放送アクセシビリティの取り組み~リモートで字幕制作~

「新ノーマライゼーション」2022年5月号

関西テレビ放送株式会社コンテンツデザイン本部コンテンツデザイン局 担当局長
西井孝(にしいたかし)

新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活や仕事に大きな影響・変化を与え、感染拡大防止対策として、密にならないように人との接触をできるだけ減らすという観点から、企業は「在宅勤務」に取り組むことになりました。私たち放送局は、国民に情報をお伝えしていくために放送を維持していかなければならないという大きな使命があります。そのため、感染症対策を施した上での新たな番組制作の形を模索し、さまざまな部署が在宅勤務に取り組んでいくことになりました。字幕制作においても、これまでは関西テレビ本社や業務委託先に出勤して作業を行うことが当たり前でしたが、出勤するスタッフを減らしながら、番組に字幕を付与する業務をいかに維持・継続していくかを検討しました。

これまでテレビ会議システムは特別に費用をかけて導入を行う必要がありましたが、コロナ禍を契機に市販ソフト、カメラ、マイク、インターネット回線があれば簡単に画面や音声、資料を共有できる環境が急速に整いましたので、特に新たなシステムを開発することなく体制を構築することができ、2020年5月から運用を開始しました。

(1)字幕制作

弊社では字幕制作は担当者3~5人で作業を分担しています。

1.在宅用ノートPCから会社へVPNで接続し、会社サーバから作業を行う番組の映像をダウンロード

2.在宅用ノートPCで、在宅勤務者2人が番組の映像を見ながら字幕を制作

3.在宅勤務者は制作した字幕データをVPNで会社サーバへアップロード

この時、在宅勤務者同士の進ちょく確認や質問等はMicrosoft Teams(以下、Teams)のチャット機能を利用

※VPN(バーチャルプライベートネットワーク)=一般的なインターネット回線を利用して作られる仮想の専用線で安全を確保し情報を守ることができるもの。

(2)制作後の確認

1.本社に出勤している担当者が会社PC上で、制作された字幕を再生

2.この時、会社PC上で再生されている映像(字幕付き)をTeamsで画面共有し、字幕制作を行った在宅勤務者は一緒に確認

3.本社に出勤している担当者と在宅勤務者との会話はTeamsのビデオチャット機能を利用し、適宜修正

コロナ禍前は1つの番組につき3~5人が同じ部屋で作業を行うことがありましたが、このような形で密になることなく在宅勤務で字幕制作を行う体制が整い、現在も継続しています。

今回のコロナ禍が契機となって在宅勤務の体制が整い、結果的に出勤をせずに字幕制作を行うことが可能になりましたので、スタッフの勤務地についてより柔軟に考えることができ、スタッフ確保の一助になるかもしれません。一方で、会社と自宅を繋ぐインターネット回線は専用線に比べると安定性に欠ける部分もあります。また、制作した字幕データの放送機器への登録や放送機器上での最終確認等は関西テレビ本社での作業が必要で、在宅勤務では行えない、といった課題もあります。今後、字幕制作に有効な新たな仕組みも開発されていくと思いますので、積極的に検討していきたいと考えています。

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