放送分野における真の社会モデルとは

「新ノーマライゼーション」2022年5月号

一般財団法人全日本ろうあ連盟 理事
堀米泰晴(ほりごめやすはる)

東京2020オリパラの開閉会式は、Eテレによって総合テレビの映像に手話言語をつける形で放送されました。この放送は、多くの視聴者が地上波放送における手話言語付与に関心を持つきっかけになり、手話言語を必要とするきこえない・きこえにくい人がリアルタイムでオリパラの感動を味わうことを可能にしました。

これは、オリンピック開会式が字幕のみで放映したことに対する全日本ろうあ連盟等の団体の要望活動の成果です。「多様性と調和」を掲げ共生社会を育むことを目指したオリパラが字幕のみで放送したことは、「字幕があれば、すべてのきこえない・きこえにくい人の情報アクセスが保障される」という潜在的な認識があったと言わざるを得ません。また、総合テレビではなくEテレで放送されたことは、視聴側でオンオフができない手話言語の映像は目障りだという批判の存在が理由の一つと考えられます。「手話言語を必要とする人はEテレで」という社会の枠から排除された感があり、このような医学モデルの思想が未だに残っていることは残念です。

放送分野における社会モデルとは、すべての人がみな同じ番組を観ることができる環境にあることと考えます。手話言語が必要であれば、字幕と同様に手話言語付与のオンオフ機能もテレビ及びリモコンに搭載すべきです。この技術は、認定NPO法人障害者放送通信機構が運営している「目で聴くテレビ」で使われる「H.702」です。H.702は情報通信技術委員会のIPTV用のアクセシビリティ標準規格「JT-H702」として規定され、国際標準規格でも規定しています。放送事業者が手話言語付与の取り組みをしていることに加えて、この技術がデジタル放送等の標準規格化に展開すれば、放送番組の手話言語付与の推進に拍車をかけることにつながります。

先日、「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律案」が参議院厚生労働委員会において全会一致で可決されました。そして「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」の見直しが予定されています。この法案の制定を機に「手話放送」の目標値を高く設定し、手話言語を付与した番組の放送が増えることを望んでいます。私たちも放送事業者を含む関係者とともに、放送分野における社会モデルの実現に向けて一層の取り組みに邁進していきます。

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