パネル2「コロナ危機とリハビリテーション」

パネリスト 高岡 徹 (横浜市総合リハビリテーションセンター センター長)
丹羽 真一(福島県立医科大学会津医療センター精神医学講座 特任教授)
松矢 勝宏(東京学芸大学 名誉教授) 
吉川 一義(金沢大学人間社会研究域学校教育系 教授)
矢本 聡 (東日本国際大学健康福祉学部 教授)
コーディネーター 大川 弥生(元(独)国立長寿医療研究センター生活機能賦活研究部長)

大川/午前中のパネル1は当事者の方を中心とした議論でしたが、パネル2は専門家の議論で進めていきます。総合リハビリテーションの各分野の専門家がこのコロナ危機においてどう考え、対応するのか、今回の論点についてスライドを用いてまず簡単に説明しておきます。

この総合リハ研究大会では、これまでセミナー等も含めWHOの国際生活機能分類(ICF)の研修会などをやってまいりましたが、このICFを用いて説明します。ICFは「生きることの全体像」についての「共通言語」すなわち当事者及び専門家の共通の考え方として、人のとらえ方の枠組みを示しています。なおICFの、前身のICIDHからの改定作業は、10年ほどの国際的議論がされましたが、これには、3分の1ずつの、研究者、専門家、当事者が関与していただいています。専門家だけで作ったものではありません。

図はICFの基本となる人のとらえ方を示す生活機能モデルです。高さとして中央の段で、右から「参加」、「活動」、「心身機能」とあります。これは本人の状態で、右側の「参加」は、家庭や社会における役割、楽しみ、権利の享受などの社会的な状況です。真ん中の「活動」は、その「参加」を実行するための生活行為です。「心身機能」は生物学的な状況です。これらの3つのレベルは、障害というマイナス面だけではなく、生活機能としてプラス面も見るのが、ICFの大きな特徴です。そして、この生活機能・障害に影響するものとして、上の段の「健康状態」、下段の「環境因子」と「個人因子」があります。「健康状態」は病気・ケガに限らず、加齢、妊娠、ストレスなども含みます。今回のコロナウイルスによる感染症、合併症は、「健康状態」の問題です。今回はこの健康状態ではなく、「生活機能・障害」、その中でも特に一番右の「参加」を重視して議論していく予定です。

コロナ危機におけるいろいろな問題には、左下の「環境因子」として人の生活機能に作用するものが多くあります。コロナを予防する、拡大を防ぐ目的のために、午前中のお話しにもあったように、さまざまな物的な、人的な、社会やサービス提供、そして制度的な問題等が生じています。「健康状態」としてのコロナウイルスの影響だけでなく、「環境因子」としてどのように人に影響しているかを重視することも、総合リハとしては非常に有用な観点です。

「医学モデル」では、「健康状態」から「心身機能」に問題が生じ、それが生活行為「活動」へ、そして「参加」レベルに影響を及ぼすと考えます。もちろん、コロナウイルス感染症という健康状態からの、この医学モデルの経路としての影響も大事です。しかし、このコロナ危機という状況は、これは午前中の藤井さんのお話しにもありましたように災害の時も同様に、「環境因子」から「生活機能」に影響があります。そして「参加」の状態から、「活動」や「心身機能」に、医学モデルとは逆方向の影響も起きるのです。

このときに重視したいことは、生活機能の3つのレベルの内、人間として最も大事なのは、「参加」という社会的な状態ということです。これがさまざまに阻害されているというのが、コロナ危機の状態です。それがコロナがおさまったあとにどうなるのか、どう対応すべきかということも、今の段階から考えておく必要があるかと思います。

パネル2では、コロナ危機においてどのようなリハビリテーションサービスを行うかということを、サービスの在り方だけでなく、コロナ危機が当事者の方々の生活、生活機能にどのように影響をしていて、専門家はそれに対してどう関与すべきかということを論じていきます。そしてもう一つ、現在のコロナ危機での問題から、平常時の総合リハのあり方を反省し、今後、どうすべきかということも論じていきたいと思っています。

ではまず、高岡先生からお話しいただきます。皆さんがリハビリテーションといえば最初に思い浮かべられるであろう、リハビリテーション医療の観点からお話いただきます。よろしくお願いします。

高岡/横浜市総合リハビリテーションセンターの高岡です。よろしくお願いします。

スライドは、先週までの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内新規感染者数の推移のグラフです。第5波のあと、感染者の急激な減少により、一昨日、緊急事態宣言が解除されました。とはいえ、数値的には昨年と比べてもまだウォッチが必要な状況です。こうした中で、8月、9月にオリンピック、パラリンピックが開催され、よくできたなと思っているのですが、個人的には非常に感動もしましたし、良かったなと思っています。第6波も予想される中、今後どのように推移していくのか注意が必要です。本日は、次に示すような3点から述べていきたいと思います。

1点目は、COVID-19患者のリハビリテーション治療ということです。一つには、肺炎などになった患者に対する呼吸リハビリテーションというものが行われました。これはICUなどで実施されますが、非常にリスクが高い治療になっています。さらに、セラピストや医師も含め、手間や人手が非常に必要でした。もう一つは、COVID-19の肺炎などが治ったあとの筋力低下などに対するリハビリテーション治療として、いわゆる廃用症候群などの治療に準ずる治療が行われています。また、昨年は急性期病院からリハビリテーション病院への転院がなかなかスムーズにできなかった問題があって、そのために急性期病院のベッドが埋まってしまい、新しい感染症の患者が入院できない事態が生じていました。今はかなり解消していると思います。さらに、先ほど午前中の話にもありましたが、疲れやすいなどの後遺症が残っている患者さんに対しての有効な対応方法は、今のところ確立したものはございません。

