広島大学アクセシビリティセンターにおける取り組み~Diversity×Accessibility = Potential~

「新ノーマライゼーション」2022年7月号

広島大学アクセシビリティセンター センター長
山本幹雄(やまもとみきお)

はじめに

広島大学では「すべての学生に質の高い教育を保障すること」「評価の公平性を担保すること」を基本理念として、障害のある学生(以下、障害学生)に対して合理的な配慮・調整・支援を行っています。「現時点では」というただし書き付きになりますが、大学教育やその修学環境はあらかじめ障害学生を含む多様な学生を想定してデザインされたものではないため、上記の基本理念を達成するためには、アクセシビリティに関する配慮・調整・支援が必要になります。

近年、障害学生の支援需要は多様化とともに質的・量的に増加傾向が続いています。2020年度の日本学生支援機構の実態調査1)によれば全国の高等教育機関に在籍する支援障害学生数2)は、18,777人(全学生の0.58%)であり、2006年の調査開始以降増加の一途3)をたどっています。障害種別で見ると視覚・聴覚・言語・肢体の障害による支援障害学生数は大きく変化していませんが、発達・精神の障害や病弱による支援需要の顕著な増加が続いています。以下、本稿では、視覚・聴覚・言語・肢体等の障害による支援需要を「従来型需要」、発達障害・精神障害・病弱等の障害による支援需要を「潜在型需要」と呼ぶことにします。

広島大学の学生は、身体等に障害があり修学上の社会的障壁が生じる可能性があれば、所属部局に対して支援申請を行うことができます。広島大学でも「従来型需要」による支援申請者数は、例年20名前後で安定している一方で、「潜在型需要」による申請は最近10年間で5名から120名(重複を含む)へと大幅に増加しています。このような増加傾向は全国的な傾向と類似していますが、発達・精神の障害による支援申請の伸びは広島大学の方が急激です。

広島大学の支援体制

広島大学では1998年に障害学生支援に関する規則が定められ、支援の主たる責任は学生の所属部局が担うことが規則に明記されています。会議体としては、各部局(学部・研究科)を代表する支援委員および専門委員(有識者)で構成される「アクセシビリティセンター会議」があります。各部局には、さらにプログラムごと(学科単位に相当)に選出された支援委員(教員)がいて、プログラム内の修学支援の状況把握や調整を行っています。

「アクセシビリティセンター(以下、センター)」は、修学支援の主たる責任を担う部局を支援する全学的な組織として設置されており、専任の教職員9名が配置され、修学支援に係るアセスメント・文書発行・助言・提案・調整・リソースの提供等の支援業務に加えて、アクセシビリティリーダー育成プログラム(ALP)4)等のアクセシビリティ教育、UE-Net5)事業等の連携事業なども行っています。

広島大学の支援体制と支援内容

支援申請は、所属部局に対して学生本人が行います。従来型需要のある学生の場合は、入学時に支援申請するケースがほとんどですが、「潜在型需要」では、受講や学生生活での支障が顕著になった段階で、関係教職員や主治医等に勧められて、支援申請に至るケースが多くなる傾向があります。

支援申請には、1.診断書等のエビデンス資料2.支援申請書3.アセスメント報告書の提出が求められます。2・3については、センターが、エビデンス資料と本人への聞き取りに基づきアセスメントを行い作成します。支援申請は年度更新制になっており、症状が変化する場合は、年度更新の際にもエビデンス資料の提出が求められます。センターのアセスメントが済んだ状態で申請書が提出されるため、書類に不備がない限り支援申請のほとんどは受理され、速やかに支援が開始されます。

支援申請を行っている学生のうち半数程度は、関係教職員への「配慮依頼文書」の送付を行っています。支援申請当初はほとんどの学生が配慮依頼文書の送付を行いますが、学年が進むと、周囲の理解・配慮も得られやすくなり、本人も対処に慣れてくることが多いため、配慮依頼文書の送付は減少する傾向にあります。「配慮依頼文書」は、本人の合意のもとに、センターが作成し、1.部局支援委員2.プログラム支援員3.センター支援委員の3者の連名で、センターから関係教職員に電子文書で送付されます。

関係教職員は、配慮依頼文書の内容を参考として、さまざまな配慮・調整・助言を行っています。関係教職員のみでは対応が難しい内容については、センターから支援機器・支援者等のリソース提供を行っています。関係教職員による配慮には、「重要事項の文書伝達」「指示・説明・伝達に関する配慮」「発言・発表に関する調整・配慮」「スモールステップ化など時間・分量の調整と助言(読み書き、作業、学習、課題、提出物等)」「資料・教材に関する配慮(可読性、配布方法、等)」「負担軽減(体調、不安、過敏等)」「座席・入退室の配慮」「支援機器使用・支援者への協力」等があります。特に潜在型需要においては、関係教職員による配慮・調整によるところが大きくなる傾向があります。また、卒業研究や必修科目等替えの利かない授業では調整可能な範囲が限られるため、プログラム単位または部局単位での協議や特別措置が必要になることもあります。

