トピックス-北京2022パラリンピック冬季競技大会報告

「新ノーマライゼーション」2022年5月号

日本パラリンピック委員会委員長 北京2022パラリンピック冬季競技大会日本代表選手団団長
河合純一(かわいじゅんいち)

はじめに

北京2022パラリンピック冬季競技大会(以下「北京冬季パラ」という)日本代表選手団(以下「選手団」という)の団長としての経験から得られた知見を、以下のとおり報告します。

1. 大会概要

北京冬季パラは、出場枠獲得に向けての活動が新型コロナウイルスの影響を色濃く受けることになりました。ワールドカップの中止や日本国内の厳格な水際対策の影響により、この2年間は海外遠征が難しい時期が続きました。

そのような中、2022年3月4日(金)から13日(日)までの10日間、中華人民共和国の北京市(延慶区を含む)、河北省張家口市を中心とした3つの地域にて6競技(アルペンスキー、クロスカントリースキー、バイアスロン、スノーボード、アイスホッケー、車いすカーリング)の78種目が行われました。参加国数は46か国(アジア地域は12か国)、参加選手数は564名でした。うち、女子選手数は136名で過去の冬季パラでは最多となりました。

開会式直前のロシアのウクライナ侵略に伴い、国際パラリンピック委員会(IPC)は、ロシアパラリンピック委員会(RPC)、ベラルーシ選手団の出場を一度は容認(3月2日)しましたが、翌日には除外を決定しました。そのため、参加人数が前回大会よりも大きく減少することとなりました。

北京冬季パラは東京パラに引き続き新型コロナウイルス感染症の影響を強く受ける結果となりました。原則として無観客で実施され、プレイブックに基づきクローズドループシステムという方式で毎日のPCR検査と行動、健康管理を徹底した中で行われました。

2. 日本代表選手団構成

2021年3月に日本パラリンピック委員会(以下「JPC」という)が公表した北京冬季パラ選手団の編成方針及び選考基準に基づいて選考しました。その結果として、実施6競技中アルペンスキー、クロスカントリースキー、バイアスロン、スノーボードの雪上系4競技にエントリーしました。氷上系のアイスホッケーと車いすカーリングは残念ながら出場権を獲得できませんでした。

選手村はアルペンスキーの延慶とクロスカントリースキー、バイアスロン、スノーボードの張家口の2か所に分かれての滞在となりました。

選手団の構成は選手29名、競技パートナー(ガイド)1名、競技スタッフ29名、本部スタッフ14名の合計73名となりました。この選手団規模は参加国のうち、5番目に大きいものでした。

選手の出場回数は初出場から日本人冬季パラ最多となる7回までと幅広いものでした。初出場選手の割合が35%とおよそ3分の1を占めました。その反面およそ4人に1人は5~7回と経験豊富な選手が多いのも今大会の選手団の特徴といえます。

また、夏冬のパラリンピックに出場した選手が4名、うち3名は東京2020パラリンピック競技大会(以下「東京パラ」という)に出場した選手でした。

選手の男女比について総アスリートスロットは男子69.8%、女子30.2%に対し、選手団は男子72.4%、女子27.6%という割合でした。選手の男女比は競技種目の男女比と大きく変わりませんでした。また、選手の平均年齢は34.8歳ということで、平昌パラとほぼ変わりませんでした。今大会の最年少選手は18歳、最年長49歳でした。

障がい別(運動機能障がい「PI」・視覚障がい「VI」)の割合をみるとメダルイベントではPI:71.8%、VI:28.2%に対し、選手団の割合はPI:96.6%、VI:3.4%と圧倒的に視覚障がいの選手の割合が低かったです。

図1 アスリートスロット・日本代表選手団の性別割合
図1 アスリートスロット・日本代表選手団の性別割合拡大図・テキスト

図2 日本代表選手団の年齢分布(3大会比)
図2 日本代表選手団の年齢分布(3大会比)拡大図・テキスト

3. 大会目標と成績

(1)大会目標設定の背景

東京パラにおいても、コロナ禍での海外遠征、クラス分け問題などを踏まえ明確なメダル数等の目標を公表しませんでした。北京冬季パラも同様のスタンスで臨むこととし、「最高のパフォーマンスの発揮」を目指すことになりました。

ただし、JPSA2030年ビジョンに掲げられているものは金メダルランキング5位、国の第2期スポーツ基本計画では前大会以上の成績を目指すとしており、その部分を修正したわけではありません。2021年12月に公表された「持続可能な国際競技力向上プラン」及び2022年4月からの第3期スポーツ基本計画においては、金メダルランキングだけでなく、金メダル数、総メダル数、メダル獲得種目数等の複数の基準も示されていることから、複数の視点から結果を検証することとしました。

