一般社団法人全国障害学生支援センター 代表理事
殿岡翼(とのおかつばさ)
障害者差別解消法が施行されて6年が経ちます。大学の障害学生支援の現状はどのような変化があるのでしょうか? 障害学生支援は大きな前進を見せたのでしょうか? 今回は特に在籍状況、受験時の配慮、授業での配慮について、データを見ながら考えていきます。
「大学における障害学生の受け入れ状況に関する調査」は、障害学生の受験に関するさまざまな障壁の中の一つである進学情報を得る負担を少しでも軽減し、障害者の自立と社会参加を促進するための情報提供を目的に、障害をもつ人自身の手によって1994年に開始され、今年で28年目、のべ14回目となります。
今回お示しするのは、当センター実施の調査から2013調査(2012年10月~2012年12月実施 調査対象数779、回答数571、回答率73%)と2021調査(2021年6月~2021年10月実施 調査対象数816、回答数381、回答率47%)を比較して状況の変化を考えていきます。
2013調査は過去最高の回答率を記録したのに対して、2021調査は回答率が50%を切っています。今回は回答数に対する割合で比較をしていくこととします。
障害学生の在籍する大学数で比較すると、ほかの障害に比べて発達・精神・内部障害が大きく増えています。これらは障害学生の診断が進んでいることや、大学内で障害学生の把握が進んでいることとも関係が深くあると考えられます。一方で肢体不自由は変化がほとんどみられていません。
一大学当たりの平均人数での比較でも顕著で、身体系の障害の伸びが小さいのに対して、発達・精神・内部障害が大きく増えています。また知的障害学生の方の人数が伸びてきており、珍しいことではなくなってきています。
障害学生の在籍人数の増加についての指摘をしばしば耳にしますが、上記のように大学数の変化や各障害の変化をみていくことで状況を正確に把握することが可能になります。例えば障害学生の人数が増えても在籍する大学数が増えていない場合、特定の大学に障害学生が集まっている傾向となります。違う言い方をすれば、障害学生の総数が増えているからといって、障害学生の門戸開放が進んでいるとは言えないのです(ただし、2013調査と2021調査では、回答が得られた大学数が異なるので留意が必要です)。
表1 在籍大学数・在籍人数
障害 | 2013調査 | 2021調査 | 率 比較 |
平均 比較 |
||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
大学数 | 率 | 人数 | 平均 | 大学数 | 率 | 人数 | 平均 | |||
視覚 | 123 | 22% | 534 | 4.3 | 115 | 30% | 351 | 3.1 | 8pt | ▲1.2 |
聴覚 | 205 | 36% | 905 | 4.4 | 191 | 50% | 886 | 4.6 | 14pt | 0.2 |
肢体 | 281 | 49% | 1351 | 4.8 | 193 | 50% | 616 | 3.2 | 1pt | ▲1.6 |
内部 | 144 | 25% | 524 | 3.6 | 186 | 49% | 1854 | 10.0 | 24pt | 6.4 |
発達 | 188 | 33% | 949 | 5 | 236 | 62% | 2829 | 12.0 | 29pt | 7 |
精神 | 103 | 18% | 602 | 5.8 | 238 | 62% | 3657 | 15.4 | 29pt | 9.6 |
知的 | 8 | 1% | 8 | 1 | 21 | 6% | 48 | 2.3 | 5pt | 4 |
受験可否は、当センター独自の定義です。「受験可」とは大学に障害学生から問い合わせがある前の段階(まだ大学に障害学生から問い合わせがない段階)で、該当する障害種別の障害学生を受け入れることを決定している状態です。一方、「受験可否未定」とは大学に障害学生から問い合わせがあり、該当する障害種別の障害学生の状況をみて受験を認めるかどうか判断している状態です。なお、受験不可については2017調査以降、差別解消法の施行に伴い違法性が存在するため、調査項目から削除しています。そして、大切なことは差別解消法が施行されたからといって受験可否未定は無くならない現実があります。雰囲気でなく、データを元に状況を把握しなければなりません。
最近の傾向としては精神・発達障害の「受験可」が伸びている以外はほぼ横ばいで、「受験可否」について顕著な動きは見られていません。また、障害別でみると、視覚や知的障害の「受験可」が他の障害に比べて少ない状況は依然として続いており、発達・内部障害と比較してみると、10ポイント程度の開きがみられます。障害の内容によって受け入れの認識に差が残っているのかもしれません。
表2 受験可否
障害 | 2013調査 | 2021調査 | 可 比較 |
未定 比較 |
||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
可 | 未定 | 不可 | 可 | 未定 | ||||||||
視覚 | 220 | 38% | 325 | 56% | 32 | 6% | 180 | 47% | 201 | 53% | 9pt | ▲3pt |
聴覚 | 263 | 46% | 280 | 49% | 34 | 6% | 199 | 52% | 182 | 48% | 6pt | ▲1pt |
肢体 | 285 | 49% | 281 | 49% | 11 | 2% | 205 | 54% | 176 | 46% | 5pt | ▲3pt |
内部 | 260 | 45% | 300 | 52% | 17 | 3% | 213 | 56% | 167 | 44% | 11pt | ▲8pt |
発達 | 255 | 44% | 301 | 52% | 21 | 4% | 206 | 54% | 175 | 46% | 10pt | ▲6pt |
