地域で暮らす・支える-地域生活支援拠点等の整備-栃木県栃木市「栃木市くらしだいじネット」の取り組み

「新ノーマライゼーション」2022年5月号

栃木市保健福祉部障がい福祉課障がい児者相談支援センター係
町田江美(まちだえみ)

1. 栃木市の概要

本市は、栃木県の南部に位置し、東京から鉄道でも高速道路でも約1時間の距離にあります。平成22年、平成23年、平成26年と3度の市町合併を経て、現在の栃木市となりました。市の面積は、331.50㎢、令和4年3月31日現在、人口15万6千人で少子高齢化が進んでいます。

市内に住む障がいのある方については、身体障害者手帳所持者数5,092人、療育手帳所持者数1,422人、精神障害者保健福祉手帳所持者数1,240人です。障害福祉サービス利用者は、大人と子どもを合わせて約1,933人、指定相談支援事業所は、23か所あり、サービス利用者については、ほぼ100%相談支援専門員によるサービス等利用計画作成ができています。また、市町合併により、福祉サービス事業所が多いという特徴があります。

2. 地域生活支援拠点等の整備について

本市は、核家族化・高齢化による家族機能の低下等の背景もあり、障がい者に係わる基本相談が増加していました。そのような折、厚生労働省において「地域生活支援拠点等」の整備を平成29年度末までに行うことが示されました。それに伴い、本市では、「相談と緊急時対応」に重点を置いた体制整備を進めるため、平成27年度に「地域生活支援拠点等整備推進モデル事業」を活用し、自立支援協議会内に準備委員会を設置し、整備方針の検討や研修会の開催、緊急時対応の調査(過去の緊急時対応について事業所等への聞き取り)、体験短期入所(短期入所の利用未経験者の体験利用)を実施しました。市内に多くの福祉サービス事業所がある利点を生かし、面的整備型としました。

平成28年度には、「栃木県地域生活支援拠点体制整備事業」を活用し、自立支援協議会に拠点ワーキングを設置し、具体的な緊急時支援の在り方について検討を行い、栃木市くらしだいじネット緊急時支援事業試行運用事業を開始しました。その他、研修会の開催、とちぎシェアネットの構築(市内事業所とのデータや施設の空き情報の共有)を行いました。地域生活支援拠点等の名称は「栃木市くらしだいじネット」としました。「だいじ」は栃木の方言で「大丈夫・大切」という意味で、「心配な事があっても大丈夫。あなたらしい暮らしを大切に。」という思いが込められています。平成29年度には、くらしだいじネット緊急時支援事業本格運用が開始され、平成30年度には、要綱についても整備を行いました。

また、体験・機会の場の構築のため、平成30年度には、一人暮らしを希望した方の調査や関係機関のニーズを把握し、令和元年度に、一人暮らし体験事業の試行運用を始め、令和2年度から本格運用を開始しました。

さらに、面的整備型のため市内の福祉サービス事業所の協力・連携が非常に重要であることから、平成28年度から毎年、福祉サービス事業所向けに実績や課題を報告する「くらしだいじネット報告会」を開催しています。

3. 現在の栃木の地域生活支援拠点等における5つの機能

(1).相談

従前から、本市の障がい児者相談支援センターは、委託を受けた社会福祉法人等の相談支援専門員が市役所内に拠点を置き、相談支援活動を行っていましたが、平成27年10月からは、市直営の基幹相談支援センターと位置付け、地域における相談支援の中枢的な役割を担っています。市内には、23か所の相談支援事業所がありますが、相談支援事業所に対し、支援の進め方等のバックアップを行い、支援の充実を図るほか、市内の相談支援専門員の質の向上、ネットワークづくりの場として、相談支援ネットワーク定例会を年4回程度実施しています。

(2).緊急時の受け入れ対応

緊急時支援対応については、登録制とし、事前に利用登録届や基本情報を収集します。登録は、リスクマネジメントの考え方で本人・家族・支援者と共に検討した上で届出していただきます。緊急時の対応には、緊急短期入所や緊急居宅介護、駆けつけ応援(日中活動の事業所職員等が駆けつける)があり、緊急短期入所は、利用実績がある事業所を優先し、利用実績なし等の場合は1週間ごとの輪番制により短期入所事業所を決定します。応対は、障がい福祉課職員による電話当番と応援当番の2人1組のチームで24時間365日のオンコール体制とし、状況確認と適切な支援方法の検討、受け入れ先へ応援依頼を行います。対応期間は、7日以内とし、緊急時から通常支援への移行を市でコーディネートします。事業開始当初から、登録者のケア会議や未登録者の把握など緊急時を予防するためのさまざまな取り組みを相談支援専門員を中心に実施してきました。

(3).体験の機会・場

令和元年度から委託法人で所有するアパートの一室を活用し、「一人暮らし体験事業」を開始しました。担当の相談支援専門員が将来を見据え、障がい者と共に検討した上で利用申請します。申請後は、市相談支援専門員がコーディネーターとなり、ニーズ調査し、体験計画を作成します。体験前後には本人も含めた会議を開催します。体験中は、委託法人職員が見守りや駆けつけられる体制を整えているほか、居宅介護も利用することができます。

(4).専門的人材の育成

本市では、地域生活支援拠点等の整備において人材育成が重要と考え、平成27年度から居宅介護事業所研修会を毎年実施しています。その他、障がい児福祉サービス事業所職員の質の向上やネットワーク構築を目的とした児童連携会議や医療的ケア児者支援体制整備研修会など支援者向けの研修を実施しています。

(5).地域の体制づくり

自立支援協議会を中心に、地域の体制づくりを行っています。現在は、医療的ケア児者の支援体制を検討する「医療的ケアワーキング」や精神障がい者にも対応した地域包括ケアシステムを構築する「くらしまるごとワーキング」を設置し、課題の抽出や検討、研修会などを実施しています。その他、多機関が係わる会議に参加し、関係機関とのネットワークづくりを行っています。

4. 現在の課題と今後の展望

緊急時支援事業では、事業開始当初から、緊急時を想定し、円滑な支援をするために相談支援専門員を中心に関係者が会議を行い、支援体制を整えてきましたが、医療的ケア児者や強度行動障害等の個別対応が必要な方などは支援体制が整わない課題がありました。そのため、自立支援協議会や委託契約事業所会議にて、登録制をより有効にするための検討を行いました。その結果、令和4年度から、さらなる充実強化のために登録後、短期入所や居宅介護の受け入れ先の契約がないケースについては、緊急時に受け入れ先を確保できるようバックアップを行うこととしました。また、定期的に会議を開催し、チームでの支援体制を整えた相談支援事業所には、委託料を支払う「緊急時支援体制整備」を創設しました。

現在、コロナ禍もあり、一人暮らし体験事業においては、利用が少ない状況からさらなる周知が必要と考えています。

本市の地域生活支援拠点等の整備は、面的整備型であることから市内事業所の協力・連携が重要であると考え、自立支援協議会にて評価を行い、課題を次年度に検討することにより、整備の推進及び機能強化を図ってきました。今後もPDCAサイクルを回しながら、障がいのある方たちがより安心して地域で暮らし続けられる地域づくりに取り組んでいきます。

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