センターが提供している支援には、「定期面談(タスク管理・情報整理・履修・学習・生活等に関する助言等)」「教材加工支援(点訳・音訳、電子化、テキスト化、字幕付与、等)」「情報支援(遠隔筆記通訳、ノートの代筆、等)」「支援機器の手配」「自習・学習支援・学生メンターの手配」「専門機関と連携した就労移行・ライフスキル(生活技能・社会的技能)支援」等があります。

支援の現状と課題

従来型需要の特徴として、絶対数が少なく支援需要の揺らぎの影響が大きくなる点が挙げられます。広島大学は学生数15,000人の比較的大きな大学なので、揺らぎの影響は少ない方だと考えられますが、それでも点訳や介助の需要が無い年度もあれば、筆記通訳の需要が急増する年度もあります。揺らぎが大きな支援需要に対して安定的対応ができる支援体制を構築・維持することは、多くの大学にとって容易ではないものと考えられます。

広島大学では、アクセシビリティリーダー資格4)を取得した学生を雇用するサポーター・インターン制度があり、多様性対応と支援スキルに長けた支援者を安定的に確保ができていて、揺らぎが大きな「従来型需要」に対しては柔軟に対応できていますが、「潜在型需要」の増加に伴い近年需要が増えているアカデミックスキル(専攻分野で求められる学術的技能)やライフスキルに関する支援に対応するため、支援スキルは問わずアカデミックスキルに長けた学生を雇用する「学生メンター」制度も運用しています。ライフスキル支援・就労移行支援に関しては、専門機関との連携も行っていますが、連携支援ができている学生は例年数名程度と未だ限定的です。

留学生の支援申請も増えていて、留学生対応も課題となっています。留学生の場合、言葉の問題や文化の問題も介在して支援需要が潜在化している可能性もあり、潜在型需要と同様急増する可能性も考えておく必要があります。従来の支援体制・支援制度には日本人学生であることを前提としている内容も含まれるため、多様な国籍の学生にも対応できるよう見直しを進めているところです。

大学による修学支援はオンキャンパスが原則となるため、オフキャンパス支援が課題となることもあります。地域資源や福祉・医療との連携強化も課題の1つです。

配慮としてのオンライン受講対応の在り方も課題の1つとなっています。不安症状や睡眠障害、自宅療養・入院等の理由からオンライン受講を希望するケースが増えています。現在は暫定的・限定的な措置として検討を行っていますが、オンライン受講により修学状況が改善されるケースもある一方で、オンライン受講が常態化することによるリスクも懸念されるため、ガイドラインの整備が必要です。

今後の取り組み

広島大学では、「特別な支援」から「日常的な環境」への移行「合理的配慮・教育的配慮のコモディティ化」を目指して、ICT・AIの積極的導入による「支援のリモート化・自動化」、ALP事業等による「アクセシビリティ・リテラシー向上」、UE-Net事業等による「リソース・シェアリング推進」に取り組んでいます。

支援体制・支援制度が成熟していくにつれ、基礎的環境整備が進むにつれ、本来、支援障害学生数は減少に転じていくはずですが、全国的にもその兆候はまだ見られていません。個別の大学に閉じた支援は、取り組みも断片化しやすく、過度な負担も生じやすくなるものと考えられます。取り組みを障害学生支援や大学内に閉じたものにせず、より多様な学生の修学を想定した大学教育・修学環境をデザインしていくことが肝要だと考えます。


【参考】

1)令和2年度(2020年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査。

2)支援障害学生:学校に支援の申し出があり、学校が何らかの支援を行っている障害学生。

3)2020年度の実態調査では支援障害学生数は微増にとどまっているが、パンデミックにより急激に対面授業がオンライン授業に置き換わったことで、支援需要が一時的に潜在化した可能性がある。

4)2006年に広島大学で開始した教育プログラム。指定の教育課程を修了し資格試験に合格すると、アクセシビリティリーダー育成協議会(https://al-pc.jp/web/)の認定資格を取得することができる。

5)UE-Net:教育のユニバーサルデザイン化推進ネットワーク。中四国の大学が中心となって参画し、教育UD化に資するリソース・シェアリング事業等を行っている。
https://ue-net.jp/web/

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