染の広がり状況がすぐにわかり、どこに対策を絞ればいいか明確になって、早期に収束までもっていくことができましたが、一方、検査が大幅に遅れたり、検査対象が限定されたケースでは、二次感染が広がったり、収束までに長い期間がかかりました。国は「高齢者施設等」といった表現で、感染が発生した障害者施設でも広範囲に検査を行うよう都道府県に指示を出しています。しかし、実際の対応は各自治体に委ねているため、最初は高齢者施設等の「等」の中に障害者施設が含まれていることをなかなか自治体に理解してもらえない、そんな状況もありました。特に感染が爆発的に増えた第3波以降では、事業者内で感染が発生しても保健所からなかなか連絡が来ないようになり、その間、高い検査費用を自己負担し、民間の検査機関で自主検査をし、自己防衛せざるを得ないという状況が、半分当たり前になってきています。やはり感染症の際に必要となる保健所の体制や機能を本当に強化していただきたいと思っています。

3点目は、感染しても入院や宿泊施設で療養できずに、二次感染、三次感染の例が増えているということです。私たちの所でも、感染者が入院できたのは医療体制にまだ余裕があった昨年の2月ごろだけで、それ以降は、症状のいかんにかかわらず、利用者の方は全員、自宅やグループホーム、入所施設での待機となりました。心配していた通り、そこでは二次感染が発生しています。障害の重い人の入院や宿泊療養には確かに大きな困難が伴います。家族の側からも、子どもが感染しても、一人で入院や宿泊施設の利用ができないのではないかという不安が当初から出されていました。また、親が感染して入院した場合、濃厚接触者となった子どものケアはどうするのかという不安は、依然として強く残っています。これらの家族の不安を解消するためには、普段の様子をよく知った家族や職員が付き添える特例や、そのための特別なルールを設ける必要があると思います。この1年、合理的配慮を求めて多くの団体が要望を出していますが、ほとんど顧みてもらえていないのが実情です。特に医療崩壊による自宅放置が当たり前となった昨今の状況下では、こうした要望がかなえられる見込みは、ほぼ絶望的になってるんじゃないかと思っています。

最後の4点目は、感染拡大が長引く中、少なくない障害福祉事業所が運営の危機に直面していることです。しかし、時間がなくなりましたので、またあとで話す時間があれば、話したいと思います。簡単ですが、以上障害福祉現場からの報告とさせていただきます。

藤井/一つだけ伺いたいのですが、ゆたか福祉会では、障害のある人たちを支援している事業は、ほとんどが通所型や訪問系だと思いますが、コロナ危機下で、公費のお金の払い方が、日額、出来高払いとなっていることで、経営上の圧迫はどんなふうに感じていますか?

後藤/4点目でそれを言おうと思っていたのですが、時間がありませんでした。2006年に障害者自立支援法ができて、報酬が日額制になりましたが、特に今回のコロナ危機では、通所系、訪問系の事業所では、利用者の方も感染を心配されて利用控えをされます。あるいは訪問系では非常に深刻で、利用される方も、職員の側も、ヘルパーさんが入ることによって感染のリスクが非常に高まるという不安から、利用率が激減しておりまして、いつまでこの状態が続くのかということで、経営を直撃している事業所も非常に多いんじゃないかと思っています。

藤井/コロナウイルスは、冒頭に言いましたとおり、日本中・世界中共通だけれども、どうも政策のありようによって、問題の起こり方が違うことは、かなりはっきりしてきていますよね。

次は、全日本ろうあ連盟の久松さんです。久松さんは、日本障害フォーラム(JDF)の幹事会議長の立場でもあります。よろしくお願いします。

久松/この場でお話する機会をいただき、ありがとうございます。私がお話をするテーマは、全てのきこえない人、きこえにくい人を排除しないために、ということです。これを念頭においてお話したいと思います。

新型コロナウイルス感染症が拡大しまして、私たち全日本ろうあ連盟はどのように対応してきたかと申しますと、このウイルスについて、誰も経験したことがない、情報がない、どう対応していいかわからないという状況の中で、さまざまな関係者から情報を収集しながら、地域の状況を確認し、整理、分析を行いました。また、東京、大阪など多くの自治体における対応の問題、国の状況についても、情報を収集し、整理してきました。国ではさまざまな助成金がありましたが、そうした助成金の情報についても収集、整理しました。さらに、活動するには費用がかかりますので、助成団体とも交渉をしました。

そうした中で、ろうあ連盟として新型コロナウイルス危機管理対策本部を立ち上げました。全国手話通訳問題研究会、日本手話通訳士協会の2団体にも協力いただいて、本部体制を作りました。こうした体制を作ることについては、2011年の東日本大震災の救援活動のためにネットワークを作った経験がありましたので、これが大きな支えとなったと思います。