2点目は、患者・職員の感染予防、拡大予防についてです。スタンダード・プリコーションと呼ばれる標準的な感染予防策として、手洗い、マスク、手袋などの個人防護具の使用や、こまめな消毒、常時の換気などの徹底がなされました。また、リハビリテーションのいわゆる訓練を行うことに関しては、訓練時間やスペースの見直し、すなわち時間や空間を開けるという対応をしましたし、集団訓練を中断することも行われました。その結果として、いわゆる訓練の枠が減ってしまうという状況が生じています。また、外来や入院での診察、訓練を行うときの感染や体調のチェックはもちろん、入院用の食堂スペースも工夫して、間隔を開ける、仕切りを入れるといったことを行いました。

また、入院患者にかなり影響があったのは、家族などの面会の制限を行ったことです。こうした制限が行われたのは、医療だけではないと思いますが、現在も、多少制限は緩めたとしても、続けられていると思います。

患者と職員のワクチン接種に関しては、先月われわれのところでも、障害のある方向けの、専用の集団接種を横浜市と当センターで行いました。通常の集団接種会場ではなかなか難しい障害のある方や、かかりつけ医がいないという方も、大勢いらっしゃるということが分かりました。

手洗いの話は先ほどもしましたが、これは当センターで行った調査です。片麻痺の患者さんに手洗いをしていただいて、その前後で麻痺のないほうの手の細菌培養を行ったものです。スライドの一番左が、手を洗う前の培養結果ですが、白い点々になっているところが細菌培養されたところです。普通に「手を洗ってください」と言って洗っていただいたあと、培養してみると、小さいコロニー(細菌の集団)が増えていました。つまり、手を洗って細菌を広げてしまったのではないかという結果が出ましたので、改めて手洗いの指導を行った結果が、右側のスライドです。一番右側は、ほぼ細菌のコロニーがないという状況で、効果があったなという結果が得られました。つまり、手は洗えばいいというものではないことが、はっきりしていると思います。

改めてお話ししておきたいのは、リハビリテーション医療というのは、非常にリスクが高いということです。いろいろな意味でリスクがあります。麻痺があるということももちろんありますし、合併症として、例えば糖尿病などはコロナ感染症の悪化を加速させるリスクにもなります。また、患者とセラピストが密接、密着して一定の訓練の時間を過ごすということもありますし、先ほど見ていただいたとおり、患者さんが手洗いや、マスクの装着ができない、あるいはうまくできないということもあります。医師やセラピストは、ミツバチの絵で示したように、病院施設内をいろいろ飛び回るわけです。そうすると、きれいにしてあればいいのですが、場合によっては、細菌やウイルスを患者さんから患者さんへうつして回ってしまうリスクもあるということです。さらに、総合病院はともかくとして、リハビリテーションの専門病院には感染症の専門家がいないということが、恐らくほとんどだと思います。リハビリテーションの患者さん、あるいは環境は、感染しやすい状態にあり、一度感染してしまうと広がりやすい状況があるということです。

そのような状況で、昨年から発生した問題の一部を挙げたいと思います。患者や職員の方が感染したことは、ポツポツとあちらこちらであったと思います。クラスターが発生してしまった病院も、実際はかなり多く、全国的に起きていると思います。また、家族が面会できないことや、試験外出や外泊ができないことがあり、その結果として、家族へのご指導ができないという状況がありました。さらに、感染が心配で外来に来られないのでキャンセルしますとか、入院はしたくないという患者さんも、結構いらっしゃいました。COVID-19の問題は、今日は元気でも、数日経って検査をしたら陽性になってしまう患者さんがいらっしゃることで、そうなると、さかのぼって濃厚接触者の特定などをしなければならず、なかなか大変でした。早期に退院したいという患者さんや、不安・不穏になる患者さんがいらっしゃる。入院していた患者さんがどんな状態なのか分からないままに退院してきてしまって、それを受け入れたご家族が困ってしまうという状況も、意外と聞きます。われわれのところでは、今までもやっていたことではありますが、計画的な家族指導を行っておりまして、必要なときには家族に来てもらうことを継続していました。それでも不十分な場合は、当センターであれば、在宅リハビリテーションのサービスを用いて退院後に訪問してご指導をする、あるいは動作の定着を図るということを行いました。十分なトレーニングをしないまま帰ってしまい、そのために機能改善が得られなかった、あるいは参加の達成ができなかったという患者さんもいらっしゃったからです。

3点目は、診療や事業の継続です。職員やその家族が感染することもありますが、今は幼稚園や保育園が休園になってしまうことが結構ありまして、そうなると、若い職員などは休まなければいけない状況が生じています。子どもも親も感染していないのに、職員が休み、人員が足りなくなるような事態は、今後も生ずる危険性が非常にあると思っています。つまり、普段から人的な余裕がないということが、問題としては挙げられます。COVID-19から患者や職員を守るため、診療や事業を縮小したり中止したりすることが、果たして正解だったのか。中止してしまうことは、患者や職員へのデメリットも非常に大きいと思っていますので、過剰な制限や中止などはなかったのか、振り返ったり反省したりすることが必要だと思っています。

リハビリテーションというのは、不要不急では絶対にないと思っていますけれども、やはり、リスクとベネフィットのバランスを考えることが大切で、いかに工夫や対策を取ることができるかがポイントになってくると思います。

これまでいろいろと行ってきた工夫の一部をこちらに挙げさせていただきました。感染予防策を継続、実施していくこと、また、遠隔リハビリテーションというものを、少しトライアル的に行ったり、社内ではオンラインの会議やセミナーなどを実施していくことで、人と接する機会を少なくする対応をしてまいりました。

