デジタル社会に取り残されないために~大阪府ITステーションのこれまでの取り組み~

「新ノーマライゼーション」2022年6月号

大阪府ITステーション

沿革

大阪府ITステーション(以下、ITステーション)は、障がいのある方のデジタルデバイドの解消を目的として平成16(2004)年9月に開設されました。その後、平成24(2012)年3月に策定された「第4次大阪府障がい者計画」においてその役割が見直され、平成24(2012)年5月に障がい者がITを活用して就労できるよう就労支援相談や職業訓練を付加するなど、就労を目指す障がい者と障がい者雇用を考える企業の双方を支援する「障がい者の雇用・就労支援拠点」としてスタートしました。令和2年6月からは、公の施設である大阪府立福祉情報コミュニケーションセンターの一機能として、当法人である社会福祉法人大阪障害者自立支援協会(以下、大障協)が指定管理事業者として運営しています。

大障協は、在宅の重度障がい者が、情報機器・支援機器等を活用することでデジタルデバイドを乗り越え、福祉的在宅就労を目指す制度を構築したいとの思いから、平成27年度から3年間、大障協の自主事業として、在宅重度障がい者IT支援の実証実験を行いました。この支援は平成30年度以降、大阪府の委託事業として、重度障がい者に対するIT支援事業として継続しています。

事業内容

ITステーションでは、障がい者がITスキル等を習得して就労を目指す「就労支援」と、意思疎通が困難な障がい者のITを活用したコミュニケーションを支援する「IT支援」の2つの事業を中心に実施しています。

就労支援では、多くの求人において、業務でパソコンを使用することが必須になっていることから、「就労支援IT講習」を実施し、就労を目指す障がい者が、日本語ワープロ、表計算、パワーポイント、ホームページ作成などのITスキルを習得して就職活動にアプローチすることを支援しています。

「就労支援IT講習」は障がい特性に応じて実施しており、視覚障がい者の講習では音声読み上げソフトを使用し、聴覚障がい者の講習では、手話や音声変換ソフト等を使用してコミュニケーションを図っています。視覚障がい者と聴覚障がい者の講習については、同じ障がいのある講師兼相談員がピアトレーナーとして、受講者の指導と就労相談に対応しています。

これらの講習会に欠かせないのが、ITサポーターです。ITサポーター養成研修会を受講し、研修後に「大阪府障がい者ITサポーター」として登録されたパソコンボランティアの方々です。主に、障がい特性に配慮したITステーションや地域での講習会の指導や個人指導、在宅重度障がい者への支援機器等の操作指導などの活動を行っています。ITステーションでは、そうした活動を支えるため、ITサポーターの資質向上や講師として必要な知識等の習得を目的とした現任研修も実施しています。

IT支援では、主に重度の障がいが理由で情報通信技術の利用ができない方や、支援機器等を利用することにより意思疎通が可能となる方へ、個別の障がい特性に応じた支援機器やソフトウェアの提案や機器体験を行います。機器体験後に一定期間機器を貸し出し、利用者本人と支援者にとって、支援機器が利用可能か判断できるようにしています。

事例を紹介しますと、頸椎損傷で首から下を全く動かすことができない方に、視線入力でパソコン操作や音声で家電製品やタブレットを操作する方法を支援しました。

この方は、受傷後の10年間はラジオを聞きながら過ごし、その後の数年間はDVDプレーヤーで映画を見て過ごされていましたが、自分で何かをすることは全くできませんでした。視線入力でパソコンの操作ができるようになった今では、見たい映画や読みたい本を誰にも頼むことなく、いつでも楽しむことができるようになりました。ご本人が「世界が劇的に変わった。ずっと、ありがとうばかり言い続けてきたから、これからはありがとうと言われたい」とおっしゃったのが印象的でした。

言語障がいがあり、上下肢を自由に動かすことが難しい方の事例では、スイッチを使ったパソコン操作を支援しました。

これまで利用していたスイッチでの文字入力が難しくなってきたことを機に相談を受け、相談者や支援者の思いを確認したところ、文字入力での意思疎通だけでなく、メールなどを利用したコミュニケーションを取ることを希望されていることがわかりました。

そこで、新しいスイッチを利用した文字入力が可能になった後、ITサポーターの操作指導を活用してメールやSNS、インターネットでの検索に関する指導を行いました。

スイッチを利用したパソコンの操作は一般的なマウスでの操作と異なるため、操作方法に制約があり、1つの操作に長時間かかることもありますが、何度も繰り返しながら学習されました。今では、SNSを覚えられたのをはじめ、好きな曲を聴いたり、ほしいものを検索して探したり、さまざまなことが自分でできるようになっています。

このように、受動的に待っているのではなく、少しでも「自分から発信したい」「できることは自分でしたい」という声をよく聞きます。

ただし、すべての相談が希望どおりに終了するとは限りません。相談を受けた後、協力者(機器を準備してくれる方など)が見つからず、諦めざるを得なかった方もいました。協力者の存在は重要であり、必須ともいえます。

現在の重度障がい者のIT支援はコミュニケーション支援が中心ですが、支援の結果パソコンの操作ができるようになると、「仕事がしたい」と相談者が希望されることも珍しくありません。「何か私にできることはないですか?」と相談されることもあります。しかし支援機器が発展してパソコンの操作が可能になっても、重度障がい者の方で外出できる方は限られており、外出ができる場合でも、時間が制限されたり介助が必要であったりするため、企業に出社して就労することは難しい状況です。

近年在宅就労が可能な企業が増えてきていますが、重度障がい者が在宅就労を希望しても、経済活動中は障がい福祉サービスを受けることができないなどの制限があり、すぐに就労することは困難です。

令和2年10月から「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」が開始され、大阪府では大阪市、堺市で試験的に適用されました。これにより就業中でも重度障がい者が日常生活で必要な支援を受けることが可能になりましたが、まだまだ、一部の自治体に限られるようです。また、実際に就労を希望しても、企業と繋がること自体、非常に難しいのが現状です。

自主事業として開始した7年前と比べてテクノロジーは著しく発展し、寝たきりでもパソコンやタブレット、そのほか周辺機器を使用した就労の可能性は広がっています。そして、今後さらに発展すると思われます。

就労を目指す障がい者と障がい者雇用を考える企業の双方を支援する「障がい者の雇用・就労支援拠点」である、ITステーション。現在のITステーションで行う「就労支援」は、来所できる方という条件があるため、外出が難しい在宅重度障がい者の方の支援はできておりませんが、技術の進歩をうまく取り入れ、雇用施策との連携も図りながら、就労支援の可能性を探ることが今後の課題であると思います。

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