対策本部の中にチームを設けました。医療支援チーム、教育支援チーム、生活支援チーム、法律チーム、地域支援チームで、それぞれろうあ連盟の役員が入り、手分けをして運営していきました。大切なことは、それぞれの分野の専門家と関わりを作りながら、支援体制のネットワークを組んだということです。例えば医療支援では、医療に関わっている専門家の方々と連携をします。法律チームでは弁護士などの法律の専門家、生活チームでは精神保健福祉士のような専門家とそれぞれ関りを作りました。

社会資源に関しては、地域格差がどうしてもあります。社会資源が乏しいところの格差をどのように埋めて、十分な支援ができるよう取り組むのか考え、それぞれのチームで支援をしました。

インターネット、フェイスブック、ツイッターなどを通じて、情報を発信しました。重要なことは、全ての皆さんに正しい情報を伝達することです。そのために、音声や文字だけではなく、手話言語による動画もたくさん含めて発信しました。

医療支援チームでは医療の専門家と一緒に活動してまいりましたが、特にコロナウイルスに感染した方々に正しい知識や情報を提供しなければならず、これが大きな課題になりました。また手話通訳者や要約筆記者など、各地域の現場の支援者も感染することを避けたいという思いがあります。その方々が安心して活動するためにはどうしたらいいかと考え、タブレットなどを活用した遠隔による手話通訳の仕組みを作り、また、対面で通訳をする場合には、フェイスシールドなどを使って行うなどの方法を取りました。

地域格差に関しては、自治体の首長が記者会見などの情報発信をする場合、必ず隣に手話通訳がつくようにと、全国で情報保障を求める働きかけを重ねた結果、全ての都道府県の首長の記者会見には手話通訳がつくようになりました。

医療崩壊を防ぐための仕組みとして、医療のネットワークを作ることはとても大切だと思います。全国の地域格差の問題をなくすために、まず日本医師会にご相談しました。聞こえない人が手話通訳を伴って来たときに、医療現場ではそれを拒むことがあるようです。そうしたことのないようにサポートをしてほしいと医師会にお願いした結果、全国の医師会支部に、利用拒否をしないよう通達していただきました。この成果はとても大きかったと思います。自治体に対してもさまざまな要望を提出しました。大人に対する支援と同様、子どもへの支援も必要です。学校が閉鎖になってしまい、タブレットを通して遠隔で学ぶ状況も増えてきましたが、その際、聞こえない子どもたちが、字幕や手話がない、情報保障がないという状況で、自宅で遠隔授業を受ける例が多くありました。文部科学省と交渉し、タブレット等で学習する場合には、聞こえない子どもが排除されないように、字幕付与を国としても積極的にバックアップしてほしいと要望しました。全て対応できたというわけではないのですが、県によっては、聞こえない子どもへの情報保障の予算が付いたところもあります。意思疎通支援のための自治体の負担額にも地域格差があり、手話通訳などの派遣がなかなかできないところもありますますので、国の費用でそれをまかなうようにという交渉もしました。その回答をもらうことができたのは非常に大きな成果だったと思います。

今後、新しい生活様式にどう向き合っていくか。今、オンラインシステムを使って私はお話をしています。対面で読み取り通訳がいます。そして字幕もついています。その状況の中で皆様とお話ができるわけです。さまざまな障害をもつ方々が、Zoomのようなオンラインシステムを使えるようにするために、Zoomの日本支社と話をしたことがあります。こうしたシステムが使える人、使えない人、また、使いにくいと感じている人、さまざまな状況があることを情報提供しました。全ての人が参加できるようなオンラインシステムを構築してほしいとお話ししたところ、アメリカ本社にも伝え、私たち当事者の声も含めてシステムを作りたいという回答を頂きました。オンラインを使った仕組みは、私たちの生活にどう影響し、どう変えていくのか、将来のことはまだ想像できませんが、どのような形であれ、ICTの進歩に私たちが取り残されないで対応できる、そうした仕組みを作ることが必要だと思います。全ての聞こえない人、また、聞こえにくい人が排除されないための社会を作ることを念頭に置いて、そのためにはどう対応していくことが必要なのか、どう取り組んでいるのか、大切なのは何かをお話しさせていただきました。以上、ありがとうございました。

藤井/今のお話しは、お分かりのように、大前提として排除をしないということ、そこから始まるんだというのが大きなポイントだと思います。さて次は、家平さん、お願いします。

家平/私からは、まず私自身の生活が変わったこと、私たちの団体の中でもいろいろな声があがっていること、そうした生活実態について、調査結果も踏まえてお話ししたいと思います。