われわれのセンターでは、スポーツ文化施設がすぐ隣に併設されているのですが、そちらも昨年、最初の緊急事態宣言のころから、施設利用をかなり長期間休止していました。これは、医療機関よりも不特定多数の方が自由に利用できる点や、スポーツを集団で行うこと、更衣室などの環境が非常に3密を生じやすい状況になっていることなどから、やむを得なかったかなとは感じていいます。再開後は、人数制限や利用時間の制限、あるいは、グループや教室の実施を慎重に行うなどして、継続的に実施するようにしています。休止していた期間中、YouTubeなどを使って動画を作成し配信することにもトライしました。障害者スポーツの紹介や、ストレッチの仕方、あるいは食事の作り方などを配信したのですが、今までわれわれの施設を利用されていた方には有効だったかなと思っています。

幸い、当センターもスポーツ施設も、個別の感染はありましたが、クラスターは生じておりません。繰り返しになりますが、感染をコントロールしながら、いかにして診療や事業を継続するかが重要です。そのためには、さまざまな工夫や対策を考えることが求められます。また一方で、新たな事業を検討し、あるいは確立していくこと、事業の無駄をなくしていくこと、効率化を図ること、さらには感染症対策を改めて見直していくという点では、またとない機会となったという側面もありました。

最後に、初めに松井先生からもご紹介いただきましたが、来年の第44回研究大会について、少しお知らせをさせていただきます。日程はちょうど1年後の来年9月30日金曜日と10月1日土曜日の2日間を予定しています。場所は、われわれのセンターの隣にあります、横浜ラポールです。まだまだ予断を許さない状況ではありますが、今のところ、現地開催を予定しております。実行委員長は私、事務局長は大場純一が担当をさせていただきます。本来は昨年実施する予定で、パラリンピックの直後に、障害者スポーツをメインテーマにしたプログラム準備しておりましたが、来年のテーマについては、現在検討中です。開催することとなりましたら、ご参加をいただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

大川/ありがとうございました。高岡先生のお話は、リハ医療に限らず他のリハビリテーションサービスの中でもいろいろと生かしていただけることがあったと思います。では次に精神障害の領域を主として、丹羽先生、よろしくお願いします。

丹羽/私は、精神障害のリハビリテーションへの、コロナ禍の影響ということで、お話をします。COIは特にありません。精神障害の方のリハビリテーションは、先ほど来、話に出ていますように、参加を促進ための一つの手段として行われているもので、例えば、B型の事業所であるとか、デイケアであるとか、あるいは、多機能の事業所であるとか、いろいろな性質ものがございます。具体的にこのコロナ禍でどうなっているのかを明らかにするため、懇意にしていただいている、東京、埼玉、福島にあるそうした施設にアンケートをお願いし、いくつかの点に関しての状況を教えていただきました。それをまとめてお話しいたします。

ここにこの一覧がございますが、13か所ぐらいの施設にお願いしました。就労継続支援B型事業所、それからデイケアが多く、東京の調布、福島の二本松、それから埼玉の松戸、流山にある施設です。

どんなところかというイメージをもっていただくために、写真でご紹介します。これは調布にあるクッキングハウスというところで、一般の人たちも飲食に使用できるようになっています。これは二本松にあるコーヒータイムで、喫茶店の入口の様子です。これは流山にある多機能事業所で、マーレという名前の施設です。かなり洒落た感じになっています。これも同じ系列のB型施設で、TERRAというお店です。これは会津若松にあります、ほっとハウスが経営しているB型の事業所です。こうしたところに通っておられる当事者の方々が、コロナ禍でどんな状況になっているかを調べました。

どんな内容のアンケートをお願いしたかと言いますと、まず、参加メンバーさんの中でコロナワクチン接種の状況はどうか。それから、コロナパンデミックの影響が事業に対してあるか、もし影響がない場合はどういう要因によるか、影響があるという場合は、いつごろからそれが明確になったか、それは経営面に現れたか、そして経営面に影響が現れたという場合は、経営維持のためにどんな対策をしたか、ということを伺いました。

回答について見ますと、まず、メンバーさんのワクチン接種の状況については、施設によってバラバラで、1割ぐらいから9割ぐらいの方が接種されているということですけれども、多いのは4割程度であるかと思います。なおこの調査を行ったのは、7月ぐらいです。最近の調査ですと、高齢者の方も入れると5~6割といったところだと聞いていますが、若い人たちだけだと、割合がうんと下がるということだと思います。通っておられる方々の年代は、20代から50代ぐらいと思いますが、多いのは30代、40代かなというふうに思います。その意味では、4割程度というのは、だいたい平均的なんじゃないかと思って見ていました。接種を拒否される方は、一般にはたくさんいらっしゃいますけれども、メンバーさんたちの中でもおられました。どのくらいの方がどんな理由でということを伺いましたが、アレルギーをたくさん持っているからとか、副反応が怖いとからとか、中には、やりたくないからとか、ご家族が反対しているからという答えがありました。各施設、1ないし数名おられるようです。副反応が怖いという答えが多いというのは、一般的な状況と同じなんだろうなと思っていました。

次に、パンデミックの影響がありますかという、漠然とした問いかけについては、大いにある、ある程度ある、ほとんどない、などの答えを選択していただいたのですが、13施設のうち7施設が、大いにあると答え、4施設が、ある程度あるという答えでした。ないと答えたのは、生活介護の事業所だけで、これはリハビリ関係の施設の中では、少し特殊な性質を持っているのかと思いますけれど、やはり多くの施設は影響を受けているということだと思います。