(2)大会成績

選手団の成績は金メダル4、銀メダル1、銅メダル2の合計7個のメダルを獲得することができました。これは海外で開催された冬季パラ大会においては最多の金メダル数となりました。金メダルランキングも9位ということで、前回の平昌パラと同じランキングとなりました。ただ、メダル総数は平昌パラの10個から3個減少しました。さらに今大会ではアルペンスキーとクロスカントリースキーの2競技でのメダル獲得にとどまり、前大会の3競技よりも減らす結果となりました。その反面、入賞数は34となり、前回の平昌パラの2.5倍となりました。このことからも全体としてのレベルの底上げができたと考えています。しかしながら、メダルに届くまでの強化は難しかったといえます。

メダリストは3名で、うち2名がマルチメダリストであり、1名はマルチ金メダリストとなりました。2名のメダリストが20代ということで、今後の大会での活躍も期待できるところです。

4.今後に向けて

(1)中国の飛躍的な競技力向上

中国は夏季パラリンピックでは2008年以降金メダルランキングにおいて、ダントツの1位を維持しています。ただし、過去の冬季パラにおいては、平昌パラの車いすカーリングの金メダル1個のみの獲得でしたが、今大会では金18個を含む合計61個で冬季パラにおいても1位に君臨することになりました。その理由を調査すると次の3点に集約できると思います。

1.有望タレント、アスリートの選抜と競技に専念できる環境(フルタイムアスリート・プロアスリート、夏季競技の選手の種目転向)→障がい者の人口8,500万人

2.年間を通じてトレーニングできる環境(スノードーム、専用アイススケートリンク)

3.海外強豪国のコーチの招聘(イタリア、ロシア等)

冬季競技は夏季競技よりも選手層が薄いため、上記のような戦略的なトレーニングにより短期間で成果を上げることができたと考えられます。

表1 北京2022パラリンピック冬季競技大会 金メダルランキング

順位 国名 合計
1 中国 18 20 23 61
2 ウクライナ 11 10 8 29
3 カナダ 8 6 11 25
4 フランス 7 3 2 12
5 米国 6 11 3 20
6 オーストリア 5 5 3 13
7 ドイツ 4 8 7 19
8 ノルウェー 4 2 1 7
9 日本 4 1 2 7
10 スロバキア 3 0 3 6
11 イタリア 2 3 2 7
12 スウェーデン 2 2 3 7
13 フィンランド 2 2 0 4
14 英国 1 1 4 6
15 ニュージーランド 1 1 2 4
16 オランダ 0 3 1 4
17 豪州 0 0 1 1
17 カザフスタン 0 0 1 1
17 スイス 0 0 1 1

2022/4/21 現在

(2)冬季競技の発掘、育成、強化上の課題

1.雪上系競技の次世代、若手アスリートの発掘、育成

北京冬季パラでは、一定の成果を上げることができました。ただ、マルチメダリストによる活躍でランキングが底上げされている現状があります。初出場選手で入賞している選手のさらなる向上、若手選手の発掘、育成システムの確立が急務といえます。用具器具、海外遠征等、夏季競技以上にトレーニング環境を構築する上で経済的な負担も大きいことが大きな障壁ともなっています。また、出身地、在住地により、育成環境が影響を受けることも否定できず、NFとの連携をしながら、ジャパンライジングスタープロジェクト等のタレント発掘事業を有効に活用していくことが大切になってきます。

2.氷上系競技

今回、出場がかなわなかったアイスホッケー、車いすカーリングといった氷上系競技について、今後は強豪国の調査をNFとJPCとが連携して実施し、そこで得られた知見を選手の発掘、育成、強化に生かしていく必要があります。2030年に札幌でのオリンピック・パラリンピック招致を目指している中、決定してからの準備や対応では時間が足らないと思いますので、JPC戦略計画に基づきNFの強化戦略プランを連動させていけると望ましいと考えています。具体的には戦略的なタレント発掘、Jスターの活用がカギとなると考えています。それぞれの競技に有意な障害の種類や程度を見出し、集中的に育成、強化していくことが短期間で強化の成果を上げる手段になると思います。

終わりに

1年延期となった東京パラがコロナ禍ではありましたが無事に開催されました。日本人選手たちの大活躍により、パラリンピックムーブメントや共生社会への歩みが加速したと感じていました。そのような中で開催された北京冬季パラはその勢いを継承していけるかも大きなポイントであると考えていました。ロシアのウクライナへの軍事侵攻という世界平和を揺るがす事態の中行われた北京冬季パラは開会式においてIPCパーソンズ会長が「ピース」と叫ばなくてはならないほどの状況で開催され、大きなインパクトを残しました。スポーツの地から、価値をあらためて考えさせられる機会ともなりました。

最後になりますが、東京パラに引き続き団長という大役をいただき、大変貴重な経験をいたしました。本当にありがとうございました。お支えいただいたすべての皆様にも重ねてお礼申し上げます。


編集部注:本文中に出てくる中国の地名の英語表記は次のとおりです。参考にしていただければ幸いです。
北京(Beijing)、延慶(Yanqing)、張家口(Zhangjiakou)

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