私は頸髄損傷の障害があります。NPOで勤務しております。肺の障害もありますので、コロナに感染したら本当に命が危ないという危機感があり、職場の理解もあって、今は在宅勤務をしています。職場では職場介助者に支援を受けながら働き、土日や朝晩は、ヘルパーを利用していました。職場介助者は、2年くらい前まで介助者助成金を受けていたのですが、今は、職場単独でアルバイト等を雇ってもらい支援してもらっています。コロナで在宅勤務になってからは、家に来てもらって在宅で支援を受けていますので、なんとかなっています。

ただ、これまで土日などに障害者団体の活動をするときには、移動支援を使っていたのですが、今は在宅でZoomなどを使うようになり、支援者が横にいて助けてもらうようになりましたので、移動支援はなかなか使えないことになります。そこをどうにかしたいと思っていたところ、昨年3月に通知が出て、移動支援についても柔軟に、在宅でも使っていいということになりました。自治体の障害福祉課に問い合わせると、その点について調整してもらえ、給付を得ることはできました。しかし本当は、障害福祉課の窓口で、そのような柔軟な対応ができることを把握して、いろいろな人に知らせることが必要だと思うのですが、実際は、そのような積極的な対応はなく、申し出てきた人には対応するという形で、日本の福祉の申請主義の問題点を、このコロナ危機の中でも感じました。だから、声が大きい人、知っている人には対応するけれど、知らない人はそのままになってしまいます。

コロナ危機の中で、私たちは在宅で生活をし、ホームヘルパーを使います。しかしホームヘルパーの体制が、福祉制度の中でも特に脆弱だと思います。そうした脆弱な体制の中、支援をする側についても、濃厚接触者や、感染者が出た場合、誰がどう対応するのか明確に決まっていません。またPCR検査を定期的に行ってほしいという希望もあるのですが、厚労省などと話し合いをしても、居宅サービスについては、一人一人の対応でクラスターが起こらないからということを言って、検査をしない状態が続いています。福祉全体に言えますが、そのように安全性が確保されないことで、居宅サービスを使い続ける体制自体が困難になっている状況があると思います。

そうした脆弱な基盤は、福祉の介護職の非常勤化に現れています。非正規職員の比率を見ると、介護職員(施設等)が約40%、訪問介護員が約70%、女性では訪問介護員の非正規職員が95%ということになっており、非常に高い。バイトなどの不安定な働き方で支えるしかないということがはっきりしています。このように福祉を支える人の処遇が、平常時から不安定なことから、今のような非常時には、なおさら対応ができないという問題が非常に色濃く出ているなと思っています。サービスの時間を超えたらもうできないよとか、まん延防止措置や緊急事態宣言が出されると、都道府県をまたいでヘルパーを派遣できないよとか、サービスを利用できない実態が広がっているという声が、私たちの仲間からも聞こえてきます。

次に、私たちが実施した調査(障全協「コロナ禍による障害者・家族への影響調査」)について触れます。去年の第2波のときに行った調査(2020年7月1日~10月31日)で、1,502名から回答をいただきました。

「困っていること」については、「感染予防・対策(20%)」、「外出の自粛(20%)」という回答が一番多いんですけれども、これを、回答者が障害者本人か家族かで比較してみますと、本人の回答では、「医療品不足」「生活必需品確保」「体力低下・障害の重度化」が多く、少ないサービスを使っている中で、緊急時の買い出しなどにも困っているということが分かります。一方、家族については、「感染予防・対策」とか、「サービス利用減・利用できなくなった」ことによって、家族や障害者本人の「メンタル/気持ちのコントロール」が心配だという声が上がっています。サービスが減ることによっての不安が広がっているのが分かってきます。

コロナ前の平時に家族の調査をした際には(「障害者家族の暮らしと健康調査(2019年)」)、家族介護の限界を感じているという人が66%いました。今回の調査で、「家庭で感染者が出た場合、介助を代わってくれる人はいますか」という問いに対して、76%の人が、代わってくれる人は「いない」と答えています。平時の調査結果と比べても、問題が深刻化している状況があると思います。

最後に自由記述に挙げられた声を紹介しますと、「緊急時でのショートステイでの対応をお願いしたいところですが、受け入れてもらえない状況のようで、日頃は私か息子(障害者)のどちらかが感染したら2人で死のうなぁが口癖になってます」というものがありました。先の見えない、長期化しているコロナ危機の中で、そんなふうに考えてしまわざるを得ない状況があることを踏まえると、根本的に、平時の障害福祉サービスをしっかりしていくことが非常に大事だと考えます。