影響がないと答えられた生活介護事業所に、その要因を聞きました。すると、「工夫をしたから」という端的なお答えがあり、その工夫の内容は、一般的な予防ということと、利用者が1人暮らしをされている重度の精神障害の方が大半だという施設なので、食事プログラム等を対面にせず、密にならないようにして活動を継続したとのことでした。近隣に住んでいる利用者の方が多いということで、徒歩の方は通常どおり通い、通所困難な場合は訪問で対応し、また、訪問看護ステーションとの連携をより密にしたということです。

参加メンバーさんへの影響はいつごろ出たのかという質問については、当然、去年の春ぐらいから、つまり感染拡大が始まってすぐにというところが多いのですが、事業内容への影響が出た時期については施設によってまちまちで、去年の春から最近まで続いている、ということだと思います。

参加メンバーさんへの具体的な影響の例については、メンバーさんの中には、作業所自体が密だと言って休みがちの人もおられる。あるいは、徒歩で通える近隣の方はいいのですが、バスなどを利用する方は時間調整が必要であった方もいらっしゃいます。要するに、2部制です。また、飲食を伴うプログラムをやめたことで、ナイトケアを利用している人たちが特に困ったということがあります。それから、人数制限をして、密にならないようにしたことで、人との関わりが少し薄くなって、コミュニケーションが取りづらくなったという人がいました。さらに、生活リズムを付けることに影響が出たという方もおられ、メンバーさんへの影響は、そういった生活上、利用上の問題ということでした。

事業内容への影響ということについては、深刻な問題がいくつもありますけれど、1つは、工賃の要である仕事が、コロナのせいで中止になってしまったこと。それから、店舗にお客さんを入れているわけですが、そのお客さんが減ってしまったこと。3つ目は、県を越えることができなくなったため、場所によっては、近隣の県から通っておられる方が来られなくなってしまったということもありました。4つ目には、企業からの仕事が激減して、工賃が大幅に下がってしまい、通所日数が減ってしまったこと。次に、今までは不安やストレスもなく行えていた地域や事業所内の交流活動を自粛せざるをえなくなったこと。つまり地域との交流がうまくできなくなったということです。それから、通所者の通所日数が減ったので、それに伴って事業所に入る福祉サービス費が減少して、経営の影響を受けたというのが具体的な例です。

経営を維持するための工夫の例としては、就労継続支援B型で作っているクッキーの納品先が閉鎖になってしまい、注文販売に切り替えたということがありました。これはいろんなところがやってることだと思います。それから、去年の春にはメンバーさんの不安が強く、休む人がいたのだけど、事業所としてはむしろ継続して開くことによって、だんだん安心して通うことができるメンバーさんが増えてきたということもありました。次に、一時期、午前中の短時間のみ事業所を開き、午後は在宅で作業することとし、その場合にZoomなどを活用するなどの工夫もありました。さらには、消毒や換気などの一般的な予防対策を行うことで安心感を与えるよう努めたということです。そのほか、いくつかの種目では公的な資金を得ることができるようになっていましたから、それらを最大限活用したというお話しもありました。

ということで、精神障害のリハビリテーションでも、コロナ禍の影響は、今述べたような形で出ているわけですが、その中にあっても、経営を維持していく工夫を凝らすことで、なんとか乗り越えられているというのが現状かなと思います。先ほど大川先生が示されたICFのモデルで見た場合に、やはり環境因子の影響は、結構大きかったわけですよね。健康因子というのが直接「参加」に影響したということは、あまりないわけです。しかし、心理的な意味で、密が怖いといったようなことで来られなかった方がおられた場合、むしろ事業を継続することによって、だんだんとメンバーさんが安心感を持つようになり、全体の活動が継続できるようになったということだと思われました。私からは以上です。ご清聴ありがとうございました。

大川/パネル1で、コーディネーターの藤井さんから、精神科病院でのコロナによる死亡例の問題が提起されましたが、何かコメントがありますでしょうか。

丹羽/沖縄の病院のお話がクローズアップされる前にも、コロナ禍の最初のころから、精神科病院に入院していらっしゃる方がコロナに罹患する例はありましたし、その方々が、コロナ感染症としての入院を拒否され、転院できないという問題は、あちこちで起きていました。医療従事者の中にも、一種の偏見を持っている人がいるということだと思われます。沖縄の病院は、高齢者の方を扱っていらっしゃるところで、施設の中の状況は、私はよく分からないんですけれども、想像してみると、閉鎖環境の中で少し密な状況があったのかなというふうに思いました。東日本大震災のときにも、福島の高齢者施設から転院を余儀なくされた方の多くが、どういう状況に置かれたか、その後明らかになってきましたが、これと同じような性質の出来事と思います。普段からの待遇の改善を考えないといけないという、一つの警鐘的な意味もあるんだろうと思って見ていました。

大川/どうもありがとうございました。では次に、松矢先生、お願いします。

松矢/「コロナ危機と特別支援教育と地域通所支援事業の事例から考える」という標題で、私が関係してきたリハビリテーションの領域から2つ、話題を提供しようと思っています。