精神 | 179 | 31% | 349 | 61% | 49 | 9% | 185 | 49% | 196 | 51% | 18pt | ▲10pt |
知的 | 169 | 29% | 345 | 60% | 63 | 11% | 167 | 44% | 214 | 56% | 15pt | ▲4pt |
受験可否が大学の姿勢を表しているのに対して、受験時の配慮は受験生から希望があった時に対応可能な方法を、回答いただいています。「受験可」の大学だからといって、配慮があるとも限りません。両者は別の概念となっています。また、受験時の対応可能な方法がない、あるいは障害のない受験生と同じ方法でしか試験を行えない場合に、「配慮なし」とされています。ここでは「配慮あり」の数値について比較しました。実は全体的に配慮の実施が減る傾向にあります。なお、当センターの調査では、具体的に配慮ができる内容を情報提供することが調査の目的に沿っているため、「配慮するつもりはあるが具体的には未定」の大学は(同じ種類の障害であっても配慮内容が個々に異なることが周知されてきた可能性もあるため、一概には言えませんが)、「配慮なし」としてカウントされています。
表3 受験時の配慮
受験時の配慮あり | 2013調査 | 2021調査 | 比較 | ||
---|---|---|---|---|---|
視覚障害 | 427 | 78% | 254 | 67% | ▲11pt |
聴覚障害 | 441 | 81% | 272 | 71% | ▲10pt |
肢体障害 | 473 | 84% | 265 | 70% | ▲14pt |
発達障害 | 406 | 70% | 224 | 59% | ▲11pt |
内部障害 | 282 | 74% | 新質問 | ||
精神障害 | 214 | 56% | 新質問 |
※内部障害・精神障害については2013調査時点で該当の質問がありませんでした。
受験時の「配慮あり」の割合が減っている要因についてはさまざまなことが推測されますが、差別解消法が施行されたとしても、該当の受験生が出てきてから判断するという大学が未だ多くあることも事実です。診断書等の根拠を求めることを優先しすぎるあまり、具体的な受験時の配慮の準備が十分できていない様子も見受けられます。確かに、診断書等の根拠資料は必要でしょうし、その内容に応じた個々の具体的な配慮内容を検討することは必要だと思われますが、何より迅速な対応が肝要です。また、コロナの影響で一時的に受験時要配慮学生が減少しているのか、それとも今後も受験時の配慮の実施が減少する傾向が続くのかは、次回の調査でも注意深く確認する必要があると考えられます。
入学後授業での配慮についても比較してみます。受験時の配慮とは異なり、授業での配慮は2013調査に比べて「配慮あり」の割合が大きく伸びています。特に一般講義や実習での配慮の伸びが著しいです。また障害別では、発達障害や肢体障害の「配慮あり」の伸びが大きいです。これはいったん入学した障害学生に対して大学内で授業での合理的配慮を提供することに、一定の理解が得られていることを示しています。それでも授業での配慮の内容や障害によっても配慮に大きな格差が出ている事例もあるようです。
一般講義などの配慮に比べて語学授業の配慮は伸びが小さくなっています。より障害学生の求める配慮が満たされていくよう、今後も注目していきたいと思います。
表4 授業での配慮
授業での配慮あり | 2013調査 | 2021調査 | 比較 | ||
---|---|---|---|---|---|
授業全体 | 465 | 81% | 343 | 90% | 9pt |
一般講義 | 314 | 54% | 281 | 74% | 20pt |
語学授業 | 161 | 28% | 146 | 38% | 10pt |
体育実技 | 198 | 34% | 184 | 48% | 14pt |
実験 | 94 | 16% | 110 | 29% | 13pt |
実習 | 166 | 29% | 196 | 51% | 22pt |
ディスカッション | 199 | 52% | 新質問 | ||
定期試験 | 249 | 43% | 234 | 61% | 18pt |
視覚障害 | 150 | 26% | 147 | 39% | 13pt |
聴覚障害 | 218 | 38% | 185 | 49% | 11pt |
肢体障害 | 234 | 41% | 214 | 56% | 15pt |
発達障害 | 111 | 19% | 203 | 53% | 34pt |
精神障害 | 203 | 53% | 新質問 |
※ディスカッション・精神障害については2013調査時点で該当の質問がありませんでした。
差別解消法ができたからといって、バラ色の社会が待っているわけではありませんが、差別解消法は、障害学生が教育を受ける権利を獲得する1つの強力なツールを得たということです。当センターでは、本調査に対する回答を「大学としての総意である正確な事実である」という前提で『大学案内障害者版』(書籍) および「大学案内障害者版 Web情報サービス」を通じて、大学ごとに情報提供しています。各大学の1年分のデータの項目数は700を超えています。まだまだ紹介できていない項目はたくさんありますが、「障害学生の受け入れが進んでいる(遅れている)」というような抽象的な概念ではなく、具体的な事項の数値の積み上げとして、状況の変化を把握していくことができるようになります。これが大変重要なことです。また、差別解消法施行後も法をすり抜けようとする「障害に基づくハラスメント」が大きな課題として残されていることにも注目する必要があります。
私たちはこうしたデータが、障害当事者の手によって調査・管理されることにも意味があると考え活動しています。
全国障害学生支援センターは、2020年6月15日一般社団法人として法人化しました。私たちの活動は法人化までに長い時間がかかりましましたが、「学びたい時に学びたい場所で 自由に学べる社会を実現する」ことを目指し、これからも活動してまいります。