藤井/家族で感染者が出た場合に、介助を代わってくれる人がいない人が、8割近い76%ですか。具体的には、そうした問題で、どのように困っているんでしょうか。

家平/なんとか感染を防ぐために、本当に皆さん、どこにも出かけていないんですけれども、もし感染した場合に、どこが見てくれるかというあてがないのです。病院に行っても、障害者の場合、入院させてもらえないという実態があって、入院調整するにあたっても、DNARですか、延命措置(心肺蘇生措置)の希望の有無の確認をしてくださいという、本当に命の尊厳みたいなところまで踏み込んだ対応が進められた事例があること自体が問題だと思います。

藤井/先ほど藤原さんがおっしゃっていた、女性障害者プラスコロナという、幾重もの複合障害、複合差別の話もありましたが、今の話もかなりリアルな例ですね。いずれにしても、国がこういう状況を把握していないということが、一つ、大きな問題点で、団体が懸命に、個別の事例を、今集めているというところが実態なのかなと思います。では次は、篠原さん、お待たせしました。

篠原/本日はこのような機会をいただきありがとうございます。まず、この筋痛性脳脊髄炎という病気をご存じの方はほとんどいらっしゃらないと思いますので、当会で制作したショート動画をまず見ていただきたいと思います。では、動画をよろしくお願いいたします。

<以下、動画音声>

5月12日はME/CFSの国際啓発デーです。新型コロナウイルス感染症の後遺症としてME/CFSを発症する方が増加しており、世界的に注目を集めています。

ME/CFSは、脳や中枢神経に影響を及ぼす、神経免疫系の難病で、多くの方はウイルス感染後に発症します。治療法も確立しておらず、厚労省の調査で3割の方が寝たきりに近いことが分かっています。

労作後の消耗と呼ばれる、最も特徴的な症状は、ちょっとした活動や簡単な知的作業後に急激に体が衰弱し、症状が悪化し、回復に極端に時間がかかることです。その他に、睡眠障害、思考力、集中力低下、起立不耐症、光、音、化学物質への過敏症などがあります。

ME/CFSを発症したかもしれない方は、当法人で翻訳したカナダの診断基準をご覧ください。

現在、国立精神・神経医療研究センターにおいて研究が行われており、血液検査で客観的に診断できることを示す論文も発表されました。

ME/CFSも、指定難病まであと一歩のところまで来ました。詳しくはNPO法人筋痛性脳脊髄炎の会のホームページをご覧ください。

<以上、動画音声>

ありがとうございました。動画にもありましたように、今日は病名についてはME/CFSというふうに呼ばせていただきます。日本では、長い間、慢性疲労症候群と呼ばれてきました。また、一般の検査では異常が見つからないため、ただの疲労の病気、または怠けていると思われてきました。実際には、WHOで神経系疾患と分類されている神経難病で、厚生労働省の調査で3割が寝たきりに近いことが明らかになっています。まだ指定難病にもなっておらず、障害者総合支援法の対象でもなく、また、身体障害者手帳の取得が非常に困難なため、他の人と平等に社会参加する権利、そして必要な介護や医療を受ける権利、選挙権を行使する権利、教育を受ける権利などが保障されていません。このME/CFSという病気は、世界中で集団発生を繰り返してきており、歴史的にウイルス性の疾患の流行後に起きています。2003年のSARSの流行のときには、27%がME/CFSの診断基準を満たしたという例があります。こうしたこれまでの科学的エビデンスを基にすると、新型コロナ感染症の、全感染者の約1割がME/CFSを発症すると推計され、日本でも17万人以上の患者が新たに生まれる可能性があります。

昨年7月には、アメリカの国立アレルギー感染症研究所のファウチ博士が、コロナ後に長引く症状は筋痛性脳脊髄炎に似ていると発言して、コロナ後にME/CFSを発症する可能性が世界に知られるようになりました。ME/CFSのコミュニティーでは、昨年の3月頃より、必ずこのパンデミックによってME/CFSの集団発生が起きるであろうと大騒ぎになっていました。当会では、その情報をいち早くキャッチして、海外の報道を翻訳してホームページで公開し、WEB上でもアンケートを2回実施。そして、昨年5月には研究を求めて厚労省へ要望書を提出しました。また、今年の通常国会には国会請願も提出し、衆参両議院で採択されています。昨年のアンケート調査によって、日本でもコロナ後にME/CFSを発症したことを確認しました。そして、今年のアンケートによって、コロナ後にME/CFSのような症状が続いている人の74%が仕事や学校に戻れず、33%の方が身の回りのことすらできず、25%の方が寝たきりに近いことが分かりました。