私の経歴については、特別支援教育の教員養成を30年、それから、重複もありますが、社会福祉士などの福祉従事者の養成を25年ぐらいやっておりまして、教育領域と福祉領域を共に考えてきました。それから、今日は国際障害者年の話題も最初に出ましたけれども、私は知的障害の親の会と深く関係を持っておりまして、全国手をつなぐ親の会の長期行動計画の作成にあたっては、教育学や心理学の先生は多いけれど、就労や社会参加の領域を担当する先生がいないので、君は若いからその領域をやれということで、その担当になって苦労しました。それが勉強になりまして、雇用促進関係にも推薦され、日本障害者雇用促進協会―今の高齢・障害・求職者雇用支援機構の広報誌の編集委員や職業リハビリテーション専門委員会委員の委嘱を受けたり、また、厚生労働省の労働政策審議会障害者雇用分科会の委員も務めてきました。そして何より、ネットワークの形成ということでは、国連・障害者の十年が終わった1993年に、東京学芸大学に進路指導研究会を発足させまして、進路指導の先生や、企業の障害者雇用支援者、ハローワーク等の機関、あるいは作業所等の福祉関係の職員の方々と一緒に勉強し、そういうことから、東京都教育庁のいろんな研究会の委員にもなりました。そこで、進路指導とか、職業教育の改善とか、それから障害者雇用促進法が改正され知的障害者の雇用義務化が始まりましたので、東京都立養護学校高等部卒業生の就職率を上げるための就業促進の研究をやりなさいということから、その研究委員を委嘱され、あるいは個別の教育支援計画の検討等の委員にもなりました。また一方で、東京都の障害者福祉の審議会ですけれども、障害者施策推進協議会の専門部会長として、2期から4期まで9年間、東京都の障害者福祉についても勉強しなければならない立場にありました。そんなことが背景で、今日の話題提供になります。

先ほど大川先生からもお話があった、国際生活機能分類(ICF)のモデルですが、コロナ危機というのは、特に社会生活に対する阻害的な環境因子であると指摘したいです。

そこで、コロナ危機にあっても可能となる支援のあり方や実践はあるのでしょうか? という問いかけに対し、私は今、社会福祉法人森の会という、東京都東久留米市にある法人の理事長をしていますし、また、東京都の就業促進のネットワークづくりにも深く関係してきましたので、そうしたネットワークつくりがどのようにコロナ危機の中で効果を発揮したのか、あるいは、何か問題点があったのか、ということについて、具体的な2事例を通じて、お話ししたいと思います。

まず1つ目の事例については、東京都教育庁指導部特別支援教育指導課による、特別支援学校就労委員会就労支援部会というのがありまして、ここに、企業の障害者支援を長くしていた職員やOBの方、あるいは心理関係の専門家などが参加して、就労支援の就職率を上げるための研究会ができました。1990年代の終わりから文部省の研究助成も入り、就業促進の研究にもつながりました。

都立特別支援学校を5ブロックに分けて、経験のある企業等の障害者雇用支援者のOB等を嘱託アドバイザーとして配置し、進路指導の先生たちと一緒になって実習先や就職先を開拓しました。もちろん、その過程で、関係機関や支援者のネットワークも強化されていきました。

その結果、一番多い例では、特別支援学校の知的障害高等部卒業生の就職率が、2011年度より40%台に上昇し、2019年度(2020年3月)には49.8%の実績となり、2人に1人就職するというところまでになっております。全卒業生数は1,609人です。次年度(2021年3月)にはどうなったかといいますと、全卒業生が減って1,592人のうち、48.9%の就職率ですから、0.9%減ということです。昨年4月から5月までは全く学校が休校でしたので、進路指導の先生たちの仕事が始まらない、実習のお願いもできないという状況がありましたから、多分、相当影響を受けるだろうと思っておりました。実際には、秋から実習等の取り組みが始まりましたが、結果として就職率はそれほど落ち込みませんでした。今年の3月から障害者の法定雇用率が2.2%から2.3%に上がりましたので、6月までは新卒扱いになりますから、就職先が決まっていない生徒たちもその後に就職できたのではないかという声も聞きますので、それほど大きな影響はなかったんだろうと考えています。

障害者雇用に関わる企業と、ハローワーク等の関係機関、支援団体等、就労支援センター、そういったところのネットワークがここ10年くらいで確立できています。東京都教育委員会、教育庁と東京労働局が連携して、企業セミナーというのをやっています。労働局は雇用率が振るわない企業を全部把握していますので、企業セミナーに参加しなさいと言ったら、雇用率を達成していない企業はやはり行かざるを得ません。それで参加すると、進路指導の先生が懇切丁寧にご案内してくれ、障害のある生徒はこんなふうに働いてくれるのかと理解でき、このような就職率の上昇に大きく効果を発揮したと思います。そのために、コロナ危機でもそれほど大きな影響がなかったのだと言えます。ネットワークの強化が非常に重要だということが、最初の事例の結論です。

次に2番目の事例です。今までは企業就労の話でしたが、福祉進路を選ぶ生徒たちもいます。障害の重い生徒たちはどうかということもあるんです。私は東京都の審議会に参加しまして、やはり教育と福祉と言うのは、なかなか縦割りで、卒業生のことについて両方で協力してやるという体制にはありません。そういうことを実感しています。ここ数年来の3月末日時点で進路が未決定だった人の推移を知的障害特別支援学校見てみますと、在宅あるいは進路が未決定であった人が、2017年度が特別支援学校卒業生1,551名中41名。2018年度になりますと、在宅あるいは進路未決定者が57名。このときが、東京都の特別支援学校高等部の在籍者で知的障害のある生徒が一番多く、1,634名です。これ以降、卒業生の数はだんだん減っていき、2019年度には、就職率が49.8%まで上がりましたが、未決定者は62名。そして2020年度(今年の3月)にはさらに増えて78名でした。卒業生は減っているのだけれども、在宅あるいは進路未決定者は増えているということです。

進路未決定者の就職の課題もあるのですが、福祉進路を開拓するのは大変難しいということを、特に肢体不自由の進路指導の先生から聞きます。重症心身関係の入所施設、療育施設、通所事業もほぼ満杯です。それから生活介護の施設もほぼ満杯状態で、新しく卒業生を入れる余地がないという状況が続いております。ですから、東京都福祉局では、東京都教育庁と同じように障害の重い人たちの就労先の拡充ということをやってほしいなというのが、私の実感でございます。

