ひと~マイライフ-重度重複障害者(盲ろう+肢体不自由など)の私が教師の道へ

「新ノーマライゼーション」2022年6月号

橋本紗貴(はしもとさき)

熊本県の特別支援学校教諭。大分生まれの熊本育ち。中学2年生の時にギラン・バレー症候群を発症し、多発性神経炎を併発。両下肢麻痺、右上肢麻痺、左上肢障害、聴覚障害(重度難聴)、視覚障害(視力障害・視野障害、右目は失明・左目は0.01以下、視野は1円玉ほど、色も曖昧)、体温調節機能障害、感覚障害(皮膚感覚、口腔内の感覚なし)など、その他にもさまざまな障害が重複。盲ろう者。日常生活では、コミューン、指伝話、視線入力、スイッチ入力、アームサポートなどの機器をその日の体調に合わせて選択し活用。コミュニケーションは、音声、手話、ICT機器などで行っている。

私は熊本県で特別支援学校の教師をしています。

教師になろうと思ったきっかけは、高校生の時の出来事が大きく関係しています。高校できつい思いをしたことから、これからの子どもたちには私と同じ思いをさせたくないという思いで高校1年生の時に教師を目指しました。1度目は高校の政治・経済(公民)で試験を受けましたが、合理的配慮の確認漏れなどにより試験問題が見えなかったため満足のいく試験を受けられず不合格。その後、当事者やその家族から特別支援学校の教育の実態を知ったこと、「特別支援学校の先生になってほしい。生徒の気持ちに寄り添い、可能性を伸ばす先生になって」 という当事者やその家族の声に、特別支援学校の試験に変更し2度目の挑戦。2度目の試験は、私が受けやすい環境で受考することができ無事に合格することができました。教員採用試験を受けるにあたってもスムーズにいったわけではありません。いろんな方の協力で試験を受けることができました。本当に感謝しています。

こうして、私は2020年4月から特別支援学校の教師をしています。メインで行う授業は週に3時間。複数の教師で行う授業は週に12時間あります。

授業をする時に大切にしていることが2つあります。1つ目は、自己決定の場を設定する。自分で考える習慣が身につき、ものごとを主体的に考えられるようになるのではないかと考えているからです。誰かにやらされるのではなく状況に応じて周りの人に相談したり自分で選んで最終的に決定したりする力を身につけることで社会で生きやすくなるかもしれないと考えているからです。2つ目は、スモールステップで進める。理由は自信を持って物事に取り組んでほしいという思いがあるからです。生徒の実態に応じて緩やかに目標を設定し、焦らずゆっくりと進んでいます。

仕事をする上で大変なことはコミュニケーションや授業展開です。コミュニケーションは、小さな声や遠くからの声の聞き取りにくさや、時には近くで声をかけられても雑音が大きかったり何か集中していたりすると聞こえません。声かけの時は肩をたたいてくださいとお願いしていますが、躊躇(ちゅうちょ)される方もいらっしゃるのでいつ声をかけられるか分からない状態で常に緊張しています。大変なこともありますが、やりがいもあります。生徒が安心して授業を受けるにはどうしたらいいかを考えて実行してみてうまくいった時はものすごく嬉しいです。

現在、授業では目の代わりになるカメラ等を使ったり、電子黒板にパワーポイントを映したり、Google Classroomを使ったりして課題の受け渡し等を行っています。

次に私が生活する上で大切にしていることは、挑戦し続けること、感謝を忘れないことです。挑戦しないと自分ができるかどうかは分からないので、とりあえず挑戦してみてできなければどうしたらできるようになるのかを考えています。

私がこうして仕事ができるのは多くの人が支え、励まし、アドバイスをしてくれたからです。倒れてから多くの人と出会えたことで私の人生は変わりました。ICT機器に出会い、1人でできることも増えできる喜びをかみしめています。2022年4月で教師として3年目になりました。まだまだ力不足な部分もたくさんありますし、学ぶべきこともたくさんあるのでこれからも感謝の気持ちを忘れずに自分にできることを精一杯やっていきたいと思います。

また、病気の進行などでこれから先、できないことが増えるかもしれません。できなくなった時に後悔しないように今日できることは今日やる!を目標にこれからも前に進んでいきます。

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