そして、国に望むことで一番多かったのが「社会保障」、次に「治療薬の開発」でした。「今は貯蓄で暮らしているけれども、これが尽きたら自殺するつもり」というような悲痛な声もアンケートに寄せられました。後遺症は、男性よりも女性が多く、年代別では40代、30代、50代、20代の順に多く、一つの家族の中で、例えばご夫婦とか親子、きょうだいでかかっているという声も多く寄せられました。私たちは、新しくコロナ後にME/CFSを発症した多くの患者さんを守るために、全力を尽くして国に要望してきましたが、なかなか国のほうではこの事実を認めようとせず、対策を取ろうというところまでいっていません。一方、アメリカでは、コロナ感染症の後遺症に関する150億円規模の研究プロジェクトを開始すると発表しています。恐らく、今日この話を聞いてくださっている方々の中にも、コロナの後遺症としてME/CFSを発症する可能性があるということを、聞いたことがある方はほとんどいらっしゃらないと思います。ですから、どうぞこのことを多くの方に広めていただきたいと思います。とにかく、感染者が増えれば増えるほど、このME/CFSの患者さんも増えますので、これからどのぐらいの患者さんが発症するか分かりません。このような状況ですので、このことを知った方に、これからの私たちの活動を支援していただきたいと思います。本日はありがとうございました。

藤井/このME/CFS(筋痛性脳脊髄炎)には、今お話しをうかがうと、2つの問題があると思います。1つは、既にME/CFSになった方が感染リスクをどう回避するのかということ、もう1つは、すでに感染した方にどういう不利益があるのかということです。今日、篠原さんは、もっぱら後遺症の問題について警鐘を鳴らすお話をされていましたが、筋痛性脳脊髄炎のある方が感染した場合の状況について、ご紹介いただける事例はありますか。

篠原/私自身は、コロナの後遺症としてのME/CFSのことしか体力的に取り組めませんので、日本でのそうした事例については分からないのですが、イギリスなどでは、コロナに感染した半分の人はそれほどでもなかったけれども、半分の人は非常に重症化して、入院した方もいるというような報告が出ています。

私自身の状況についてですが、私は化学物質過敏症が激しいため、ワクチンも打てず、そして、もし感染しても治療を受けることができません。私は今、4つの介護事業所から重度訪問介護を受けて生活していますけれども、うち3つの事業所で感染者や濃厚接触者が出ています。ですから、常に感染のリスクはあり、もし感染したら生命の危険があるというリスクのある中で暮らしており、去年の3月からほとんど外出をしていないという状況です。

藤井/今の篠原さんの例を聞いても、大変厳しい、戦々恐々という状態がひしひしと伝わってきます。谷間の障害という言い方をしますが、従来の、身体、知的、精神という分類だけではなく、弱視や難聴、難病、発達障害などで手帳を取りづらい、でも生活はしづらい、という障害の状態があります。その1つに、このME/CFSも入ってくるわけですが、もともと政策上の基盤が弱い中で、コロナのような問題が起きてくると、幾重にも被害が重なっていきます。

一つ補足しておきますが、精神障害の分野は、今、大きな問題になっています。典型的なのは、精神科病院での問題で、地域で暮らしている精神障害のある方も大変なのですが、先だって、日本精神科病院協会が緊急会見をしたように、いったん精神科病院で感染が始まると、一般の感染者よりも数倍の被害が出るということです。沖縄県のうるま記念病院では、8月中旬過ぎに大きく報じられたとおり、同病院だけでも170人ほど感染したうち、69人が死亡したということです。〔事務局注:200人感染、71人死亡という数字がその後報じられています〕

この報道を聞く限りでは、2つの問題が見えてくるんです。1つは、今言ったように170人の感染者であって、なぜ69人も犠牲になるのかということです。どうやらこれは、病院の構造問題にも関わってきます。閉鎖病棟という中では、炎が迫ってきたり、煙が迫ってきたりして、逃げようと思っても、表から鍵が掛けられている、そんなイメージなんでしょうか。大部屋でもあるでしょうし、そのように構造上、感染が広がりやすい状況があるのではないでしょうか。もう1点の問題は、うるま記念病院は、懸命に地元の自治体病院を含めて、感染症対応を求めるSOSを出すわけです。しかし、暗に、あるいは露骨に、精神科病院から来た方はちょっとお受けできにくいということで、診療拒否にもあってしまったっていうことです。このあたりも、問題点として象徴的かもしれません。これに近い問題は都内にもありますし、普遍化して見てもいいのではないでしょうか。知的障害者の施設でも、同じようなことが起こっていると報じられています。