これは、今私が理事長をしております、社会福祉法人森の会の2つの事業所です。東久留米市の大門と米沢の地区にあります。B型を中心とする作業所「バオバブ」と、通所生活介護の事業所「プラタナス」です。私ども森の会は、1975年の設立当初から、利用者とともに、「障がいを越え共に生き共に働く」という理念を掲げてやってまいりました。設立当初から利用者が職員とクルーを組み、資源回収をすることで、産業社会、地域社会の皆さんに貢献したいという考えで実践してきました。より障害の重い利用者を受け入れる必要から、企業やさまざまな事業所・団体から、簡易作業の受注なども増やしてきました。通所生活介護事業のプラタナスを開始するにあたっても、私たちの理念は変わらずに、作業所のバオバブと同じように働くことを大切にして、日課では午前中は作業活動、午後は健康と生きる力を増進する生きがい的な活動を工夫してきました。市民の皆様に使って喜んでいただける自主製品づくりは、生産的、生きがい的な文化的活動と言えます。これからも利用者と職員が協働し地域貢献をしていきたいと、そういう実践をしている事業所でございます。

コロナ危機と緊急事態宣言が私たちに与えた影響についてですが、私たちは、資源回収を行うために、利用者が職員と一緒にクルーを組んで、回収車で回るわけです。元々障害者福祉は、利用者と職員の密接な関係の中で営まれるのですけれども、緊急事態宣言は私たちの活動を強く拘束しました。金曜日には障害のより重い人たちも含めて、全員が回収車で資源回収に回るのですが、回収車の中は過密で、夏にエアコンを入れれば密閉状態になります。しかし回収を中止すれば事業所の経営が成り立ちません。ですから、コロナ危機にどう対応するか、私たちは活動の原点を問われました。

コロナウイルスに感染しないで健康を守るためには、マスクをする、石鹸でよく手を洗って、アルコール液で消毒する、規則正しい生活をし、体温を測り、体調の変化に早く気づく、体調の変化に気づいたら通所を自粛する、保護者にもこれらの点について協力を求める、ということが必要です。でも基本的な課題は、障害のある利用者が自発的、主体的にこれらの諸点を励行してくれるかどうかです。コロナ危機で彼らの日常生活に大きな変化が起きました。土日には余暇活動の場が使用できず、日ごろの憂さを発散できなくなりました。非常に元気がなくなりました。よく、利用者と職員はミーティングをしていますが、結局、唯一の楽しみは、平日の通所で仲間と交流し、みんなと一緒に活動することなんだ、だから、毎日通所できるように健康管理するということが大切なんだ、という気持ちに、彼らはなってくれました。一方、職員のほうでは、日課の一部にパーティや楽しい内容のプログラムを用意することで、支援者としての彼らの健康を自己管理できるような動機づけをしました。憂さを晴らして元気になろう! というわけです。

それを図に表してみました。縦軸の赤い部分は、障害のある利用者本人の主体的体験としての障害です。「障害があっても頑張りたい」気持ち、これは上に行くベクトルです。それから、「インペアメントに由来する生活のしづらさや困り感など」は、下のほうに働くベクトルです。それから、「コロナ危機からくる阻害的な環境因子」も、下に働くベクトルです。それをきちっと支援していくというのが、横軸のところに書いてあるとおり、「利用者(個人と集団)本人の希望にそった支援計画の作成と見直し。コロナ危機においては、マスク着用・体温測定・手洗い等の健康支援と日課のあり方等の工夫、利用者本人・保護者との協力による法人運営の吟味、および地域連携との協力」ということです。こうしたことで、利用者の「やるぞ」という気持ちを上昇させていくことができましたし、「利用者と支援者(職員)による共感と協働」ということで、お互いに頑張っていこうという関係の中で、とにかくぎりぎりの綱渡り的なところですけれども、今日までコロナ感染者を出さずにやってきました。

B型作業所のバオバブの利用者の状況については、全体として、加齢化が進んでいます。障害の状況は、愛の手帳で2度、3度の方が非常に多いです。

朝の会では、希望者がリードして、「1 安全運転」「2 最後まで仕事を頑張ります」などの標語を全員で唱和します。この標語の中に「3 みんなで予防インフルエンザ(コロナウイルス)」というのがありますが、これはコロナの前から唱和しています。そして「4 いざ手洗い」というのは、ちゃんとアルコール消毒までやるということです。

資源回収作業の様子も写真で示します。

受注作業として野菜を封入する袋折りや、チラシの封入作業などを行っています。

また、アルミ缶つぶしやペットボトルキャップの選別などの作業もしています。

生活介護のプラタナスの活動状況については、出勤率が98.9%という高さです。みんな来たいということで来てくださいます。身体障害者手帳と愛の手帳の重い等級の方が大きな比率を占めています。

作業の状況を写真で示します。(自主制作の紙すきハガキづくりや刺繍作業、受注作業のキムチ用袋折りなど)

バオバブではサマーパーティもやりました。こういう、楽しいことを月に1回ぐらいは入れています。食べることが大好きなので、ポップコーン、ハンバーグ、かき氷など、いろいろなものを出します。サイコロや輪投げなどのゲームもやります。

プラタナスのほうでもいろいろなイベントの工夫をしています。オンライントラベルということで、みんなで海外や国内の旅行を楽しむということをしたり、イチゴ狩りもやりました。いつもは一泊旅行をしていたのですけれど、それができないので、旅行会社との協力で施設内でセットしてイチゴ狩りをやりました。それから、夏祭りも楽しく行っています。以上ございます。

