総合リハビリテーションのあり方 検討委員会:中間報告 ―事例検討を中心に―

伊藤 利之(横浜市リハビリテーション事業団 顧問)

1.検討の趣旨

総合リハビリテーション(以下、総合リハ)は、障害のある人の自立と社会参加を促進する

ための方法であり、それを効果的かつ適切に遂行するには、当事者を含む多分野にまたがる関係機関の連携が必要不可欠である。

今回は、総合的なリハの提供を目的に開設されたリハセンターの事例を通して、分野間の連携がどこまで実現しているか、あらためてサービスの実態を検証し、当面の課題と今後のあり方を検討した。

2.検討方法

(1)協力施設と事例数:国立障害者リハセンター 4例、千葉県千葉リハセンター 3例、横浜市総合リハセンター 4例、東京のリハ専門病院 1例

(2)事例報告と提案書の作成:2021年2月~5月、各センターの総長・センター長と計4回のオンライン会議を開催、事例に基づいて現状を確認、課題を整理し、総合リハのあり方検討会に向けた提案書を作成した。

(3)総合リハのあり方検討会:2021年6月~9月に3回のオンライン会議を開催。

(4)検討委員:飯塚真理 国立障害者リハセンター、家平 悟 障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会、伊藤利之 横浜市リハ事業団、菊地尚久 千葉県千葉リハセンター、栗原 久 フィールド・サポートem.、佐々木貞子 DPI女性障害者ネットワーク、佐藤弘行 千葉県立袖ケ浦特別支援学校、高岡 徹 横浜市総合リハセンター、飛松好来国立障害者リハセンター、渡邉愼一 横浜市総合リハセンター 

3.検討結果(中間報告:事例検討を中心に)

(1)リハセンターの特徴

  • 主対象者:重度障害(頸髄損傷など)、重複障害(肢体+高次脳機能障害など)、高次脳機能障害などが目立つ。
  • 対象年齢・利用期間:~60歳が多い/比較的長期間の利用/入院2~3ヵ月、自立支援3~6か月、就労支援6~12ヵ月。
  • 施設利用率:障害者支援施設の利用は減少傾向だが、就労支援の利用率は比較的高く、高次脳機能障害の合併&頸髄損傷などが多い。
  • 内部の連携:部門間の障壁はあるもののSWを要に恒常的連携体制ができている。

(2)事例検討のまとめ

1)総合的なリハ施設の必要性
  • 総合リハの実現には医療と福祉のサービスを同時に提供できる体制が求められ、とくに中途障害に対してはリハセンターなどの総合的な施設機能が有効である。
  • 高次脳機能障害、頸髄損傷、多肢切断、進行性難病、重症心身障害児など、若年の重度・重複障害に対して必要度が高い。
  • 医療・療育から教育・社会・職業に至る部門間には法制度の縦割りの壁があり、各部門間において定期的な情報交流・共有の場を設けることが必須条件である。
  • 各リハ部門の活動が相互に垣間見える環境設定(見学やビデオによる紹介)は効果的で、リハ計画の具体化やゴール達成への意欲に繋がっている。
2)地域における継続的リハシステム
  • 先天障害児について、医療→療育→教育→社会参加の継続性は整備されてきたが、行政の下支えや現場の連携だけでは不十分で、親の発信力に依存している点は否めない。
  • 医療→回復期リハの継続的アプローチの枠組みは整ってきた。しかし、生活期以後のリハに関しては、当事者・家族・CMなどの個人的力量に委ねられている。
  • 介護保険下のデイケア・デイサービスでは圧倒的に高齢者が多い。そのため高齢者向けプログラムが中心となっており若年障害者からの希望は限られている。
  • とくに医療機関においては、障害者の「自立支援」「権利擁護」「合理的配慮」のあり方について、より一層の理解が必要である。
3)社会参加・就労支援
  • 就労支援サービスの利用は、比較的若年の頸髄損傷、多肢切断、軽~中度の高次脳機能障害などでニーズが高まっている。
  • 職業リハにおいては、ADL自立を前提とした現状を打破し、介助が必要な人でも参加できる環境整備が急務である。今後は、就労困難とされた障害者の実態や、独自の就労支援策を講じている先進的な自治体の施策などを注視していく必要がある。
  • 医学的リハと職業リハの連携は重要性を増しているが、地域において両者を繋ぐ社会基盤は未だ脆弱である。
  • スポーツ・文化活動への参加ニーズが高まっており、これらを社会参加機会の一つとして位置づけることは重要である。そのためにも、インクルーシブな施設整備の拡充と積極的な技術支援が望まれている。
  • 自己決定や合理的配慮を保障することは重要であり、行政・教育機関、企業、市民への一層の啓発が求められる。その環境醸成には他者との情報交流の場が求められている。
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