そのようなことで、各パネリストからそれぞれの体験や情報を、出していただきましたが、これらはほんの氷山の一角だと思うんです。しかし一角ではあるけれども、そうした問題は、日本列島、どこでも起こりうるということが、感じられると思います。

大事なことは、現状を知り、確認したうえで、ではどうするのか、ということではないでしょうか。残りの時間はわずかですが、それぞれのパネリストから、これまでの発表を聞いたうえで、今後への提言を含む最後のまとめの発言をいただこうと思います。今度は順番を変えて篠原さんからお願いします。

篠原/今、非常に大きな危機感を覚えています。20万人以上の新しい患者さんが生まれようとしている中で、今感染者が増えているために、後遺症のことまで手が回らないことは分かりますけれども、国には本当に多くのことをしていただきたいと思っています。まずは実態調査が必要です。コロナ後にME/CFSの患者さんが出るということについて、大規模な実態調査をしていただきたい。コロナの後にME/CFSが発症するメカニズムなど関連の研究をお願いしたい。それから、この病気は、もともと診療してくださるお医者さまが非常に少なくて、従来の患者さんですら、診療・診断が受けられない状況です。ですから、診療体制を急ピッチで整えていただきたいと思います。それから、コロナ後の後遺症として、ME/CFSを発症する可能性があることを、医療関係者だけではなくて、一般の国民に対しても福祉関係者に対しても啓発活動をしていただきたいと思っています。

そして、アンケート調査の中でも出てきましたように、職を失う人が非常に多く、患者さんたちからは、自殺するというような声がTwitterなどで流れているんです。そうしたことを防ぐために社会保障の問題をきちっとしていただきたい。それから、かかったら大変な病気ですので、PCR検査は、介護者の人は1週間に1回とか、私たち患者ももっとできるとか、きちっとやっていただきたいと思います。今日、皆さんのお話しを聞いて、本当に、障害者の置かれている状況や危機感を改めて感じました。こうしていろんな障害者の方々のお話を聞くことができましたので、連帯して訴えていくことも大切だと感じました。今日はありがとうございました。

藤井/私からも、リハビリテーションの専門家の皆さんに、このME/CFSの現実を改めて知っていただくとともに、今日を皮切りに、ぜひまた勉強してほしいことを申し加えておきます。では次に、家平さんお願いします。

家平/リハビリテーションに関わる参加者も多いということで、一つ二つ、最後に発言させていただきます。障害者の場合、入院するためにも、平常時からハードルがあるのですが、これまで、入院時のヘルパー派遣ということで、日頃支援してくれているヘルパーのサービスが、病院でも一部使えるという状況を、障害者福祉では作ってきています。しかしコロナになってそれがシャットアウトされてしまいました。基本は病院で診てもらうことは大事なのですが、障害が非常に重くてコミュニケーションが難しい場合のやりとりだとか、例えば、ご飯を食べるときに、日常から支援を受けている慣れた介助者やったらスムーズにご飯を食べれるんやけど、入院して初めて対応する看護師さんだけではご飯を食べさすことができない状況になって、しかしコロナだから慣れた介助者が入れないということで、そのまま退院するまで、ご飯が全然食べれずに、帰ってきたらすぐ食べれた、というような事例もありました。やはりリハビリとか、生活に戻っていくための障害福祉を、家族も含めて、医療機関と一緒になってやっていく体制が必要なのにも関わらず、コロナでそれをシャットアウトするということが問題です。そうした体制が、リハビリの観点からも必要なんだということを、併せて考えていく必要があると思います。

福祉制度が本当に脆弱で、問題点も多いです。私は、自立支援法訴訟の違憲訴訟で、71名の原告の一人として闘いました。2010年に国と和解をして基本合意が結ばれ、その後、新しい法制度を作るための骨格提言がまとめられました。この骨格提言には、すべての人の人権を保障するための障害福祉の提案がされています。障害者福祉施策の充実は憲法等に基づく基本的人権の行使を支援するものであることが述べられ、家族依存の脱却をする法律が提言されています。これを実現することこそが、コロナ禍の、またポストコロナの世界を作っていく土台になると思っていますので、また皆さんと一緒に学びながら、基本合意・骨格提言の実現に取り組んでいけたらと思います。

藤井/基本合意文書は、政府と交わした公文書で、おそらく、永遠に輝き続けますので、ぜひご覧になってほしいという提案です。今言われたことで大事な点は、リハビリテーションの総合性というときに、医療、教育、職業、社会という領域別の総合は当たり前であり、それ以上の総合性が求められていますが、その一つが、専門家と障害者、あるいは患者との総合性ということです。それを障害者主体に実現する、となったときに、今のお話しのように、入院時に家族などの支援が本当に必要であれば認めてもいいはずなのに、外部の人は入れませんということで、本当にいいのかどうか、深い吟味が必要です。とても大事な点を、今、おっしゃったと思います。次は、久松さんお願いします。