大川/どうもありがとうございました。では、最後の吉川先生、よろしくお願いします。

吉川/本日報告いたします話題は、ある学校からの協力要請を受けまして、本日の座長の大川先生、パネリストの矢本先生と、共同研究としてやってきているものです。まず私のほうから報告をし、矢本さんからは、ディスカッションの時間に発言をします。

昨年4月に臨時休校要請が出されまして、学校は休校となり、長いところでは3か月間に及びました。その後学校は再開されたのですが、行動の不活発や不登校など、気がかりな児童・生徒が増えたことにより、相談を受けたということです。この問題について、共同して取り組むということで開始いたしました。

まず、生活の変化と活動性を把握するための質問紙調査を行いました。この結果について報告いたします。調査の対象者は、まず金沢市内の小学4年から中学3年生504名です。次に、特別支援学校小学部から高等部の生徒440名です。回答率はいずれも70%以上でした。なお、小中学生については、本人評価による回答、保護者評価による回答、特別支援学校については、保護者評価による回答を得ました。調査項目は、疲れやすさを感じていたかどうか、その後の状態はどうなったか、ということを問い、こういう観点を軸に、休校前、学校再開後、1年後の3つの時点での活動状況について尋ねました。さらに併せて、休校前、学校再開後、1年後の時点での、スポーツや体を動かすような趣味、家庭での役割など、活動状況について聞きました。

休校前に比べて疲れやすいと感じましたか? という問いに対しては、疲れやすさを感じたとの回答は小中学生に多く、特別支援学校の児童・生徒には少ないという結果が出ました。調査を開始する前、休校の影響は、特別支援学校の児童・生徒に多くみられるのではないかという予想をしていたのですが、意外な結果となりました。

それぞれ学年、学部ごとの結果を見ると、疲れやすさを感じた児童・生徒は、小学4年から中学1年にかけて増加し、中学3年にかけて減少しました。特別支援学校の児童・生徒では、小学部から高等部にかけて漸増しています。

疲れやすさについて、その後の状態がどうなったのかということについては、疲れやすさの状態は、3つのパターンに分類することができました。1つ目は、休校前に比べて疲れやすさを感じ、その後も未回復であるという「未回復群」。次に、疲れやすさを感じたけれどもその後回復したという「回復群」。3つ目に、疲れやすさを感じることはなかったという「疲れなし群」。この3つです。このうち、疲れを感じなかった「疲れなし群」や、疲れを感じたものの回復した「回復群」が多いことがわかりました。しかし、学校再開後1年たっても、未回復である小学生中学生が一定数いるということは、看過できないことであると思いました。

他方、特別支援学校の児童・生徒では、「未回復群」が少ない結果となりました。

これらの結果を受けて、まず、3つのパターンのうち「未回復群」について、この間の家庭での活動状況を見てみますと、小中学校と特別支援学校ともに、休校前から学校再開後には、外でよく動く、家の中でよく動く、そういう活発さが減少しており、座ることが多い、ときどき横になる、ほとんど横になるなど、不活発さが増加していました。その傾向は1年後も継続していました。

次に「回復群」の結果を見ますと、小中学生は、学校再開後に、「未回復群」類似の傾向を示したのですが、家の中でよく動くという活発さが増加していることが分かります。

他方、特別支援学校の児童・生徒は、家の中でよく動くという活発さが減ったという結果が見られるのですが、ほとんど横になるという不活発さも減っている結果です。

「疲れなし群」の結果を見ますと、小中学生と特別支援学校生ともに、学校再開後に外でよく動くという活発さは減少したのですが、家の中でよく動くという活発さは見られました。他方、座ることが多い、ときどき横になる、ほとんど横になるという不活発さについては少なく、ほとんど変化はみられませんでした。

特別支援学校の児童・生徒について、スポーツや体を動かす趣味の実施状況の、休校前と1年後の変化を見てみますと、「未回復群」と「回復群」では活発さが減少していまして、あまりしない、ほとんどしないなど、不活発さが増加していました。他方、同じ特別支援学校の児童・生徒の中でも、「疲れなし群」では、休校前と1年後でほとんど変化がなく、休校前の活動性は一定維持されていたと思われます。各群に共通して、休校前から特別支援学校の児童・生徒は、あまりしない、ほとんどしないというふうに回答したものの割合が比較的高く、その割合が若干増加していることがわかります。

最後にまとめに入りたいと思います。

まず今回の調査から見えてきた課題について述べます。疲れやすさを感じたのは、小中学生に多く、特別支援学校には見られなかったことが分かりました。休校前の活動性が低かったことから、行動制限の影響が弱くて、疲れを感じることも少なかったと言えます。これより、教育においては児童・生徒を理解することはとても大事なことですが、改めて学校教育に関しても、学校内だけではなくて、家庭での過ごし方や、そうした活動性に目を向けて、生活全般を見据えた支援が必要なのではないかと思われました。これまで、人が育つ生活の場として、「家庭生活」、「学校・就労生活」、「余暇・第三の場」が重視されてきました。一般に学齢期にはこのように多様な活動の場があります。しかし、重要なことは、これらの場において、本人がやりがいを持って行える活動や、本人が目標を見出して、実行し、判断し、努力しながら、目標に接近すること、目指していることを実現していくことです。この過程を通して、子どもたちは学び、そして満足感を感じて、次の学びへの主体的な活動や展開が期待されるものと思われます。今回の調査結果を通じて、活動が低下した児童・生徒には、このようなプロセスがうまく進んでいないことが予想されます。この点を支援していくことの必要性を感じています。今後の取り組みとして、低い活動性が続いている児童・生徒を支援するには、次のようなことに留意することが必要と考えています。

