ローカル番組における手話放送の取り組み

「新ノーマライゼーション」2022年5月号

朝日放送テレビ株式会社総合編成局編成部
田中敬(たなかけい)

2018年2月、NHKと東阪名の広域局は2027年までに平均週15分の手話を付与するという指針が策定され、朝日放送テレビ(ABCテレビ)も2018年度から2027年度までの年度ごとの手話放送の計画値を策定しました。

2018年度に手話放送をスタートするにあたって、手話放送で先行している放送局(テレビ朝日、サンテレビ、テレビ和歌山)の制作状況をリサーチしました。一連の見学で見えてきたことは、手話の制作には局によってさまざまなスタイルがあるということです。各局の制作体制を比較検討したうえで、手話通訳者2名が手話通訳と手話のチェックを分担する体制を採用することにしました。

付与対象番組は自社広報番組の『マンスリーABC』(毎週最終土曜日午前5時8分~午前5時20分)とし、年に4回程度付与することにしました。手話通訳は大阪ろうあ会館(公益社団法人大阪聴力障害者協会)にご協力をお願いしました。協会からは、総務省で主催されている「テレビジョン放送における手話通訳者育成に関する研修会」に参加された方を派遣していただいています。

手話の収録では、チェック者から何度もダメ出しが出て、そのたびに最初から手話通訳をやり直しとなります。手話通訳者同士で意見を交わしながら、視聴者にとって最善の手話表現を目指していきます。

手話のワイプ映像は、人の視線は左上、右上、左下、右下に移動するという「Zの法則」に基づいて、画面右下に表示することにしました。また、ワイプの周囲に枠をつけることにより、周囲の映像から手話のワイプ映像を際立たせる効果を狙っています。

ところで、手話放送について情報収集をしているうちに、今から30年ほど前にABCテレビで放送されていた大阪市の広報番組『スケッチ大阪』が、手話に対応していたことを知りました。残念ながら番組終了とともに、ABCテレビでの手話番組も終了したようです。

最初の手話番組の収録が終わって、手話通訳者の方々と反省会の機会を持ちました。その際、手話通訳をしていただいた方から、思いがけないエピソードをうかがうことができました。手話通訳を志された若いころ、『スケッチ大阪』をビデオに録画して、繰り返し再生しては手話の練習をされたというのです。ちなみに、その手話通訳者の方は、昨年開催された「テレビジョン放送における手話通訳者育成に関する研修会」で講師をつとめられています。手話通訳者を目指す若い人々の中には、『マンスリーABC』の手話放送を繰り返し再生視聴されている方がいるかもしれません。聴覚障害者の方々だけでなく、手話を学ぶ次世代の人々にも役立てていただけるような手話番組を心がけていきたいと思います。

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