久松/今回のコロナウイルスまん延に関して思ったことや課題を整理したいと思います。冒頭に、ネットワークを作る大切さということをお話ししました。東日本大震災のような大きな災害が起きたときに、日本障害フォーラムという大きな団体が動いて支援をしました。このことは大きな成果があり、また国に対しての交渉や要望もできたと思います。しかし、今回のコロナウイルスに対しては、全日本ろうあ連盟として動きましたが、日本障害フォーラムとしてはなかなか対応ができなかったことは、大きな課題かなと思います。

また、国に対して要望や交渉をするときに、ワクチン担当大臣も含め、七つの省庁に対して行いました。国の行政は縦割りになっていますので、一つの省庁に意見を出しても、その情報が他の省庁にも流れて対応をしてもらえるわけではないのです。それぞれ、一つ一つに赴いて、またはオンラインなどの方法で、交渉の場を作っていかなければならず、非常に時間も労力もかかります。

専門家とのかかわりをどのように作っていくか、これも非常に大きな課題だと思います。総合リハビリテーションのあり方というテーマを考えるときに、専門家と当事者団体の関わり方は重要ですし、また専門家と切り離して支援体制を作っていくのは難しいだろうと思います。特に医療に関わる支援については、専門家との関わりが非常に大切です。そこで支援体制を作った経験を、全国に発信していくことも大切だと思います。問題解決のためにネットワークを作るということを繰り返しお話ししました。今までの経験からお話しできることは、過去の災害支援のときに私たちはネットワークを作って活動しましたが、そのことを踏まえながら、今回のコロナウイルスに対応するネットワークや支援体制を、条件が悪い中でどうやって作っていくのか、整理する必要があるだろうと思います。私たちは今回、生活支援や法律支援などさまざまなチームを作り、すべての人を排除しないという考え方のもとに活動しました。ただ、インターネットを活用して支援を行ったため、インターネットが使える人の範囲に支援が限られてしまったのは反省点です。インターネットを使わない、使えない人はまだたくさんいます。高齢者や障害者の中にはインターネットが使える環境にない人も多くいます。これからは、オンラインの仕組みを使ったテレワークなども増えていくだろうと思いますが、それが進めば進むほど、障害者が取り残されてしまう状況が生まれます。これが喫緊の課題と思っていますし、また取り残されてしまう状況を作らないためにも、ネットワークを作ることは大切だと思います。

総合リハビリテーションという、非常に大切なテーマで議論をさせていただきました。さまざまな障害者団体が、ともに活動をしていくわけですが、今回の藤原さんの発言は非常に勉強になりました。知らないことについては、どうしても想像で語ることが多くなってしまいます。どう解決したらいいかを考えるときに、当事者の声を聞くことがとても大事であると、勉強になったと思います。これからも当事者の声をできるだけ皆さんに伝えていくことと、そして、問題解決のために、専門家と一緒にネットワークを作る関係づくりをしていくことを、改めて提言したいと思います。

藤井/貴重な話がたくさん盛り込まれていましたね。では後藤さん、お願いします。

後藤/2点お話したいと思います。1点目は、国や行政に対してですが、これまでの障害分野の感染症対策は、どちらかというと、当事者や事業所の自助努力を基調に、現場の実態や要求に突き動かされるような形で、少しずつ施策を積み重ねてきたのが実情ではないかと思います。それは、非常時ゆえの対応ということではなく、恐らく、この分野に関する国や行政の、平時からの姿勢の反映でもあるのではないかと感じています。障害者権利条約を批准した国として恥ずかしくないような、障害のある人に対して安心、安全な医療や暮らしを保障していく施策を望みたいと思います。具体的には、1つはPCR検査体制も含めた、保健所や医療機能の抜本的な強化です。2つ目は、障害者への合理的な配慮を伴う治療や療養体制の確立です。3つ目は、感染症流行下においても安定した運営が見通せるような、事業者に対する支援です。こうしたことを求めていきたいと思います。

次に2点目は、社会に対してということになると思いますが、私たちが感染発生を繰り返した中で、一番苦しかったことは、特に初期のころになりますが、地域から非常に理不尽な差別や取り扱いを受けたという経験です。感染が発生していない事業所の職員にも、同じ法人の関係者というだけで、病院の受診が断られたり、「あなたたちみたいなものがいるから感染が収まらないんだ」というような声が投げかけられたこともありました。感染を防ぐためには、確かにソーシャルディスタンスを保つことが必要ですけれども、そのことが、意図せず他の誰かを差別したり排除することにつながるケースもあるんではないかと思います。コロナが収束したとしても、そのような対立や心理的なディスタンスが強く残るようではいけないと思っています。