まず、成長上、必要な支援や、本人が「こうしたい」という思いの実現に向けて、各専門領域の知識をまず活用するということ。そのためには、支援の目標設定が重要であり、この過程を支えることから始めることです。連携体制は、保護者と学校を中核として、必要に応じて他の専門領域を加えた拡大チームで対応していくことです。支援の実践においては、本人と家族を含めた専門家との「協働企画・実施・評価」のプロセスを踏むことがとても重要であると考えています。

また今回の調査から、一時的であれ、活動性が下がった小中学生が少なからずいたことが分かりました。

学校での全体的な指導として、学校での保健指導など、まずは専門家による「活動性と生活機能」についての適正な知識の提供を行い、これらを踏まえて、児童・生徒たちが自らの生活を振り返り、自らが実践していくためのワークショップ等を開くことを予定しています。

最後になりますが、このような支援を進めるにあたり、まず目標設定していくプロセスを支えていくことが必要ですし、その後の支援において、本人とその生活をどう理解するかカギになると思っています。そのうえで、家族や異なる専門家間の理解も得て、連携が濃厚になっていくと思われます。しかし、これらのことが支援の壁となることも感じています。この点を含めてこのあとのディスカッションで矢本さんにご発言お願いしたいと思っています。

大川/ありがとうございました。では、吉川先生と共同演者である矢本さんからご発言をお願いします。

矢本/これまでの総合リハ研究大会でも災害を取り上げ、それに対してどのように平時から生活を組み立てていくのかを討議してきましたが、今回のコロナ禍というものも、やはり災害ととらえていいのだろうと考えています。このパネルディスカッションをご覧の方で、スマホをお持ちの方は、「内科学会 生活不活発病」とひいてみてください。アプリがあって、コンパクトに、災害時の生活不活発病について書かれています。その内容を見て、コロナも災害と同じようなことが課題になっているということを自分自身痛感しました。大川先生が書かれたものですが、とても役に立つと思います。

そのうえで、吉川先生発表の研究について、誤解していただきたくないことを、ひとつお話ししようと思います。疲れやすさを調べる目的で、「活動性」を指標として使いました。吉川先生の報告の中でも、家の中でよく動いていたか、外で動いていたか、あるいはスポーツしていたか、趣味をしていたか、という聞き方がされていました。しかし、これをそのまま受け取って、では災害のときあるいは今後コロナが再拡大して再び活動性が制限されるという事態になったときに、活動性をあげるために、「体操をやればいい」とか、「家の中でできるスポーツを探せばいい」とか、そのように考えられてしまうとそれは本意ではありません。今回のコロナでは生活機能のうち「活動」レベルが制限されたことは確かです。ですが、今回の調査を通して私たちが考えたことは、確かに活動は制限されたけれども、その原因は子どもたちの「参加」が制約されたことではないかということです。大川先生も、「『動かない』と人は病む(講談社現代新書)」で述べられていますが、本のサブタイトルは人は体を動かさないと病むですが、体を動かさない理由として参加レベルの制約を考えることが大事です。つまり、今回のコロナ禍で、子どもたちは活動の場や機会を失われたことによって、生き生きと暮らすという、ICFでの「参加」レベルが制約を受けてはいなかったかという視点を忘れてはいけないかと思います。

繰り返しになりますが災害のときにも、どのように参加のレベルを向上させるか、制約を生まないかというところから、日々の活動性の低下予防を考えていくことが大事だということです。また今回の調査で、活動が制限されたことで疲れやすくなった子どもたちは、コロナ前の平時には問題が現れていなかったものの、参加レベルとの関連も踏まえて、活動性として十分でなかったところがあるのかもしれません。もう一度、子どもたちの普段の生活を、活動性を切り口に、参加レベルを向上させるような、そのような視点から見直すことが必要なのではないかと考えています。

大川/ありがとうございました。あと5分しかありませんが、ディスカッションとしてこれだけは議論したいということがあればお願いします。

ないようですので、私から追加させていただきます。最後の吉川先生の研究には歴史がありまして、2007年の3月25日に能登半島地震が起き、私は生活機能低下予防に向けた関与を発災後すぐから開始しました。その中で、子どもたちについて、それ以前から特別支援教育に関して議論する機会をもっていた吉川先生たち金沢大の方、そして県の教育委員会の方から、地震時の問題点、それから明らかになった平常時の課題などを具体的事例も検討し、いろいろなディスカッションをしていました。その前提があったので、今回のコロナ危機に際しても、生活不活発病が子どもでも起きるのではないか、生活機能の状態を見るべきではないかということで、お声をかけていただいたのものです。

一方、矢本さんは現在の大学の前任の仙台市の行政としていらしたときに、主に就学前のお子さんの支援にICFをどう活用するかで関与させていただいたところ、東日本大震災が起き、災害との関係で検討をしたという経過もあります。このように総合リハというのは、さまざまな専門家がいろいろな場面、機会で一緒に取り組み、それぞれの専門的立場から議論し、話し合いながら作っていきます。そして、その平常時の取り組みやつながりが、災害やコロナ危機という非常時の対応を考えるときに生かされる、という事例ではないかと思い、3人の関係の歴史をご紹介いたしました。

矢本さんが示していただいたとおり、コロナという状況で、一人一人のお子さん、またそれ以外の成人の方、お年を召した方、すでに生活機能低下のある方々、そして全ての国民の、「参加」レベルの、いろいろな役割や、楽しさや、権利というものが、どう変わったかという観点、そしてそれが、参加から活動に影響し、さらには心身機能にも影響するということを、念頭に置いて対応する必要があります。このことをコロナ危機の特別な時期のこととしてでなく、平常時についても、考える機会にすることが望まれていると思います。

では、これでパネル2は終わらせていただきます。ありがとうございました。

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