そもそもコロナというのは、自分の事業所や法人だけが頑張れば防げるというものではないわけで、やはり、地域全体でリスクを共有しながら、また共有する体制を作りながら、それぞれが自分の責任を果たしていくことが大事なんじゃないでしょうか。久松さんが、ネットワークということを言われましたけれど、そのようなネットワークを、今、地域の中にどう作っていくのかが、私たちに問われているんじゃないかなと、強く思っています。

藤井/とても大事なことが入っていましたね。それでは、藤原さん、お願いします。

藤原/さっき伝えられなかったことですが、介助者不足はすごく大きいですね。私は普段、事業所でコーディネーターをしているんですが、性被害を防ぐためにも、女性の利用者に女性の介助者を派遣するのはとても大切です。ですが女性の介助者は、家族のケアを担うことが多く、結婚や出産で抜けてしまうとか、24時間の派遣が必要な利用者に対して、泊まりで対応できる介助者が見つからないという問題が、平常時から大きかったのですが、このコロナ禍で、介助者が濃厚接触者になったなど、さらに大変なことになっていたんですね。そういった面でも、平常時からの問題や、複合差別を解消していくことが、要望書にも書いたとおり、大切だと思います。

もう1つ、私たちが行った、エンパワメント支援の取り組みについてもご紹介したいと思います。昨年ですが、アメリカの財団から助成金をいただいて、Zoomを使ったオンラインのシステムを使えるお試し会というのを、私たちのネットワークの人たちに行いました。今日も皆さんはZoomでつながれていますので、その恩恵を感じていらっしゃると思いますが、女性の中にはそもそもITに苦手意識を持っている方も結構多いですし、障害によってはなかなか利用が難しい方もいて、逆に格差が出てしまうということが懸念されていました。そうした中で、気軽にオンラインの会を試してもらう取り組みをしたことで、情報が得られることの素晴らしさを感じたとか、今度はぜひ自分がホストになって会を開きたいとか、そういうエンパワメントされた心強い声も聞けたんですね。

災害というのは、確かに弱い人たちに一番襲いかかるという面があると思うんですけれども、そこから単に元どおりなるということではなくて、支援の方法によっては、これをバネにより強い存在になっていくということもあり得ると思うんですね。ですので、その場に留め置くのではなく、こういったエンパワメント支援という、支援のあり方について、国にも、自治体にも、知っていただきたいと思います。

藤井/このパネル1は、このあと行われる専門家によるパネル2との連続企画です。そのあとのコーディネーター同士の対話にもつながっていきますので、この場ですべての結論は出ないと思いますが、中間的なコメントを2つ申し上げます。

発言の中にもありましたが、この間、総理大臣ご自身が旗を振って、自助、共助、公助という国家の政策・理念を訴えたわけですよね。一つ一つの言葉自体の問題もさることながら、その順番も、公的な応援が一番あとになっています。自助というのは、自己責任とか、もっと厳しく言うと、自業自得なんていうことをイメージする人もいるぐらいの言葉だと思います。自宅療養なんかも、そこにつながってくる要素がなくはない。まして障害者政策が、ずっと後回しになっているというのも、陰に陽に、そういう自助という政策基調と全く関係ないのかどうか。やはりそういうベースが、緊急時にも現れてくるのではないか。実際に起こっている現象に加えて、そうした水面下の政策基調についても、この機会に合わせて見ることも大事なのかなと思います。

もう1つは、差別という問題です。1つは障害をもった人たちに対する差別です。先ほども発言しましたが、精神科病院にいる人たちが、医療現場からも診てもらいにくいというのも、それに近い問題です。また、感染者やその家族に対する差別もあります。それから、医療従事者およびその家族に対する差別、そして、ワクチンを打っていない人に対する差別もあります。私たちは差別に関しては敏感です。この差別の問題に対しては、改めて深い連帯が求められるとともに、差別を受けやすい私たちこそ、この問題について警鐘を鳴らす役割があるんではないでしょうか。

基調講演で伊東さんが、リハビリテーションというのは一つの運動とおっしゃっていましたが、その視点をこれからどう持つのか。リハビリテーションは従来の枠を出てもう一歩前に進みましょうということかと思いますが、そのことは、今申し上げた、自助論などという大きな政策上の問題や、社会的な差別の問題などの視点ともつながってくると私は思うんです。これから午後の部でどんなふうに議論が展開されるか、見守っていきたいと思っています。これで、このパネルを終わります。

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